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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
79/212

【源頼光】播磨源氏の落日 その5

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


2025/8/14 修正

 ・一部加筆

 ・誤字修正


 姫路に向かってひた走る――。


 大江山からの距離は大体芦屋までと同じ100㎞くらい。綱と一緒に出た先発隊は馬で駆けるからどんなに遅くとも夕方までには着くだろうとのこと。摂津から大江山まで4日かけたことを考えれば相当早いわ。


 私たち後発組の出立は、予想よりも料理に時間がかかったから昼過ぎになっちゃった。播磨の現状が分からないし、その分急ごうと結構無茶な速度を出してる。


「どう? 気持ちが悪い人いる?」


「No problem」


「問題ありませんよマドモアゼル。あの夜と違い足元のよく見える時間、疲れたら私が変わりますのでいつでも声をかけてください! もっともマドモアゼルほど速くは走れませんが」


「はっはー! こりゃいいや。車輪が浮いてるおかげで揺れが来ないのが実にいい。見かけよかずっと快適だ」


「……体の小さな猫精霊ケットシーにも引けるあたり割と誰でも引けるんやろか? この炎も全然熱ないうえ見かけで客目を引けそうやし、これをなんとか商売に」


 初めて芦屋まで走った時と同じで私が火車の荷車を引き、その上に火車、茨木ちゃん、保昌殿、氷沙瑪ひさめ、猫精霊さんたちが乗ってる。前にも乗ったことのある2人は問題なさそうだし、初めての2人もはしゃいだりブツブツなんか言いながら考えに耽ったりで大丈夫そうね。


「おい頼光、俺様もそっちに乗りてえ気分なんだが?」


「わっはははははー! なんかもー楽しそうだよな!」


「丑御前はともかく、虎熊はねー……熊童子だけで座る場所無くなるし」


「ふぁーふぁーふぁ! すまんなぁ、この通り鈍足のうえ馬にも乗れんからなぁ」


「そもそも熊童子を連れて来る必要あんのかよ。つーか丑御前よー、馬乗らねえにしても担ぐ必要ねえだろ。代わりにテメエが熊童子担げや」


「おお、確かに! 走るならもう馬は必要ないぞ!」


「まあいきなり鬼が現れたら、播磨の人たちも怖がるやろからなあ。熊童子のおっちゃんののんびりした姿みせたら、多少は鬼への警戒も落ち着くんちゃいます?」


 荷車を追走する形で熊童子を担いだ虎熊と、馬を担いでる丑御前が続く。全力疾走とは程遠いけど、馬よりも大分速度を出してるのに、ついて来てくれるのはほんとに助かるわね。綱だったらぶつくさ文句言うとこよねー。


 ちなみに酒呑はもしかしたら物資を奪われた報復とかがあるかもしれないってことで、大江山にお留守番って形だ。


「にしてもニャーたちがこうして乗ってると、仕事を奪われた気分にゃー。アイデンティティの崩壊にゃー」


「きゅいきゅいー」


 うーん猫精霊さんたちのしょんぼりした声は胸に来るわねー……。ちらりと後ろに目をやると隣に座る動物が優しく猫精霊さんの頭を撫でてるのが目に入るし、私がああやって慰めてあげた―――。


「なんか可愛いのが乗ってるーーーーーーー!?」


「おいこら! 前見ろっての!!!」


 きゅい? と小首をかしげる緑と黄色のモコモコに目を取られたとき、荷車が岩に引っかかって大きく揺れた。いけないいけない、少し浮いてるとはいえ大きな岩とかは乗り上げるし、しっかり前を見て走らないと。


 気を引き締めて視線を前に戻すと、私の頭の上にフワフワした幸せな重さが乗っかった。


「はわわわわわ……。何この子、猫精霊さんの友達か何か?」


「I don’t know。見たことない、デス。この国の動物、デハ?」


「見たことない動物やけど……ええ毛並みしとるなー……ええなー欲しがる人仰山おりそうやー」


「HAHAHA! たしかに私の収集癖に火を点けるような鮮やかな光沢。みやこでも見たことありませんし、欲しがる貴族も多そうですな」


 あ、商人と収集家の目つきが変わった気がする。背中越しでも感じるわ、この子に迫る危険が!


「それより思いっきり爪が食い込んでるように見えるけど、引き剥すか?」


「大丈夫だから! 捕まえて皮剥ごうとかも考えないでね!」


 小動物を狙う獰猛な2匹の獣をけん制するように声をあげると、言葉が分かったのか安心したように謎のモコモコが顎を私のおでこにつけてきた。頭を包むように四肢でつかんでのからの不意打ちに頭が沸騰したみたいに熱くなる。なんかここまで動物に懐かれたのって何気に初めてのような。


「?」


 ふと私のおでこから何かが抜き出たような違和感を感じる。


「きゅ!? きゅっきゅー!」


 ちょっとだけ感じた違和感も、急にご機嫌になったモコモコがべしべしとおでこを叩いてくるいじらしさにさっと引く。特に危険を感じたとかじゃないし、目では見れないとはいえ頭の上から伝わってくるのは幸せな愛くるしさだし別にいいわよねー。


