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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
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【源頼光】1段落

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

 山道を登り拠点まであと少しまで来たところで、鼻をすんすん鳴らした火車が急に走り出した。


 なんだろ? 何かあったかなと思っていたら拠点の方から大声が響いた。


「Burrrrrrrrn them all!!」


「さすねえっすよネコ娘! 氷沙瑪ひさめタックル!!」


 摂津で何度か見たデカ馬が繋がれた入り口を入ると、土間を上った板間で氷沙瑪にがっしりと腰を掴まれた火車が、その先にいる道満さま目掛けて手を伸ばしてバタバタさせてる。それを押さえつけるかのように、留守番させてた緑のモコモコも火車の頭に乗っかってて、見てるだけだとなんか楽しそう。


「あれ、また何か仕事ですか? わざわざ氷沙瑪まで連れて来るなんて、よっぽどの大事で?」


「違う違う。あたいもここに住むことになったもんでな、荷物を運んでるとこだよ」


「え? 摂津から播磨に転任って話を聞いたけど、そっちに行かないでいいの?」


『その話は聞いていたか。ならば話が早い』


 道満さまが説明してくれようとしたけど私と氷沙瑪にしか聞こえないからのよね。そんな思いを察した氷沙瑪が代わりに話し始めてくれたから、これで皆にもって……あれ、なんか綱が入って来ない?


「播磨なんだけど、ご丁寧なことに前播磨権守の奴がまーだ未成熟な作物を収穫しやがってさ。今年はどうあがいても無理なんよ。んでとりあえず食い物は摂津守やすまさに唐国から輸入してもらって、それを配る代わりに播磨の領民には雑徭ぞうようを課すって話になってよ」


「それこそ監督する人がいるんちゃう?」


「いやいや、監督程度ならウチの親父で十分っすからね。主様もおいそれと近づけねえ場所にあたいがいても仕方ねえって事っす」


 近づけない? あー……食糧庫を空にした罪悪感とかそういうものかしら。


 火車を受け取り抱きかかえるように抑えると、氷沙瑪が右手で火車を指さして続けた。


「どーこぞのネコ娘のせいで今や播磨国のほとんどが燃屍教徒になってる。あたいが姫路に常駐してたら、知らないとこで主様が燃やされるとかありそうだからな、播磨国に行く時も道中から警護が必要ってわけよ」


「がーるるー!! Burn them all! Burn them all!」


「……なーるほど」


 腕の中で暴れまわる火車の力強さが、氷沙瑪の言葉の説得力そのものね。歩いてたらいきなり領民に燃やされるとかぞっとしないわ。


「そうなると道満さまも暇ってことですか? 雑徭って具体的に何をさせるんです?」


『正直言って播磨の現状を調べなければ何に手を付けるべきか分からん。農地も休閑期に入るから、いっそ日ノ本で1番の城でも作ってみようかという話で動いている』


「城!? それって壁の修復じゃなくて? なんか謀反を疑われそうなことしますね……」


「ははは! そうだな、いっそ倭人やまとびととの戦争になった時の本拠地にも使えるかもーなんてな! とりあえずこんな感じで城自体に櫓の機能を持たせた機能美と、見た目的にも美しい新しい様式美を併せ持った城を作ってやろうってな。そんなわけで今日のとこは摂津からの荷物を置いたら、すぐにでも播磨の親父たちにこういう城作れって要望だけ出してくるぜ」


 そう言って見せられた設計図とかいうものに書かれてたのは、今までに見たこともない城の形。これは作るの大変そうね……。


「こんなんいつのまに書いたんや。昨日今日で書けるもんちゃうやろ」


「そりゃそっすねー。こういう城作れたらおもろいっすねと思いながら書いた妄想の産物っす。ちょうどいい機会っすから作ってみようかって話っす」


「あははー、すぐにまた転任で他人の手に渡りそうなもの、よく作ろうとするねー」


「おっと、あんたどこ行ってたのよ」


「あははー、小袴を穿き替えて来ただけだよー。ほら、血でべったりだったでしょ?」


 そう言ってくるりと回転する綱。べったりと血の染みついた小袴は確かに見てて痛々しかったけど、そういうの気にする奴だったっけ? 血塗れになっても無表情かヘラヘラ笑ってるかのどっちかで、身だしなみには無頓着だったのに。


