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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
78/210

【源頼光】播磨源氏の落日 その4

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


2025/8/14 修正

 ・一部加筆

 ・誤字修正


 朝食を食べ終えた私たちは広間へと場所を移して氷沙瑪の話を聞く。集まってるのは摂津から一緒に来た全員に加えて、虎熊童子と熊童子の2人。星熊童子は火車に足を治してもらったのはいいけど、まだまともに歩けないからリハビリとやらに勤しんでる。


「―――とまあ、播磨の現状はこんな感じになってる」


「ふうん。現れた妖怪に食べ物を全部食べられて、播磨守は倒れたと。ものすごく大変なことになってるわね……」


「またDragonの話デス? 暴食、デス?」


 なるほど。たしかに街に蓄えてた食べ物を全部食べちゃうとか、ものすごい食への執着を感じるわね。一応強さに幅があるとは言うけど、親父まんじゅうと似たようなもんに襲い掛かられたら防ぎようないわ。


「なんていうか運がないわね。こんな隣国といがみ合ってる状況で偶然そんな妖怪に襲われるとか、対処に困るでしょ」


「そうであります! まして俊賢叔父上が倒れたとあらば最早対処できる人間がいないであります! 詰みであります!」


「ははは、他人ひとんとこの倉庫に火を点けたり日頃の行いが悪いっすからねー。お天道様が見てたって事っすねー」


 優秀ぽかった兄が倒れて、あの弟が指揮を執るとなると正直どうにもならないような。すぐ頭にくるような人間が絶望的な状況に追い込まれたら他人に当たるとかしそう。播磨に住んでる人たちが大変な思いしてなきゃいいけど。


 そんな心配をしてると茨木ちゃんが顔をしかめながら氷沙瑪に目を向ける。


「……いや、白々しいことゆうてるけど、その妖怪とやら氷沙瑪さんがたのお仲間ちゃいますの? 虎熊童子さんへの手紙に輸送隊襲え書いてたっちゅうことは、食いもん無くなるの分かってたちゅうことやろ」


「なるほど。実際今日麓に討伐隊以外の人が通ったのだって何十年ぶりかって話だからな。大江山ここの近くを突っ切るくらい覚悟決めてたって話か」


 皆の視線を一身に受けた氷沙瑪は1度大きく息を吐いた後、満面の笑顔で答えた。


「違ウヨ? 全部偶然ダヨー?」


「はい噓ー! 酒呑じゃなくても分かるっての! え、さすがに無関係の領民巻き込むのはダメでしょ!?」


「そこは厳命してあっから! 領民には手を出すなって主様からちゃんと伝えてたから! 領民が巻き込まれてるのは播磨守が倒れて、アホが指揮取ってるからだから。大体その播磨守が倒れた原因は頼光にあるってあちらさん言ってたけど!?」


「いや、そう言われても全く心当たりないし。むしろ心当たりがなさ過ぎて逆に困惑してるくらいだし」


 いつもなら「いやいや心当たりなんてない……いや、あったわ」ってところだけどさー。まさかここまで心当たりがないことで何やかや言われると逆に不安になるわ。


「あははー、播磨守が倒れたのって大江山に向かってる最中での話なんでしょー? 丑御前の案内もあったわけで真っすぐ来てるし、さすがに濡れ衣かなー」


「そうですな。マドモアゼルは道中常に誰かと一緒でしたからな。完全に潔白だと私も証言いたしますぞ」


 綱を初め行動を共にしてきた仲間からの熱い援護射撃に、目を閉じ腕を組んで頷きながら聞く。今回は完全に無罪放免だね。いやー、良かった良かった。


「でもコイツなら皆が寝静まった時に抜け出して全力疾走で行けんじゃねえの? 姫路ってのがどこだかしんねえけど隣国なんだろ? 1時間もありゃ往復できんじゃね?」


「わっはははははー! 確かに、この中に犯人がいるとしたら、そりゃもう姉御以外ねーぞ!」


 うん、止めて。ほんとにやってないから。あと援護組も急に黙んな。


「ともかく、摂津がいっちょかみしたせいで、おもくそ播磨に迷惑かけてるやん。そもそもが源氏同士の争いだったのに領民巻き込むのは、さすがにあかんやろ」


「だねー。醍醐源氏の一族郎党皆殺しにするだけで良かったのにー」


「綱殿の言うとおりであります!」


「え、怖……。なんか制裁重くなってない?」


「具体的なこと初めて言っただけで、ずっと許せねえとは言ってたな……。それで食い物は今どうなってんだよ。漁で魚取るなり、狩りをするなりいくらでもあるだろうが、この期に及んで無益な殺生がーとかぬかしてる感じなのか?」


 酒呑の問いかけに氷沙瑪は気まずそうに頭を掻くと、1枚の木片を取り出した。それには汚いながらも文字が書き込まれてる。


「正直な話、播磨守がいれば起こることはないだろって主様とは話してたんすけど……今播磨では大規模な反乱が起こってて各地の領民が姫路に押し寄せてる状況なんすよねー」


 文字をかける民が代表して一生懸命書いたのかな。その木片からは播磨の民から摂津に向けての切実な救援要請が書かれてるみたいだった。


「実際、播磨守は倒れる直前に臨時徴収を行うよう指示してたみたいなんすけど、民の食べる分は残せって話だったみたいっす。でも、1度摂津に攻撃を仕掛けてコテンパンにやられた弟が、今度はもっと大勢で攻めなきゃダメだってことで、ありったけの食い物を戦争のための糧食としてかき集めたみたいなんすよねー」


