【源頼光】大江山の戦い その2
*人物紹介、用語説明は後書きを参照
*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています
――――止められた!?
遠くからあんなのをビュンビュン飛ばされたらたまらないから、射手をなんとかしなきゃと1人で突っ走ってきたけど、全体重を乗せた全速の膝蹴りは、横から差し込まれた槍の穂によって阻まれ私は宙に静止する。
「あそこからここまでこんな短時間で駆け抜けてきたってか。凄えな、速さだけなら間違いなく俺様より上だ。――が、流石に真正面から突っ込んでくるのは単純に奇襲が下手なのか、俺様を舐めてんのかどっちだ?」
背筋が寒くなり、とっさに槍の柄を両手ではたいて上に飛ぶ。その刹那、さっきまで膝の触れてた槍がギュルッっと空気を引き裂く音を轟かせ高速で回転した。
「その膝、きっちりぶっ壊してやるつもりだったのに良い反応するじゃねえか」
飛び上がって山頂を見下ろすと、そこは広く平らに均されてて、少し離れたところには屋敷が建ってる。しかもなんていうかそんじょそこらの貴族たちの屋敷なんて比較にもならないくらいバカでかい屋敷。数百柱と言われるここに住む鬼の全てがそこで暮らしてるのかも。
そんなことより今は着地する場所かな。さっきまで崖っぷちから弓を射掛けてきた星熊童子を狙った攻撃が阻まれ、私は今崖からはみ出てる。いや、このまま1度下に落ちてって姿を消すって方が有利な気がするけど、何ていうか……丑御前にかっこわりーと言われそうでなんか嫌。ならばこそ逆に1番かっけー場所に降りたくなるわけで……。
「………………何だテメエ、煽ってんのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……その……ノリ?」
空中で体を回転させて位置をずらし、降り立ったのはさっき繰り出された虎熊童子の槍の上。微動だにしない槍に突っ込み、膝が痺れたのをほぐす感じでブラブラしてるのがどうやら癇に障ってるご様子。左手1本で支えられた細い柄の上なのに、まるで大地に立ってるかのような安定感がこの虎熊ってのの腕力のおかしさを物語ってる。
丑御前も見た目だけなら茨木ちゃんとそう変わらないのに、あの細い腕から繰り出される破壊力を考えれば人と鬼とじゃ体の構造から違うのかも。その何倍もの腕の太さなら言わずもがなってね……。
さっきの槍ギュルンがいつとんでくるのか一挙手一投足に警戒してると、向こうも下手に動くのをためらってるのか互いに身動きが取れない。10分か20分か、それともまだ数秒に過ぎないのか、この場にいるだけで汗が着物を濡らす緊張感が続く中、ようやく虎熊が口を開いた。
「てっきりあのチビが人間捕まえてきたから飼いたいとか吐かすのかと思ってよお、捨ててこいって意味で愚弟に矢を射かけさせたわけだが――初めの1矢を防いだのはテメエだったな? あれか? 逆にあのチビを利用して攻めてきたって感じか?」
「チビってのは丑御前のことよね? あの娘に案内してもらったのは確かだけど、別に攻めるとかじゃなくて手紙を―――」
まだ話の途中だってのに虎熊の顔がほんの数日前、摂津の地下で見た鬼特有の笑顔に歪んでく。あの時は好きだと思ったのに重圧がまるで違う!
「……あいつはあんな形だが、この山に住む奴らを強さで並べたら片手で数えられる程度にゃ前に来る。そんな奴にビビるわけでもなく無かったはずの名で呼ぶのは、あのチビがテメエの実力を認め名を付けられるのを望んだってことか?」
本人も言ってたけど、丑御前は大江山の中で相当の実力者であることは間違いないみたい。ここに来るまでに武器有りでの模擬戦をしたけど、その時は素手で闘ったときに比べてずっと苦戦したし、綱に至っては3回闘って全敗。こんなのがゴロゴロしてたら、戦闘になったときどうしようもないからそこは一安心かな。
「そうね。あ、でもここに来たのはその丑御前に勝って調子に乗ってきたから、ってわけじゃなくて摂津守である芦屋道満さまから手紙を――――」
「はっ上等だ!! 買ったぜその喧嘩。いいな野郎ども!!」
虎熊が煽ると近くで様子をうかがってた数十柱の鬼たちが一斉に歓声を上げる。
「だーかーらー!! 手紙を渡しに来ただけだっての! これだから戦闘狂は……なんでも戦いに持ってこうとするんだから!!」
『お前もじゃい!』
「!?」
あれー……? 今確かに綱か酒呑か茨木ちゃんか分からないけど、ツッコまれた感じがするのよねー? まさか幻聴に苛まれるなんて私の内なる武士魂が、言動不一致は士道にあるまじきことと警告でもしてるような。
「んだあ? 急にビビりやがったのか?」
「まさか。それはともかく、何度も言ってるけど手紙を届けに来たのよ。これを果たせないことには始まらないから先に読んでくれない?」
均衡を保つため両腕を大きく広げ槍の上を歩き、虎熊に手紙を渡す。中を開いて一瞥すると、広げたまま近くの鬼に投げ渡した。
「ちょっと! ちゃんと読んだの!?」
「悪ぃな、学が無いもんで字が読めねんだわ。そんなわけだからやっぱり拳で語ろうぜ?」
「わーお」
まあこんな山の奥で暮らしてるわけだもんね。そもそもこの虎熊ってのは数千年生きてるとか聞くし、そんな長生きなら記録とか残すまでもなく口伝で十分って感じかも。
でもそれなら、私が代わりに読んであげればいいじゃん? そう思って手紙を受け取りに行こうとすると、足場が動いて崖から投げ飛ばされた。
「テメエらがいる場所から少し登れば広場がある。そこで俺様たちと闘り合って勝てたら、その時に読み上げてくれや」
笑いながら手を振る虎熊の姿を見つめながら、私は崖の上落ちていった。
【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)
【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。
【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。
【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。
【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。
*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。
【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。
【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。
【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。
【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。
【虎熊童子】――大江山首領。虎柄のコートを羽織った槍使い。
【星熊童子】――大江山に住む鬼。虎熊童子の弟で弓使い。
【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)




