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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
46/211

【源頼光】妹分

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

2025/3/31 修正

 ・一部加筆・修正

 ・段落の設定

「……はッ!?」


 気がつくと布団の中……え? 私さっきまで小鬼と戦って……。


「夢? 良かった。全身を痙攣させて死にかけてた小鬼はいなかったのね……」


「おったで? 火車が治したけど」


 急に声をかけられた事に驚いて横を見ると、文机に何かしらの書物を広げて勉強してる茨木ちゃんの姿。


「とりあえず目を覚ましてよかったわ。鬼が死にかけてるの見て回り見えなくなってたんやろけど、あの後すっ飛んできた道満さまの喧嘩蹴り食らって丸1日気絶しとったで」


「道満さまが……? なんで私を……?」


 ずきずきと痛む頭を抑えながら考えてみると、目の前には完全に崩れ去った建物―――……うん、心当たりあったわ。


「とりあえず皆を呼んでくるわ。頼光の傷も治してあるから痛みはないやろけど、そのまま寝とき」


 そう言い残して部屋を出る茨木ちゃんを見送り、闘いを振り返る。あの履物を履き始めて1ヶ月ほど。全力で動き回れて最高って気持ちしかなかったけど、直接相手を蹴るとどうなるかとかろくに検証もしてこなかったのは武士もののふとして怠慢だったんじゃないか。少し考えたらあの地下室の崩落だって原因は緋緋色金ヒヒイロカネだろうし、不殺を誓った以上は私の持つ手札がそれぞれどれだけ殺傷能力があるか知っておかないとダメね。


まずは血吸ちすい――親父まんじゅう、無傷。

次に履物――親父、無傷。

その他の手段――親父、無傷。


 ―――ダメだわ。親父を基準にすると何1つとして参考にならねー。とにかく石なり鉄なりを対象に攻撃してみるしかないか。そんな事を考えてると廊下から足音が近づいてくる。


「あははー、良かった良かった。やばい吹っ飛び方したから心配してたんだよねー」


「そりゃどうも。……痛みがないからやばさを認識できないんだけど、火車が治してくれたのかな」


 まずは1言お礼を言いたかったのに、綱に続いてぞろぞろと入ってくる面々の中に火車の姿がない。


「察しの通り疲れて寝てやがるよ。ついでに言うならいつ起きてもいいように簀巻すまきにされてっから、起きてもここには来ねえだろうけど」


「火車の扱い酷くない?」


 表情を読んだ酒呑の言葉に唯一無二といっていい能力を持つ相手にする取る態度かと思わなくもないけど、常にウチの1番偉い人を燃やそうとしてるからなー……。むしろもの凄く優しい処遇で済まされてる気もしないでもないのがほんと判断に迷うのよね。


「火車の治療技術ってやり方教われば誰でも出来るもんなんやろか? それとも火車がそっち方面で『芯が通っとる』から?」


「本人に聞かねえことには分かんねっすね。とはいえ主様が水を凍らせるのもそっすけど、その事象をどうやれば起こせるかってのを知らねえことには始まらねっす」


「んー、人の体がどう回復するかの仕組みを理解するってことやろか?」


「そっすそっす。マヤー文化国は全ての異国を比べてもダントツに医学が発展してる国っすからね。まぁその発展ってのも死体を解剖して知識を得てーって話らしいんで、よくあのどら猫が学べたなって話っすけど、書物だったりがあるのかも知れねっすね」


「保昌なら持ってたりしないのー? 異国かぶれの異名がなくよー?」


「残念ながら私のコレクションは西に偏っていてね。ローマン神聖国や唐国、ヒンディーアのものならあるのだが」


 なるほど。たしかに綱の高速接近とかは私でも普通に再現できるし、術もなんか修行積んだりなんかしたら使える人は使えるって話を聞いたし、火車のアレも他の人でも使えるかも知れないのか。1日2人が限度ってなると火車の負担はもちろん、大勢が1度に怪我する場合を考えると使える人多いと便利よねー。


『駄弁ってるのもいいが、目を覚ましたのなら大江山に向かってほしいのだがな。本来なら昨日のうちに発ってもらいたかった』


 いや、それは道満さまに気絶させられたからでーとか言ったらまた怒られそうね。っと道満さまの後ろに見えるのはなんとも気まずそうな顔してるけど、あの小鬼ね。


「無事で良かったわ。いやーなんかごめんね? 刀を放して武器無しでの勝負って感じ出したのに騙し討ちみたいになっちゃって」


「それは……オレだって角で攻撃してるしお互い様だぞ」


 布団から出てワシャワシャ青い癖っ毛を撫でると、唇を突き出してそっぽを向きつつもさっきのが尋常な勝負だったと認める小鬼。だからこそ気絶しちゃったのが悔しいって感じね。分かる分かる。


「そう言えば大江山に文を送るって何が書いてあるんです? 一応内容を聞いときたいんですけど」


「播磨の連中は右大臣と仲いいんだろ? だから物資とか送られねえように封鎖すんのよ。摂津はあたいがネズミ1匹通さねえけど、丹波に迂回されたらどうしようもねえのに丹波守は右大臣の配下で話はできねえ。だからこの小鬼との縁が出来たのを利用して、大江山の連中に迂回してきた物資輸送の連中が通ったら塞いでもらおうってこと」


「物資の大量輸送なら普通船やろ? 川から海に出れるちゅうのに陸路塞いで――――ああ、日高見ひたかみで海も塞ぐんか。でもそない派手にやったらなんか言われそうやけど?」


