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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
3章 集結、頼光四天王
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【源頼光】呪いを解くためには

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

「で、何を外でごちゃごちゃやっとったん? 綱の症状についてなんか分かったんか?」


「ええ、どうやら呪いらしくてね。その呪いを放ってるっぽい藁人形と、ちょっと戦闘になったの」


「呪い? なんでまたそないなもんを――……」


「う……ん……?」


 脇でのやり取りがやかましかったせいか、綱の目がゆっくりと開く。


「……あはは、来てたんだね頼光。こんな格好でごめんねー」


「全くだ。熊童子に斬りかかったあん時に、もっとしっかり〆ときゃこんなことにならなかっただろ」


 弱弱しい声で話し始めた綱に、虎熊が青筋を立てながら威圧的に答えた。その姿におろおろする茨木ちゃんに、こっそり事情を説明しておく。


「……そらあかんわ。そん時の事情は分からんけど、完全に綱の方が悪いのは想像つくやん」


 残念なことに茨木ちゃんからも、ダメな方で信頼を得てる綱。


 それでも、おでこの布を交換してやってる茨木ちゃんはほんと優しい。


「で、だ。今の綱は症状が収まってるように見えるが、貴船の呪法って言ったか? あれは逃がした藁人形どうにかしねえとならねえもんかな?」


「オウ相棒。オレノ知ッテルヤツナラ、呪イヲカケテイル所ヲ押サエラレタラ失敗ダケドヨ。イカンセン、大分応用サセテンダヨナ。コレデ終イトハイカンダロウゼ」


「手っ取り早く陰陽師に頼んで解呪してもらうなりしてもらえばいいのかしら? 火車は無理なのよね?」


「Yes。無理」


「となると道満さまが1番なんだけど、播磨に向かってるところなのよね。ひとっ走り追いかけてこようかしら」


「陸路ならいいが船使ってる可能性もあるからな。ネコ娘持ってば近くにいたら反応するだろうけど」


「ヒャッハー、死体はBurn them all」


「仕えてる相手を軽視し過ぎやっちゅうねん。またどつかれんで」


 うーん。道満さま以外で呪いに詳しい知り合いって言えば季武すえたけなんだけど、なかなか時期が合わなくて摂津源氏を作ったことさえ伝えられてないのよね。諸国を回ってもらってる貞光はともかく、季武とは早いとこ合流したい。


「あと何とかできそうなのは、道満さまと並び評される安倍晴明って人か。私がドラゴンになることを止めてた人ならなんとかできそうだけど、伝手があるのは満季叔父上と保昌殿なのよね……どっちもみやこにいないわ」


 保昌殿は摂津守に任命されるやすぐに現地に赴任して、今は道満さまから譲り受けた呪動船で海の上。叔父上も致公くんが言うにはすでにご自身の屋敷に戻ってる。


「となるとやっぱり呪い手本人を探して潰すのが1番手っ取り早いんじゃねえの? また呪いが再開されたらいい加減やべえだろ」


「潰すじゃなくて、腕を元通りにしてなんとかしてもらうだろ。摂津源氏の方針が不殺な以上、そんな外道丸が褒めたたえるような最上位の呪い手の怨みなんぞ買いたくねえぞ」


「……酒呑の言うとおりね。そのためにもまずは誰が呪ってるのか調べないといけないけど、渦に飲まれて消えてったから手掛かりがないのよね」


 あの渦を出入りする様子はどこかで―――……あ、東市の裏であった占い師さんか。あの時の真っ黒な人ももしかしたら呪いの可能性はあるけど、肌の色も違えば肉付きも全然違う。女性ではあるけど、ふくよかなこの腕と、占い師さんの骨と皮だけの腕じゃ全然違う。


「マ、ココハオレノ出番ダナ」


「マジか。もしかしてお前呪いを追ったりできんの?」


 自信満々にドヤる外道丸に注目が集まると、それに答えるように高々と弁舌を振るう。


「サッキモ言ッタガ、コノ呪法ハカナリ独創性ニ優レテヤガル。天才的ト言ッテイイ。ソレデモ応用ノ前ニハ基本ヲ通ルワケデ、貴船ノ神ニ聞ケバ、コレダケノ呪イ手スグ分カルハズダゼ」


