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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
41/211

【源頼光】外交

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

2025/3/17 修正

 ・一部加筆・修正

 ・段落の設定

「お目にかかれて光栄っす、播磨守さま。急な訪問に関わらず時間を割いていただき、恐悦至極っす」


「丁寧な挨拶痛み入る。それで、本日はどのような理由でお越しになられたのであるかな?」


「実は摂津うちの倉庫が燃やされたっす。その下手人がどうにも播磨の方から来てたみたいなんす」


 いつものようにすっす、すっす軽快に話す氷沙瑪ひさめ。私としては軽い印象だったけど、知り合いにこういう話し方をするのがいなかっただけでこういう敬語もあるのかと思ってた――……んだけど播磨守の隣りに座るがっしりした方は顔を真赤にして震えてるし、脇の茨木ちゃんも冷や汗ダラダラで目玉がぐるぐるになってる。これはあれね。外交の場では絶対ダメなヤツ。誰よ私に外交の勉強について来いとか言ったヤツは。


「ふむ。摂津で暴動が起こったという話は聞いているが……。失礼ながらそれは失政により領民の不満が爆発しただけではないのかね?」


「いや摂津守さまは領民にお優しいのでそれはねっす。あ、播磨守さまも領民にお優しいとは思ってるっすよ? 普通領民を国に囲い込もうと考えるのを、みすみす播磨から摂津へと領民が流れるのを止めないみたいっすし」


「善政を敷いているつもりでもそれが領民に届かぬことに歯痒いことだ。私の政に不満で領民が逃げ出してしまうこともあるだろう。摂津守があなたにとって名君であっても、領民がその不満から暴動をおこしてしまうのもまた然り」


 互いに笑い合ってるけど、空気はどんどん悪くなっていく……。氷沙瑪は終始無礼だし、播磨守さまも摂津の件については道満さまの失政であるとの主張。保昌殿たちの調査で播磨守さま主導と聞いてるけど、終始穏やかな笑顔を崩さないから表情が全く読めない。ま、表情からは分からなくともこっちを敵視してることはひしひしと伝わってくるけど。


「失礼ながら播磨守。我らの調べでは貴方がた兄弟が、安和の変において貴方がたの父上を失脚させた源満仲殿を怨み、その長女である頼光を長として組織された摂津源氏に対して行った破壊活動であると、そう結論付けております」


「その通りであります叔父上! だいたい政治の世界から退くとの約束を破るということは源氏としてあるまじき行為であります! 清和に対して悪いという気持ちは――――」


「黙らっしゃい!! 兄上を――貴様の父を殺されたのに、その仇である清和に尾を振る犬めが!!」


 致公むねきみくんに糾弾されるとさっきから播磨守さまの後ろで顔を真赤にしてたおっさんが怒りから大声を上げるた。予想はついてたけどこっちが権守ごんのかみさまね。致公くんの父親はあのひねくれた綱が手放しで称えるくらいの武士だったらしいけど、残念ながら体が大きいだけで武の才能は受け継いでない感じかな。今この場にいる中でもせいぜい下の上ってところ。


「お言葉ですが、それがしが清和に身を寄せるは亡き実父ちちが今際の際にこの身を託し、満季ちちがその想いに応えていただいたゆえ! それを愚弄するとあらば叔父といえど容赦はできませぬ!!」


「なにおう小癪な小童が!!」


 一触即発の気配に身を乗り出すと、正座をする太ももにそっと手を添えられる。そちらを見ると茨木ちゃんが首を振り私の行動を止めた。同じように致公くんは保昌殿に、権守は播磨守にそれぞれ静止され居住まいを正す。


「すまないな致公。貴様も今は清和の一員であることを考えれば、確かに我らが政治の場にいることは感化できないことであろう。しかし実は安和の変の前、我らは父・高明たかあきら率いる醍醐源氏より放逐されたいたのだ」


「な!? そのようなことは初耳であります! 詭弁であります!!」


 再び激昂した致公くんに責められた播磨守は涙を拭うかのように袖で顔を隠した。


「信じられぬだろう。私とて貴様の立場であれば同じように思うに違いない。だが事実なのだ。そして今、ようやく1からここまで成り上がり播磨源氏を名乗るに至っている」


「そういうことだ致公。我らが摂津源氏と争おうとそれは傍流同士の争い! 清和きさまら主流とは無関係だ!」


「もちろん我らは摂津源氏と争っているわけでもなし、今回の摂津の暴動とも無関係である。それだけは分かっていただきたい。これでも源氏の端くれ、源氏の名を汚すような真似はせぬ」


 ぐぬぬと悔しそうな表情を浮かべた致公くんは、怒りからか自分のふくらはぎを拳で叩いた。


「つまりはあれっすか? 検非違使の隊長さんがあんたらがクロって言ってるけど、あくまでしらばっくれると?」


「何ゆえそのような結論に至ったのか、こちらが知りたいのだがな。証拠があるというのであれば示してもらいたいものだ」


 氷沙瑪が保昌殿に視線を移すと、保昌殿はしばらく動きを止めた後にゆっくりと首を横に振った。


 ………………え!? 無いの!? いやいやいやあれだけ言っててそれは、流石に相手に失礼でしょ!?


「……調査をしていた検非違使と証言をしてくれた播磨そちらの役人がそれぞれ変死体となって見つかったものでしてね。是非ともその件も含めてお伺いしたかったのですが」


「なんと……そのような不幸があったとは。心中お察しする」


 うわー、白々しい。しかし、この播磨守さますごいわね。道満さまみたいに死体に取り憑いてるのかってくらい心の内を表に出さない。表情自体は状況に応じて変わるのに、そこから何も察せない狸っぷりは政を行う者の技能ってところかしら?


