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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
42/210

【源頼光】播磨への対策

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

2025/3/17 修正

 ・一部加筆・修正

 ・段落の設定

『では氷沙瑪ひさめ、播磨との折衝についての報告を』


「はいっす。よっしゃ野郎ども、これからあたいたちの外交の成果を―――」


「がーるるー! Burn them all!! Burn them all!!」


 立ち上がった氷沙瑪が道満さまの足元まで来るとこちらに振り返る。そう、足元。さすがにあの鬼の体を燃やされたらたまらないんだと思うけど、まるでどら猫さんに追い詰められた子猫さんのようにこの中でも1.2を争う巨体が梁の上に避難してるのはなんか面白い。


「しゃー! ふしゃーー! きしゃーーーー!! Burn them all!! Burn them all!!」


「……おい頼光、そのネコ娘どっかやれや。道満うちのこが怖がって梁の上から降りてこれねえじゃん」


「えー、でも燃屍教ねんしきょうの方々の事とか気になるかと思って」


 道満さまに襲いかかろうと暴れる火車を抱き込むように抑えながら、頭に氷塊を落とされ悶絶してる氷沙瑪アホに抗議。


「まったくこいつは懲りないわねー。道満さまに叱られるの大好きなの? 綱と同じ嗜好してるの?」


「あははー、そういえば全然頼光に優しく叱られないなー」


「てゆーか頼光も似たようなことしてるやん」


 思いがけない角度からの茨木ちゃんのツッコミとつなの世迷い言受けて言葉が出てこない。え? 私は自分と同等かそれ以上の相手と戦いたいってのはあるけど、一方的になぐる・殴られるは嫌いなんだけど……道満さまをよく怒らせてるのはまぁ……真面目にやってる結果だし?


「頼光もいたんやし燃屍教の話なんか出えへんかったの知っとるやろ。あちらさんも全部摂津で起きたことで播磨うちは関係あらへんって感じやったやん」


「変に突っついたら『そんな集団が播磨にいるのか、責任取って総本山に兵を派遣して皆殺しにするからそれで手打ちにしてくれ』とか言い出しただろうからな。こっちから何も言わなかったことで燃屍教は無関係で終了よ。これから先は正真正銘、摂津源氏と播磨源氏のいざこざってこった」


「はあ? 播磨源氏? そんな寝言言ってきたんだね。あははー、通るかよンなもん」


「同感であります! それがしも叔父上たちの言い分に腸が煮えくり返るであります!」


 醍醐源氏と清和源氏の間で交わした決まり事を、屁理屈でひっくり返した播磨守に綱は冷笑して致公むねきみくんの堪忍袋の緒は切れた。今すぐにでも播磨に乗り込まんとする2人に氷沙瑪は冷ややかに、だけど楽しそうに話をつなぐ。


「それなんすけど、播磨源氏としては摂津源氏を敵視してるわけじゃないとか言ってたのに、あろうことか()()()()()()()()()を足蹴にしようとした上に唾まで吐きかけたっすよ。これを黙ってるって摂津源氏としてどうなんす?」


「あっはっは! そりゃ許せないよねー!? 全面抗争待ったなしだよねー!!」


「なるほど……! 傍流同士の戦いとか言ってましたが、摂津は満季ちちうえも認めたれっきとした主流、清和であるそれがしも全力で支えるであります!」


「マジかこいつら滅茶苦茶やるじゃん……」


「ドン引キダゼー、反社会勢力ダゼー」


 あの場にいなかった酒呑の呆れ顔を眺めながら、茨木ちゃんの背中を押した氷沙瑪の姿を思い出す。吹っ飛んだ茨木ちゃんと目が合った時も「止めるな」って意志が伝わってきたし、打ち合わせとかしてたのよね多分。外交とは因縁をつけること? いやまさか……とにかくまだ元服すら向かえてないと思われる致公くんの教育にすごく悪いのでは? 満季叔父上に怒られない?


