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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
88/210

【源頼光】西市

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


2025/8/14 修正

 ・一部加筆

 ・誤字修正


 拠点に向かって道を歩いてると、遠くの方から聞き覚えのある少女の声が聞こえて来たので足を向けると、西市の中に人溜まりが出来ていてその外に火車が立っていた。


「おーい、何の騒ぎ?」


「ああ、頼光デスか……」


 なんとも微妙な火車が顎でしゃくるから人垣を分け入って入っていくと、声の主――茨木ちゃんが職人さんの前で全力の駄々をこねてた。


「ええやん!! 売って売って売って売って売って売って売って売って!!!!」


「………………何度も言うけど、売り物じゃない」


 茨木ちゃんの指差す先には、なんか取っ手の付きの丸い物がついた箱。何かしらの呪道具なんだろうけど何に使うものかは形だけじゃわからない。


「ごめんね職人さん。うちの子が迷惑かけてるみたいで」


「………………本当に迷惑。引き取って?」


 茨木ちゃんが仲間になって初めてみやこに来た時に仲を取り持ったことがあるから、私の関係者だっていうことは向こうも知ってる。それにしても商売相手を不快にさせるような行動を取ること自体意外なんだけど、普段大人びてる茨木ちゃんがこうやって子供っぽいことしてるのもだいぶ珍しいわね。


「頼光、ええとこに来た! あれや、あれが遠くの相手とも連絡が取れる呪道具やねん! 絶対欲しいねん!!」


「おお、本当にあったんだ」


「あははー、でも売り物じゃないんだろ? キミは通信手段としてる鳥の調教方法を断ったのに、相手には寄こせって厚かましすぎない?」


「それはそれ! これはこれや!」


 うわ、駄々っ子全開の茨木ちゃん強いわね。どうしても諦められなそうな茨木ちゃんの目が動き、私が屋敷から持ってきた風呂敷に移る。


「頼光、それは何や?」


「私の部屋の壁から剥してきた青生生魂アポイタカラよ。ほらミスリルとかいう銀で出来てた虎――アイツの前掛けを蹴り飛ばしたとき壊しちゃったじゃない? その代わりになるもの寄こせって頼まれてるから、とりあえず拠点に運んでおこうかと思って」


 うっかり虎熊の名前を出しそうになったのをギリギリ呑み込む。大江山首領ってことで京でも名が知られてるし危ない危ない。職人さんなら大丈夫かもだけど、今は周りに人がいるし注意しないと。


 風呂敷をあけて中を見せると、いつもどんよりとした色の職人さんの目が爛々と輝き両手の指をワキワキとさせる。以前に渡した破片と違ってしっかりとした板だからね、そりゃ欲しがるか。その姿を見過ごさなかった茨木ちゃんが交渉を始める。


「ちなみにや。ちなみにやけどコレと交換言うたらどないする?」


「まだ屋敷にあるからいいけど、勝手に……」


 とはいえ大江山、播磨国、摂津国と京にいながら連絡できるというなら、それだけの価値はある。茨木ちゃんの問いに、腕を組みながら地面に胡坐をかいてる職人さんは、眉間にしわを寄せながら背中をそらして呻る。


「………………交換したい。けど、理由がある。1つじゃ使えない」


「どういうこと?」


「………………通信機――この呪道具最低2つ必要。送り手と受け手」


「なら2つ買おうやないかい! ここで実際、遠くと連絡とれるん証明してくれたら後からの納品でもかまへん!」


「えーと……? だから、勝手に青生生魂を商材にしないでって」


 再び目を瞑って熟考状態に入った職人さんから見えないように、手招きした茨木ちゃんが私の耳に口を近づける。


「(複数必要やからこそ今畳み掛けなあかんやん。ウチだったらとりあえず1個売っといて、その後もう1個必要言うて5倍くらいの値段吹っ掛けるわ。1個買うてしもた以上、飲まなあかんしな。安う買えるうちにうとかんと後悔するで)」


「うーん……職人さんは、役に立たない情報じゃお金取れないっていうくらい公正な取引してくれるし、そんなに焦らなくても……」


 茨木ちゃんとこそこそやってると、しばらく考え込んでた職人さんが目をあけて私と目が合った。


「………………そういえばそれ、使った?」


 いきなり何だろう……? 言葉が少なすぎて分からないのよね。職人さんの指先を見ると私の履物に伸びてる……ああ!


「そういえば使ったら感想欲しいって言われてたわね。正直思ってた以上に―――……」


「………………作った本人に言ってあげて」


 そういうと職人さんは箱に付いた取っ手に手を伸ばし、くるくる回す。


 すると箱の上についてたお椀状の物の真ん中から棒の飛び出たものが少しずつ上に伸びて、それが城壁よりも高くなったくらいになると、伸びた棒をミリ刻みで調整してお椀を南西の方角に向けた。


『ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!』


 急に箱から響いた轟音に集まってた人たちは、一斉にその場を離れた。茨木ちゃんみたいに腰を抜かした人も、続けざまに響く轟音を恐れて這いながら離れた結果、残ったのは私たちだけになった。


「………………おーい、聞こえる? 返事して」


 箱に線でつながった何かに話しかける職人さんだけど、聞こえてくるのは何かが爆発する音だけで他は何も聞こえてこない。ふうと軽い溜息を吐いて諦めた職人さんが片づけをしようとしたとこに、何やら嬉しそうな人の声が聞こえて来た。


