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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
91/210

幕間 12天将会議 その2

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


2025/8/14 修正

 ・一部加筆

「大陰か。妾のところに来て、4凶の復活を伝えてから姿を消したのだったか」


「「「左様でございます、御方様。申し訳ありません、気狐わたしたちの能力では居場所がつかめません」」」


「ふむ。ぬしらの情報網にも引っかからぬか。死んだのであれば死体は回収できそうだが」


「塵1つ残らへんほどに粉みじんにされた可能性もあるんちゃいますのん?」


「4凶――陸圧道人アラクシュミが相手なら宝貝ぱおぺえに封じ込められた可能性もあるけどな。俺も1度あいつの瓢箪に閉じ込められたし」


 天后を皮切りに青竜、白虎と発言が続く。重い空気を表現するような琵琶の調べが洞窟に響き渡る。


「しかし、じゃ。陸圧道人の持つ宝貝の分析は済んでおるし、効果が1か月というのも分かっておる。あ奴が消えて2か月以上となればその線は薄いじゃろうな」


「師の表情を見るに自ら姿を消した疑いを持っていらっしゃるようですね。そしてその理由として考えられるのは―――」


「裏切り、ですか?(べべーーーーん!)」


 深刻な顔で声を絞り出したところに、再び茶化すような効果音を入れられた晴明が六合をキッと睨みつける。


「にゃん?」


「今、ですね? とっても、大切な、話をしているところです。どうかふざけないでくださいお願いします」


「あははははははははは!」


 いよいよ晴明の堪忍袋の緒が切れようとしたとき、一触即発な空気を吹き飛ばす貴人の笑い声が響いた。


「落ち着きなさい晴明。あんた深刻になりすぎなのよ。考えてごらんなさい? これから裏切ろうって奴がわざわざ天后のとこ行って連絡する?」


「それは……確かにそうですが」


「ここにいる全員より私と大陰の付き合いは長いのよ? だからアイツのことを1番分かってるのは私。どうせアイツの事だから、もうそろそろこうやって自分のことで話し合うのを見越して―――」


 そこまで言ったとき、洞窟の外から綺麗な羽を持つ大きな鳥が木箱を抱えて飛び込んで来る。それはまさに大陰が1時間ほど前播磨から放った式神だった。


「ほらね? アイツは他人のことおちょくるのが趣味みたいな奴なんだから、いちいち真剣にとらえてちゃ疲れるだけよ。ま、今回はやりすぎたと思って、こうやって詫びの品を飛ばしてきたってわけ」


「我もそれなりに付き合いは長いが、こんな大事にしてまでふざけるような者ではないと思うが? むしろ一同に集まるのを見計らって仕掛けて来たのではないか?」


「もー疑り深いわねー。絶対なんか良いものだって! アイツはああ見えて可愛いところも――……にょわーーーーーーーーーーーー!!!」


 自分の見立てに自信たっぷりだった貴人は悲鳴を上げて四つん這いで晴明のところまですり寄ると、その股に顔をうずめてコンコンと泣く。


「……母上」


「ちがッ……これは違うの晴明! アイツが嫌がらせででっかい芋虫なんて送って来るからいけないの! もー! こんな状況でなお、ふざけるとかどうかしてるけど、アイツはそういう奴だったわ! もう、もう、もう!!!」


「はあ~~~~~~……芋虫くらいで大騒ぎするでないわポンコツ狐」


「ポ!? 誰がポンコツよ!!」


 呆れを通り越して憐みの目を送る晴明と朱雀に、貴人は涙を目じりに溜めながら必死に抗議する。すっかりしらけムードになってしまった、この場の空気を変えたのは玄武だった。


「――師よ。これは芋虫なんかじゃありませんよ」


「何じゃと? ――――ッ!!」


 玄武の手に掴まれた箱の蓋に書かれた『全知』の文字。その意味を知る唐国からの流れ者たちが緊張した空気を放つ。空気の読めない六合でさえ、かき鳴らす琵琶の音色に険しさが宿った。


「全知、か。随分と仰々しい物言いだのう。4凶と何か関係が?」


「朝歌で直接対峙したのはちゅうじゃったか。お主から皆に説明を」


「は。周の軍勢が朝歌に迫った折、我ら殷軍は指揮官が不足しており敵の本陣の迫る南門と西門を固めるくらいしかできませんでした。その虚を突き北門より攻め寄せたのが全知の異名を持つ饕餮とうてつです。遠征の際手傷を負い、なんとか馳せ参じた私が対応いたしました」


 軽く当時の状況を説明したところで玄武は箱の中身を取り出して皆に見せる。 


「この生物は奴の細胞から生み出される眷属で、生物の脳を食らいます。そして体の自由を奪った後、体中に触手を伸ばし、微弱な雷を流すことで自由自在に操るのです」


「なんと不埒ふらちな……そのような者との邂逅かいこうがあった故、危険を察知した大陰様は姿を消しているということでしょうか。して、脳を食らうというのは、体に入ってということでしょうか? それとも外から頭蓋骨を食い破るのですか?」


「どちらもあります。朝歌の北には避難させた住民たちの避難場所があったのですが、その井戸に奴めの細胞を混ぜられていたのです。そしてそれを飲んだ避難民が奴の忠実な配下となり、押し寄せて来た次第。そして指揮する饕餮本体もまた、その近くにあった女媧宮じょかぐうに封印されていた魔神――蚩尤しゆうの頭に取り付き、脳をいじくって操っておりました」