『……頼光たち摂津源氏が戦う理由は作れたわけだな? 摂津国としては?』


「主様のご要望の通り、警備の人数を増やすことにがたがた言うなよってことは認めさせたっす。お互いの軍備強化をつべこべ言わないってことは、始めからあちらさんも落とし所として定めてたっぽいのでチョロかったっすね。ただ摂津への破壊活動については証拠を出せって感じっすが――」


 道満さまに向かって説明する言葉を遮るように、膝をついたままの保昌殿が1歩前に出ると深々と頭を下げた。普段は軽い印象の御人だけど、そこは組織に入って長さかなかなかどうしてこういう場での所作はいちいち様になってる。


「誠に申し訳ないことだが、証人として確保していたものを殺されてしまいました。完全に我らが落ち度です。必ず下手人を挙げたいとは思うのですが」


「きっと壁の裏でコソコソしてた武装した輩のうちの誰かよねー。なんか暗殺という手段にこなれてる感じは凄いした」


 伏兵に気づいてなかったのか茨木ちゃんと致公くんが驚いた顔を向けてくるけど、保昌殿はふっと物憂げな溜め息を吐き、氷沙瑪に至っては心底つまらなそうな顔をする。


「気づいておられましたか。さすがですなマドモアゼル。仕掛けてきた場合は私が全て蹴散らすつもりでありましたが、いやはやその様子では何の問題もなかったようですな」


権守ごんのかみに茨木童子ぶつけた時に出て来りゃ楽だったんすけどねー。やはり播磨守にぶつけるべきだったか? だけどあの様子じゃ笑って許された可能性もあるから、権守を選んだのは間違いじゃなかったか」


「めっちゃ怖い話するやん?」


「まあ、保昌殿の様子じゃお1人でも十分みたいだし、氷沙瑪でも私でも1人で問題ないと思ってたからさ。2人がそれぞれ茨木ちゃんと致公くんを守りつつ、1人が戦えば余裕余裕」


 キラキラと尊敬の眼差しを向けてくる致公くんと、頭をかきながら「せやろうけど……」と苦悩する茨木ちゃんの対比をしばし楽しんでると、頭上から道満さまの確認の声が降ってきた。


『つまり、証拠さえ突きつければ問題ないわけか。証人は全員死んだと考えていいわけだな?』


「そういうこっすね。つまりは主様のイタコの力をもってすれば楽勝ってこと―――」


「イタコ? あれ、道満さまって芦屋ここの生まれって言ってませんでしたっけ?」


 イタコという言葉に聞き覚えがないのか首を傾げる皆に、それが陸奥国・津軽のかんなぎで使者を体に降ろし口寄せをすることを説明。なるほど、それなら鬼の死体に取り憑いてるのも納得……いや? これって逆じゃない?


 そんな頭がこんがらがってる時、梁から氷沙瑪の上に飛び降りて黙らせた道満さまが、パンと両手を叩いて注目を集める。


『あくまでそういう知り合いがいるというだけだ。そいつはこいつと違い俘囚ふしゅうではないからな。おいそれと公言できなかったのだ。なあ?』


「……そっすそっす。あたいの古い友人なんすよ。こっちに来てからは数えるくらいしか会ってないけど、操船も達者なやつだからあたいが主様に面通しを行ったんす」


「……嘘はついてねえ」


「ガチモンノ反社ノ臭イハスルケドナー!」


「うにゃああああああ!! Burn them all!! Burn them all!!」


 ここぞとばかりに飛びかからんとする火車が私の手の中で暴れまくってるのに、わざわざ安全圏から飛び降りてきてまで氷沙瑪を止めておいてそれもなあ……って感じだけど、酒呑がこう言ってる以上仕方ない。同じ陸奥生まれなら嬉しいってだけなのに。


『とりあえず証拠についてはその者に頼むことになるが、出来ることはすぐに手を付ける。氷沙瑪、貴様は警備を強化。摂津と播磨の国境を固めてアリの子1匹も通すな。摂津の商人の播磨への移動も禁止だ』


「了解っす。()()()()()()()()()()()


『頼光、貴様は使者としてこの文を届けろ。おそらく戦いになるから戦えるものは多めに連れて行け。届け先は案内人を付けるからその者に聞け』


「案内人?」


 文を受け取り表裏と確認しても特に宛先が書いてあるわけでもなし。氷沙瑪以外の人とはほぼ関わってないけど、茨木ちゃんとか酒呑なら知ってるかな?


『私も友軍と会うため別行動を取るから付いて行かんが頼んだぞ。とりあえず案内人の封印を解くとしよう』


「封印……?」



 やたらと物騒な言葉をかけらながら別の部屋に移動する。まるで実家の私の部屋に繋がってるかのような階段を降りて地下室に入ると、そこには分厚い氷で固められた、傷だらけで角の生えた少女が静かに放置されてた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【芦屋道満】――摂津の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。

*【雄谷氷沙瑪】――芦屋道満の腹心。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【燃屍教】――破闇是無鏖留と唱えながら屍体を燃やすことを正義として信仰を集める新興宗教。

【俘囚】――朝廷に降った蝦夷のこと。

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