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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
74/211

【源頼光】料理対決

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


2025/8/14 修正

 ・段落の設定


「さあ! 始まったぞ! 姐御対虎熊童子、料理対決! 実況はこのオレ丑御前とー」


「このボク渡辺綱! そして判定は大江山首領・酒呑童子だー! ドンドンドンドンドン!」


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


「………………………………………………………………………………」


 大江山に来て以来のお約束とはいえ、なんでもかんでもお祭り騒ぎの鬼たちの怒号に放し飼いにされてる鶏が慌てて走り回る。そんな中ただ1人、酒呑だけが死んだ目をして黙り込んでる。


「あははーそれじゃー酒呑、作る料理を決めてくれるかな? 死因―――……こほん、食べるものくらい自分で決めたいでしょー?」


「ざけんな! 何自分は安全圏に引っ込んでやがんだ!? お前も喰うんだよ!」


「いやーボクはほら、宗教上の理由で食べられないから」


「まだ何を作るか決めてねえんだよなあ!?」


 酒呑がノリノリの綱の肩を掴んで何か言ってるけど、背中を向けてるからよく聞き取れない。せめてこっちを向いてくれてれば聞こえなくても唇読めるのに。


 そんなことをグダグダやってるうちに痺れを切らした周りの鬼からぶーぶーと不満の声が飛び、酒呑が髪を掻きむしった。


「……分かった分かった! ならせめて失敗しないようなもん……卵焼きだ。卵焼きを作れ」


「おお、いいな! オレは卵焼き大好きだぞ!」


「たま……ご……やき?」


 丑御前は大喜びしてるけど……たまごやきってなにかしら? 卵って言うと虫とか魚とかが子孫増やす時のあれよね?


「正気か? 頼光ん、無益な殺生あかんいう仏教の教えに沿って肉食べへんのやろ? なら卵も食べへんちゃうの?」


「!? 卵ってとりだからな!? いいか、鶏だぞ!! つーかここにいる間、何度も食ってるから分かんだろ!?」


 奪った食材の目録作りを終えた茨木ちゃんの言葉に、慌てて条件を足す酒呑。誰でも作れる鳥の卵を焼く料理、そしてここでの食事には普通に出されてるとまで言われれば私でも推測はできるはず。


「了解! 鳥ね! 極上の卵焼きとやら作ってやるわ!」


「はッ! 俺様がテメエとの力の差ってものを見せつけてやるよ!」


「……微塵もぶれることがない絶対の自信、いいだろう信じてやるぞコラ」


 虎熊と視線が交錯してお互い卵を求めて走り出す。コッコ、コッコと歩き回る鶏を踏まないように気を付けながら屋敷を囲む塀を飛び越えた時、ふと後ろが見えた視界の端に頭を抱える酒呑の姿があった。



「いやだから、普段食べへんもん注文すんのに何で「とり」言うねん。「にわとり」ってはっきり言わんと分からんやろ」


「いや……そこは、普通分かんだろ!? 貴族も飼ってるって話じゃねえのかよ!?」


「はい! 鶏の卵なんて食べるでありますか!? それがしも初耳であります!」


「ムッシュ酒呑、鶏を飼っている貴族はそれなりにいるが、それは闘わせて楽しむためだ」


「ま、おらたちもおらたちで朝食に卵使うかあ茨木童子。首領もよお安心していいぞお。なあに鳥の繁殖は春から初夏にかけてだあ、こおんな夏真っ盛り、きっと見つけられずに戻ってくるだからなあ」