「それはこっちでやるんで心配いらねっす。綱に聞く限り西の備前と美作みまさかについても源氏が止めるってことっすし、北は山。完全封鎖ってことっす」


「あははー、封鎖して何する気か知らないけど、楽しくなってきたねー」


「はい! 叔父上たちは1度痛い目を見た方が良いであります!!」


 まあ道満さまたちが考えてることは理解できなくてもやることは決まってるし、皆やる気もある。ならすぐにでも動き出しましょうか。


 今回の大江山行きは鬼との戦闘も考えられるし、外交ごともあるってことで道満さまと氷沙瑪ひさめを除く全員で向かうことに決まったけど、そう言えば大切なこと忘れてたわね。


「あなたの名前なんだけどどうする? もし私に付けられるのがイヤじゃないなら、今ここで付けてあげたいんだけど」


 そっぽを向いてた小鬼がハッとしたような顔でこちらに向いたけど、視線を色んな場所に移したかと思えば苦渋に満ちた顔でうつむいた。


 うーん、さっきの闘いじゃ納得いかなかった感じかな。そう考えてると小鬼は下を向いたままぽつりぽつりと言葉を絞り出す。


「それは……オレとしては全然問題ないぞ。お前が強いのはもう十分分かってるし。……でも、あんな不甲斐ない、かっこわりー闘いしたのに名前もらう資格があるのか分からないぞ……」


「ああ、そういう……別に私だってあのまま掴まれたままだったら危なかったし、紙一重だったと思うけどなー。そんな強敵との激闘を他の人に自慢するのに相手の名前がないとか、それこそかっこつかないからさ。問題ないというなら私が最高の名前を付けてあげるわ!」


 不安が晴れたのか、ぱあっとギザギザの歯をむき出しにした特徴的な笑顔に変わった小鬼の目は期待で包まれる。これは下手な名前はつけられないという重圧がかかってくる。


「ちなみに大江山にいる鬼で名前があるのって何柱いるの?」


「首領の虎熊童子、その弟の星熊童子、前首領の熊童子の3柱だぞ! もおーーーー、ワクワクが止まらないぞ!!」


「ふむ……熊縛りというわけね……」


「いや、そんなんないやろ。……ないやんな?」


 茨木ちゃんの疑問に小鬼がはっきりないというのを聞き、逆に選択肢が広がって困る。熊に拘らないにしても何か動物の名前をつけたほうがいいのかな? 動物……動物……そういえばよくもーもー言ってるしあの突進、牛か? でも牛じゃかっこわりーとか言われそうだから、漢字は丑に変えたほういいかな。なら丑童子で決定……? いや女の子だから丑童女? なーんかしっくりこな――――……!


「丑御前!! うん、あんたの名前は丑御前よ!」


「あははー、それってもーもー言ってるから? 安直ー!」


「いやいや、特徴を捉えてていい名前でしょ!? 頼光よりみつって名前を用意してたけど、女だったから読み方だけかえて頼光らいこよりかは数段マシでしょ!」


「ああ、うん。それは親父にキレていいと思うわ」


 そうよ酒呑もっと言ってやれ。とはいいつつ付けられた本人が嫌がったら付け直した方が良いかな? 小鬼の方に目をやるとキラキラと目を輝かせて、私の首に腕を回すように抱きついてきた。


「丑御前! 丑御前ッ!!! かっけーー! 本当にかっけーいい名前だぞ!! 姐御の頼光らいこって名前もすげーかっけーぞ! 自信持て!!!」


 嬉しそうに私の首を軸にぐるぐる回る小鬼改め丑御前の満面の笑顔に、胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。なんか戦闘以外で褒められるとか喜ばれるってあんまり無いから、達成感ってのかな。


「ま、鬼に対しての名付けってのが凄え喜ばれるってのは外道丸こいつで知ってたけど、どえらい懐かれようだな。姐御か」


「それはそうだぞ! 人間に畏れられて付けられたのとは違って、オレのことを考えて考えて付けてくれたんだ! これはもう家族と言ってもいいだろ! 頼光はオレにとって大切な姐御だ!」


 回ってた体を掴んで床に下ろして髪を撫でると、丑御前は嬉しそうに目を閉じてされるがまま。


「よっし! それじゃちょっと大江山の虎熊童子に文を渡しに行きたいんだけど、案内してくれるかしら丑御前」


「ああ、任せろ! 大江山の1員として姐御たちを歓迎するぞ!」


 それから数時間後、火車が起きたのに合わせて私たちは門を出る。


 目指すは大江山、占い師さんに妖怪退治を勧められたとき真っ先に名前が上がった場所。あの時は戦力的に無理と言われた場所だけど、今の私たちならきっと大丈夫。


 丑御前おにの気性を考えればきっと荒事も起きるだろう。緊張とワクワクを感じつつ私たちは北に向かった。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【猫精霊】――火車に従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。

*【雄谷氷沙瑪】――芦屋道満の腹心。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【緋緋色金】――西洋のオリハルコンと似た性質を持つ緋色の希少金属。硬い・軽い・熱に強いと武器や防具に最高の素材だが、それ故に加工が難しい。

*【血吸】――頼光の愛刀。

*【マヤー文化国】――火と文化ルチャの神・ケツァルコアトルによって生み出された国。現在のメキシコ一帯に広がる大国。ルチャによる怪我の治療を重ねた結果、医術が異常に発展している。

*【日高見】――ガレオン船に近い形状の呪動船。大量の積荷を積めるのに加え、8門の呪砲を搭載する。

*【ローマン神聖国】――イベリア半島~黒海沿岸にまたがるヨーロッパの大国。

*【ヒンディーア】――インドの統一王朝。

*【唐国】――中国。

*【芯が通る】――通力芯という気力や魔力といったものを通すため人体に張り巡らされたパスが通ること。先天的に通ったものもいれば後天的に通るものもいる。後天的に通す場合、理想の自分を完璧な形でイメージすることで無理やり通す方法と、辛い修行の末に通す方法がある。


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