 でも人が増えたから気にするようになったっていうなら、私も見習らわないといけないわね。


「怪我は放置したままでしょ? 火車に治してもらうのは――――無理そうね……」


「がーるるー!! ふしゃー! きしゃー!!」


「あはは、大丈夫大丈夫。大したことないしほっときゃ治るって」


 ま、ここまで来る間も普通に歩いてたしそれもそっか。当たり前のように火車に頼りすぎるのも良くないしね。


『今回貴様らにはいろいろ動いてもらったが、今後もこちらの都合で動いてもらうこともあるだろう。今後動くときはここに住む氷沙瑪に1言かけてから動け。しばらくは大きな動きもないだろうが、己を鍛えるなり体を休めるなり自由にしていろ』


「はーい。あーあ、今回みたいな行事が起これば手柄を立てる機会が増えて陸奥守に近づくんですけどねー。京でなんかどでかいこと起こらないかなー」


「あないなこと、そうそうあってたまるかい。しばらくは商売になりそうなことをじっくり考えたいわ」




 荷ほどきが終わって播磨国に向かう道満さまたちを見送ると、暗くなるまで今回のこと、これからのこと色々皆で話し合った。とにかく前に進むため各々で出来ることをやっていこうと、ふんわりした決意を固めるとめんどくさいけど屋敷に帰る。


 この縛りも何とかしないといけないしなー、今回みたいに親父まんじゅうの許しが得られるような大事件起こらないかしら? ……なんか真面目に不穏なことが起こらないかなと期待してる私もなかなかに謀反人的な考え方かも。


 満月の浮かぶ夜空にあわれを感じつつ、とにかく今は新しい出会いや機会を探してみようと心に誓った。



 頼光たちが拠点とする大枝山から京を挟んで向かいの比叡山。そこにそびえる大木の上に黒ずくめの装束で身をまとった男が腕を組んで京を見下ろしていた。


 目を想起させるデザインと、梵字があちらこちらに散りばめられた袖のない黒装束は、ところどころに切れ込みが入っている。その下からは全身に紺色の生地がのぞき、全身タイツのようなものを着込んでいるようだ。それは顔の下半分、口と鼻までを覆い、肌が露出しているのは顔の上半分のみだが、その右半分も長く伸びた前髪に隠され左目と耳だけが見える状態。


 その変わった容貌の中でもひときわ目立つのが浅黒い肌をした20cm近くはあるだろう尖った耳。その男が生地に覆われた口で不敵に笑う。


「くくく……なんという静けさよ。そのように無防備を晒して眠る、その身のすぐそばまで闇の眷属が這いより、まさに牙を突き立てんとしているともしらずに」


 男の独白の脇をサァッ……と風が吹き抜けると、男は着物についたフードを被り京に背を向ける。


「―――凶風が吹く……漆黒を呼び込む凶つ風が。それを祓うは天照の加護を受けし朝廷か……それとも雷光か」


 もう1度風が吹いた時、すでに男の姿は木の上にはなかった。


 1段落したつもりでいる頼光たちだったが、新たなる闘いはすぐそばまで迫っていた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【芦屋道満】――播磨の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。

*【雄谷氷沙瑪】――前世は羅刹の転生者。生前も死後も母禮に仕える忠義者。道満の播磨守就任を機に京に移った。

【藤原保昌】――藤原道長配下。摂津守。異国かぶれの異名を持つ。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【唐国からくに】――現在の中国にあたる国。

【雑徭】――国司が領民に与える肉体労働という名の税の一種。本来は重労働なうえ手弁当というきついものだが、今回の道満の場合は食料支給のための公共事業。

*【燃屍教】――破闇是無鏖留ばーあんぜーむーおーるーと唱えながら屍体を燃やすことを正義として信仰を集める新興宗教。

*【倭人やまとびと】――大和朝廷から続く、大体畿内に住む日ノ本の支配者層。蝦夷など各地域に土着してた人々から侵略者に近い意味合いで使われる。

【小袴】――裾を短く絞れるようになってるズボンのようなもの。

*【大枝山】――京の城壁を西に出た先にある標高480mの山。中腹に摂津源氏の京に置ける拠点がある。

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