「頭に血が上ってるのかもしれないでありますが、叔父上はどうかしてるであります……!」


 憤慨する致公くんだけど、これには正直私も同意見。私が気に入らないって言うなら私のとこに来ればいいのに、源氏の喧嘩に他を巻き込むなって話だわ。


「で、どないするつもりなん? 摂津としてはどう動く?」


「ま、そう言われたとこで領民なんざ国司が好き勝手していいってのが朝廷の意向っすからね。摂津としては表立っての介入はできねっす」


「HAHAHA……全く、朝廷のそういうところがいけ好かないのだがね。とはいえ火を点けた播磨が何を言ってるんだと言いたくなるよ」


「そらごもっとも。あたいらは源氏同士の決戦のお膳立てに動きつつ、ちょっとばかし憂さ晴らしをさせてもらった感じっすからね。こっから先は頼光に丸投げするよ」


 私に丸投げって……。確かイタコさんに証言取ってもらって平和的にって話じゃなかったっけ? でも、迷ってる暇すら惜しい状況である以上、まずは動かなきゃいけない。反乱が起こってるとなると当然鎮圧するだろうし無関係な人が死ぬ。それは絶対に嫌。


 私たちはどう動くべきか……? 目を瞑って頭を巡らせる。再び目を開いた時、皆の顔つきが真剣なものに変わるのが分かった。


「酒呑、大江山にいる馬全頭借りるわよ。綱、致公くん、丑御前は馬に乗れる鬼たちを連れて播磨に向かって先行して! 向こうの状況は分からないけど、さすがに鬼の姿を見れば戦ってなんていられないでしょ」


「あははー了解ッと。でも頼光は行かないの?」


「私は後から合流する。保昌殿、さっきの輸送品が播磨への物なら使っちゃってもいいですよね? 茨木ちゃんと熊童子、さっき料理してもらったばかりで悪いけど、もう1度お願いできる?」


「おぉう。どれくらい食ってねえか分からねえでなあ、消化にいいもんがいいだろなあ。調理班総動員で作るまくるべえ」


「……せやな。まずは食べもん用意せんことにはどうしようもあらへんし」


 綱たちが駆けだしたのに続いて、熊童子は部屋から出ると料理ができる鬼をかき集め調理場へ向かう。後ろを追った保昌殿は部屋から出る前に振り返り、笑いながら言う。


「HAHAHA、マドモアゼルはやはり面白い。私の妻が入れ込むのも分かるというものですよ!」


 妻? 奥さんの事が大好きでウチの親父と母上みたいに1つ屋根の下に暮らしてるとは聞いたけど、私は会ったことないはずなのに。不思議に思ったけどすでに保昌殿は部屋を出た後だった。


「おいおい、頼光こんなとこで料理作ったって運びようがねえだろ。どうする気なんだよ」


「そこは大丈夫。熱々の出来立てのまま運ぶ手段はあるから」


 私の言葉に氷沙瑪はマジかよと1言呟いて黙る。


 母上の死に際の記憶を取り戻し、そこから続く醍醐源氏―――今の播磨源氏との決着はすぐそこまで近づいてる。



「ええい、愚民どもが反乱などふざけおって! この状況では貴様らより我らの方が優先されるのは当然だろうが!」


 各地に送った使者からの報告は惨憺たるものだった。美作と備中からはけんもほろろに断られ、北に向かった使者は帰ってこない。唯一希望を持てた海からの物資は目の前で沈んだ。波も穏やかな海にも拘らず、数十隻からなる船の全てがだ。


 もはや食料は底を尽きんとしてる以上、優先されるは国司とその郎党。それが理解できない愚民に経房の怒りは頂点に達していた。


「―――全くです。その心中お察しいたします」


「誰だ!!」


 部屋から入ってきたのは坊主頭に紫の布を巻いた細目の男。その衣服の生地はきめ細かでそれなりの身分と見て取れる。


「私は朝廷に使える者。輸送の任についていたのですが、途中摂津で奪われてしまいまして。なんとか私だけがここまで参った次第」


 謝罪の言葉に怒鳴りつけたくなる衝動を何とか抑える経房に男はそっと瓶を手渡す。


「なんとか運ぶことができたのはこれだけです。腹の足しになるかどうかは分かりませんが、人の活力を増すと言われているもの。どうか播磨守様がお納めください」


 なんとも薄気味悪い印象を残し男は部屋を辞す。播磨守が倒れている以上自分が受け取っておくしかない。経房が瓶を振るとちゃぷんと液体の音がした。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【猫精霊】――火車に従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【虎熊童子】――大江山首領。虎柄のコートを羽織った槍使い。

【星熊童子】――大江山に住む鬼。虎熊童子の弟で弓使い。

【熊童子】――大江山前首領。料理が得意。

【源経房】――源高明の五男。播磨権守。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【Dragon】――『心を見透かす者』の名を冠する悪魔王(第6天魔王と同一存在)、またはその眷属(天狗と同一存在)を指す言葉。

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