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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
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【源頼光】大江山の戦い その15

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

―――怒れ、怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ。


―――弱さは悪。それを放置すればまた奪われる。


―――それが嫌なら自らの弱さを否定するため、力を求めよ。もう誰もお前から奪えないように、圧倒的な力を。


 私を掴んで語り掛けてた声の主はその姿を消して、声だけが頭の中に鳴り響いてる!


「―――上! 従姉上!」


 ? 頭の中に響く声をかき分けるように、他の声がかすかに聞こえる。


 ……うるさい!! そんなものにかまってる暇なんかない! 今は皆が命を懸けて闘ってる状況! 弱い私のままだと! また誰かが死ぬ!


―――外のものが何を呼びかけようと無駄なこと。怒りに身を任せろ。常に怒りに身を任せ、力を求め続けることこそ、お前の幸福につながるのだ。


 そうよ! ただそれだけで強くなれて、皆を守れるならこんなに幸せなことは――――……。


「従姉上ッ!! お父上から――満仲様から受けた仕打ちを思い出してくだされ!!」


 …………………………………………………………………………………………。


―――また愛か。そういえばこの娘の父親も愛ゆえに天狗道に堕ちきっていないのであったか。くだらぬ。それを成功体験に娘の方も救えると思っているなら実に滑稽―――。


「死ねええええええええええええええええええええええッ!!!!!!!」



「うがぁーーーー!! 死ねッ! 死ねッ! 死ねッ!」


「いやいやいや! 怒りで……我を失ってるやつに……何言ってんの!? 絶対逆効果じゃん!?」


「うがー! 部屋から出せ! 自由にさせろ! 行くとこ行くとこついてくんな! 暑苦しいから抱き着くな! 膝の上に乗せんな! 水浴びしてるとこ覗いてくんな! 死ねッ! マジで死ねッ! 母上じゃなくて親父まんじゅうが死ねばよかったのに!!」


「……きっしょ。頼光がおとんのこと嫌ってるんは知ってたけど、うちのおとんと別方向でやばい奴やん」


「だが、さっき……までと……違って! 人の言葉……! 話すだけ! マシになったか!?」


 1度は大人しくなったと思えたが、致公の言葉に先ほど以上の勢いで暴れだす頼光を、なんとか抑え込む。


「確かに! マドモアゼルの理性が戻ってきているように見えるが! 一体どういうことなんだね!?」


「はい! それがしは満季ちちうえと晴明様よりそうせよと言われていたことをやっただけでありまして、詳しい理屈は分からないであります!」


 皆が暴れる頼光に悪戦苦闘しながらも首をひねっていると、1人理解した火車はポンと手を打つ。


I seeるほど。これはなかなか、斬新な対処法、デス」



「あんたのせいでどれだけ富ちゃんのこと待たせることになったと思ってんのよ! ふざけんな、くそ親父!」


『まずい! 関係が切れかかっている!』


 さっきまでさんざん頭の中で語り掛けてた、黒い人がいつのまにか再び現れる。わたわたと手をばたつかせる態度がなんかムカつく。こんなのが我の力がうんたらぬかしてたの?


『父に対しての怒りもあるのは分かった。ならばその父も我の力を受け入れその手で殺せば良かろ――』


「ならお前が殺してみろやー!!」


『ぶっ!?』


 拳に伝わる確かな手ごたえ。私に触れてた黒い人は無様にもごろごろと地面を転がり私から離れてく。はッ! こんなんで親父を殺せばいいとかよく言えたわねこいつ。


「刀で斬っても刀の方が折れる! 緋緋色金ひひいろかねで蹴り飛ばしてもピンピンしてる! 私が自由に外に出るまでに何百回闘ってきたと思ってんのよ! 殺せるもんならとっくに殺してたっての!! ……そういえば親父もあんたの力でああなったわけよね!? ならいっそあんたが殺してくれればいいじゃない!? ま、その体たらくじゃ無理だろうけど!!」


『いかん――憤怒の方向が自責から他責へと変わる――自身の力を求めなければ――これ以上は――』


「はッ!?」


 黒い人影が完全に消え去ると同時に、頭の中がすっきりした。母上の死とか見せられてやたらと怒りを煽られたとはいえ、せっかく力を貸してくれると言ってた相手にわりとひどい扱いした気がならないわね……。まあ、あっちも腹に一物抱えてたっぽいし、おあいこってことで……いいよね?


