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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
45/211

【源頼光】小鬼粉砕

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

2025/3/31 修正

 ・一部加筆・修正

 ・段落の設定


 崩落する地下室から階段を駆け上がり庭に出たつなは、両手に抱えていた茨木童子と火車を地面に降ろして安堵の息を吐く。


「あははー、間一髪だったねー。全員無事で何よりー」


「いや、頼光おらへんのやけど。埋まっとるんちゃう?」


「ムッシュ綱。こうなることを予想したいた様だが、なぜマドモアゼルを止めなかった?」


「頼光ってさー、自分の知らないとこの分野は素直に聞くんだけど、自分の中の常識になってるとこは言っても無駄なんだよねー。壁を蹴ったら壊れるって体で覚えてもらった方が早いってー」


 源氏の闘技場は全面が緋緋色金という、その価値を知るものからしたら垂涎ものの舞台。当然そんじょそこらとは耐久力がまるで違っている。そこで戦い続けた頼光にとって、壁や天井は地面の延長であり壊れるという認識がない。


 屋敷を出て1ヶ月の頼光からしたら仕方ないものではあるが、付き添う綱からしたら不安の種だったもの。今回都合よく分からせる機会が来たと内心ほっとしたところがあった。


「頼光が覇成試合の場でしてたような動きをできる戦場って相当少ない。ってか他にあるかどうかも怪しいんだよねー。やたらと強者に出会うし、この認識のズレはいずれ致命的な失策に繋がるかも知れない。いやー、いい機会に恵まれてよかった良かったー」


「綱殿! それがしには今まさに致命的な失策をしでかしたものと思われるであります!」


 致公むねきみの心配する声に綱が声を出して笑うのと同時に、近くに座る氷沙瑪ひさめも鼻で笑う。


「大丈夫っすよ。頼光はなんていうか……元気っすから」


 呆れた様子の氷沙瑪の言葉に酒呑童子と茨木童子が同意とばかりに2度頷く。そんな摂津源氏たちの反応に半信半疑の致公の前で、地下の崩落により崩れた建物の瓦礫の一部が大きな音を崩れ、中から頼光が姿を現した。



「あーびっくりした……」


 私と小鬼のいたところにだけポッカリと空いた穴。降り注ぐ土砂や瓦礫を全て弾いたことで出来たそこから這い出し、建物の残骸をどかしてなんとか皆と合流できた。


 なのになんだろう? 保昌殿と致公くんはホッとした様子なのに、他の皆(特に氷沙瑪)はなんとも言えない顔でこっちを見てる。


「おーい頼光。後ろ見ろ、後ろ」


 氷沙瑪の言葉に振り向くと、ちょうどそこには瓦礫から飛び出して着地する小鬼の姿。


「そうだったわね。戦場が崩れたと言っても闘いが終わったわけじゃないもんね。それじゃ――続きと行こっか!!」


「わっははははははー! 上等だぞ! もーこっちのやる気も最高潮を超えちゃってるぞ!」


「建物がどうなってるのか見ろや。現実から逃げんな」


 ………………雑音を全てかき消して闘いに集中! あれだけ勢いよく石畳に叩きつけたってのにおでこからは血の1滴も流れてない。火車に治してもらう前は傷だらけだったし、酒呑の攻撃が通るなら怪我の1つもしててもおかしくないってのに。


「んもおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 さっきの返しに懲りたのか、物凄い咆哮を上げて地面すれすれを這うような突進! 低い位置からかち上げてきた右角を足裏で受けると、甲高い金属音と共に空高く飛ばされた。視界に入るキラキラと光る緋緋色金の破片にさっきの疑問は一瞬で氷解した。


「なるほど、鬼の角って凄いのね」


 着地の隙を狩るように再び翔んできた小鬼の振り降ろした右腕をギリギリで躱し右肩をぶつけると、その腕を掴んで背中から地面に叩きつける。


「がはッ!!」


「やっぱり、硬いのは角だけみたいね!」


 苦しそうに息を吐き出した小鬼に追撃の蹴りを入れるも転がって避けられる。


「甘いッ!!」


 転がった勢いで立ち上がろうと片膝立ちになったところを、その膝を駆け上がる形で飛び膝蹴りで正面から顎を撃ち抜く!


 ボキッッッ! と乾いた音が響き小鬼がもんどり打って転がるのを確認、まだまだ終わらせないわよ!

空中で前転することで推進力を生み、伸ばした足のふくらはぎ裏を小鬼の喉に叩き落とした!