 よーし疲れも吹き飛んだしもうひと踏ん張り――と足に力を込めた時、目の前に大きな壁に囲まれた町が目に入った。


「ひゅー! この前来たときは壁の外には誰もいなかったってのに、すげえ人数だな」


「それはそうです。穢物けがれものを防ぐための壁の外に出る人間など、そうそういるものではありませんからな。しかし……ざっと2000人といったところでしょうか。想像以上に大事になっておりますな」


「壁をはさんでにらみ合いって感じか? いや、遠くの門がすでに破られてんのか……人がたかってやがるな。小競り合い程度は起きてんのかもしんねえけど、なんつーかどっちも戦う元気もねえって感じだな」


 確かに動くのもしんどいのか壁の外から罵声が飛んでるのに、壁の上にいる播磨源氏の郎党は立ってるだけで何をするわけでもない。矢を射かければ届く距離なのに、やっぱり自国の領民と戦うことはできないってことかしら。


「わっはははははー! なんかもーマジでやる気ないな! 食べ物奪ったっていうけど、奪った側より奪われた側の方がよっぽど元気が有り余ってる感じだぞ!」


「確かに……って、危ない!」


 遠くに見える領民たちの背後から、1匹の狼の姿をした穢物が襲い掛かるのが見えた。助けないと――! そう思って足に力を込めたけど、そこにいた領民の1人が戸板をかざして穢物の攻撃を受け止めると、すぐさま両脇から2人ずつ薪を持った男が飛び出し、4人がかりでぼっこぼこにした。


「うわーお見事。穢物って京じゃ結構怖がられてる感じだったけど、あっさり倒したわねー。あれって自由武士ってやつだったりするのかな? 連携やばくない?」


「確かに京では自由武士に処理を任せることが多いですが、小さな町や村ですと壁や柵が低い分、中まで穢物の侵入を許すことが増えます。そのため田舎の領民の方が対処に慣れているのかもしれませんな」


 なるほど。雇う自由武士の数もそもそもいないかもしれないし、皆で自衛してるってわけね。ひとしきり感心してると、穢物を倒した人たちはおもむろに毛皮を剥いで近くに火を起こす。


破闇是無鏖留ばーあんぜーむーおーるー、破闇是無鏖留」


 風に乗って聞こえてくるどこか懐かしい言葉に火車が反応した。


「Oops、信徒の方々デスね。教えを守り、全力で生きているようで何より、デス」


「ん? 教えって屍体を見つけ次第燃やせってやつね。たしかに殺してすぐ燃やすのは、教えのものすごく忠実ってことか」


「No。そういう意味じゃない、デス。Burn them all――屍体を燃やせという意味の他、もう1つ意味ある、デス」


 火車が説明する途中、穢物を焼いてたうちの1人が焼いたその肉にかぶりついた。


「焼けば基本何でも食べられる。だから、食べ物困ったらとにかくそこら辺の物を焼け、そして食え、全力で生きろ、デス」


「なーるほどな、守備の奴らの士気が低いわけだぜ」


 穢物をに群がり口元を赤く染める燃屍教徒たちの姿は、ものすごくやばいものに見えてるみたいで、不安そうに見つめる姫路の守備隊は、眼下に広がる狂宴にすっかり意気消沈って感じだわ。


 ……まあ、同じ反乱軍の中の燃屍教徒じゃない方々からもやばい奴らを見るような目で見られてるけどね。そんなに肉を食べるのっていけないことかな?


「なぁるほどなぁ、普通の獣じゃ近寄らねえけんども、イカれちまった穢物なら突っ込んで来るだぁか。これなら食い物には困らねえだなぁよ」


「それも燃屍教徒の間だけだけどね。他の人たちはすっかりお腹すかせてるみたいだし、私たちも予定通りいきましょ」


 後ろから響くたくさんの馬蹄の音に、私は皆に向かって号令をかける。その言葉に後発組は各々で気合を入れて目つきが変わる。


「…………あははー、いや、だからさー。軽々と馬を追い抜いてくの止めてくんない? 馬がドン引きするんだよねー」


「そうは言っても、とっとこ歩いてたらそりゃ抜くでしょ。丑御前みたいにその時点から自分の足で走り始めてくれてもよかったのに」


「わっはははははー! そうだぞ綱! 泣き言とかマジでかっこわりーから止めとけよ!」


 とにかく途中で追い抜いた先発隊も合流したことで、いつでも作戦を開始できる状態。あとは行動に移すのみね。


「よーし! 疲れてるとこ悪いけど休んでる暇はないわよ! さあ、声出していきましょう!」

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【猫精霊】――火車に従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【虎熊童子】――大江山首領。虎柄のコートを羽織った槍使い。

【星熊童子】――大江山に住む鬼。虎熊童子の弟で弓使い。

【熊童子】――大江山前首領。料理が得意。

*【雄谷氷沙瑪】――前世は羅刹の転生者。生前も死後も母禮に仕える忠義者。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【穢物けがれもの】――穢を浴びて変質した生物。俗に言うところのモンスター。

*【自由武士】――主を持たない武士。穢物退治や物資輸送の護衛などで生計を立てる。俗に言う冒険者てきな方々

*【燃屍教】――破闇是無鏖留ばーあんぜーむーおーるーと唱えながら屍体を燃やすことを正義として信仰を集める新興宗教。


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