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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
55/210

【源頼光】大江山の戦い その3

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


2025/8/14 修正

 ・一部加筆

 ・誤字修正

 山頂からの狙撃が止まり、大江山の麓に残った面々は今後について話し合っていた。


「なあ丑御前、実際のとこ虎熊童子に手紙渡して戦闘避けられる思う?」


「んー、まず無いな! 十中八九戦いになるぞ!」


「あははー、ということは確実に戦闘になるってことだねー。今更ではあるけど保昌たちはどうすんの? 播磨と関係ないわけだし命がけの戦いとなったら巻き込まれるだけ損だろー?」


「もちろん助太刀させてもらうよ。だが――それを回避するためにマドモアゼルが1人向かったのではないのかね? ムッシュは自分の主を信頼していないのかな?」


「あははははー! 十中一二で回避する手段があるなら、それをことごとく潰すだろうなって信頼はしてるよー。普通使者として行くなら、白旗でも振って敵じゃないと主張するとこを、そういうのガン無視で即射手を狙って攻撃するに決まってるじゃん! 頼光ならそーする。絶対にそーする」


「……容易に想像できるのがマジで困るぜ」


 山頂から身を隠せる位置で武器の手入れをする綱に倣い、酒呑も錫杖を軽く振って肩を温めていると頼光が戻ってきた。



「お待たせ。ここから少し登ったとこにある広場で全面対決ということになったわ――ってやる気満々ね……なんだかんだ皆も大概戦闘狂よね」


 もちろん戦闘になったときに備えてってことなんだろうけど、少し呆れる私に向かって皆からの冷たい視線が突き刺さる。


「……どうせ問答無用で射手しばいたったんちゃうん? ほんで相手怒らせたやろ?」


「あー、しばくのは無理だったのよねー。虎熊に止められなきゃいけたんだけど、ほんと強いわあの鬼」


「防がれただけでしっかり攻撃しとるやんけ!? ほんまそういうとこやぞ!?」


「あははー! 知ってたー!」


「コレダカラ頭源氏ハヨー」


 あれ、また幻聴かな。一瞬だけ聞こえたさっきと違い非難轟々でとどまることなしって感じだわ。


「いやいや、先に手を出してきたの向こうだし反撃は仕方ないでしょ!? 今回は私のせいじゃないって!」


「HAHAHA! 攻撃してきた相手に反撃するということは喧嘩を買ったということですよマドモワゼル。播磨に赴いたときマドモアゼル氷沙瑪ひさめはちゃんと話し合いに臨んだでしょう? 今は少数精鋭ゆえ敵を増やしたところで被害なく撃破できてしまっても、受領してから同じことをしては領民が迷惑を被るでしょうな!」


「むぐッ……」


「手こそ出さんかっただけで、めちゃくちゃ煽っとったけどな」


 口調はおちゃれけてるけどしっかりと言い聞かせるような保昌殿の言葉に何も言えない。私の手が届くところで何が起きるのなら解決できても、規模が大きくなればそうはいかないということね。仮にも摂津源氏を名乗って皆の思いを預かってる以上、感情のままに振る舞ってばかりじゃいけないと心に刻んでおかないと。


「――それより、頼光、足、怪我してる、デス?」


 火車に指摘されて視線を下げると、破れた袴から覗いた膝から血が出てる。


「ああ、さっきの膝蹴りのときね。痛みも引いたし、ほっとけば治るでしょ」


「ダメ、デス。治療する、デス」


 これから決闘なのに1日2~3回しか使えない治療を受けるのってどうなの? そう思って断ろうとしたけど、火車は私の肩を掴んで無理やり座らせると膝を水で洗い、猫精霊ケットシーさんたちから箱を受取る。


「あれ、それって茨木ちゃんが持ってたやつ?」


「マヤー文化国の、特産品、デス。1家に1つ、当たり前」


 中から取り出したのは道満さまと闘ったときに全身に塗った軟膏。それを傷口に塗るときれいな布で縛った。そりゃ医術を学んだって言ってたし、こういう普通の治療もできるわけよね。


「なあなあ姐御! その傷ってやっぱり虎熊童子にやられたのか!? 姐御から見ても強えか!?」


 治療を受けてる横から興味津々に尋ねられ、さっき出会った虎熊童子を思い出す。あの理不尽なまでの腕力に震え上がらせるような覇気。どれをとっても超一級品だったわね。ここで嘘をついてみんなが舐めた感じで進むのはまずいし、正直に答えるしか無いかな。


