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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
57/210

【丑御前】大江山の戦い その5

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


2025/8/14 修正

 ・一部加筆

 ・誤字修正


「うおらあああッ!! わっははははー! どうしたどうした、そんなんじゃ名を得て生まれ変わったオレのことは止められないぞー!」


 7? 8? もーよく分かんなくなっちまったけど、とにかくたくさんの鬼を空にぶっ飛ばしてやった! 1柱吹っ飛ばすたびに歓声が上がって、次はオレだとばかりに新しい挑戦者が名乗りを上げる。それを繰り返してきたらドシンと大きな音がして地面が揺れた。


「次はおでの番だど、ぢび」


「わっははははー! 出たなデブ。まあオレは一足先に高みに登っちまったからなー。もー2度とお前に勝ち目なんてないぞ!」


 身長はオレの倍以上――3mを超える巨体にとっぷりと張りのあるでかい腹。熊童子おっちゃんに次ぐデカさを持つそいつは、ところどころにトゲの生えたいつもの金棒を持って現れた。


 名前こそないけど、足の悪い星熊童子やおっとりとして喧嘩嫌いな熊童子より実力が上とされる、実質大江山の次席とされる鬼。オレも数えるくらいしか勝ったことないけど、なんか今となってはあれだ! もーこれっぽっちも負ける気がしないぞ!


「ちびじゃなくて丑御前だぞ! お前より強くてかっけえ鬼の名前くらい、しっかりと覚えろよな!」


「ぐふぐふぐふ。弱っぢい人間に負けてづげられだ名前。ぞんなんだだの恥なんだな。がっごわりーだらありゃぜんわな」


「人間が弱っちいってのは大体そうだけどよ、名前をつけてくれた姐御も一纏めに馬鹿にするってんなら容赦しないぞもー!」


 デブに飛びかかり勢い任せに大斧を振り下ろす! デブは片手で持った金棒でそれをあっさり受け止め、互いに足を止めて得物を交わすこと数十合、1度距離を取ってからもう1度飛ぶ。


 さっきよりも高く、頭から大上段に振り下ろされた1撃もあっさりと金棒で払われ、オレの体はデブの頭上を越えるように弧を描く。


「ぐふふ。なーにが名を得で生まれ変わっだだ。おめえどおでの差はなにひどづ変わら――――ッ!!」


 空中に投げ出されたオレは姐御よろしく持っていた得物を蹴ることで急降下。火車が言うカーフ・ブランディングってやつを仕掛けようとしたけど、急にデブが振り向くもんだから膝が後頭部じゃなくて顔面にめり込んだ。なーんか失敗したみたいでかっこわりー気もするけど……ま、細かいことはどうでもいいな!


 勢いそのままに地面にデブを叩きつけると、衝撃を受けてもまだ放しやしない金棒を握る右手首を踏みつけて金棒を奪う。


「どーだ。これがお前の言う弱っちい人間の技だぞ! オレらは武器を持って戦ったほうがずーっと強えけど、人間の中には武器を使わないほうがヤベー奴もいるんだ! 敗北の中でそれを学んだオレはお前なんかよりもーずーっと強えぞ!」


 身を起こそうとするデブの頭に金棒を振り下ろすと、山全体に響くようなグワーンという音とともに血を吹き出したデブが地面に倒れる。周りが静まり返る中、デブが気を失ってるのを確認すると高々と右手を空へと突き上げた。すると一呼吸置いてオレを称える大喝采が起こる。


「おお、丑御前! 紛うことなき名持ちの勇者ッ!!」


「首領に次ぐ実力者を苦も無く打ち倒す真なる戦士!!」


「讃えよその名を! 新たなる英傑、丑御前ッ!!」


 っかーーーーー!! 気持ちいいぞ! さっきふっ飛ばしたやつも起き上がり、いつの間にか周りには広場に集まったうちの半数以上――30を超える鬼たちが丑御前の名を叫ぶ。


 姐御のためにもう一肌脱ごうかと遠くを見ると、なんか見たことない姿のやつが地面に大穴開けたり、手から火を吹いたりして暴れてる。んー? 姿は違うけどアレ、保昌って人間か? なんだよもー、あんなに強えやつだなんて全然気づかなかったぞ!


 1度手合わせしたいなとは思うけど、手伝いに行く必要は全く無いな! ならオレは素直に皆からの称賛を受け続けることにするぞ!

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【デブ】――大江山に住む鬼。虎熊童子に次ぐ実力者だが名前はない。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【カーフ・ブランディング】――テリーマンの必殺技として有名。この世界の中ではマヤー文化国の国技であるルチャの技の1つとして存在している。


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