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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
85/211

【源頼光】京へ

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


2025/8/14 修正

 ・一部加筆

 ・誤字修正


 播磨から大江山に戻って半月、山の空気も秋のものに変わりつつある中、先にみやこに戻ってた致公むねきみくんが親父まんじゅうの手紙を持ってやってきた。


「え、もう沙汰が下りたの? 早ッ」


「はい、それにより従姉上も京に戻るようにと満仲様からのお言葉であります!」


「あははー、確かに今回の件が片付くまでってことで許されてたけど、もともと毎日屋敷に戻るのが外出許可の条件だからねー」


 いやー……それはまあ……うん。そうなんだけどさ? 戻りたくないわー……。


 その気持ちが顔に出てたのか、呆れた顔の茨木ちゃんが腰に両手を当てながら私の前に立つ。


「頼光がおとんとうまく行ってへんの知っとるし、帰りたないのは分かるけどな? ウチは頼光が出世して甘い汁吸える思とるから付いて来てんねん。鬼たちと稽古して自己研鑽はええけど、ぼちぼち動かへん?」


「確かに、こうやってダラダラしてたらいつまで経っても陸奥守になんぞなれねえわな」


 ぐうの音も出ないわね……。播磨じゃ源氏のしきたりなんかどうでもいいから、目標に向かうって言ったばかりなのに、これじゃいけないわ。


To() be honestちゃけ。私の使命果たすため、出ていくつもり、デス。私も、ここじゃ死体燃やせない。怪我人治療終わった。もはやいる意味ない、デス。」


「せや。ウチも熊童子のおっちゃんに教わった料理が銭になるか、京に戻って試してみたいねん。居心地いいのは認めるけど、それじゃあかんねん」


 あらやだ、私の仲間たち意識高すぎ。……いや、というよりも私の意識が大分下がってた結果ね。


 パンと頬を張り気合を入れなおすと、ジンジンとした痛みを感じながら皆に向かって言う。


「ここはご飯がおいしいし、思いっきり体を動かせる相手もいるしですっかり甘え切ってたわ。皆の言う通りいつまでもこうしてるわけにはいかないし、先に進みましょう。保昌殿や氷沙瑪ひさめはとっくに自分の職場に戻ってるわけだもんね」


「えー! 姐御たちもー行っちまうのか!? オレは家族だと思ってんのにそりゃないぞ! いや、むしろオレも一緒に付いていけばいいのか!」


「やめとけやめとけ、お前みてえな目立ちたがりが付いていったら迷惑になるだけだ。京は妖怪に対しての警戒心えぐいからな」


「ギャハハハハ! 相棒ハビビッテ城壁ニ近ヅコウトモシナカッタカラナ!」


「そんなこと行ってみないと分からないぞ! 摂津でも播磨でも歓迎されたぞ! 京でもきっとそうなるぞ!」


 歓迎? んー……歓迎されるかなー……。播磨じゃ飢えた皆に食べ物配ったからこそ警戒が解けただけで、姿を見せた時ははっきり恐れられてた。摂津はまあ……道満さまで慣れてるってのが強いわね。酒呑との闘いで賭け事してたって聞くし、特殊すぎて参考にならないのよねー。


 でも摂津にしろ播磨にしろ、共通してるのは人に利益をもたらしてくれると分かれば、人はわりとすんなり妖怪や鬼を受け入れる。妖怪と呼ばれる者たちから得られる利益が恐怖を上回れば、きっと京でも受け入れてもらえるんじゃないかな?


「壁の中はともかく、蓮台野じゃ犬の耳としっぽの生えた人も見たことあるし、大枝山おおえやま――ああ、大きい枝の山って書く京の壁の外にある山の事ね、そこの拠点までなら問題ないと思うけど、壁の中までは今はまだ無理かも」


「ふぁーふぁーふぁー。なんだあ、おんなじ響きの山に拠点があるとかあ、もともと縁があったのかもなあ」


「首領の言う通りテメエじゃ京に突っ込みそうだからな。面倒ごと起こして討伐隊とか送り込まれてもだりいし、とりあえずしばらくは大人しくしとけ」


「むー、それはいつになるんだー?」


 下唇を突き出して不満を主張する丑御前。心情的にはすぐにでも連れてってあげたいとは思うけど、期限を切れというのも難しいのよね。


 困ってると茨木ちゃんが高々と腕を上げ、その腕に大きな鷹がとまった。


「こんなこともあろうかと捕まえてもろた鷹を調教しといたで。これで文のやりとりは簡単になるし、準備出来次第ってことで待っててや。読み書きは酒呑か熊童子のおっちゃんに頼むか、時間があるならいっそ2人から習うてみたらどうや? 京でも読めるやつの方が少ないけど、読めたら読めたで便利やで」


「器用な奴だな。大江山に棲んでた鷹をどうやって、行ったこともねえ京との連絡に使えるよう仕込みやがったんだ?」


「それは秘密や。銭になることおいそれと教えるわけあるかい」


「情報の伝達が早くなるってのは商機に限らず有利だからな。ま、オレたちが使えるんだから文句ねえわ」


「情報伝達ねー。それって呪道具で出来ないのかしら? それこそ職人さんだったら鳥より早く出来るのとか持ってそう」


「……天才か。鳥こそ最速思てたからその発想はなかったわ。なおさら早く京に戻りたくなるやん」


 今ここにいる中で京に向かうのは綱、茨木ちゃん、火車、致公くんだけ。これならいつものように火車の荷車に乗せて走ればいいか。荷物らしい荷物はないけど、準備をしてるところにあの後いつの間にか戻ってたモコモコがぴょんと私の頭の上に乗る。