「――――――、――――――――。」


 ん? 頭がすっきりしたのと同時に私を呼んでる声が聞こえるような? 確かにさっさと起きないと心配かけちゃうわね―――。



「ぐぅ……重……。何が起きてんの?」


「お、ほんまに戻った」


 土の匂いが鼻に広がると同時に、ものすごい重いものを背中から感じて手足を動かすことができない。なんか網みたいのも被されてるし一体何がどうなってるやら……。


「Unbelievableしんじられません。本当に、こんなことで治せるとは、新発見、デス」


「自身の弱さへの怒りから、力を与えてくれる他者にすがることで天狗へと堕ちるというのなら、自分ではどうにもならないものへの怒りに転換する。でしたか? いやはやうまくいったようで結構!」


惟賢おじうえが説いてらっしゃった、自身の手に余ることなら阿弥陀如来にすがるべしという他力本願の思想も、天狗道に堕ちぬための仏教の教えなのかもしれないでありますね!」


「……しっかし、あんだけ暴れ散らかしてたのにすんなり収まるとか、どんだけ親父のこと嫌いなんだよ」


「あははー、そこはまあ他の全てに寛容になれるくらい、頼光にとっての絶対悪だから。その身で頼光の悪意を全部引き受けてくれてるんだから感謝感謝!」


 ……うっすらと思い出してきてるのは、普段よりもずっと素早く虎熊の周りを飛び回ってた記憶。さっきの頭の中がイーッ! ってなってた時に相当迷惑をかけちゃってたみたい。


 ぐー……と盛大にお腹がなる。そりゃあんだけ動き回ってたならお腹も減るよね。手をやると相当へこんでる……あれ? そういえば虎熊にやられて大きな穴空いてなかったっけ?


 多分、火車が治してくれたのね。そうなると今日回復できるのは後1回ってことになるし、虎熊のことを治してもらうとなればもうこれ以上の闘いはできないかな。あっちでは槍を杖のように使って体を支える虎熊を、仲間の鬼たちが心配して集まってるし。


「従姉上、正気に戻られたばかりでお疲れのところ申し訳ありません。ですが1つだけ断らせて頂きたいことがあるであります」


「ん? 何?」


 背中に乗ってた綱たちにどいてもらって、被された網を外してもらってると、おずおずといった風に致公くんが話しかけてくる。


「従姉上がお父上のことを嫌っていらっしゃるのは重々承知しているでありますが、お父上が今なお人として理性を保っておられるは、奥方様を失った悲しみや怒りより、残られた従姉上を愛し守り続ける気持ちが勝ったからこそ。そこだけは分かってあげて欲しいのであります」


 ………………………………いや、まあ…………それはそうかもしれないけどさ。実際あの時の光景の中でも血の涙を流して母上の死を悼んでる姿を見てるし、その気持ちよりも私に対する想いが強いってのは分かったけど…………正直、やられてる方はたまったもんじゃないわけで。そう簡単に割り切れない思いに頭をかいてると横から綱が言葉をはさむ。


「あははー、なにそれ? 根本にあるのは愛情だから許してやれって? さっきの頼光の姿見てたのによく言えるねー」


「はい、許せとは言ってないであります。満季ちちの言葉を借りるなら『清和の恥』というほど満仲様の従姉上に対する接し方は目に余るものがあるでありますし。ただ、満仲様はなにも従姉上に意地悪しようとしていたわけではなく、むしろ従姉上が大事だからこその行動であったと頭の片隅にでも入れておいていただければと」


 んーーーーーー……。まあ実際、不本意だけど親父のおかげで正気に戻れたってんなら少しくらいは……、ほんっとうに少しくらいは感謝してあげるかー……あ、お肉めちゃうま。


「よう、茶番は終わったか? それならさっさと続きといこうや。決着つけねえとお互い気持ち悪いだろ?」


 完全に終わったつもりでお肉をほおばってると、いかにも満身創痍といった感じの虎熊が声をかけてきた。こめかみに青筋は浮かんでてかなり頭にきてるのは見ればわかるけど、遠くに見える心配そうに顔を向ける鬼たちから続く一筋の線が、ここまで来る間に足なり槍なりを引きずってたのを物語ってる。


「えーと……決着をつけることはやぶさかじゃないんだけど、日を改めない? ほら、お互い闘える状況じゃなさそうだし?」


「ははははははは! 断る。今すぐ決着つけねえと頭が破裂しちまいそうでな」


 これだから戦闘狂は……。仕方ないこれ以上のお肉は一旦お預けにするしかないじゃない。ただ、私もなんだかんだで体力切れ近いし、決着はもはや目の前ってとこね。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【虎熊童子】――大江山首領。虎柄のコートを羽織った槍使い。

【源満季】――清和源氏。源満仲の弟。

【源惟賢】――源高明の次男。出家し仏門に入った。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【緋緋色金】――西洋のオリハルコンと似た性質を持つ緋色の希少金属。硬い・軽い・熱に強いと武器や防具に最高の素材だが、それ故に加工が難しい。

*【天狗】――魔縁により第6天魔王の眷属となった人間の総称。

【他力本願】――それでも阿弥陀如来なら……。阿弥陀如来ならきっと何とかしてくれる……!! の精神。

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