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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
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【源頼光】播磨源氏の落日 その6

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

 一触即発の空気、謎の新興宗教の教徒による理解し難い行動、そんな緊張感に包まれたところにガンガンと金属音が響く。


 その音のする方向――熊童子が鉄鍋の底をおたまで叩く姿を見て、にらみ合ってた武士と領民の意識は全部熊童子に注がれた。


「私は摂津源氏の源頼光! ここにいる鬼たちはみんな私の友人だから何の心配もいらないわ! ちょっと力仕事の手伝いに集まってもらっただけ!」


 これだけの群衆が突発的に逃げ出そうとするのを大声で止める。大勢が恐慌状態になって押し合いへし合いになったら死人が出るとか、閉じ込められてた時の何かの歴史書に書いてあった気がするからね。


 私の言葉に続いて鬼たちが複数柱がかりで鍋を下す。その中身が全部食べ物だと分かると、お腹を空かせて座り込んでた人たちも起き上がりゆっくりと近づく。


 それが少しずつ速さを増して、我先にと鍋に殺到した。


「いやちょっと―――……危ないから落ち着いて!」


「飯だ……飯だ! 確かにすげえ量だけんど、全員分はねえべや……!」


「よこせ! オレの飯だ!」


 やっば、正直本気でお腹を空かせてる人を舐めてた。もともとここに集まってるのは、国司に反乱を起こす気性の持ち主。その人たちが目を爛々と輝かせながら、最後の力を振り絞って突進してくる。


「ふぁーふぁーふぁ! 全員分ねえだあ? ばあか言うんでねえ、そんな思いさせるはずがねえだあよ!」


「Yes、主は全力で生きようとする者を見てる、デス。決して見捨てたりはなされない」


 収拾がつかなくなりそうだった状況を熊童子が笑い飛ばすと、保昌殿の謎空間から次々と鍋が運び出される熱々の鍋。その量に「おお……」と静かな歓声が上がった。


 中には燃屍教徒と思われる人から「火車ひぐるまさまだ。主の奇跡だ」という言葉も聞こえるけど、これに関しちゃ火車って何もしてないのよねー……。勘違いするのも分かるけど、跪いて涙を流してる姿はなんか騙してるみたいで心が痛むわ。ま、宗教が救いになるのは時代も場所も問わないし救われる人が増えるならそれでいっか!


 そうこうするうちに複数の行列ができて順番に鬼が救った粥を受け取っていく。準備した食事の量は普段の10食分、鬼の3000食分となれば十分足りるはずね! 器も茶碗に盃とありったけ持ってきたから問題なしと。


「うめえ……うめえ……」


「久しぶりの飯だあ……ああ、こんなうめえ飯今まで食ったことねえ」


「鬼っちゅーのは恐ろしいものだと思ってたけんど、人と一緒に行動して飯をふるまってくれるなんて優しいものなんじゃろか……?」


 初めは鬼の姿に怯えてた皆も、食事をふるまってくれる存在と分かれば警戒なんてしてる場合じゃないから感謝しながら食べ物を受け取る。人から鬼への恐怖心ってのはみやこにいる時はひしひしと感じるけど、摂津だと道満さまが鬼の顔を晒しながら歩くことだってできてるし仲良くなることはできるはず。ならついでにと大江山の鬼たちの印象が少しでも良くなればと、ついて来てもらったのは成功みたいね。


 配食を続ける鬼が機嫌良さそうに笑うのを聞いてそっちに目をやると、名前を聞かれて「まだ無い」と答えた鬼が人から名前を付けられたみたい。恐怖ではなく、畏怖の念を抱いてって感じだけど、私の思い付きに付き合ってくれた鬼たちにとっても、十分手伝った価値があったと思ってもらえてそうで一安心ね。


「にしても粟やキビはわかるけど、この黄色いのはなんだろな? 初めて食っただ」


「ああ、それは鶏の卵よ。栄養? とかいう人が生きるための力がいっぱい詰まってるらしいわ」


 和気あいあいとした空気の中聞こえてきた小さな疑問。それに得意げに答えるとピタッと、そりゃあもうピタッと、もしかしたら料理がなくなるんじゃないという勢いでがっついてた人たちの動きが止まった。


「南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……!!」


「なんと……なんというもんを食わせてくれたんじゃ……!!」


「えー……」


 ざわざわと広がる動揺に何をしたらいいものやら。私は今まで出されたものを食べるだけって感じだから、あれがダメこれがダメって考えたことなんてなかったけど、皆普段から考えながら生きてるもんなの? 摂津源氏うちで気にするのって綱と致公くんくらいだし、気にしない方が大多数だと思ってたのに、こんな餓死しかねない状況でも気にするものなのか。