 ただ惜しむらくは相方よ。勝ち誇ってるのが丸わかりというか、口角が上がるのを必死に抑えてるんだろうけど、ぴくぴくと動くにやけ面はこいつが証人を殺したか殺す指図をしたか。それを指摘したところで播磨守さまはしらばっくれるだろうし、権守さまはキレて有耶無耶にしてくるかな。仮にここに酒呑がいて嘘を見抜いたところで証拠がなければどうしようもない。


 私と同じ結論に達したのか、氷沙瑪は大きなため息を吐くと深々と頭を下げた。


「いや、分かったっす。仕方ないっすからこの度はそういうことで収めるとするっす。これから警備を強化するっすけど、戦争をしたいってわけじゃないので、変に受け止めないでほしいっす」


国境くにざかいを越えてこないのであればそこまで目くじらはたてまいよ。ただ、摂津で暴動があった以上、逆にこちらに罪人が逃げ込んで来る恐れもあるのでな。軍備の強化をするがこちらにも他意はない」


 再び笑い合う2人だけど空気は軽くなるどころかどんどん重くなる。


「そんじゃ帰るっすか。月子、ちょっと服を整えるのを手伝ってくれっす」


「え、はい」


 まだ播磨守さまたちが退室していないのに、急に呼ばれた茨木ちゃんが氷沙瑪に近づくとその背中を氷沙瑪が権守さまに向かって押す。今も道満さまは例の鬼の体に入ってるし、それと繋がる氷沙瑪の膂力に茨木ちゃんの小さな体が抗えるはずもなく、床を転がり権守さまにぶつかって止まった。


「ちょ――氷沙瑪あんた何して―――――」


「この無礼者がー!!!」


 激昂した権守が茨木ちゃんを蹴り飛ばそうとするのを防ぐため動こうとしたその時、転がる茨木ちゃんと目があって駆け寄るのをやめると、氷沙瑪が権守さまと茨木ちゃんの間に入ってその蹴りを防いだ。


「申し訳ないっす。慣れぬ長時間の正座に足を痺れさせたのかも知れねっすね。あとでしっかりしつけておくのでここはどうか穏便に」


 怒髪天とばかりにいきり立つ権守さまを播磨守さまが制す。それでも怒りが収まらないのか倒れる茨木ちゃんに向かって唾を吐きかけると「端女風情が!」と悪態をつき、播磨守さまの後に続いて部屋を出ていった。



 姫路を出て街道を進む道すがら、私たちは重苦しい沈黙に包まれてる。先頭に氷沙瑪が乗るばかデカ馬、手綱を握る両手の間に茨木ちゃんを乗せ、その後ろから半分の大きさもない馬に保昌殿と致公くんがそれぞれ乗って続く。


 私はと言うとそもそも走ったほうが速いし、お尻も痛いから氷沙瑪の乗る馬を引くのは当然。来る途中も感じたけど、播磨ここ穢物けがれものの数がかなり多い。馬に乗ってたら即応できないし護衛という立場上、私だけ徒歩なのは別にいじめられてるとかそういうわけじゃない。


 そんなくだらないことも考えてしまうくらい重苦しい沈黙を破ったのは保昌殿の謝罪の言葉だった。


「この度は完全に私の責任だ。済まなかったマドモワゼルたち、彼らの妹が道長様に嫁いでいることを考えれば検非違使の調査の動向を知られてることを考慮しなければならなかった」


「へー、そんなこともしてるんすね。権力得るためになりふり構わねえ感じ、頼光も見習ったら?」


「あれくらいしないと陸奥守にはなれないってこと? ……そうかな……そうかも?」


「ま、とりあえずこれで保昌殿には貸し1つっすね。後で返してもらうっすよ?」


 沈痛な表情で頷く保昌殿を見かねたのか、茨木ちゃんが氷沙瑪の脇腹を肘で小突く。


「なに言うてんねん。今回の外交に関しちゃ控えめに言って大勝利やろ? 証拠がないてのが予想外やったけど、他は道満さまたちに言われたいうこと全部やり遂げたやん。一応保昌さまたちは敵対派閥の人間言う事で全部黙っとったやつ」


 沈んだ面持ちだった保昌殿と致公くんがガバっと顔を上げ氷沙瑪たちを見る。


「あのー、私も聞かされてないんだけ……ど?」


「ま、摂津に戻ってからだな。忙しくなるから覚悟しとけよ頼光」


 私の抗議を軽く流し歯を見せながらニカッと笑うと馬にムチを入れ速度を上げる。もやもやした気持ちを晴らすため私も風を切るように走った。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名・月子。

*【雄谷氷沙瑪】――芦屋道満の腹心。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【源俊賢】――源高明の三男。播磨守。

【源経房】――源高明の五男。播磨権守。

【芦屋道満】――摂津の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【検非違使】――平安京の治安維持に従事する役人。当時の警察みたいなもの。

*【安和の変】――源満仲の密告により、源高明が謀反の疑いで失脚した。ということになっている政変。

【権守・権官】――定員に達してる職に定員を超えて任官するもの。今回の場合播磨守がすでに任命されているところに、同じ報酬でもう1人任官されている状態。

*【穢物】――穢を浴びて変質した生物。俗に言うところのモンスター。


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