「どっちも食材が見つからず勝負不成立か……希望はもはやそこにしかねえなあ……」


「ここはいっちょウチが本物の卵焼きちゅうもんを見せたるわ。ここに来てからは熊童子の技盗むために見せてもろてたけど、実は卵焼き大得意やねん」


「ほお! そら楽しみだなあ。そんじゃ朝飯は茨木童子のやり方で作ってみるだあよ」



―――30分後、私と虎熊はそれぞれ卵を探し出して焼き、お互いの調理が終わった。


 審査員席と書かれた机の中央に座る酒呑はこの世の終わりと言わんばかりの表情で頭を抱えてて、その両脇を解説ということで茨木ちゃんと熊童子が固める。


「あっははははー! いやーさすが頼光も虎熊童子も英雄の素質有りってことで豪運だよねー。勝負不成立なんて夢のまた夢ー」


「…………この世には神も仏もいねえのか」


「Pardon? また主を否定する、デス? 他の皆、認めてる、デス」


「「「神よ! 神よ! 我らが主神・オーディンよ!!」」」


 酒呑のつぶやきに反応した観客の火車がまた揉めてるけど、このままのんびり話してたらせっかくの料理が冷めちゃうわ。


「ほら! 皆が朝ごはん我慢して見届けてくれてるんだから始めましょ。私からでいい?」


 私の言葉に虎熊は組んでた腕を解いてどうぞとばかりに右腕を差し出す。くッ……自信がありそうね。でも私の料理を見てその顔が続くかしら?


「おおっとこれは! なんてゆーか、すげーのが出てきたぞ!?」


「真っ黒に焼けた卵。あははー、あまりにも想像通りでツッコミづれー! どうかな解説の熊童子」


「卵が割れてねえのがすげえ技術だあ」


 よし、熊童子に技術を褒められたとあらば好感触ね。いや、屋敷で食べたことあるって言われてたのに全く見たことないものになったときはどうしようかと思ったけど、これは案外悪くない?


「………………奇跡的にゆで卵みたいになってくれてることにかけるぞマジで」


 そう言った酒呑が殻を割ると、辺りからどよめきが起こる。


「ギャハハハハ!! オイオイオイオイ! 中身ガイルジャネエノ!!」


「時期的に仕方ねえだなあ。ギリギリ残ってたということは、生まれるのも時間の問題だったってことだあ」


「ごっつ生命への冒涜ちゅーもんを感じる……これは1度仏さんに怒られた方がええわ。じゃあ次は虎熊童子やな」


 あれ? 食べないまま進めるの? いまいち勝負の流れを理解できずにいると料理を持ってにやにやする虎熊に軽く突き飛ばされる。


「食うまでもねえってよ。残念だったな」


「あははー、さあこの好機しっかりものにできるか虎熊童子! 見た目だけで終わればいいけど実食となったらえらいことだぞー!」


「どういう意味よ」


 そりゃさ見た目はあれかもしれないけど料理は食べてみないと分からないじゃない。そう思ってると、場が一気に静まり返る。


「……めちゃくちゃ焦げてんな。いや、焦げてるだけなら頼光よりましか?」


 もはや炭の塊といっていい漆黒の物体を箸でつついてる酒呑にたいして、虎熊がドヤ顔で説明する。


「首領、それはカエルのたま――」


「鶏の卵つっただろ、ぶっ殺すぞ」


 恐ろしく速い酒呑からの文句にも一切動じず、虎熊はなおも料理の説明を続ける。


「まあ聞け首領。俺様の故郷、現在唐国と呼ばれる国ではカエルは食材として高く評価されている。その味を例える時、至高の鶏肉と表現されるくらいにな。つまりカエルの卵は極上の鶏卵と同等ということ!」


「――などと供述してるけど、実際のとこどうなのー解説の熊童子?」


「火い通ってるからいけるかも知んねえけど、基本毒だなあ」


「わっはははははー! いい勝負になってきたな! こりゃどっちに転ぶか全然分かんねーぞ!」


「え? これ喰わなきゃいけねえの? 解説で料理上手の熊童子が毒って言ってんだけど?」


 どっちの料理にも箸をつけず時間だけが流れる。そんな時、バンという音と一緒に茨木ちゃんが立ち上がりパンパンと手をたたくと、屋敷の方から次々と朝ごはんが運ばれてくる。


「もうええわ! 卵焼き言うのはこういうのを言うんや」


「Wow! まさかの、オムレット、デス。ペルージャンからローマンに入った料理。地元・ブリターニャにも入ってきた、デス」


「おお、こらうめえだなあ。蘇で味付けしてあるだあか?」


「せや、保昌様からの提供や。それに塩と胡椒ちゅうもんで味付けてみたで」


「おいしい! なにこれ、ふわっふわでほんとおいしい!!! これってほんとに鳥の卵なの!?」


「鶏や。目の前に転がっとった卵無視して山ん中走ってった時は何してんねん思たで。にしてもここの鶏凄いわ。熊童子が何千年と丹精込めて世話してきた中で1年通して卵産めるようなっとるらしいで」


