【源頼光】播磨源氏の落日 その7
*人物紹介、用語説明は後書きを参照
*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています
2025/8/14 修正
・一部加筆
・誤字修正
私に声をかけて来た権守は少しの間プルプルと震えた後、私に刀を突きつけながら叫ぶ。
「貴様のしでかした数々の蛮行、もはや言葉ではどうにもならん! 貴様も源氏の誇りがあるならば、いざ覇成死合にて決着をつけようではないか!」
「あら、話が早いわね。私としても望むとこだわ」
両手で頭の上に大きく丸を作って私の意思を伝えると、壁の上の権守も大きく頷いてここに覇成死合が成立した。
「わっはははははー! なんだなんだ意味が分からないぞ! 言葉じゃ解決しないってのに話し合いで決めようってなんだよもー!」
「あははー、まあ源氏じゃないとそう思うよねー。覇成死合っていうのは―――」
綱が丑御前たちに説明してる間に、軽く体を動かしてあっためておく。こう言っちゃなんだけど、権守の実力はその……ねえ? 見立てでは正直、私たちの中で戦闘になったら戦力から外れる火車より下。道満さまが鬼の体に入ってない、弱体化してる氷沙瑪でも経験の差で勝てそうってくらい。覇成死合なんてしなければ痛い目に遭わずに済んだのに、さすが源氏と褒めてあげたいとこだわ。
「ふん! その意気や良し。ならばここまで1人で上がって来るがいい。この我の手で引導を渡してくれるわ」
「おいおいおい、覇成死合を提案しといて1人でってどういうことー? お互いに立会人用意することすら知らないわけー? そんな常識すら知らないとか、歴代最多勝利の忠賢殿が泣くよー?」
「つーかテメエが下りてこいや! 上がどれくらい広えか知らねえが、下からじゃ壁が邪魔で良く見えねえだろうが!」
権守の言葉に1歩踏み出したとこで飛んだ綱と虎熊の言葉に、足を止める。なるほど、見届け人は絶対必要ね。
だけど武士の情けというか、絶対に勝つ闘いを衆目に晒すってのは気が重いわよ。源氏の矜持は受け止めるつもりだけど、恥をさらすのはまた別だし。
そんな私の気持ちとは裏腹にお腹が膨れて元気を取り戻した領民からは、「そうだそうだ!」「降りてこい!」という怒号が飛ぶ。その罵声に権守の顔色は真っ赤を通り越えて赤紫というか、人間の顔色じゃなくなってるのがすでに哀れで……。
「黙れ黙れ! 我が下に降りたとあらば、兄上を卑劣な術で傷つけた貴様の事だ、勝負で不利になったとあらば郎党や愚民をけしかけるに違いあるまい!」
「なんや語るに落ちたってもんやなあ。そっちこそ頼光の味方がおらへんとこ誘ってやる気満々やん」
「つーても俺様にすりゃ心当たりありまくりだから否定できねえんだがなあ?」
「ごめんて」
我を忘れて大暴れする前、倒れてる自分を空から見てた時は綱たちが思いっきり介入してたからねえ……。思えば酒呑と初めて会った時も、道満さまと戦った時も1対1ってやってないのよねー。親父との覇成死合以降じゃ丑御前相手の時だけな気がする。
「まあそう思われてても別にいいんだけど、播磨守についてだけは完全に私じゃないから。そこだけははっきりと否定させてほしいなーって思ったり?」
「この期に及んでまだいうか! 千里眼を用いて致公の目を通して貴様らを探っておられた兄上がはっきりと貴様にやられたとおっしゃられたわ! 例え致公が死んでも目を通すだけの兄上は傷1つ負わぬはずだったものを、失明させたとあらば何かしらの呪法を用いたに違いない!」
なんかもう頭に血が上りすぎて話が通じなくて辛くなってきた……。
「むむ? それがしの目を通して……でありますか?」
「おお? オレもなーんか覚えがあるっつーか、なんつーか……」
そう言われるとなんか致公くんに関して何かあったような? あれはー……何だろ。致公くんの目に対してなにか――――。
「「「あーーーーーーーーーーーーー!!!」」」
興奮してやいのやいの騒ぐ権守を、皆が冷たい視線で見つめる中、致公くんと丑御前と私が同時に叫んだ。その様子を見て氷沙瑪の冷たい目が私に刺さる。
「………………何だ結局お前がやらかしてたのかよ」
「やらかしって……! いやいやいや、致公くんの目になんか怪しげな気配を感じてこう、手刀でピッと払ったことはあったけどさ! それで怪我させたとか思わないじゃん!? てゆーかこれ別に私悪くなくない!? のぞき見してた奴が文句言えないでしょ!?」
「はい! その通りであります! 従姉上は決して悪くないであります!」
「わっはははははー! でもほんとにあの時曲者がいたんだなー! それに気づいて打ち払った姐御はやっぱかっけーーーーー!!」
「何がおかしいッッッッッ!!!」
兄を重傷に追いやった話できゃっきゃしてた姿に怒り心頭なのは分かるけどさー。ぶっちゃけ間諜がバレたらそれこそ殺されてもおかしくないし、命あっての物種だって思ってくれていいんじゃない?
