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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
69/211

【源頼光】大江山の戦い その17

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


2025/8/14 修正

 ・一部加筆

 ・誤字修正


――大江山へ向かう道中でのこと


「っしゃああああああ、完璧だぞッ! まーたオレは最高にかっけー存在に近づいちまったなもー!」


「おー、おめでとう。あとは実戦でも使えるように習熟あるのみね」


 空中に弾いた石を蹴って急降下することに成功した丑御前が満足そうに笑う。何度も挑戦してようやく成功して嬉しいのは分かるけど、実戦で使うにはさすがに危なっかしい。とはいえできることが増えるってほんとにやってやった感が凄いし、気持ちは痛いほどわかるから今は目一杯お祝いしてあげないとね。今日の野営の準備当番から外れて手持無沙汰になってる酒呑と火車もパラパラと拍手してる。


「いやー、1度コツを掴んじまえば、もーこっちのもんだな! ちなみに姐御は実戦で使いこなすまでどんくらい練習したんだ!? 絶対それより早くものにしてみせるぞ!」


「いや、壁を蹴ることはあっても、空中で何か蹴って方向転換ってのは、氷沙瑪が道満さまの氷を蹴ったのを見て真似ただけだからなー。普通にぶっつけ本番でできたから練習とかは」


「マジかよ!!! やっぱ姐御はすげえな!! ただただ、かっけえええええええええええ!!」


 え、そう? いやーこうやって真っ向から褒めてくれる子って、すごくいいわー。付き合い長い綱たちはそれくらいできるでしょって感じだし。茨木ちゃんとか酒呑は驚くか呆れるかだし。


 わしゃわしゃと頭を撫でてあげると丑御前は気持ちよさそうに目を細める。


「とにかく特訓に付き合ってくれてありがとな! 逆にオレにできることがあれば何でも言ってくれ! もーなんでも教えてやるぞ!」


「今こうやって大江山まで案内をしてもらってるだけで十分よ。実際すごく助かって―――あ」


「なんだ!? 聞きたいことあるのか!?」


 目をキラキラ輝かせながらずずいッと身を寄せてくる丑御前を見る限り、聞いても大丈夫そうかな? 綱や保昌殿と話してもどうしても理屈が付かない丑御前の動きがある。秘伝とかそういうのだったりするかもと本人には聞かなかったけど……うん、ダメもとで聞いてみよう。


「それじゃさ。丑御前ってよく跳ぶでしょ? どうやってあんなに速く跳べるの?」


 普通跳び上がると、しばらくは踏み出した方向に上昇しながら移動して、勢いがなくなったら地面に向かってく。真上に跳んだ時なんか分かりやすいけど、どういうわけか落ちる速さは皆一緒で速く落ちる方法なんて、それこそ空中で何かを蹴って勢いをつけるしかない。だからこそ綱も私も速く動くことを意識する時は地面を這うようにするし、跳び上がるときは何か蹴るものがあるか、相手に直接攻撃する時だけ。


 なのに丑御前が飛蝗バッタみたいにぴょんぴょんする時は、弧を描くんじゃなくて、ものすごい角度で加速しながら落ちてくる。あの勢いで踏み切ったら私の頭を超えそうって思っても、勢いを増しながら私のいる場所に落ちてくるのはさっぱり分からないのよね。


「あ、それはオレも知りてえ」


「実際、意味分カンネエヨナ、アレ」


「Me too」


 丑御前が芦屋に殴り込みかけてきたときに闘った酒呑と、逃げに特化した機動力の高い火車もあの動きには興味があったのね。皆から教えて欲しいと言われたことに気を良くした丑御前は大きく胸を張った。


「ふふふーん、仕方ねえなあもー! それじゃじっくり見てな!」


 そう言って真上に5mほど跳び上がったかと思うと、空中で止まるようなそぶりもなく加速し続けて、ズーンと大きく音を立てながら腰を落とす形で着地すると、その衝撃でぶわっと土煙が舞った。


「大江山にオレの喧嘩仲間で、でぶってのがいるんだけどな? あいつが着地する時こうなるんだ! そりゃもう傍目でもかっけーからオレもやりてー! ってなるんだけど軽すぎてどうにもならなかったんだ!」


