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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
44/211

【源頼光】小鬼との決闘

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

2025/3/17 修正

 ・一部加筆・修正

 ・段落の設定

「戦ってたとこに凄え量の水ぶっかけられたと思ったら、なんで火炙りになってんだよもーーー!! お前の妖術しわざかー!? 正々堂々勝負しろよ、もおおおーーーーッ!!」


「アー? オ前ッテ誰ノ事カナー? オレニハ外道丸ッテ名前ガアルンダヨナー。ドコゾノチビジャリト違ッテ」


「むきーーーーー!! もー許さねえ! 真正面からぶっ潰すぞ!!」


 ――混沌。現状を1言で表すならまさにコレ。外道丸って名前があるなら私たちにも教えておいてほしかった酒呑の相棒が小鬼とにらみ合うその反対側で、一応同じ1人の人間が火車にガン見されてるのに耐えかねて目を逸らしてる。


 端から見たら器用なことやってるわねーって感じだけど、ここは摂津源氏の長である私がこの場をまとめるしかない! ……いやね? そうでもしないと私の立場がね? 皆と気楽に言い合える感じでやっていきたい気持ちはあるけど、雑に扱われるのは少し寂しいというか、もう少し頼れる人間になりたい!


「横からごめんね? 実はあなたにお願いしたいことがあるんだけどいいかな? 私は源頼光っていうんだけど、あなたは?」


 酒呑から火車を引き取り、そのまま一歩前に出て小鬼に聞くと、ふふんと鼻で笑って高らかに答える。


「オレの名前? そんなのお前らがこの後すぐに呼ぶことになるぞ! オレの圧倒的な武に対する畏怖を込めてな! わっははははははー!」


「???? ……どういうこと?」


 いや、呼ぶことになるも何も、教えてもらってないのどうしろっていうのよ? どう反応したらいいか困ってると、後ろから酒呑が耳打ちしてくる。


「鬼には基本名前がないんだとよ。鬼にとって名前はその存在を恐れた人間からつけられるもので、それが鬼の社会での立場をあげる要素らしいぜ」


「ふーむ、要は茨木ちゃんみたいな感じか。でも案内人となってもらうなら名前ないと不便よね? 私が付けてあげちゃっていいのかな?」


「オ前ヨォ……ソウイウコトジャネエダロ……」


 外道丸が呆れた声を上げる中、小鬼もギザギザの歯を噛み締め地団駄を踏む。


「そうだぞ! 名前はそんな適当に付けるもんじゃないだろーー!! オレのことを怖がって怖がって、ああ、あいつが来る。あの鬼のなになにが来るって自然に呼び出すものだろ! もう! もう!」


 名前ってすごく大事。そう悔しそうに怒り散らす小鬼の姿から、子供の頃今は亡き母上から聞いた自分の名前の由来が思い出される。


 忘れもしない嵐の夜、庭の大木に雷が落ちたときに生まれたとかなんとかで、親父まんじゅうがこれは雷公の化身だとか大喜びして頼光らいこうとかいて【よりみつ】と名付けようとしたとか。


 ――んで女児だったことを知ったことで落胆した親父が、どうでも良くなって字はそのままに【らいこ】って読むようにしやがったとか。おかげで今まで何回男と間違えられてきたことか。そうだよね、名前ってすごい大事だよね? まぁ頼光って名前自体は嫌いじゃないけど、付けるまでの過程がほんと終わってるのよね。


 とにかく、鬼という種族の名前に対する並々ならない想いを、無神経に踏みにじっちゃったのはいけないことね。これは火車の神様を小馬鹿にした酒呑と同じくらいのやらかしだし反省しないと。そうなるとどうするべきか……!


「ごめんなさい、軽はずみの言葉で傷つけっちゃったわね。心から謝罪させてもらうと同時に1つ提案なんだけど、ここは1つ私と決闘しない?」


 もともとは相手から仕掛けられると思ってたことをこっちから提案する。


「………………え? なんで? そういう流れやったっけ?」


「さー? 話をするのが面倒になって、力で従えようってなったのかもねー」


 話が突拍子もなく聞こえたか、茨木ちゃんと綱が呆れた風のやりとりしてるし! 小鬼も口をポカンを開けて何言ってんだって感じだけど、私だってちゃんと考えての発言だし!


