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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
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【源頼光】播磨源氏の落日 その9

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

「きえええええええええええええええ!!」


 大上段の構えから繰り出される袈裟斬りを体をそらして躱す。覇成死合はなしあいが始まって5分ほど経ったけど、その間反撃を一切せずに権守の好きなようにさせてる。


 肩で息をしてる権守から目を離し、後ろにいる綱たちの方を見る。


「ま、こんなもんだわな。テメエらが異常なだけで、人間つったらこれが標準だ」


「いやー、標準どころか上積みも上積みだよ? 兄貴に付き従うだけのボンクラだと思ってたけど、素直に認識を改めるよ。人間という種族の限界に達してる、まさに達人と言っていい腕前だね」


「わっはははははー! めちゃくちゃ煽るな綱! そんなに強えはずだってのに、実際はあまりに弱すぎて姐御困った顔してるぞもー!」


「いや煽ってないから。惜しむらくは限界を超えられてないこと。そこに至ってようやく出発点に立ったと言えるんだけど、そこまでの才能はなかったってことだねー。努力はすごく見て取れる」


「確かにな。刀の扱いだけ見りゃ頼光より2段も3段も上だ」


 あれ、立会人から見たら権守の評価が結構高い? 私からしたら1太刀目を見た時から全くやる気が起きないんだけど、正直茨木ちゃんの家で闘った貴族の用心棒との差が分からないくらい。


 腕の中のモコモコは「きゅー!」と威嚇しながら前脚を交互にしゅっしゅっと繰り出して殴る真似をしてるけど、あいにく私は攻撃するのが怖い。最近鬼と闘うことが多いもんで、人を攻撃する加減ってのが正直分からなくなってきてるのよね。


 1撃で決めてあげたいけど殺しちゃったらやだなーって思いから、権守が疲れて動けなくなるまで避け続けようってことで躱し続けてるけど、これって受けるか避けるかの違いはあるけど私との覇成死合で親父がとった戦法なのよね……。なんか気分的にすごく嫌だし、当たりもしない斬撃を繰り返す権守を哀れな道化にしちゃってるのも心が痛いわ……。


「くそ! くそくそくそ!!! どこまでも我をコケにしおって!!!!」


 投げ捨てた兜が勢いよく転がる。せっかくの鍬形が大きくひしゃげるほどの勢いに、権守の怒りが伝わって来るわ。その兜に隠れてた顔は、滝のような汗に塗れ、目はギラギラと血走ってる。


 するとどこから取り出したのか、陶器の小瓶をこちらに見せつけるように突き出した後、その中身を呷った。


「あら、酒呑みたいにお酒飲んで強くなる感じ?」


「わっはははははー! 首領はびびって力出し切れねえのを、酒の勢いでごまかす感じだかんなー! もともとある程度は強えーから酒呑んでどうにかなってるだけだぞ!」


 いや言い方。どっちかというと生きてく上の不安をごまかしてるだけで、びびるとは違うと思うんだけどなー? ともかくこれで動きがよくなるなら待ってあげたいわね。のんびりと相手の準備ができるのを待ってると、モコモコが毛を逆立たせて「きゅううううう!」と呻ってる。


「ぐふ、ぐふひひひほへほほほほほほほ!!!!」


 かしゃんという音が響く。小瓶を呷った空を見上げた姿勢のまま、権守は両腕をだらりとたらして急に笑い出した。


「んだあ? 狂ったか?」


 虎熊の言葉に空を向いてた首がぐりんと前に戻ったかと思うと、右手に持った刀を大きく振り上げながら、丑御前よろしく跳び上がり勢いそのままに振り下ろした。


「お」


 体をひねると権守の刀が私が立っていた場所に突き刺さる。そこから亀裂が走るのを見て、綱たちは横に跳び、私はその先にいた武士の位置まで走って首根っこを掴んだ。


「「「おー!」」」


 走った亀裂がボコという音を立てて穴をあける。それを見てた壁の上の全員から一斉に声が上がった。なによなによ、いけるじゃない。何か飲んだからだっていうなら、初めから飲んどきゃ良かったのに。素直に拍手を送る摂津勢、恐怖に満ちた悲鳴を上げる播磨勢って感じで大分声の調子は違うけどね。


「ぐぷ、ぎゅぷぴぴぴぴぴ。ワワワワワワ、ワレ、最強なり。誰もワレ、侮らせん」


 相変わらず不気味な笑い方するなーと思ってると、目の前の権守の左右の瞳がぐりんぐりんと暴れまわって、口角からはぶくぶくと泡を噴き出してる。


 ……なるほどね。こうなるのが分かってるなら飲むのを躊躇うわよねー。変な幻覚を見たりするから山でキノコを見つけても食べるなって母上から教わったけど、似たようなものかしら?


 とはいえ効果はてきめん。一般的な鬼くらいの膂力を持つとなったら、多少の問題には目を瞑らなきゃってところかな。


「ジ、死ねええええええええええええ!!!」


 大声をあげて再び刀を振り上げる権守の膝に向かって前蹴りを叩きこむと、ゴキンと乾いた音が響いて足が膝から逆方向に曲がる。均衡を保てずに前につんのめった後頭部を目掛けて、振り上げた右足の踵を叩き込んだ。