Amazing(素晴らしい)!! お見事! ルチャドーラの誇り! ケツァルコアトルの化身、デス!!」


「なんだこのネコ娘。ついさっき小鬼の治療したばかりだし、疲れてるかと思いきやえれえ元気だな。まぁこれでさっきの怒りが有耶無耶になってくれりゃそれにこしたことねえけど」


「仕方ないニャ! キャスの第2の故郷マヤー文化国の国技たるルチャを想起させる闘いニャ。国民総ルチャドールというだけあってルチャを嫌いな人間などいないニャ、キャスも例外じゃなく!」


「……確かにウチもなんか熱くなるもんがあるな。頼光の動きは速すぎてあれやけど、人が見れる速さで派手な技を掛け合うのは興行としていけるんちゃうか?」


「あたいも現地に2度行ってそこで見たことあるけど、技のキレとかそこの熟練者よか上なのはなんなんだ……」


 周りから聞こえる称賛の声。勝負といったら命のやり取りであって、周りを喜ばせるものなんかじゃないのは分かってるけど……なんか、嬉しくなってくる! よっし、ならもう一丁!!


 ――そんな浮かれた気持ちが判断の誤り。単調になった攻撃に反応した小鬼は私の袴の裾を掴むと雄叫びを上げた!


「いつまでもおおおおおおお!! 調子に乗ってんじゃああああねえええええええええ!!!」


 立ち上がった小鬼に振り回され背中から地面に叩きつけられる! 酒呑より強いと言ってた力に振り回されたら脱出もままならない……なんとか頭だけは守らないと……!!


 ぶんぶんと振り回されて5度6度と地面に叩きつける衝撃に耐える……! 叩きつけられるたびに空気と一緒に血反吐も飛ぶけど、道満さまを相手にしたときの体を握りつぶされるよりかはだいぶマシ。しかも徐々に袴が破れてきてるし、あと少しで―――――


 袴から足に握り直されるのだけを警戒していた中、終わりは突然に訪れた。攻撃を焦ったのか、小鬼がさっき私が踏み台にした右膝が崩れて片膝立ちの状態になる。


「!! はあッ!!」


 緩んだ指先から袴を引き剥がして小鬼の両方の角を掴む。そこから振り子の要領で両足の裏で小鬼の鼻を蹴り上げる!!


「ッ痛――!!」


 小鬼の代わりに何故か声を上げた綱。気にしないで小鬼の方に目をやると、折れた鼻からドバドバと血を流しながら痙攣する姿。変わり果てた姿に全身の血が凍りついたかのような錯覚を受ける。


「え、なんで? 武器を持たない殴り合いなのに――――」


 ――ちょっと待って、そういう事なの? 親父まんじゅうとの覇成試合の勝利条件は『相手が確実に死んだ』と立会人が判断することだった。そして満頼と綱、2人の立会人が確実に死んだと判断したのは、私が何度も刀を振り下ろしたときじゃなく、天井を蹴った私が親父の後頭部を両足で蹴り飛ばしたとき。


 つまり私が持つ最強の武器は、血吸ちすいじゃなくてこの両足。底が緋緋色金で出来たこの履物だったってこと? 思えば膝から崩れ落ちたのも、この履物で思いっきり踏み抜いたときに膝が壊れたからなのかもしれない。考えれば日ノ本1硬い金属なんだから武器になるのは当然なのに、ただ全速で動き回れる履物って認識がこの武器の恐ろしさに気づくのを妨げてた。


「火車! 今すぐその娘を治してあげて!!」


 消え欠けてる命をつなぐため、私は慌てて叫んだ。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【猫精霊】――火車に従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。

*【雄谷氷沙瑪】――芦屋道満の腹心。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【名もなき小鬼】――大江山に住む鬼。名前はまだない。酒呑との戦闘後氷漬けにされていた。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【摂津源氏】――源氏の系統の1つ。現在所属7名、源頼光・渡辺綱・酒呑童子・茨木童子・火車・碓井貞光(暫定)・卜部季武(暫定)。

*【覇成死合】――源氏間で行われる最も神聖な格闘イベント。

*【緋緋色金】――西洋のオリハルコンと似た性質を持つ緋色の希少金属。硬い・軽い・熱に強いと武器や防具に最高の素材だが、それ故に加工が難しい。

【ルチャ】――プロレス。

【ルチャドール】――ルチャの競技者。女性はルチャドーラ。

*【ケツァルコアトル】――火とルチャを伝えた神。

*【血吸】――頼光の愛刀。

*【マヤー文化国】――火と文化ルチャの神・ケツァルコアトルによって生み出された国。現在のメキシコ一帯に広がる大国。ルチャによる怪我の治療を重ねた結果、医術が異常に発展している。

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