「反吐が出るのう……して、対処法」


「饕餮本体のとりついたものはその限りではありませんが……眷属は熱に弱いため、脳が食い破られる前ならば炎術などを用いて熱を加えてやれば外に飛び出します。細胞も同様で水に混ぜられていた場合も1度煮沸(しゃふつ)すれば問題ありません。逆に言えば、生水を飲むのは極めて危険です。大陰がどこで饕餮の眷属と出会ったか不明ですが、京近郊にいたと考えこの地に住む者全員に水は1度煮沸させることを徹底させるべきかと」


「……分かりました。道長殿に進言いたしましょう。民には火を起こすこと自体かなり負担をかけることになりますが、自由武士を雇って燃料となる薪を大量に伐採するなどするしかありませんね」


「そないゆうても、お偉方が下っ端相手にそこまでやるんかいな?」


「やらなければいつ蜂起するか分からぬ謀反人を懐に入れることになる。さすがに自分の栄達が脅かされるとなれば動かざるを得ないだろう」


「民に対してはそれでいいじゃろ。あとは我らじゃな、体内に入られた時の予防策として2人1組で動くべきじゃのう。げんは大裳と行動を共にするようにとすでに言いつけられてるのであったかの?」


「騰虵お姉さまと一緒ですわ! ここは絶対譲りませんわ!」


「私はいつも通り白虎と組みましょう」


「ふむ、そうなると不在の大陰と勾陳はどうにもならぬし、貴人と天后は部屋から出ることが少ないとならば、わしはあぶれ者どうし六合と組むとするかの」


 あっさり決まったかと思いきや、天后が手を挙げ異を唱える。


「すまぬが朱雀よ、主には妾と共に東国へと赴いてほしい」


「それはまた急な話じゃな。何か困りごとかの?」


「陸奥の入り口にどうにも厄介な結界が張られておる場所がある。空狐衆はおろか妾でも解除が難しくてな、この中で最も結界に詳しい主に見てもらいたい」


「ふうむ、わしとて自分で張るのが得意なだけで解除はそれほど得意ではないのじゃが……とはいえ気になるのは確かか。そこに4凶が潜んでいるかもしれんし、わしにできる限りの事はしよう」


「私は母上の身の回りにをつけつつ、式神で警戒を強化しましょう。六合様はどうされますか? ともに東国へ?」


 べーーーーんと長い余韻を残すように琵琶をかき鳴らした六合は、考えているようで何も考えていないような表情のまま、今度は短くべん、と琵琶を鳴らして止めた。


「タマちゃんは大裳たちと一緒にいるにゃ!」


「なんでだよ!? 正直青竜だけでも気苦労やべえのに、なんであっしがここまで問題児を押し付けられなきゃならねえんでえ!」


 べべべべべべべべべ、とドラムロールのように琵琶をかき鳴らし、さんざん溜めたところでべん! と大きく1度鳴らす。


「どっちも炎術使えにゃいから!」


「ぐうの音も出ねえほど正論だな!!?」


「まあまあ、うちがシュルッと中に入って引き抜いたるさかい、そこまで不安ならんといてやー」


「それはそれで怖えんだよ!!」


 ゼリーのような体を極細のひもの様に変形させ、自在に操って見せる青竜に悲鳴に似た叫びをあげる大裳。


 京に立ちこもる暗雲を感じつつ、12天将たちの会議は終わった。

【人物紹介】

【安倍晴明】――藤原道長配下の陰陽師。狐耳1尾の少女の姿。

【貴人】――12天将の1柱。天1位。9尾で狐耳の麗人で安倍晴明の母。ポンコツ疑惑あり。

【騰虵】――12天将の1柱。前1位。角が生えたマッチョウーマン。

【朱雀】――12天将の1柱。前2位。真紅の道着の仙人。年寄りじみた話し方をする。

【六合】――12天将の1柱。前3位。琵琶を担いだ2股の尾を持つネコ娘。

【勾陳】――12天将の1柱。前4位。

【青竜】――12天将の1柱。前5位。スライム状の何か。

【天后】――12天将の1柱。後1位。狐耳1尾の麗人。貴人と違い大物感が漂う。

【大陰】――12天将の1柱。後2位。女媧の配下。混沌のことをパイセンと呼ぶ。

【玄武】――12天将の1柱。後3位。元・殷の道士。

【大裳】――12天将の1柱。後4位。安倍晴明直属。陰ながら京の治安維持を務める。

【白虎】――12天将の1柱。後5位。元・殷の道士。過去に陸圧道人に1度殺されている。

【天空】――12天将の1柱。後6位。鶏のアクセサリと深紅の羽衣がトレードマーク。騰虵大好き。

【アラクシュミ】――4凶の1柱。ヒンドゥーの神。現在地点より昔のパラレルワールドの自分と融合することで、過去に飛ぶことが可能。幸福の神だが人類の滅亡に何度も立ち会っているため、不幸の神と自虐気味。混沌同様に現代知識が豊富。ゲームが大好きで創作活動を保護するため人類救済に動いている。殷と周の戦争では陸圧道人の名で周に加担した。

【饕餮】――女媧に生み出された神の1柱。女媧と同等の知識があり『全知』の異名を持つ。

【蚩尤】――女媧宮に封印されていた魔神。饕餮に操られていた。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

宝貝ぱおぺえ】――仙道が扱う不思議アイテム。

【朝歌】――殷の首都。

【女媧宮】――殷の守り神たる女媧を祀った建物。

*【自由武士】――主を持たない武士。穢物退治や物資輸送の護衛などで生計を立てる。俗に言う冒険者てきな方々

【東国】――関東方面。

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