 ……まあ、うん。ただただ遠慮なくぶん殴りやすくなっただけなのよねー。


「これもドラゴンとやらなのかしら?」


 弾け飛んだ大袖の下、ゆったりとしてたはずの着物は異常に膨れ上がった右腕に押されてはちきれそうになってる。


「さー? 下にいる火車に聞くっきゃないね。良く分からないけど、とにかく通ってなかった芯を無理やり通したって感じ?」


 思いっきり頭を打ち付けちゃったし、意識を確認するのに顔を覗き込もうとすると、モコモコが「キュキュー!!」と大きな声で鳴いた。


「んー? どうしたのー? 怖がらせちゃったー?」


 優しく撫でながら顔をモコモコに近づけたその時、権守の左目が中から弾けたかと思うとウナギのような粘膜に覆われた真っ青なものが飛び出した。


「GASYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」


「な―――――!!!」


「ギュギューーーーー!!!」


 完全に虚を突かれた一撃。目も鼻もないそれは、まるで人間のような白い歯と桃色の歯茎をむき出しに私に噛みつこうとしてきた。


 その刹那、モコモコの左前脚の爪が伸びたかと思ったら、キンと空気の裂けるような高い音とともにソレを引き裂く。それに続いて爪の軌道のままに壁の端がずれて下に落ちて行った。


「危ない!」


 慌てて下を確認すると、下にいた人たちも壁の上の覇成死合が見えるようにか遠巻きにしてたので被害はなかったみたい。


「ふう。危なかったわねー」


「いやいやいや。現在進行形で危ないから。すぐにその畜生離そ?」


「いやいやいや! 助けてくれたから! この子は私には危害食わないから!!!」


「そんな保証あるか!! 首をスパーンといかれたいの!?」


「わっはははははー。姐御ってたまにすごい馬鹿になるよな!」


 やいのやいのと大騒ぎしてるとモコモコはするりと私の腕から抜け出し、切り落としたウナギの頭をくわえて、ぴゅーっと遠くへ消えて行っちゃった。


「あーーーーーー!! もーどうしてくれんのよ、せっかくあんなに懐いてくれてたのに!!」


「いなくなってくれて良かったよ。こっちは頼光の安全が最優先なんだから」


「てか速えーな! あの速度と爪で不意打ちされたら結構やばげな動物だったぞ!」


 いなくなったモコモコの事で揉めてると、虎熊が呆れたように息を吐き、倒れてた権守を掴み上げた。


「とりあえずこいつは戦闘不能だ。壁の外と内、両方に決着がついたってこと見せつけるぜ?」


 虎熊によって持ち上げられた権守のぐったりした様子を見て、外からは大歓声が起こった。播磨の郎党たちは武器を落とし、涙を流す者、膝から崩れ落ちる者十人十色の反応だったけど、私たちに向かってくるのはいなかった。



「ダメ、デス。It’s 手遅れ。燃やす、デス?」


 壁の上に登ってきた火車にまだ息のある権守を診せると、正直予想もしてなかった言葉が返ってきた。


「え……? でも生きてるよね? 生きてる限り治せるんじゃないの?」


「体内に魔力流して、診察したデスが、脳が半分無くなってる、デス。初めて会った時の頼光や、星熊童子みたいに、部位が残ってれば治せる、デス。デモ欠損はImpossible。マヤーの医学でもお手上げ」


 背筋に冷たいものが走り思わず戻しそうになったところ、綱が私の背中に手を当てて話しかけてくる。


「頼光が気に病むことじゃないよ。こうなった原因ってどう見てもさっき目玉から飛び出してきたあいつのせいだろ? それに死んではいない。こんなでも生きてる」


 少しの間私の背中をさすった後、綱は落ちてたウナギの胴体を掴み上げる。目線のやや上まで持ち上げてるのに尾は地面にくっついてる。こいつのせいでおかしくなったなら、一体いつから権守の中にいたんだろう? 小瓶を呷ってからおかしくなったと考えたら、あの中身はもともと体内に飼ってたこれを暴れさせるものだった?


「わっはははははー! 内側べたべたで気持ち悪りーな! そいつの体の粘膜と同じ感触だぞ!」


 割れた瓶を観察してた丑御前が声をあげたから、私もしゃがんで触ってみると確かに感触はそっくり。え、まさかこの小さな瓶の中に入ってたってことはないよね……? 頭の方が残ってたらもう少し分かることもあったかもしれないけど、あの子がくわえて持ってっちゃったからなー……。


「お待たせいたしましたマドモアゼル。播磨守・源俊賢殿をお連れいたしましたぞ」


 権守の豹変ぶりの謎に行き詰ってると、保昌殿と致公くんが播磨守を連れてやってきた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【猫精霊】――火車に従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【虎熊童子】――大江山首領。虎柄のコートを羽織った槍使い。

【星熊童子】――大江山に住む鬼。虎熊童子の弟で弓使い。

【熊童子】――大江山前首領。料理が得意。

*【雄谷氷沙瑪】――前世は羅刹の転生者。生前も死後も母禮に仕える忠義者。

【源経房】――源高明の五男。播磨権守。

【源俊賢】――源高明の三男。播磨守。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【権守・権官】――定員に達してる職に定員を超えて任官するもの。今回の場合播磨守がすでに任命されているところに、同じ報酬でもう1人任官されている状態。

*【覇成死合】――源氏間で行われる最も神聖な格闘イベント。以下公式ルール。

         ・試合形式は1VS1

         ・武器の使用制限なし

         ・それぞれが立会人をたて不正がないよう務める

         ・死ぬか負けを認めるかで決着

         ・敗者は勝者の要求を1つ飲まなければならない

【大袖】――鎧の肩部分につけるびらびら。

*【通力芯】――気力や魔力といったものを通すため人体に張り巡らされたパス。パスが通じてる者を芯が通ってると呼ぶ。

*【神力】――生物が持つ超常を起こすための力。魔力・道力・気力・妖力と所属勢力によって呼び方は異なるが、全部同じもの。

*【マヤー文化国】――火と文化ルチャの神・ケツァルコアトルによって生み出された国。現在のメキシコ一帯に広がる大国。ルチャによる怪我の治療を重ねた結果、医術が異常に発展している。


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