「そうじゃなくて! あなたが勝てば負けた私は畏怖を込めて名前を呼ぶだろうし、私が勝つなり引き分けたらあなたは私のこと好敵手と認められるんじゃない? そういう相手から名前つけられたらなんかこう……いい感じに受け止められない?」


「んーーーーー……。それは確かにいい考えなのかー? でもなー、人間なんて弱っちいし必ず勝つ決闘をするなんてカッコ悪い――――ぞ?」


 考え込んでるのか小鬼の動きが止まったところで、邪魔になりそうな呪動具をササッと片付けて氷沙瑪ひさめに渡す。その一部始終を見てた小鬼がたちまち笑顔に変わると、壁に寄ってた保昌殿右手が刀の柄に伸びて、茨木ちゃんと致公むねきみくんが「ひッ」と声を上げた。


「おい人間。弱っちいわけじゃなさそうだから気が変わったぞ。今更決闘辞めるって言っても、もう遅いからな!」


 皿のように見開いた目を爛々と輝かせ、ギザギザの歯をむき出しにして笑う様は周りの仲間たちからはしっかり畏怖の対象となってるみたいだし、十分誇っていいんじゃないかな?


「確かに周りにいない笑い方だし怖いかもね。でも、好戦的な感じで私は好きよ」


「あっはははははー! 満仲おっさんと……ていうか本気で戦ってるときに鏡見たらー? 歯の形以外は同じだよー」


「え、ほんと?」


 そうなると、周りを怖がらせちゃう可能性も大いにあるわけかー。これは少し意識して治したほうがいいのかしら? そんな事を考えてると目の前の小鬼が体の痣をさすりながら何かを探してる。そう言えば斧を使うとかなんとか言ってたっけ。


「綱、血吸これ持っててもらっていい? 火車は死体を燃やすことと一緒に神様から託された、生きてるものが全力で生きられるようにしてあげられる?」


「All right。酒呑あれの処遇、また後ほど考える、デス。今は主の、御心のままに」


「いや、だからマジで悪かったって……勘弁してくれ」


 近づいた火車に警戒しながらも、触れられた体からすべての傷が消えたことに驚く小鬼を人差し指を手前に招く感じで挑発してやる。


「さあ、回復もしたようだしお互い得物を持たない同条件。どうあがいても結果に文句をつけることはできないわよ。全力で戦いましょ!」


「……やべーぞ。まさかオレが弱っちい人間をかっけーって思う日が来るなんてな!」


「HAHAHA、本当に。強者のみに許されるムーブというやつですな。私もマドモアゼルの戦いを見るのは初めてですが、異国の珍品を見るときくらい胸が弾みます」


「観戦する気まんまんのとこ悪いんだけど致公のこと持っててくれるー? こっちはこっちで両手塞がってるからさー」


「いやいやいや! どういう状況やねん!?」


 言葉通り片手で茨木ちゃん、もう片方で火車を抱え上げた綱。さっき投げ渡した血吸は茨木ちゃんが握ってる状態の綱がこっちに向かって叫ぶ。


「頼光ー! そいつの斧を探さないで互いに殴り合うってことは、この場で始めるんだよねー?」


「ん、そのつもりだけど。あっちの娘もその気だし」


「その通り、もー待ちきれないぞ! お前の行動がほんとにかっけーのかただの馬鹿なのか、確かめさせてもらうぞ!」


 そう言うやいなや、地面を踏み切る轟音とともに右手を大きく振り上げ飛びかかってくる小鬼。飛び上がるか地面を這うかの違いはあるけど、その速さは綱と同等!


「これなら―――私も全速で闘えそうね!!」


 壁から天井に駆け上がり背後に回ると、天井を蹴って小鬼の後頭部に膝を当てそのまま石畳に叩きつける!


「Whooooo!! Caaaaaalf Branding!! いきなり大技、デス!!」


 綱に抱えられた火車がはしゃぐような声を上げると、それにつられたかのように致公くんを始め歓声が広がる。


 ―――そんな歓声の中、確かに聞こえたピシピシという音が徐々に大きくなり、背中にパラパラと上から降って来た小石がぶつかる。


「へ?」


 私が蹴った壁と天井から走ったひびが部屋中に広がると、爆音とともに地下室は押しつぶされた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

*【雄谷氷沙瑪】――芦屋道満の腹心。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【名もなき小鬼】――大江山に住む鬼。名前はまだない。酒呑との戦闘後氷漬けにされていた。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【血吸】――頼光の愛刀。

*【Calf Branding】――テリーマンの必殺技として有名。この世界の中ではマヤー文化国の国技であるルチャの技の1つとして存在している。

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