「いや、そんな着地じゃ次につながんねえし、ふわっとした方がいいだろ」


「かー! 分かってねえなあ。かっけーを追求するには多少の不便は受け入れねえとだぞ」


「まあ実戦的じゃないけど、かっこいいってのは正直分かる」


 なんか腰に悪そうだけど迫力あるし、やってみたい思いあるよね。


 な! と丑御前は満面の笑顔で私の両手を握ると、ぶんぶんと上下に振った。


「それでな? どうすりゃオレにもできるかなーって考えてな? たどり着いたのが妖力で道を作るって結論だぞ!」


「道?」


「そうだ! なんていうかこう、自分だけが通れてずっと後ろから風が後押ししてくれる管みたいな奴だ! そこに全力で飛び込めば道に沿って進めるだろ!」


 丑御前は地面に人差し指を第2関節まで刺すと、それを動かして曲線を引きそこに小石を転がした。


「こうやって動き出す前に、移動できる場所を決めとけば、強く地面を蹴れば蹴っただけ素早く動けるぞ!」


 ……なるほど。気力を練り上げて体を強化するんじゃなくて、道満さまが水を氷に変えるように環境に働きかけてたってことなのね。私の引き出しにないし、そりゃ真似できない。


「I see。魔力の流れに乗る、方向転換できない。なかなかRisky。しかも、魔力の消費、相当激しい、デス」


「お! うめえなお前!」


 精霊と仲が良くて、治療みたいに他者に力を流し込んでるおかげか、早々にコツをつかむ火車。むむむ、でも火車ができるなら私にだってやってやれないこともないはず!




 その後、丑御前と火車から助言をもらいつつ試行錯誤すること数十分。ついに私もなんとか形になってきた。


 火車の言う通り結構疲れるから、うまいこと調整しないとダメねと思ってたところ、外道丸から声がかかる。


「頼光ヨオ、試シニオ前ガアリッタケノちから振リ絞ッテ道ヲ作ッテヨ、トコトン加速シナガラ蹴ッタラドウナルンダ?」


「おー! いいこと言ったな! オレも見てみてえぞ!」


「いや、どうだろ……。そもそも終点変えられない時点で、確実に避けられるものを試しても」


 蹴りに応用するにしても、めちゃくちゃな軌道でえぐってくる感じを出すほうがいいと思うけど。


Now now(いいから、いいから)。やるだけやってみる、デス。Let’s fly」


 空を指さす火車に私も上を見上げる。なるほど、地上だとどうやって道を設定するかで頭使わなきゃいけないし、単純に距離を稼ぐだけなら空1択ね。


「仕方ないわね。全力振り絞るから、見せられるのは1回だけだからね!」


―――こうして私の必殺技は生まれ、そのまま封印された。



「ぐうッ!!」


 乾いた音が響き渡り虎熊童子は片膝をついた。執拗な頼光の蹴りに、ついに膝が限界を超え骨が砕けたのだ。


「とうッ!」


 そこに正面からの跳び蹴りを受けて、地面に大の字に倒れた。


(…………くそ、さすがにここまでか。まさか愚弟と同じ末路を辿るたあな)


 虎熊童子は日ノ本に流れてきて2000年近く、ひたすらに武を磨き続けてから初めての敗北を悟る。初めて出会った自分と互角に闘えるかもしれない相手に心躍ったものだが、それでも不完全燃焼の想いが残っているのも事実だった。


(結局シラフん時は最後まで殺意を感じさせやがらなかったな。これならイカれてた時ん方がマシだったぜ)


 お互いが命を懸けて闘うことを楽しみにしていたが、自分よりも弱いくせに、言ってしまえば手を抜いていた頼光に不満を残しながらも虎熊童子は最後の力を振り絞って身を起こす。一向に殺意を見せない甘ちゃんが手を止められるように負けを認めてやろうと思ったからだ。


「ライッッッッコオオオオオオォォォォォォォォォォーーーーーーッッ!!!」


 ――なんだ、勝ち名乗りにしても自分の名前を叫ぶとか珍しい奴だな? しかもなんで声が遠ざかって行ってるのかと頼光の方を見ると、頼光が空高く跳んだことで出来た闘気による光の柱が目に付く。一瞬何してるのか分からなかった虎熊童子が胸に感じる微かな違和感。それは丑御前の相手をしてやったときに感じた妖力の照射を受けた時のものと同じものだ。