「呪いを行うときは神さんの力借りるってことやろか? そら普通の人なら神さんに言われたこと守らんで自分の色出すとか、怖くてできんやろな」


「で、どうやって聞く、デス? お祈りすればいいデス? 主以外の神崇める、No thank you」


「直接貴船神社ニ乗リ込ンデ聞キャイイジャネエカ。ナアニ、オレガ行キャ断リャシネエヨ」


 ふむ、神様と知り合いって事かしら? たしかに鬼なら人間とは違う時間の過ごし方をしてるわけだし、そういうのがあってもおかしくないかも。


「…………待て、そういや思い出したぞ。オレがお前に憑りつかれた祭りって、確か貴船神社の分社でやってた奴だったな。社に封印されてたんじゃねえか?」


「ギャハハハハハ! 何ダ今頃思イ出シタカ相棒。ソウトモ、ダカラコソ会ッテクレルダロウゼ。マ、過去ヲ清算スルノニイイ時期ダロ」


「戦いになったら巻き込まれるんだよなあ!?」


 やいのやいの言い争ってる酒呑には悪いけど、神様相手の伝手があるなら使いたい。


「じゃあ、貴船神社に行って話を聞いて、そのままの流れで呪い手を探すってことでいいわよね? 案内としての外道丸と、腕を治すために火車は一緒に行くのが確定として、茨木ちゃんには引き続き綱を見てもらいたいかな。虎熊は―――」


「行くに決まってんだろ? こんな面白そうな祭りに参加しねえわけがねえ」


 人の生活圏に降りるのは慎重なくせに神社は関係ないって様子は、やっぱり人と感覚が違いそうね。


 正直またさっきの藁人形が戻ってくるかもしれないし、ここに詰めててほしいけど虎熊に言うこと聞かせるのは無理よねー。


「くくくく……くっくっくっく……」


「誰だ!!」


 急に響いた不敵な笑い声に、虎熊と酒呑が得物を構えた。それを手で遮るように立って、姿の見えぬ声の主に話しかける。


「なんだ、いつの間にか合流してたのね季武。いたのなら声をかけてくれればよかったのに」


「くくく……闇を引き裂かんとする雷光に導かれ幾星霜。運命さだめの時の訪れに我が血潮は祝福の奏を響かせるも、我が時未だ始まりの鐘を告げず」


「なんて?」


「……頼光が目標に向かって動き出したのはうれしいけど、今はまだ眠いってさ」


「夜型だから太陽が昇ってる時間はダメなのよねー」


「くその役にも立ちそうにねえのが来たな……綱といい、なんで癖が強えのしか集まんねえんだよ」


「……あははー、そりゃまともな人間ならどこかしら仕官先あるからねー。社会の廃棄物みたいなやつらの集まりだよー」


「あー……じゃああれか。貞光とかいう時々名前が挙がるのもこんな感じか」


 なかなかの言われようだけど、季武は呪いについて詳しいし、もしかしたらこの場で呪いを解くことだってできるんじゃない?


「季武、あなた綱の呪いって解けない?」


「我が身を焼く涅色くりいろの焔を覆滅するは連綿と続きし我が血によるもの。血の恩寵無き狂犬シュヤーマを蝕みし悪鬼ヤクシャを祓うに能わず」


「……なんて?」


「季武自身にかけられた呪いなら防げるけど、綱の呪いを解くのは無理だってさ。仕方ないわね。私たちは貴船神社に行ってくるから、綱と茨木ちゃんの護衛を頼むわ」


「くくく……」


 笑い声だけを残すと、何も言わなくなる季武。たまたま起きただけで寝たかな?


「すげえな。気配がマジでねえ。本当にこの屋敷の中にいるのか?」


 虎熊の言葉に火車が首を縦に振って同意する。動物的な感を持つこの2人が察知できないとなると相当なものね。


「弓使いだから気配を消すのが得意なのよ。活動時間が夜のせいで普通の人と生活時間が合わないもんだから、夜中に活動する動物を射て食事をとってるみたいだし」


「頼光と同じ肉食大好き民ちゅうことか」


「……あははー。季武でこれだと貞光に会ったら驚くよ」


 このまま季武のことを話してると、無駄に時間がかかりそうね。綱の状況を考えれば今はその暇がない。


「さて、とりあえず先に綱の件を片付けましょ。季武は後でゆっくり紹介するわ。それでえーと……貴船神社の場所は外道丸が知ってるのかしら?」


 私の問いに力強く胸を叩く外道丸。


「任セロ。ヨッシャソンジャア行クトスッカ! ツイテ来イ」


 まだ日は高いけど、なんとなく呪いは夜の印象が強いから明るいうちに何とかしたいわね。


 張り切る外道丸を頼りに、酒呑の後に続いた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【酒呑童子】――大江山首領。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【虎熊童子】――虎柄のコートを羽織った槍使い。

【卜部季武】――摂津源氏。夜行性の弓使い。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【呪動船】――呪符を動力に動く船。呪道具の1種。


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