 茨木ちゃん主動で作られたらしいから味は違うけど、この綺麗な黄色をしたふわふわは確かにここで良く出されるものね。普段の私なら絶対なんの料理なのか聞いてたはずなのに、そんなことすらしてなかったなんて虎熊との勝負にかまけて色々おろそかになってたってことね。反省しないと。


「…………なあ、オレもあっち喰いてえんだけど?」


「あははー、いやーそっちをちゃんと食べてもらわないと、ほんとに無益な殺生になっちゃうからねー。とりあえずそっち食べてからどうぞー」


 これは完全に茨木ちゃんに持ってかれちゃったわねー。初めての料理だったしこれはもう仕方ない。虎熊との勝負がうやむやになって皆で朝食を楽しんでると、見張りをしてた鬼が慌てて走ってきた。


「おーい、頼光ー。なんかおめえの知り合いってやつが来たぞ」


「知り合い?」


 鬼の後ろに目をやる。あら、氷沙瑪じゃない。なんか久しぶりだけど、なんとなく……いや、はっきりとやつれてるわね。目の下に大きなくま出来てるし。


「おーい氷沙瑪ー、こっちこっち」


 手を振って位置を伝えると、こっちに気づいた氷沙瑪が大股でズカズカ向かってくる。なんか機嫌悪そうねー……やっぱり疲れてるのかしら。


「久しぶりー。どうしたのこんなとこまで? 摂津で何かあった――――」


「久しぶりじゃーーーーーーねえッ!!」


 痛ッったあああ……くない? 立ち上がって出迎えようとしたお尻を蹴られたパーンという音こそ大きいけど痛みはそれほどじゃ―――……そっか、友軍がどうとか言ってたから、道満さまは人間の体を使ってるのかな。鬼の体を使ってないなら痛くないわね。


「あたいが刃倶呂はぐろに振り回されてた時に、何こっちだけで面白そうなことー……じゃない。大江山とうまくいったならしっかり報告しろや。全然知らせが来ねえからすわ全滅したかと思って調べさせたら、なんか遊び惚けてるって話じゃねえか? あくまでこれは播磨相手にした1手であって、大江山との同盟が主目的じゃねえぞ」


「あ! あー……うん。いやそれは分かってるんだけど、ほんとごめん。怪我人が結構出たから火車が治すまではここにいようってなったの、確かに伝えるべきだったと思う」


 手紙を無事渡せて今朝も指示通りに輸送隊の邪魔するため動いてたもんだから、完全にそれで終わりのつもりになってたわ。確かに道満さまの指示のもと皆が動いてるわけだし、こっちの状況はちゃんと伝えないといけなかったわね……。どうにも今までが屋敷内で少人数だったもんだからそこら辺の意識が……。


 頭を下げて深謝すると氷沙瑪は大きくため息を吐いた。


「はあ~~~……とにかくこの1ヶ月ほどの間に相当事態は動いてるっす。食後でいいから伝えたいことあるので全員集まるように」


 それだけ言って普段の様子に戻った氷沙瑪は茨木ちゃんから卵焼きを受け取ると、ちゃっかり朝食に混ざった。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【猫精霊】――火車に従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【虎熊童子】――大江山首領。虎柄のコートを羽織った槍使い。

【星熊童子】――大江山に住む鬼。虎熊童子の弟で弓使い。

【熊童子】――大江山前首領。料理が得意。

【芦屋道満】――摂津の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。

*【雄谷氷沙瑪】――前世は羅刹の転生者。生前も死後も母禮に仕える忠義者。

*【刃倶呂】――羅刹の男。氷沙瑪とは昔馴染み。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【ペルーシャン】――アラビア半島・紅海沿岸・北エジプトにまたがる大国。

*【ローマン神聖国】――イベリア半島~黒海沿岸にまたがるヨーロッパの大国。

*【ブリターニャ】――イギリス。

【蘇】――乳製品。税として徴収され、納められなかったり品質が悪かったりすると杖で殴られる。殿上人しか食べることが出来なかったとされる。

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