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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
3章 集結、頼光四天王
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【源頼光】宇治橋の戦い その1

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

 距離にして30mほど、川の脇に広がるまだ収穫前の田んぼを避けるように、それは徐々に近づいて来た。


 丸みを帯びた肩の部分には、以前火車の事を追い回してた大裳たいもとかいう式神と、琵琶をかき鳴らすネコさんの耳と尻尾を生やした女性を乗せてる。


「なんやなんや。自分が大裳のぼんの言うとった源頼光かいな。坊がえろうびびっとったさかい、どない女傑か思たら可愛かいらしい嬢ちゃんやんけ」


「はあ? びびってねえし!」


 圧倒的な異彩を放つ何か……あえて言うならデカいクラゲ? それの周囲にとどろくような大声に、大裳が必死に抗議してる。


 てゆーか、見た目と緊張感のない話し方の差に少し和んで―――― 


「なんだお前らは、あ!? こちとら放っといてくれって、何度も何度も何度も何度も、ずっと言ってきてるよなあ!? それなのに一々絡んできやがって、いい加減ぶっ殺すぞ!!」


「いいぞよく言ったぜ首領ッ!! 舐め腐った野郎は痛い目みねえとわかりゃしねえ! やっちまおうぜ!!」


Thatくそ fuckinおお' werewolfかみおとこ is mineSayいの yourりを prayersすませな!」


 何やら物騒なことを口にしながら、両隣にいた酒呑と虎熊に加えて、後ろに下がったはずの火車まで大裳たちに向かって飛び出していく。


 ………………えぇ~。何これどういうことなの?


 場を盛り上げるような激しい琵琶の音が響き渡る中、急に始まった戦闘に頭が追いつかない。


「え? え? え? なになになに? どうすればいいのこれ? わけ分かんない、わけ分かんない」


 私も参戦すればいいの? てゆーか、そもそも戦う必要あるの?


「あらあらまあまあ、皆さんどうされてしまったのでしょう」


 後ろから聞こえてくる橋姫さまの声、そうだ、火車も行っちゃったし橋姫さまを放っとくわけには……ここは下がるのが最善? え? ほんとにそれが正解?


 目の前ではクラゲみたいな何かと虎熊たちがバチバチにやり合い始めてるけど、数は足りてるし大丈夫よね? ならやっぱり私は後ろに……。


 恐る恐る橋姫さまのところまで下がると、橋姫さまは目を丸くした後、優しく私の頭を撫で始めた。


「よしよし~大丈夫ですよ頼光ちゃん。大丈夫ですから落ち着いて~?」


「お、おお、落ち着く? え、いや、でも、こんなことよくあるし、わ、わた、私は、あ、慌ててなんて」


 なぜか言葉が出てこなくて満頼みたいな口調になってる気がする? でも今はこうやって頭を撫でられてたい。何も考えたくない。


 橋姫さまのなすがままにされてると、空から水が落ちて来た。星も出てるし雨なんか降って来る様子なかったけど、なんかほんとわけが分からな過ぎて辛い。


「いけません!」


 急に叫んだかと思うと、橋姫さまは私の頭を撫でるのを止めて、橋の上を走り始めた。


 ああ、戦場から離れるつもりかな? その動きは正しいし、むしろ私が誘導してあげないとだったのに。


 とにかく後を追おうと、橋姫さまに続いては知り始めると、前を走る橋姫さまが川に向かって甲高い声をあげた。すると川の上流から下流から、黒い影が大きなうねりとなって橋の下に集まる。


「魚?」


 まるで何かを避けるようにうごめく魚たちに気を取られてると、今度は空から水の塊が落ちてきて顔にかかった。


「わぷ……って、しょっぱあ!? これ、海の水!?」


 え、なんでこんな海から離れた京に? 出所を探すと、謎クラゲから伸びた触手を虎熊が殴り飛ばし、その千切れた触手が空中で弾けて降って来てるみたいだった。


「にょーいにょいにょいにょい。自分らやるなー。身内以外でここまで骨があるんは、初めてやでー」


 軽口をたたいた謎クラゲは、大きく息を吸い込むように伸びてのけぞると、口をすぼめて一気に水を吐き出した。


 虎熊たちは難なく躱すも、それは濁流となってさっきまで私たちが立ってた橋のたもとに押し寄せる!