「あら~あなたも一緒に来る~?」


「きゅきゅー!」


「……あははー、そいつを無警戒に頭の上に乗せられる神経だけは理解できないよー」


 ここにいる間は愛玩動物に名前なんて贅沢だと鬼たちから猛反発を受けたけど、京に戻ったら名前を付けてあげよ。名前を特別視する文化は分かるけど、それはそれこれはこれ。準備が終わったのを見て虎熊が近づいて別れの言葉をかけてくる。


「おう、テメエとの決着はまだまだついてねえし、しっかり腕を磨いとけよ」


「ええ、そっちこそ。何かあったら声をかけさせてもらうし、そっちからも気軽に頼ってちょうだい。酒呑もしっかりね」


「ま、のんびりとやらせてもらうわ。つーか近いうちに1度、そっちの拠点の場所教えとくために顔出すから、すげー短い別れになると思うけどな。今付いてったら丑御前がまた騒ぎそうだし、落ち着いたのを見たら行くからよ」


 不貞腐れる丑御前のくせっ毛をくしゃりと撫でると、ぺいっと払われてそっぽを向かれた。仕方ない子ねー、でもなるべく早く招待できるよう頑張らないと。


 熊童子や星熊童子、その他の鬼たちと別れを済ませ私たちは山を下りる。


 こんなに長い間、実家を離れて活動したのは初めてだったけど、色んな人や妖怪に出会えて仲良くなれてとても楽しかったわね。家に帰ったら何かと縛られるかもしれないけど、もっとこうやって色んな経験を積んでいきたいわ。


 無理やり心を前に向け、私たちは京への道を駈け出した。



 頼光たちが見えなくなって1時間。あぐらをかいてた足のつま先を掴んでいた両手を大きく上げ、丑御前が雄たけびを上げる。


「んあーーーーーーーーもーーーーー!! やっぱり納得いかねーぞ! 何で付いていっちゃいけないんだよ!!」


「いやいや、さっき説明した通りだろうが。テメエがそうやって我慢の利かねえ態度取り続けるなら、この先ずっとこのままだかんな?」


 正論をぶつけられた丑御前は荒々しく立ち上がり、おもむろに砦の柵の上に跳んだ。


「ヘイ、ガール! フェアにゴーするつもりだ!?」


「追いかけるつもりなら力づくで止めるぞ? 少しは聞き分けよくしろや」


「うっさい! ちょっと出歩いてくるだけだぞ!!」


 そう言い残して砦から出る丑御前を追いかけようとする虎熊童子を熊童子が止める。


「なあに。あいつがあ癇癪起こしてえ出ていくのはいつものことだあよ。ほっといても時期に戻るべえ」


「ま、それもそうか。ったく実力は俺様に次ぐくらいになってんだから、少しは内面も成長させろってんだ」



 屋敷を飛び出して丑御前がやってきたのは大江山の中でも知る人ぞ知る秘密の場所。細い割れ目を下りると中は広くなる隠れた沢、体の小さいことを馬鹿にされたりと嫌なことがあった時に彼女が1柱心を休めるために使う特別な場所。そこは自然の、火車が言うマナの溢れるパワースポットだった。


 この日もまた自然の水の流れを聞きながら、不貞寝をしようとやって来た丑御前だったがその光景に言葉を失う。


「………………なん、だ……これ…………」


 何とか言葉を絞り出した彼女が見たものは、壁も地面も周りを囲むすべての岩が金に変わった黄金の渓谷。好む者は好むだろうが、自然の造形に心落ち着かせようと思っていた彼女の目には、ただひたすらに下品で悪趣味な世界に映った。


『何だ貴様。我が黄金の輝きに魅せられたコソ泥か』


 頭上から声をかけられ目を向けると、背丈は熊童子よりやや低いくらいの大女が立っていた。筋骨隆々、太さが丑御前の腰ほどはありそうな両腕を組み、右目があるはずの場所は空洞になっており、左目だけで丑御前を見下ろす。ウェーブのかかった薄緑の髪の間から片側に2本ずつ計4本の髪よりやや薄い緑色の角が生え、そのすべてがギラギラと光る黄金の土台に色とりどりの宝石がはめ込まれた装飾で彩られている。それにとどまらず耳にはそれぞれ4つずつの宝石のピアスをつけ、親指を除くすべての指に2つずつ指輪がはめられているド派手な姿の女。


「何言ってんのか分かんねーぞ! オレのお気に入りの場所をこんな風にしたのはお前か!!」


 虚栄に塗れた装飾に目を向けず観察すると、目だけでなく左足も膝から下がなく右足と尻から生えた腕よりもなお太い尻尾で体を支えている。5体満足とは言えない体を見たことに加え、すっかり冷静さを失っていた丑御前は―――完全に相手を見誤った。


 この日、大江山の屋敷に丑御前が帰ってくることはなかった。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【猫精霊】――火車に従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【虎熊童子】――大江山首領。虎柄のコートを羽織った槍使い。

【星熊童子】――大江山に住む鬼。虎熊童子の弟で弓使い。

【熊童子】――大江山前首領。料理が得意。

*【雄谷氷沙瑪】――前世は羅刹の転生者。生前も死後も母禮に仕える忠義者。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【蓮台野】――墓地のこと。

*【大枝山】――京の城壁を西に出た先にある標高480mの山。中腹に摂津源氏の京に置ける拠点がある。

*【マナ】――自然の中に存在する超常の力。自然物に大いに影響を与える。中でも特に銅はその影響を受けやすい。


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