「勝てる気が一切しなかったわねー。親父まんじゅうと闘う時はいつも勝てそうなのに、ズルされて勝てないって気持ちを味わうけど、あそこまで闘う前から勝てそうもないって相手は初めてだわ」


「そっかー! 姐御でもそう思うかー! やっぱ強えよな!!」


「満仲さまよりも強いでありますか!?」


 親父のことをよく知る致公むねきみくんと、虎熊童子のことをよく知る丑御前。両者にとって最強と思ってる相手同士を比較して出した答えに、真逆の反応になる。というより親父のことを知ってる綱と保昌殿も結構衝撃を受けてるっぽい?


「まあ驚くのも無理はないけど、それでも道満さまの手紙が向こうの手にある以上、戦わないという選択肢はないわ。こんなお使いに失敗して陸奥守就任が遠のくのは絶対ダメ。必ず任務を果たすのよ!」


「うーん、私利私欲」


「責任感が強いと言ってよね」


 サラッと人聞きの悪いことを言う綱に抗議すると、綱の隣で茨木ちゃんが首をひねる。


「ん? 手が見渡せとるやん。任務完了ちゃうん?」


「字が読めないらしくて、奪い返してから読んであげることになった」


「えぇ……」


 若干引き気味の茨木ちゃんだったけど、そばにいた丑御前は今気づいたとばかりにポンと手を打つ。


「そういえば虎熊童子が何か読んでるとか見たこと無かったぞ! こうなるともう戦うしか無いな! 名前をもらってからの初戦、あいつらに新しいオレの凄さをじっくり見せつけてやるぞ!」


「当たり前のようにこっち側なんだなコイツ」


 数も向こうのほうが多いし、虎熊童子が想定以上に強いと来たとこに丑御前まであっちに付かれたらキツすぎる。こっちの味方でいてくれるのはほんと助かるわ。


「マドモアゼル、先程ムッシュ綱にも伝えましたが私も戦わせていただきますよ! どうぞ活躍にご期待ください!」


「そ、それがしも奮戦を誓うであります!!」


「でも――」


 私の右手を取りその甲に口づけをする保昌殿とぴょんぴょん跳ねる致公くん。そうは言ってもその見に何かあったら各方面に申し訳が立たないし……。


「致公はともかく保昌を外すのはありえない。頼光だって相当強いって感じてたじゃん?」


「そうだけど、私の勘だと綱よりも少し下って印象よ? 綱だって丑御前相手の模擬戦じゃボロボロだったし危険じゃない?」


 私の言葉に綱は「あははー、」といつものように笑って言葉を続ける。


「戦力として勘定するなら、その3倍くらい見積もっていいよ。保昌はボクじゃ―――嵯峨源氏じゃ絶対に勝てないインチキ野郎だよ」


「インチキって……真剣で斬っても、棍棒でぶん殴っても、武器が壊れるだけでピンピンしてるどこぞのくそ親父じゃあるまいし」


「ん? Dragonの話してる、デス?」


「うちの親父の話よ。鋼鉄の巨人だとかいう噂もあるんだっけか」


 どらごんってのは多分異国の妖怪なのかな? ちょっと本当のことを話すだけでも異国の人から見ても妖怪みたいなものと扱われるのは納得しか無い。


 保昌殿の何を持ってインチキと呼んでるのかは分からないけど、綱がそこまで言うのと何より保昌殿自身が積極的に力を貸してくれようとしてるのを無下にするのもどうかしらね。


 治療を終えて立ち上がり、改めて皆の方に向く。


「ともかく、ここで話してても仕方ないし行きましょう。丑御前、引き続き案内をお願いできる?」


「おう任せろ! 行くぞー、オレについて来ーい!」


 意気揚々と先頭に立った丑御前の後ろにつき山を登る。日は山に隠れ茜色に染まってた空は夜の帳が下りようとしてた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【虎熊童子】――大江山首領。虎柄のコートを羽織った槍使い。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【マヤー文化国】――火と文化ルチャの神・ケツァルコアトルによって生み出された国。現在のメキシコ一帯に広がる大国。ルチャによる怪我の治療を重ねた結果、医術が異常に発展している。

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