「――ッ!! ふはっ! 殺さずとか考えてるやつがやることかよ!!!」


 すでにまともに動ける状況じゃない。それでもここにきて好敵手が選んだ結末を思い、体が歓喜に震える。深く考えるまでもない、これは使い手の意思とか関係なく相手の命を刈り取る技! この野郎、やっと俺様を殺しに来やがったなと、慌てて槍を体に引き寄せたその時、今までに感じたことのない衝撃を受ける。


「ぐぼおおおおおぉぉッッ!!!」


「――――キイイイイイイィィィィィック!!!!!」


 背中の地面に沈み込んでいく感覚の中、地面が弾ける衝撃音に空から降ってきた頼光の声が追いついた。



――さすがね。


 丁寧に丁寧に、絶対に当たる状況を作ったってのに槍を差し込んだ虎熊の判断の速さには驚かされる。殺さないように胸当ての上から当てるつもりだった必殺技は、槍を差し込まれたことでさらに威力が弱まる。……いや、でもこれなら絶対に殺さないし結果的には良かった―――。


 背筋にぞっと冷たいものが走る。今目線のあった虎熊の顔、それは今までにないくらいの喜びに満ちてる。これって―――――まさか、勝ちを確信した!?


 !! そうか、全身全霊を込めたものだって悟られたのね、耐えきれば勝ちと理解したからこそのあの笑顔か。実際、できたと同時に封印しただけに調整なんてしてないし、このあと動くことなんてできない。


 でもほんとに耐えられるっていうの!? 殺さないですむことは良いことだけど、戦闘不能に追い込めなかったら本末転倒。そうなったら私の負け。


 ――ここは、絶対に仕留め切らないといけない!


 綱、茨木ちゃん、酒呑、火車、保昌殿、致公くんと横目で順番に顔を見る。私が負けたらまたさっきみたいに危険に晒すことになるかもしれない。それを避けるためにも想いを力に威力を振り絞る。


 ここにいる皆だけじゃない。道満さまに氷沙瑪、貞光や季武たちの期待もすべて背負って見せる! そんな中最後に思い浮かんだのが、みやこで商売する職人さん。その顔が私の顔の横までゆっくりと近づいてぼそりと何か呟いた。そうだ、あの時もこうして――――


『………………さっきの靴を爆発させる専用の改造をって話』


『………………本当はもう実装済み。使ったら感想教えて』


 あの時は履物の裏に力を流すってのがよく分からなくて、こっそり試そうにもうまくいかなかったけど、今なら体の外に気力を出す感覚は分かる! ならあとはこれを緋緋色金ひひいろかねに流し込むことを考えれば!


「大ッ爆ッ発ッ!!」


 一瞬山が昼間以上の明るさに包まれると、虎熊の転がってたとこを中心に半円状にごっそりと土がえぐれ、私は空高く吹き飛ばされた。


「Umm、kickとするなら、最後は explosion の方がしっくりくる、デス?」


 いや、爆発を異国語でなんて言うか教えてもらってないし。遠くから火車にダメ出しされながら、私は地面に向かって真っ逆さまに落ちていった。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【虎熊童子】――大江山首領。虎柄のコートを羽織った槍使い。

【芦屋道満】――摂津の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。

*【雄谷氷沙瑪】――前世は羅刹の転生者。生前も死後も母禮に仕える忠義者。

【碓井貞光】――源頼光の配下。平安4強の1人。

【卜部季武】――源頼光の配下。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【神力】――生物が持つ超常を起こすための力。魔力・道力・気力・妖力と所属勢力によって呼び方は異なるが、全部同じもの。

*【頼光爆発脚ライコーキックエクスプロージョン】――頼光の必殺技。崩しの蹴り連打からの1連の動作含めての必殺技。ライダーキッ―――ではなくイメージ的にはVPヴァルキリープロファイルのニーベルン・ヴァレスティを超高速の蹴りだけでやる感じ。

*【緋緋色金】――西洋のオリハルコンと似た性質を持つ緋色の希少金属。硬い・軽い・熱に強いと武器や防具に最高の素材だが、それ故に加工が難しい。

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