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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
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【源頼光】大江山の戦い その12

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

――木のはぜる音と血の匂い。


 周りに焚かれた篝火にくべられた薪の音かと思ったけど、そうじゃないみたい。燃えてるのはどこかの屋敷……って、もしかしてウチ? いや、でもウチが燃えたことなんて1度だって――……。


「ヒャーハハハハハ!! あの黄金が大量にとれる陸奥で8年間も好き勝手やってきた奴の屋敷だ。どこかに隠してるはずの財産をすべて奪い尽くせ!!」


「ですが親繁ちかしげ様。どこにもそれらしいものはありやせんぜ?」


「バッカ野郎!! そんな簡単にわかるところに置いてあるわけねえだろうが! 分かんねえならそこらにいる使用人でもふん捕まえて口を割らせるんだよ!」


 いやいや、何言ってんのよこいつらは。ウチに控えてる連中は満季みつすえ叔父上が選りすぐった親父まんじゅう率いる武士団。全員が全員芯が通った精鋭よ? 部屋の外にいる連中も含めてざっと15,6人。武装も中途半端だしこんな連中じゃ秒殺される未来しか見えないっての。……ん? それ以前になんでこんな連中に好き勝手されてんだろ? おかしくない?


「この狼藉もの! ここをどこだと思っておる!」


 そんな時に響いたのは、もはや聞くことの叶わない優しくも凛とした声。病で亡くなった母上が華やかさとは程遠い身軽な感じの服装で刀を構える姿に、懐かしさから目頭が熱くなる。


「おお、丁度いいところに来やがったもんだ。そこの女、この家がたんまり貯めこんでるはずの財産はどこだ? 大人しく教えれば命だけは助けてやるぜ?」


「笑止な。ありもしない財産に目がくらみ、他人の家に押し入り火まで放ったというのですか。これだけ目立つことをすれば検非違使けびいしがやって来るのも時間の問題、私が打ち据え引き渡すと致しましょう」


 親繁と呼ばれた主犯と思しき男はあからさまに肩をすくめ、手下と一緒に母上をあざける。そして号令を下し1人の手下が飛び出すも、母上に一刀のもとに切り伏せられた。


「安心せよ、殺しはせぬ。朝廷により正式な裁きを待つのだな」


 峰打ちで肩を砕かれた男を一瞥したあと、続けざまに2人3人と切り捨て、瞬く間に強盗たちの人数は半数以下になった。


「……なんだ、なんなんだこの女は! この家の主はクソ情けねえ青瓢箪の満仲だろうが!」


「不快だな。主人は確かに武芸にこそ疎いが、この末法の世界にあって誰よりも愛情深く優しいお方。貴様らの如き不埒者に蔑まれる謂れはないッ!!!」


「クソがッ……!!」


 母上に気圧されて腰が引ける強盗たち。どうあがいても母上の勝ちは揺るがない。それなのに……そのはずなのになんでか私の胸の奥は得も言われぬ焦燥感に支配されてく。


「……だめ、来ちゃだめ」


 そうだ―――このあとどうなるかを私は知ってる。だから私の口からは部屋に入ってくる人物を止める言葉が自然と漏れた。


「母上ー……母上ー……どこにおられるのですかー……?」


 隣室から顔を出したのは1人の少女。母上から命じられた女中によって外に避難させられたにもかかわらず、母上がいないことに不安になって燃え盛る屋敷に戻った愚か者――子供の私。


 一気に蒼白になった母上の顔色を見た親繁は、母上よりも早く私を捕らえると、手に持つ刀を私の首に突きつける。


「おおっと、こいつはお前のガキかあ~? ぎゃははははは! こいつはついてるぜ」


「ぐッ……下衆が……!!」


 私を人質に取られ動揺する母上。完全に意識が私と親繁に持っていかれたのか、後ろでさっき打ち据えた手下の1人が立ち上がるのに気が付かない。


 その手下は背後から母上のことを袈裟斬りにして飛び散った血が床と天井を赤く染める。倒れてもなお刀を突きたてる光景を見た子供の私は、親繁の手を振り払い母上のもとに駆け寄る。


 私の頬に伸びる弱弱しい力の母上の手を握る。炎に包まれてる状況なのにどんどん冷たくなる母上の手。生まれて初めて立ち会う死の瞬間、男どもの下卑た笑いによって包まれたそれは私の心に冷たくどす黒い不快感を埋め込んだ。


――許せない。


――許せない。許せない。許せない。


――何を? 母上を殺したこの男たち?


――否! 何も考えずに行動して、母上の足を引っ張り、何よりもこの程度の男にすら何もできなかった自分自身の弱さ!!


