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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
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【源頼光】大江山の戦い その11

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

 真っ暗な夜空が目に映る。さっきまで虎熊と闘ってたはずなのに、なんで私こんなにのんびりしてるんだっけ?


「えーと確か……虎熊と闘っててー……このままじゃ体力持たないから手を打たないとってなって……」


 うーん、いまいち何があったか思い出せないんだけど、少なくともこんなとこで寝てる状況じゃなかったような? ならまずは早く起き上がって―――……?


 体を起こそうと地面を押そうとしたら何も感じない。てゆーうかなんかふわふわして違和感すごい。ぐりんと体をうつぶせに半回転すると、下の方で綱たちが虎熊と闘ってる!? ちょ、ちょっと待って。いま私空に浮かんでる?


 ……よし、まずは落ち着こう。まずは状況の整理から。虎熊相手に闘ってるのは綱と保昌殿、酒呑の3人。その少し後ろには丑御前が斧を構えて立ってて、守られるように火車と茨木ちゃんと致公くんが何かやってる。そこに血まみれになってる初めて見るような、よく知ってるようなそんな人間が―――。


「!?!?!? え、待って。あれって私!? ちょちょちょちょ、ちょっと待って。え。私ここにいるのにどうなってるの!? 確かあの後、靴を投げて虎熊の気を引いて、その死角から――……」


 ようやく少しずつ記憶が甦ってくる。そうだあの時、奇襲に失敗して槍で貫かれた後地面に叩きつけられて……うっわ、槍で突かれたとこ無くなってるじゃん。穴空いてるじゃん。すると今火車たちが集まってるのって私のこと治そうとしてくれてる?


 今地上で起きてることを俯瞰で捉えつつ、なんとなく誤魔化しがきかない事実が頭をよぎる。結構時間が経ってそうなのに火車が治せてないことから浮かび上がる、目を背けたくなる事実。


――あれ、もしかして私、死んだ?


 体が地面に転がってるし、今の私は魂? みたいなもののはずなのに喉の奥から何かがこみあげてくる感覚にえずくものの、当然何も出てこない。


 それはそうと、ならなんで綱たちが虎熊と闘ってるのよ。大将どうしで闘って、私が死んだならそこで終わりじゃないの? うまいこと3人でお互いを補助しながら戦ってるから今のとこ危なげないけど、虎熊の強さを考えたらほんの少しのひずみから一気にみんな殺される可能性だってある。さっさと引き上げてくれればいいのに。


 なんでこんな状況で私は動けないのよ。みんなを危険にさらしてる自分の不甲斐なさと非力さに心底腹が立つ! 結局()()私が弱いせいで、大切な人が死ぬことになるなんて()()()()耐えられな――――。


「――痛ッ!!?」


 何……これ。もう体がなくなってるのに……頭が割れるように……。


『思い出せお前の弱さが招いた悲劇を。受け入れろ我が力を』


 急に背中から気配を感じて振り向いた私の顔を鷲掴みにする黒い人影。占い師さんのとこでみたアレみたいな感じだけど、もっと禍々しい何か。


『力を欲しろ。お前が望むなら、我は喜んで力をくれてやる』


「……冗談でしょ。なんであんたみたいなわけわかんない奴の言うこと聞かなきゃいけないのよ。あんまり初めて会う相手を信用するなって、最近綱から真面目な感じで注意されてるのよね」


『会うのは初めてではない』


 影はそう言うと、私の顔を掴む腕に力がこめられる。


『―――――――――――』


 なにやら訳の分からない呪文が聞こえると、私の頭の中がぐにゃりと歪み、私の意識は遠のいていった。



「!?」


「ご主人! やっぱりだめだ。あっしじゃこいつとうまくやれる気しねえよ! 朱雀の姐さん、絶対面倒ごとをあっしに押し付けただけだろ!」


「えー、そないこと言わんと仲ようやろうやないか大裳たいも。ん? なんやお嬢、そないむつかしい顔して?」


 巨大なスライムのようなものに押しつぶされてる大裳を気に留めず、安倍晴明は北西の空を見上げる。星を散りばめた空。蒸し暑い夜にいい塩梅の風も流れ、とても気持ちのいい夜のはずなのに、とても気持ちの悪い感覚に晴明は居住まいをただす。


「ご主人?」


 スライムに押しつぶされた忠犬が遅ればせながら不安そうに晴明に視線を向けると、それに答えるように説明を始める。


「10年ほど前、私は源満季(みつすえ)殿に請われ、源頼光殿の記憶に封印をかけました。その封印が、たった今解かれました」


「ああ、なんやえろう大変な事件に巻き込まれたちゅうあれか。思い出しとうないもん思い出させられるんは難儀やなあ」


「いえ……それも確かに不憫なことではありますけど……。青竜様、ことの次第によっては、みやこが危機にさらされることになるかもしれません」


 晴明は1度大きく息を吐き、真剣な目で言葉を続ける。


「あの事件により源満仲殿は物の怪と化しました。頼光殿に封印をかけたのは、満季殿が満仲殿の娘まで物の怪と化すことを防ぎたいという想いがあったからこそ。その封印が解かれたということは――」


「ちょ、待ってくれご主人! 頼光って……あれだろ!? あっしのことボコボコにした源氏の女の可能性が高いっていうあいつだろ!? すでにやばい感じだったてえのに、あれ以上やばくなりそうだってのかい!?」


「はい。あなたの話を聞いた時、私は頼光殿の封印は知らぬ間に解かれており、すでに外法の力に目覚めていた可能性を考えていたのですが――そうではなかったようです。騰虵とうしゃ様か朱雀様がおられれば様子を見に行っていただきたいところですが……」


 もともと頼光に興味を持っていた12天将最強の2柱がいないことを歯がゆく思いながら再び北西の空を見る。4凶が暗躍し始めたばかりで何かと忙しい晴明に出来ることは、ただただ悪いことが起こらないよう願うばかりだった。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【虎熊童子】――大江山首領。虎柄のコートを羽織った槍使い。

【安倍晴明】――藤原道長配下の陰陽師。狐耳1尾の少女の姿。

【大裳】――12天将の1柱。安倍晴明直属。陰ながら京の治安維持を務める。

【青竜】――12天将の1柱。スライム状の何か。

【朱雀】――12天将の1柱。真紅の道着の仙人。年寄りじみた話し方をする。

【騰虵】――12天将の1柱。角が生えたマッチョウーマン。

【源満季】――清和源氏。源満仲の弟。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【4凶】――世界をめちゃくちゃにしたとして、指名手配中の大戦犯。鴻鈞道人(混沌)・陸圧道人(アラクシュミ)・スクルド・檮杌の4柱を指す。

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