「は~~~~……忠賢殿が闘ってる場に何度か居合わせたことあるから、あいつのこと知ってるはずなんだけど、あんなだったかなー? 一向に降りてくる気配もないし、ボクが立ち合い人になるから上に行ってやるー?」
「結果は見えてるが俺様も付き合ってやるぜ」
「わっはははははー! もちろんオレも行くぞー!」
とにかく権守のお誘いに応じて動き出すと、壊れた門に積まれた土嚢の先、反乱鎮圧の最前線に配備された郎党たちが武器を構えなおして体をこわばらせるのが見えた。
「門から入るのは迷惑かもしれないわね。中の構造も分からないし直接行きましょ」
権守から5m離れたあたりを目途に気力で道を作る。地面を思い切り蹴った次の瞬間には私と丑御前は権守の近くに着地していた。
「な―――? な、な、な」
土煙をあげながら立つ私たちの姿に、権守をはじめ壁の上にいた郎党たちは言葉を失って呆然としてる。その中で見得を切るのは、うん。丑御前の言う通り確かにかっこいい。なかなか癖になりそうな気分を味わってる頭上、壁を楽々飛び越え姫路の街中に落ちてった虎熊の姿さえなければ摂津源氏としてよりかっこが付いたのになー、何やってんのよあいつ。
「くそが恥かいたぜ。移動場所が限定されるクソ技だと思ってたが、使い道もあるってんなら覚えてみるか?」
「わっはははははー! なんだかんだ火車も使えっからなー」
すぐ裏側にあった階段を照れ隠しなのか頭を掻きながらぶつぶつ文句を言いつつ上って来る虎熊。もちろん階段にも播磨の郎党は何人かいたけど、その誰もが端によって虎熊を咎める者はない。
私を真ん中に右後方に丑御前、左後方に虎熊が立つも権守たちは言葉を失い一向に動きがない。それに苛立った虎熊が言葉をかける。
「俺様たちはただの立会人だ。覇成死合とやらに介入する気はさらさらねえから、安心してさっさと始めやがれ」
「いやいや、ボクの事も待っててくれない?」
壁のへりに両手がかかり、勢いで体を持ち上げた綱が空中で1回転して壁の上に立った。それに合わせて緑のモコモコもくるりと回転し、ビシッと両前脚を横に広げて後ろ脚で立つ。
「わっはははははー! おっせーぞ綱ー。待ちきれずに始めるとこだったぞもー!」
何か言いたげな目つきで丑御前を一瞥する綱。何か言いかけたみたいだけど、それを周りが許さない。
「綱……? まさか……渡辺綱か!?」
どんだけ世間様に煙たがられてるのか、周りの郎党たちがざわざわ騒ぎ立てる。それを気にも留めず綱は姿勢を正すと、笑顔で深々と頭を下げた。
「いかにも。ボクは摂津源氏所属、渡辺綱。そりゃ恐れられるだけの理由はあるんだけどさ、明らかにボクよりヤバげな奴が3人もいるのにこれは傷ついちゃうよねー」
挨拶を済ませた綱は歩みを進め、権守と私の間に立った。
【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)
【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。
【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。
【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。
【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。
*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。
【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。
【猫精霊】――火車に従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。
【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。
【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。
【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。
【虎熊童子】――大江山首領。虎柄のコートを羽織った槍使い。
【星熊童子】――大江山に住む鬼。虎熊童子の弟で弓使い。
【熊童子】――大江山前首領。料理が得意。
*【雄谷氷沙瑪】――前世は羅刹の転生者。生前も死後も母禮に仕える忠義者。
【源経房】――源高明の五男。播磨権守。
【源忠賢】――源高明の長男。源氏最強の武士と呼ばれたが、満仲に敗れ戦死。
【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)
【権守・権官】――定員に達してる職に定員を超えて任官するもの。今回の場合播磨守がすでに任命されているところに、同じ報酬でもう1人任官されている状態。
*【覇成死合】――源氏間で行われる最も神聖な格闘イベント。以下公式ルール。
・試合形式は1VS1
・武器の使用制限なし
・それぞれが立会人をたて不正がないよう務める
・死ぬか負けを認めるかで決着
・敗者は勝者の要求を1つ飲まなければならない