『そうだ。己の弱さを呪え。力を欲しろ。今、我の手を取らねばお前は再び同じ後悔をする』


 そうだ今まさに私がやられたせいで命の危険に晒されてる仲間たちがいる。


『我を受け入れよ。さすればお前は誰よりも強くなる。そう、あの男のように――』


頼子よりこ! 頼光!!」


 部屋に飛び込んできたのは昔の親父まんじゅう。今とは比べ物にならないほど薄い体つきで刀を握り、震えながらも賊どもを睨みつける。


「これはこれは多田源氏の満仲殿じゃありませんかあ? なーに、さんざん陸奥守として赴任してるときに儲けなさったんでしょうし、すこしは我々にも分けてもらえないかと思いましてなあ」


「貴公は醍醐源氏の……!? まさかそれだけのために邸宅に押し入って狼藉を働いたと言うのか? 私の妻と娘を、傷つけたというのか!?」


 親父の問いかけに親繁と呼ばれた男が噴き出すと、周りを取り巻く男どもも腹を抱えて笑い出す。


「だったらなんだ? 大人しく出すもん出しときゃこんな目に合わなかったのに、馬鹿な選択を取ったのはお前の家族だろ? 今の源氏はこのオレの伯父・高明たかあきらの時代。その一族であるオレに逆らえばどうなるか、赤子でもわかるだろうになあ?」


「親繁えええええええ!!」


 斬りかかった親父の斬撃はあっさり親繁の刀に阻まれ、取り巻きたちの刀が降り降ろされると親父は床に倒れる。


「ぎゃはははははは! 馬鹿が、てめえみてえな雑魚がよくもまあオレたちに喧嘩売れたもんだ。ま、やっちまったもんは仕方ねえ。伯父上にこいつの死体の処分も頼まねえとなあ!」


 今この状況をただ見てるだけしかできない自分自身への怒りが収まらない。母上を抱きしめる子供の私も確か同じことを考えてたはず。あの時もこの声がずっと聞こえてた気がする。


「ああ、あとはこいつか。両親を殺されて1人生きるのもつれえだろ? 心優しいオレが両親のもとに送ってやるかあ。ぎゃははははははは!!」


 悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい。


 私にもっと力があれば、私がもっと強ければ、こんな奴ら切り伏せて母上が死ぬこともなかったというのに! なんで私はこんなにも無力だったのか!


「――――寄こせ……!!! 力を、私に……! ――我にぃぃぃ力をぉぉぉ寄ぉぉぉこせぇぇぇッッッ!!!!」


 その時倒れてた親父が叫んだ。親父もまた母上をむざむざ殺された自分が許せなかったに違いない。急に叫んだ親父に、親繁は1度驚いて体を震わせるが手下に向かって顎でしゃくり指示を出す。


 ぱきぃぃぃぃん、と振り下ろされた刀が音を立てて折れる。驚いた手下の前にゆっくりと親父が立ち上がり、握ったこぶしを手下に叩きこんだ。


「はぁぁああああああああああああ!?!?!?!?」


 断末魔の悲鳴すら上げることは許されず、手下の頭は現世から消滅してた。150㎝程度しかなかった身長は190㎝を超え、腕の太さは先ほどの胴回りに近いほど筋肉の厚みで覆われる。半狂乱になるのも仕方ない。


「頼光をぉぉぉ、殺すとぉぉぉ、言ったかぁぁぁ? そんなことぉぉぉ、我が許すとぉぉぉ、思うかあぁぁぁぁぁぁ!?」


「な、な、な、何をしている! 殺せ! 満仲を殺せ!!!!」


 各々が手にした武器を親父に叩きつけるけど、そのすべてが鋼の肉体を傷つけるどころか逆に無情にも砕け散る。驚いてるところに軽く振られた剛腕により頭がこの世から消滅する手下でもの姿を見た親繁はその場にへたり込み、床を小便で濡らす。


「お、お、お、お、お許しください!! お、オレ、いや、私がすべて悪うございました!! なにとぞ、なにとぞ命だけは!!」


 親父は慌てて額を地面にこすりつけて懇願する親繁の頭を片手でつかみ上げると、何のためらいもなくそれを握り潰す。


「高明ぁぁぁぁぁぁッッッ!!! 貴様だけはぁぁぁ、貴様だけは絶対にぃぃぃ許してぇぇぇおかぬぞぉぉぉッッッ!!!」


 頭を失った親繁の体を踏み砕いて親父が吼える。その一部始終を見守った子供の私は気を失い、後から駆け込んできた満季叔父上によって保護された。



『この時は途中で気を失い、そして哀れにも記憶とともに怒りも封じ込められた。そのせいでお前は今なお弱いままで、再び大切なものを失おうとしている。さあ、我の手を取るがいい。我が力を受け入れるのだ』


―――そうだ。母上のようなことが再びあっちゃいけない。私が強くなれば、私が強くなれば誰も死なずに済むのなら、ここで誘いを断る選択肢なんてない!!


 私は人型の影に手を伸ばすと、それは私の体を飲み込むように包み込み、そして私は意識を失った。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

*【源頼子】――頼光の母。武芸に優れるが、押し入った強盗に頼光を人質にされて殺される。

【源満仲】――頼光の父。平安4強の1人にして最強。謎の声に応え人間を辞めた。

親繁王ちかしげのおおきみ】――醍醐源氏。源高明の甥。源満仲邸襲撃の主犯。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【通力芯】――気力や魔力といったものを通すため人体に張り巡らされたパス。パスが通じてる者を芯が通ってると呼ぶ。

【検非違使】――平安京の治安維持に従事する役人。当時の警察みたいなもの。


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