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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
62/211

【虎熊童子】大江山の戦い その10

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


2025/8/14 修正

 ・一部加筆

 ・誤字修正


「ふざっけんな臆病な人間がああああ!!」


「さっさと出てこい卑怯者!! せっかくの名勝負に水を差しおってええええ!!」


 観戦してた手下どもが大声で喚き散らして、戦場は怒号で包まれる。怒り狂った1柱があいつが姿を消した草かげに向かって金棒を投げつけるがすでにその場にはいない。


 おいおいマジかよ。とにかくハエのように飛び回って動きがうるさい奴だと思ったが、こういう戦闘もできるのかあの野郎。奇襲のやり方教えてやるって言ったが、この潜伏の技量は俺様とタメを張るぞ。


 いや……違うな。丑御前の目ん玉キラキラさせて口を大きく開けたあのツラ、あれはすげえと思ってる相手が自分の知らねえ1面を見せたって感じか。すでに知ってることなら、「俺はすでに知ってたし」みてえなドヤ顔かます奴だからな。


「さっきの俺様の動きを見ただけで完璧に真似やがった、ってわけか? ……天才が、ムカつくぜ」


 狩りの動きを会得するため俺様がどれだけ努力してきたと思ってやがる。運動能力でどうにかできるものなら真似されても大して驚かねえが、感覚的なとこを瞬時に覚えられるのはずりいだろ。


 しかし、こいつはなかなか厄介だな。あいつの速さを考えるとどこから仕掛けても一足飛びで飛び込める距離。加えてこの周囲が熱くなりすぎてる状況も、あいつの気配を探るのを邪魔しやがる。安全を取るなら手近な草を刈り取って視界を広げるのがいいんだろが、その隙をついてくる可能性も高いとなりゃ、うかつに動くことすらできやしねえ。


 暑さからくるものじゃねえ汗を背中に感じつつ、槍を構える。こっちもさっきのあいつの動きを真似るつもりでやりゃあいい。あいつは俺様が伏せてることを知らねえのに防いだんだ、あれよか難易度は低い。俺様にできねえわけがねえ。


「上等。いつでも来な」


 長い長い時間の感覚。それは10分か1時間か、それともほんの1分程度しかたってねえのか。なかなか仕掛けてこねえことに1つの疑念がわいてくる。


 ――あいつ、まさか仕掛ける間を図ってるんじゃなくて疲労の回復を図ってるんじゃねえだろうな?


 かなり疲れてんのは見て取れたし、あいつの性質上動けなくなる前に決めに来ると思ってたが、その可能性も捨てきれない。もし1時的に逃げを打ってでも、その判断ができるなら厄介なことこの上ねえ。みすみす休ませてるのも馬鹿馬鹿しいし少しは探してみるべきか?


 そう考えて1歩踏み出した瞬間、左後方から草の音とともに高速でこっちに向かって何かが飛び出した。


「ここでか! だが甘えッ!!」


 向き直るのは間に合わねえ! 槍を左手1本に持ち替え音のした方向を薙ぎ払う。金属のぶつかり合う音とともに左手に伝わる感触、それがあまりにも軽すぎる!


「靴!? 陽動か!!」


 視覚内にあいつの姿はなし! これが陽動ならば槍を振るうのに最も難しいところから来るはずッ!!


 右に視線をやると飛び上がって抜刀の体制に入った奴の姿。ここから強引に槍を戻したところで間に合わねえ。


 ――――だが!!


「!? うそッ!?」


 金属の砕ける音が大江山に響く。俺様の右肘と膝で思い切り挟み込んだ刀は砕け散り、奴の体が空中で制止する。


知彼知己かをしらずおのれをしれば百戰不殆ひゃくせんあやうからず不知彼而知己かをしらずしておのれをしれば一勝一負いっしょういっぱいす不知彼不知己かをしらずおのれをしらざれば毎戰必殆たたかうごとにかならずあやうし。孫氏の言葉にはねえが、今回のテメエの敗因は俺様の強さは分かってても、テメエ自身のことを何も知らなかったことだ!!」


 右手を伸ばして掴みかかろうとするが、それは辛うじていなされる。


 ――だが、本命は掴みじゃねえ。右手の親指と人差し指の間に奴の姿を捕捉しつつ、上半身のばねを使って槍を持つ左手を弓のように引き絞りつつ、槍に回転を加える。


「喰らえ! 虎吼裂空牙ッッッ!!!」


 投げ出された槍が奴の右わき腹に深々と突き刺さり血の雨が降る。だがこれで終わりじゃねえ、真ん中あたりを握ってた左手を握り返し、石突を掴むと奴の突き刺さったままの槍を地面に叩きつける。


 その衝撃で槍から抜けた奴はそのまま勢いよく地面を転がり、仲間たちのところまで吹っ飛んだ。そして1度ゴボッと血を吐き出すと動かなくなる。ま、へその右側が全部消し飛んでんだ生きていられるわけがねえわな。


「陽動に使われたのが刀で、本気の蹴りで飛んでこられたら正直危なかったぜ? だけどテメエはあまりにも刀を振るう技術を軽く見すぎたんだよ。その速さでごり押しして勝てて来ちまった結果だろうが、刀を振るう度にもたつくのはいただけねえや。せいぜい黄泉の世界で後悔してくれや」


 とはいえ、なかなかに歯ごたえのある奴だった。吹っ飛んだ時に少し傷めてるかもしれねえが、頭蓋骨を戦利品として回収して飾っておくとするのも一興。


 死体のしるしを頂こうと近づくと、奴の仲間たちが得物を持って俺様の前に立ちはだかった。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【虎熊童子】――大江山首領。虎柄のコートを羽織った槍使い。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【知彼知己、百戰不殆。不知彼而知己、一勝一負。不知彼不知己、毎戰必殆】――孫氏の兵法・謀攻篇の一節。戦争において敵味方の戦力分析がしっかりできてれば危機的状況に陥ることはない。味方の戦力をしっかり把握できてても敵の分析を怠ればどっちに転ぶかわからない。敵味方の分析がどっちもお粗末ならやべえことになる。要するにマジで戦力分析はしっかりやれ、という意味(意訳)。

*【虎吼裂空牙】――虎熊童子の必殺技。イメージ的には牙突・零式モーションからのブラッディースクライド。貫通力のある投擲スキルだが、相手が近くにいて手を離した槍を握りなおせる場合は確定クリティカルの追撃技に移行可能。ただしその場合は、高速回転する槍を握ることになるので自傷ダメージあり。

【黄泉の世界】――あの世。

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