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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
1章 摂津源氏結成
7/167

【源頼光】約束

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

2025/1/02 修正

 ・一部加筆・修正

 ・段落の設定

「そう……。みやこに戻っちゃうんだね」


「んー、わたしは陸奥むつ国の生まれだから戻るって言われてもーって感じなんだけどー」


 そう、まだ小さかった私は京に上るが嫌だったんだよね。


 生まれ育った陸奥の自然が、空気が、人が、そこで暮らす人たちに慕われて共に笑ってた母上の姿が好きだった。


 そしてなにより、人里外れた山の中に1人で住んでる女の子が好きだった。


 ある日偶然に立ち入った屋敷に住んでいた瑠璃色の長い髪と神秘的な青い瞳が印象的な、着ているものも多分異国のものだと思うけど、広いつばの付いた頭巾に裾がひらひらした1枚の布で出来た着物を着た女の子――富ちゃん。


 別れが辛くて散々喚き散らした私を、困った顔で宥める母上を思い出すと申し訳ない気持ちになるけど、本当にそれくらい嫌だった。


 国司の任期は4年。1度目の任期を終えた親父まんじゅうは京に呼び戻されたけど、それから朝廷に働きかけて次の4年を遙任ようにん国司として陸奥を治め、目代として現地で統治に当たった母上と一緒に私は陸奥に残っていた。


 それでも延長は1度きり。陸奥の深い雪を避けるべく、すでに次の陸奥守は赴任のため陸奥に向かってる途中だし、私たちもすぐに発たないといけないという話だった。だからあの秋の日、私は別れのためお屋敷に行った。


 いつも紅白の梅が咲く、色んな動物が自由に動き回る不思議な庭がある大きなお屋敷。どんな季節に訪ねても、黒塗りの立派な門をくぐれば春の陽気に包まれる不思議なお屋敷。悲しいお別れは嫌だから目一杯明るくお話したんだよね。


「だから富ちゃん、少しの間だけお別れになっちゃうの。でもね、今度は父上でも母上でもなく私が国司になってここに来るから! その時は一緒に陸奥を今よりもずっと素敵な国にしよう」


「でも難しいんじゃない……? みんな私にここで待っててって言って戻ってこないもの。お父様もお母様も亀ちゃんもお師匠様も……」


「私は絶対、絶ーー対戻ってくるもん! そうだ、約束のしるしにこれあげる!」


「まぁきれいなお花」


「秋の七草って言うんだって! 母上に教えてもらったのを一生懸命探したんだよ! このお屋敷ってずっと春でしょ? だから見たことないんじゃないかなって!」


 常春の不思議なお屋敷には咲かない花。その中から藤袴ふじばかまを選び、富ちゃんお気に入りの頭巾に飾り付けたら富ちゃんは嬉しそうに笑った。


「私が国司になって戻ったら、その時は富ちゃんも力を貸してね! 一緒にこの国をすっごい国にすれば富ちゃんも1人で過ごす必要なくなるから!」


「……そうね。みんなが笑顔で暮らせる国になればいいね」


「絶対できるよ! できなかったらお腹切る! お腹痛いのやだから絶対やりとげる! 約束!」


 そう高らかに宣言する私に目をパチクリさせたあと、ようやく富ちゃんはふふっと笑ってくれた。


「うん。約束。戻ってきてくれるの待ってるね、頼光ちゃん」


「うん! 絶対すぐに戻ってくるから待っててね!」



 ――――それがまさか京に戻ったらほとんどの間、屋敷に閉じ込められることになるなんてね。


「――今日こそいい加減決着つけさせてもらうわよ、クソ親父まんじゅう


 屋敷の地下深く、【はなしあい】のためだけに作られた空間で、私はクソ親父まんじゅうこと源満仲みなもとのみつなかを見据えた――。

【人物紹介】

【源頼光】――主人公。陸奥生まれで陸奥守を目指している。

【富ちゃん】――陸奥の山の中の屋敷に1人で住む少女。源頼光の友達。

【源満仲】――源頼光の父。平安京最強と謳われる化け物。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【遙任国司】――中央に仕事があり京を離れられないため、現地に赴かない国司。

【目代】――国司の代わりに派遣され、統治する代理人。

【秋の七草】――藤袴・すすき女郎花おみなえし・萩・葛・桔梗・撫子の7つ。

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