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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
60/210

【源頼光】大江山の戦い その8

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


2025/8/14 修正

 ・一部加筆

 ・誤字修正

「全員やられた……ってわけじゃあねえが、ちび――いや、丑御前か。あいつの周りにいるのは戦う気が失せてる様みてえだな」


 ずっと黙って戦局を眺めてた虎熊がゆっくりと立ち上がる。


「――お互い死者はなし。たっくよお、なんとも言えねえ状況だな。自分の命を懸けてでも敵の命を取ろうっていう気概のやつはいねえのか? ……とはいえ前座は終わりだ。あとは大将どうしで決着と行こうじゃねえか」


 独り言……ではあるんだろうけど、私に向かって語りかけてる気もする。50mは離れててそんなに大きな声を出してないのにはっきり聞こえる声。


「茨木ちゃん、ちょっとこれ預かっててくれる?」


「また脱ぐんか……。摂津戻ったらスパッツやなくてピッチリした感じの服見繕ってもろたら?」


「これでも別に支障ないんだけどなあ」


 袴を脱いで茨木ちゃんに渡して、道満さまと氷沙瑪ひさめを相手にしたときと同じ上はさらしで下はスパッツという姿になる。本気の戦いだとこの姿ってのが平常になりつつあるけど、茨木ちゃん的には随分とはしたなく映るらしい。まあ実際はしたないんだけど、ひらひらした衣装は動きづらいし、虎熊の槍がひっかかったら下手すりゃ死ぬし。


 左手に血吸ちすいの鞘を握り1歩前に出たとき、後ろから酒呑が声をかけてきた。


「頼光気をつけろよ。死人が出てなくて心底ほっとしてるみてえだが、捨て身でもいいからこっちの1人でも倒そうとしなかったことにムカついてるのも本心だ。ガチで殺すつもりで来るぞ」


「んー、そりゃまあそうでしょ。このご時世、相手の命を心配するほうが珍しいと思うし」


 酒呑の忠告を背中で聞きつつ歩を進め、お互いの距離が10mくらいになったところで止まる。


「人なんて対して強くねえ上、たったの数十年しか生きられねえ。それなのにほんの数年努力するだけで鬼を超えるほど強くなったり、定命を覆す化け物も出てきやがる。俺様が今の力を得るために費やした時間を考えれば、その成長力は本気でうらやましい限りだぜ」


「うらやましい? 大体の人間からしたら生まれ持って力があふれてる鬼のほうがうらやましいと思うけど?」


 親父まんじゅう――……は、まあ別枠として、貞光みたいな力自慢でもここにいる鬼たちの中じゃ中の上とかそれくらい。私の全速と全体重を合わせた膝蹴りを軽く受け止めた虎熊とか、私の腕を握りつぶした道満さまみたいな真似は絶対できないと思う。


「ま、お互い無いものねだりしてるだけだかんな。おいデブ! 暇ならこいつを預かってろ!」


 虎熊は着ていた虎柄の外套を脱ぐと、さっき丑御前にのされた大きな鬼に向かって放り投げる。受け取ろうと手を伸ばした鬼はその巨体を大きくのけぞらせ、背中から地面に転がり土煙を起こした。


「えー……」


 なんかさっきまで丑御前を囲んでワイワイ楽しそうにやってた連中が、ものすごくざわついてる。いやまあ無理もないけどさ……鬼が3柱がかりで持ち上げてる外套って何? 何の素材でできてるの?


 外套を脱いだ虎熊の姿を改めて見る。身長は190㎝くらいで肌は地黒。前髪は黄色く真ん中で分けてあり、後ろ髪は黒く私と同じように高い位置で紐で縛ってる。その前髪と後ろ髪の境目から2本肌と同じ色の角が伸びる。

 真っ暗な旗袍には金色の糸で虎と竹の刺繡が施され、胸にはこれも竹を模してるのか深い緑色の金属? で出来た節のある前掛けをしてる。袖はなく、そこから伸びる腕は、初めに接触したとき外套から覗いたのが見えた通り丑御前の3,4倍は太く引き締まってる。


 その鍛え上げられた肉体は、まさに長い時間の努力の結果作り上げられたものだろう。


「殷末期の戦争に巻き込まれた時は親父の判断で逃げるしかできなかったが、日ノ本にきて2000年、1日たりとも鍛錬を怠ったことはねえ。俺様の武、その身で存分に味わってくれや」


 数千年生きてるとは聞いてたけど、人間の一生を何十週もする期間鍛錬に費やしてきたと聞くと改めて頭が下がるというかなんというか……。


 その虎熊がどっしりと腰を落として構えると、周りからざわめきが消える。


 私が感じるこの重圧、周りの皆にも伝わってるようで何よりね。


「これは考えなしに飛び込んだらまずそ――――ッ!?」


 とっさに首を横に倒したものの、かすめた頬から血が噴き出す。いやいや、槍が届く距離じゃなかったでしょ……って、いつのまにか距離が詰められてる!? さっきの奇襲もそうだけど、とことん気配ってものを感じさせないわねこいつ! とにかく初動が静かすぎて読み辛い!!


ッッッ!!」


 銅! 頭! 足! 一切のブレがなく一直線に伸びてくる槍の嵐の中、最小限の動くで躱しつつ反撃の機会を待つも、突く動作も速けりゃ引く動作も速い。避けきれずにかすめた体に少しずつ傷が増えてく。


 ――綱みたいに背中を守りながら低い位置から飛び込む? ……いや、視界を狭めるのは悪手だし、あの腕力で槍を振り下ろされたら間違いなく潰れる。


 ――ここはやっぱり1度飛び上がっての急降下……も、さっきの丑御前の動き見てたら警戒されてるかもしれないし、何より方向転換が難しい。


「オラオラオラオラオラオラ!! ボーっとしてたらすぐ死ぬぞ!!」


 ずっと静かに攻撃してきてたのが急に大声を出され、反応が遅れる。辛うじて鞘で穂先を受け止めるも、大きく後ろに吹っ飛ばされた。その視界には獰猛に笑い体をかがめる虎熊の姿。


 ――なるほど、追撃態勢ってわけね。一か八かになるけど近づくだけでも難しかったところ。向こうから近づいてくれる今が好機でもある!


 足に力を込めて地面を踏み抜き、そのまま抜刀――――。


「って、来ないんかい!」


 完全に肩透かしをくらったけど、大きく距離が離れたことでようやく虎熊の猛攻が収まった。流れをわざわざ手放してくれたなら、その流れ逆に私が乗ろうじゃないの!


 いつでも抜けるよう血吸に手をかけながら、一足飛びに虎熊に迫る。こっちの動きに合わせたひと突きを右回りに回転して躱し、そのままの勢いで斬りかかる。


 しかし、素早く戻った槍がその回転の終わりを狙って再び突き出され―――


「何ッ!?」


 ここに来て初めて虎熊の表情かおに焦りが浮かぶ。その動きを読んで穂先を足裏で弾き、がら空きになったところにもう1回転からの斬撃――!!


「舐めるなあ!!」


 渾身の1撃は虎熊が回転させた槍の石突に弾かれる。無防備になった腹に繰り出された前蹴りも足裏で受け止めて、再び大きく距離が開いた時、私たちの闘いを見守る観衆から大歓声が上がった。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【虎熊童子】――大江山首領。虎柄のコートを羽織った槍使い。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【血吸】――頼光の愛刀。

【旗袍】――チャイナドレス。本来は満州人の衣装で、中国に入るのは清の時代以降。


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