 え? これ、やばくない? 陸奥にいた時、大雨による増水で川の水がとてつもない勢いで辺り一面を飲み込むさまを見たことあるけど、範囲は限定的とはいえ、記憶に残るすべての流れより勢いが数段上。


 橋がこんなのに耐えらるとは思えない。橋際を削った勢いで橋そのものを押し流しかねないのに、私じゃ防ぎようがない!


 あわあわしてる私を尻目に橋姫さまが飛び出すと、両手を突き出して濁流に向き合う。


 するとその手の先に光の壁が生まれて、その濁流を防ぐ。光の壁は橋だけじゃなく、橋の下まで及んで、橋の下の水に海の水が混ざるのも防いでる。


「すご……こんなこともできるんだ―――じゃなくて! 橋姫さまなんて無茶を!」


 余裕で防いだと思ったら、ぺたりとへたり込んで肩で息をしてるし! 慌てて駆けよって肩を抱くと、少し青白い顔で橋姫さまがほほ笑む。


「わたくし、橋の守り神でございますから……!」


 そう言って両腕で力こぶを作る橋姫さまを讃えるように、橋の下から魚の跳ねる音が聞こえる。


「川のお魚は海の水では生きられないのです。お友達が嘆いた理不尽な暴力で、力なきものが犠牲になる世界に抗うためなら、わたくしはどんな無理でも致しますとも」


 瞬間――この戦いが始まってから、ずっと続いてた頭のごちゃごちゃがすっきりと晴れた気分になった。それを押し流すように溢れたワクワクとドキドキが、私の胸の中をいっぱいに埋め尽くす。


「分かります! つい最近、播磨で領民が為政者に振り回されてる姿を見て、なんか違うなーって私も思いました! やっぱり陸奥とか摂津みたいに、国司と領民がもっと近い距離でやっていけたらいいのになーって思うし、陸奥守になって富ちゃんとそういう国を作っていくためなら、どんな無茶でも苦じゃないよねーって思ったり!」


「あらあら、うふふ。わたくしたち似ているのかもしれませんねー」


 橋姫さまと両手を合わせてほわほわした気分で見つめ合ってると、謎クラゲに吹っ飛ばされたのか、空から降って来た酒呑が大きな音を立てて地面を転がった。


「――野郎、ふざけやがってーッ!! すぐに戻って叩き潰してやるからな! オレの平穏をぶち壊そうとした報い、その身に分からせてやらあッ!!」


「待テ相棒ッ!! オイ頼光ッ! オ前ハ()()カ」


「手を離せ外道丸ッ!! オレはやっとつかんだ平穏な生活を守るため、戦わなきゃいけねえんだよ!!」


 目に狂気の光を輝かせ、すっかりその身を激情に委ねてる酒呑が戦場に戻ろうとするのを、橋の欄干を掴んだ外道丸が必死に止める。


 てゆーか正気かってどういう質問よ……。確かに酒呑はおかしなことになってる気がするけどさ。私は――……。


「あはははは! 正気も正気! あのねあのね、この橋姫さまってば、すっっっごく優しくて私とも気が合って! このまま一緒にいい国作ろうって感じで――――!!!」


「クソガ! コッチハコッチデ別方向ニ正気ジャネエナ!! タダ、怒リデ耳ガ利カネエ奴ラヨカマシカ。頼光! 少シデモ理性ガ残ッテルナラ、アノ琵琶ヲナントカシロ!! 全滅スルゾ!!」


 その叫び声に合わせるように、謎クラゲの上にいるネコ耳娘がベベンと琵琶を鳴らした。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【酒呑童子】――大江山首領。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【虎熊童子】――大江山前首領にして最強の戦士。虎柄のコートを羽織った槍使い。

【橋姫】――橋の守り神。元は橋建設のため人柱になった女性。

【六合】――12天将の1柱。前3位。琵琶を担いだ2股の尾を持つネコ娘。

【青竜】――12天将の1柱。前5位。スライム状の何か。

【大裳】――12天将の1柱。後4位。安倍晴明直属。陰ながら京の治安維持を務める。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

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