表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
3章 集結、頼光四天王
92/211

【源頼光】頼光、待ちぼうけをくらう

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

 頬に伝わるひんやりした木の感触を感じながら、私はただ待ってる。


 暑さの峠は越えたはいえ、まだまだ残暑が続く昼下がりのこと。体は冷たくて気持ちいいのとは打って変わって心の方はずっともやもやしてる。


 そんな時後ろから「うわッ」という小さな悲鳴が聞こえたから寝返りを打つと、そこには訝し気に私の事を見下ろす致公くんの姿があった。


「従姉上、こんなところで何をやっているのでありますか? お休みになるのであればご自身のお部屋で……いや、あそこは気が滅入るのでありますか。とにかくどこでもいいので空いたお部屋で休まれるべきだと思うであります! 正直言わせていただければ、休む気などさらさらないと思っていたでありますが」


 そりゃねー、こんな玄関でごろごろしてれば言われるよねー。でもさー私だってこんなことしたくてしてるわけじゃないのよ。


「……来ないの」


「はい?」


「つーなーがー、来ーなーいーのー」


 ほんと、誰よ護衛つけないと危ないからダメとかいう決まりごとつけたの。外に出れるようになってから分かったけど、ぶっちゃけ私ってめちゃくちゃ強い。虎熊とか私より強い相手もいるから一切慢心するつもりはないけど、京を1人で歩くくらい許されても良くない?


 親父まんじゅうもそれは分かってるはずなのに、それを許さないなんてやっぱり性格が悪い――あれ? 親父だっけ? なんか落としどころとか言って綱が言った気がしてきた。それならそれで迎えに来ないの納得できないなー。


「待って? 誰かと一緒に行動しさえすればいいなら別に綱じゃなくても――……」


「はい、従姉上。それがしとて行動を共にさせてもらうことは、学ぶことばかりで大変うれしく思うであります! ですが、この身は清和源氏に所属する者であり、先日同行させていただいたのはあくまで従姉上が天狗道に堕ちぬよう義父満季より命じられた故であります! ですので誠に恐縮でありますが、従姉上をお送りすることかなわないであります!」


 むむ、なかなかやるわね。こっちからお願いしようとしてるのを察して先手で断れちゃった。稽古をしてたのか汗でぐっしょり濡れてるし、何かと忙しそうね。


 とはいえ私としても大江山や摂津なんかで時間をつぶしてる時は何かと自己研鑽につながってたからいいんだけど、実家ここでの時間は1分たりとも無駄にしたくない。


「ねーねーいいでしょ!? ちょっと私の小脇に抱えられててくれるだけでいいから! 1分! いや、どんなに遅くとも3分で着くようにするから!」


「従姉上に抱えられる行きはともかく、歩かなければならない帰りは3時間くらいかかるであります。そもそも15kmはあるところを3分で駆けようとする速度に身を任せたら体がねじ切れそうであります」


「いいじゃん、いいじゃん! おーねーがーいー!」


「あーもう……それがしはどうすれば……」


 これは……もう一押しすればいけそう? 市で茨木ちゃんがやってたように、駄々をこねるというのはなかなか有効だったりするのかしら? 正直茨木ちゃんの年齢でもギリギリ駄目人間な気がした以上、私がやると完全にやばい奴よね。それでも今ここにいるのは致公くんだけ、恥も外聞もかなぐり捨てて――!


「おーねーがーいー! 今日だけ! ほんとに今日だけだから! この先2度とこんなこと言わないからー!」


 どんどん困った感じの表情になって来る致公くん。いやね? いい年した大人がこんなことやってるのは思いっきり蔑んでくれてくれていいのよ? 正直、私自身がいたたまれなくなってきてるし、反対からのぞき込んでる火車くらい冷たい視線の方が心が痛まない―――……。


「Shame on you。いい大人が何やってる、デス?」


「あ、はい。ごめんなさい」


 確か恥を知れって意味だったと思う異国の言葉をかけられ正座して謝ると、火車は私の肩を掴んで体を反転させた。


 うん、そうだよねー。


「致公くん、困らせちゃってごめんなさい」


「はい! いいえ従姉上。それがしこそお役に立てずに申し訳ないであります!」


 完全に私にしか否がないのに、向こうからも頭を下げられる。いやーほんとにいい子だわ……だからこそ胸が痛い……。


「……まさか火車が迎えに来てくれるとは思わなかったわ。綱の奴どうしたの? 親父に闇討ちかけられて死んだとか?」


 照れ隠しというかなんというか、無理やり話を持ってくことにする。死んだとか言うと不謹慎かもしれないけど、私が強いなら綱もまた相当強い部類だし、ちょっとした場の空気を変えるための話題ってことで。致公くんも冗談だってわかるだろうし。


 そんな軽口だったはずなのに、火車の口から出たのは予想だにしない言葉だった。


「Unfortunately、今夜が峠? デス。ギリギリ、生きてる、デス」


「………………………………は?」


 昨日までピンピンしてたはずの綱。そんな奴がいきなり危篤になった時かされて、私の頭は真っ白になった。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【源致公】――清和源氏。源満季の養子。本当の父は源忠賢。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