 私が何を言っていいのか困ってると、火車の透き通るような声が響いた。


「聞くデス、心ある人たち。確かに仏は皆さんが幸福へ至る道標を残した、デス。それを忠実に守るあなた方、実にExcellentえらい、仏も喜んでる、デス」


「……テメエの信じる神以外は認めねえってヤツだと思ったが、意外に他人の宗教認めやがんだな」


「信じる神様を馬鹿にされるの嫌う子だからね。自分が嫌なことは他人にもしないんじゃない?」


 私の横に近づいて腕を組みながら虎熊と一緒に火車を見ると、その演説は続く。


「デスがその信心、仏に届きません。仏が悪いわけジャありまセン! 世界が! マッポーの世界が悪い、デス! どれだけ教えを忠実に守ろうと、今の世界にでは仏に届くことないのデス! ならどうするデス? 永遠に続くリンネテンショーを受け入れ、この苦しい生活を繰り返す、デス?」


 火車の演説を静かに聞いてた人たちからぽつぽつと「そんなのは嫌だ」みたいな独り言が聞こえてくる。


「マッポーの世界、とてもケガレに満ちてる、デス。そのケガレが皆さんと仏の間を分け隔てテルのデス! これを払わない限り、未来永劫ゲダツへとは至りません! そんな現状を変える、とてもPowerいる! どうあっても届かない教えを守ったり、不幸を嘆く暇があるなら己を磨く、デス! ケガレの元をBurn them all! その煙は天へ上り、天上の仏に皆さんの姿届ける、デス! ―――ただ、もしかしたら仏は、その姿を見て嘆くかもしれません」


 そこまで語ると火車は1度言葉を切って聴衆たちを見渡した。そしておもむろに右手を上げると、空を指さして続ける。


「デスが、同時に主も皆さんのことご覧になってる、デス。主は全力で生きる者の味方。皆さんの命を懸けた精進を愛し、皆さんの信ずる仏にその生きざまを語り、ゲダツの未来へ導く、デス。されば今はただ全力で食べて力を蓄える時。それでも不安ならともに唱えましょう、Burn them allと」


「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!! 火車様! 火車様! 破闇是無鏖留ばーあんぜーむーおーるー! 破闇是無鏖留!!」」」


 真っ先に叫んだのは当然信徒の方々。卵が入ってることを知って箸を止めた人たちは、覚悟を決めた顔をすると視線を器に戻して粥をがっつく。そして1人が「破闇是無鏖留」と呟いたのを皮切りに、さざ波のように広がったうねりは瞬く間に民衆全体に広がって1つの塊となった。


「なんというか、凄まじいでありますな。仏の教えに従うものの邪魔をするなど、本来の天狗の姿そのものでありますが……」


「私に語り掛けてきた奴は『力をやろうー我の手を取れー』の一辺倒だったから、火車の方が優秀ねー」


「にしても、今回の騒動の発端は燃屍教徒に罪を擦り付けようとした放火だったけど、その燃屍教が広まってまさに播磨を滅ぼさんとしてるってのが因果応報って感じで面白いな」


「きゅい、きゅいー」


 腕を組みながらしみじみと振り返る氷沙瑪ひさめの頭の上で、同じように短い前脚を組むような形でうんうん頷く緑のモコモコ。うーん、めちゃかわ。一向に逃げ出そうとするそぶりも見せないし、これはもうウチの子になりたいという意思表示なんじゃないかな? うん、きっとそう。


「源頼光はどこだ!!!!!!!!」


 モコモコを撫で繰り回そうと腕を伸ばしたところに、壁の上に完全武装をした男の姿が現れた。あれは忘れもしない、茨木ちゃんに唾を吐きかけた奴、播磨権守・源なんとかね。とにかく名前を呼ばれたから手を振って位置を教えると、兜の下からでも分かるくらい顔を真っ赤にしてまくしたてる。


「貴様か! 兄上に手傷を負わせるに飽き足らず、我が国に邪教を広めるとはもはや捨て置けぬ! この我が直々に貴様を切り捨て、邪心の元へと送ってくれるわ!!」


「あ?」


「あーーー……その兄上の怪我とやらは本気で心当たりないんだけど、布教に関しちゃなんかごめん」


 出て来て早々火車の堪忍袋の緒を一刀両断するあたり自殺願望でもあるのかな? そういう風に思わなくもないけど、周りから上がる「ばーんぜもー」の声にとりあえず謝っとくことにした。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【猫精霊】――火車に従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【虎熊童子】――大江山首領。虎柄のコートを羽織った槍使い。

【星熊童子】――大江山に住む鬼。虎熊童子の弟で弓使い。

【熊童子】――大江山前首領。料理が得意。

*【雄谷氷沙瑪】――前世は羅刹の転生者。生前も死後も母禮に仕える忠義者。

【源経房】――源高明の五男。播磨権守。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【燃屍教】――破闇是無鏖留ばーあんぜーむーおーるーと唱えながら屍体を燃やすことを正義として信仰を集める新興宗教。

*【マッポーの世界】――末法。仏の教えが行き届かない世界。

*【リンネテンショー】――輪廻転生。人が何度も生死を繰り返し、新しい生命に生まれ変わること。

*【ゲダツ】――解脱。輪廻転生から抜け出すこと。

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