『がははははは! いいないいな! 最高の爆発だ! まさに芸術、もう少しで理想の爆発に近づいてる、そんな感じがするぜ!』」


『おー! さっすが親方、志が高い! おいらたちゃこれで満足しちまいそうなのに、まーだ満足しねえなんて!』


『馬っ鹿おめえ! 【火産ほむすび】の潜在能力はこんなもんじゃねえよ!! 爆発の美しさが上がれば【火弘槌かぐつち】と併用したときの景色もすげえものになるだろうし、芸術に到達点なんてねえよ!!』


『わはは、言われて見りゃ確かにそのとおりだ! って親方、通信機動いてねえか!?』


『あ!? おお! 珍しいな! どうした頭領!! なんか私に用か!?』


「………………お前が仕込んだアレ、使ったって言うから感想を―――」


『ああ!? 何言ってるか聞こえねえよ!!? もっとでかい声で話してくれ!!!』


 やりとりの間も後ろからはドーン、ドーンと絶え間なく爆発音が響いてる。あんな中じゃ確かに職人さんの声なんて聞こえないわよね。


「………………いつも言ってるけど、通信機の近くで爆発実験は――……」


『直上おおおーーーーーーーーーーーー!!! 親方避けろーーーーーーー!!』


『は!? 馬っ鹿おめえ! そりゃ動く的狙えるように私を目標にしろつったけどよ!! 通信中は―――』


 ガチャガチャッという音が響いた後、箱からは何も聞こえなくなった。茨木ちゃんの駄々には露骨に迷惑そうな顔をしてただけだった職人さんのこめかみに青筋が浮かぶ。あ、これはマジギレね。


「………………今この瞬間、ただの箱になった。作るのかなり時間かかる」


 怒りを抑えながらそう告げると、茨木ちゃんが膝から崩れ落ちて慟哭をあげる。


「いややああああ!! なんでやああああ!!」


「まあまあ、今度作ってもらえばいいじゃない。私たちが無理なこと言わなければこんなことにはならなかったのに、本当に悪かったわね」


「………………あのバカのせいだから気にしないで」


 そうは言っても職人さんも茨木ちゃんも意気消沈って感じで空気が重いわ……。ここは1つ空気を変えないと。


「お詫びと言っちゃなんだけど、何かこれを売りたいとか、流行らせたいとかない? あれから摂津守とか播磨守とか、お偉いさんの知り合いも増えたし、これぞって言うのがあれば宣伝しておくわよ?」


「………………別に趣味で作ったもの売ってるだけで商売は――――」


 そこまで言いかけると職人さんは袋に手を伸ばし、さっき読んだ保昌殿からの文と比べると大分質の低い紙の束を渡してくる。


「これは――――絵巻物……いや巻物じゃないけど、1枚1枚が続いてるのかな?」


 線で区切られた人物の絵の脇に文字が書かれてるから物語なんだとは思うけど、正直仮名文字ばっかりで読めない……。てかそもそもどの順番で読んでいけばいいのか分からない。


 絶望に打ちひしがれてた茨木ちゃんが興味を示したので、上から渡していくとそれを読んだ茨木ちゃんがみるみる元気を取り戻して立ち上がった。


「ええやん……ええやんこれ! なんちゅう斬新な絵物語や!!」


「………………甘美娘アマビコっていう職人仲間が描いた甘美絵アマビエっていうもの。今なら病魔を祓うという作者の似顔絵つき」


「病気ならうちには火車がいるから大丈夫かな」


「Impossible。治せるの、怪我だけ。病気、治せない、デス」


「……あははー、病気を治す技術こそ抑えといてもいいんじゃない?」


 確かに誰も病気なんてしなかったし、正直予想代だったけど、火車はそんなこと言われてもと言わんばかりに肩をすくめる。


 ならこれは大切に持っておいた方がいいかな。なんか横向きに目が大きくて口のとがった髪の長い人? が描かれた紙を茨木ちゃんに渡すと大切にしまう。


「………………作者、甘美絵広めたがってる。協力してあげて」


「これは絶対流行る――! ……と言いたいんやけど、1組しかないとなると身内でしかまわせへんやん。その作者にはどんどん新しいの描いてもろた方がええと思うけど、同じもん作る呪道具とかないん?」


「………………ある。ただし良質の紙がない。紙すき職人がいない」


「それに関しては知人に頼んでみるわ。今度大量に持ってくるわね」


「………………ん」


 その後、通信機をとりあえず2つ注文して職人さんに別れを告げると、甘美絵を抱えてホクホク顔の茨木ちゃんと火車を加えて今度こそ拠点へと歩き出した。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【職人さん】――とんでもない技術力を持つ。キャスケット+オーバーオールという服装。

【親方】――職人さんの仲間。爆発に人生をかけている。頼光の靴に爆発機能をつけた張本人。

【甘美娘】――職人さんの仲間。甘美絵の作者。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【呪道具】――一品物である宝貝を再現しようとして作られた歴史を持つ。宝貝は仙道士にしか扱えないが、一般人でも扱えるように魔力を込めた呪符を差し込み動かすことを想定している。のろいの道具ではなく、まじない=魔法の道具。

*【青生生魂アポイタカラ】――緋緋色金の色違い。綺麗な青色をしている。

*【ミスリル】――魔力を込めながら製錬された金属。銀が最も魔力が籠めやすいのでよく使われる。込められた魔力量に比例して硬度が上がり、最高品質のものはオリハルコンに匹敵する。ただし、込められる魔力量に上限があり、硬さを追求すると融点がそのままだったりと他に弱点が生まれる。

*【通信機】――伸びる棒の先にパラボラアンテナのようなものが付いており、魔力を飛ばし合って通信する呪道具。

*【火産ほむすび】――爆発するらしいなにか。

*【火弘槌かぐつち】――火産と併用するらしいなにか。

*【甘美絵】――漫画。現在のところジャンルはラブコメのみ。

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