表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
40/212

【源頼光】播磨へ

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

2025/3/17 修正

 ・一部加筆・修正

 ・段落の設定


 播磨国国府・姫路にある1室に通され、私たちは播磨守・源俊賢(としかた)が来るのを待ってる。摂津守・芦屋道満名代としてやって来てる氷沙瑪ひさめはいつもの動きやすそうな異国のパンツスタイルじゃなく落ち着いた色の着物を身にまとい、今回の諍いの仲裁の立場を取る保昌殿と致公くんが脇に座る。


「ええか頼光。言われた通りなんぼ気に入らんこと言われたしても、ぐっと我慢してや」


「分かってるって。茨木ちゃんも心配性ねえ」


「そらそうや、綱がおらんと頼光暴れ出しても誰も止められへんし……。まあいたらいたで別の不安もあるんやけど」


「そうねー。今回に限っては綱のほうが憤ってるしねー」


 部屋の端、氷沙瑪たちから離れた場所に座りのんびりと駄弁ってるわけだけど、部屋に通されてから30分は経とうというのに誰も来る気配はなし。今回は女性の使者の側仕えというていだし、気楽なもんだけど正式な使者として来てたら緊張感やばそう。


 屋敷に閉じ込められてたときは、基本武芸の鍛錬、鍛錬、鍛錬とひたすらに鍛錬を積み重ねるだけだったけど、最近はほんと色々なことをしなきゃいけなかったもんだから疲労の溜まり方が違うのよね。こうやって何もせずただ座ってるだけはめちゃくちゃ眠い。大きな欠伸を1つすると横に座る茨木ちゃんに肘で小突かれる。普段は活発な印象の氷沙瑪が背筋をピンと伸ばし静かに座ってるのを見ると、異国を含めて外交とかそういうものに慣れてるってのは本当なのねー……。



 ――私たちが摂津に入った翌日。前日が夜遅かったこともあり、昼過ぎに火車を除く全員が道満さまの執務室に集まった。


 道満さまにとっては天敵と言うべき火車には、朝起きて酒呑の怪我を治してもらった後、そのまま布団に戻ってもらった。案の定というか道満さまは部屋に入ってくるとき用心深く室内を見渡し、火車がいないのを確認できたことでようやく部屋に入ってくるくらい警戒してた。


「……火車の分も含まれてるのかも知れませんけどー、問答無用の全力拳骨はどうかと」


『うるさい田舎者。私は危うく死にかけたのに加え、京で使っていた体も失ったのだ。これくらいで済ませてやったのを感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いはない』


「だからってもう少し加減していただけません!?」


 まあ1発くらい素直に殴られようと思ったのが間違いだった。そういえばつい先月腕を握りつぶされたのすっかり忘れてたし! 痛みを紛らわそうとゴロゴロと転がる私を見て心配してくれてるのは保昌殿と致公くんの2人だけ。他はすっかり日常風景感覚で茨木ちゃんすら、またやっとるって感じになってるし。


 そして私を放置してどんどん話は進む。基本的には以前にした内容を保昌殿が説明し、話の出来ない道満さまの言葉は氷沙瑪が通訳することで大きな齟齬を生じることなく、事の真相に対する情報は共有できたと思う。


『……なるほど、つまりはこの田舎者を中心としたいざこざに、摂津も燃屍教も巻き込まれたというわけか』


「え!? いやいやいや、今回の件については私も巻き込まれた側だと思うんですけど? 安和の変とか知りませんし」


 表情は変わらないし、文字通り死んだ目をする道満さまの場合、本気で言ってるのか冗談なのかわからないのが質悪いのよね。


「HAHAHA、まさにマドモアゼルの仰るとおり、今回の播磨の所業は一方的な逆恨みによるもの。私が彼の地に赴き馬鹿な真似はやめさせますので頼光殿を責めるのはやめていただきたい」


 私を援護してくれる保昌殿の言葉に、コクコクと頷いて同意する。いや、保昌殿だけに押し付けるつもりはないけど、ただの逆恨みを私のせいにされるのは納得いかない。


「そうは言うっすけどね? 摂津もしっかり喧嘩売られてるわけで、舐められっぱなしってわけにゃいかねんすよね」


「あははー。そうなると戦争ってことかなー?」


「野蛮だな。攻め込まれて黙ってれんねえのは分かるが、発想がどこぞの小鬼と一緒なんだよな」


「戦争なんてあかんわ。播磨は右大臣派なんやろ? そんでウチらは左大臣派で周辺は右大臣派や。戦争なんてなったら周りからガンガン攻め込まれるわ」


「ぶっちゃけ戦力的には周辺国まとめて相手できる自信はあるんすけどねー。大江山が再度鬼を送り込んできたり、道長の部下を名乗ってるわりにコソコソと別の目的を持って動いてそうな、安倍晴明あたりを敵に回さなければ負けることはないにしても、被害の方がお察しってだけでー」


 大江山の小鬼ってのは酒呑に大怪我を負わせた相手と聞いたけど、安倍晴明って言う名前もつい最近聞いた気がするよう……な……。


「あ」


 思わず口から漏れた言葉に皆の注目が一斉に私に向く。


『おい、田舎者。なんだ今の「あ」は?』


 やっば。これは瘤がもう1個増える可能性。てゆーか頭蓋骨の危機! すぐに体制を立て直し飛び上がると梁の上に乗る。


「えーと……ですね。火車を助けるためにちょっと、安倍晴明の式神を名乗る大裳たいもっていう狼少年とひと悶着ありまして~……待って待って待って! でもそれがなかったら火車が仲間になってくれることなかったし! 酒呑も氷沙瑪も、未だ怪我したままでろくに動けてないでしょ!」


 青筋を立てて拳を握った道満さまの拳が再び開かれるとの確認して梁から飛び降りる。氷沙瑪は呆れた感じで首を振り声を絞り出す。


「マジか~……安倍晴明敵に回すとはやってくれたなー。しかも大裳なんて下っ端も下っ端じゃねえの。上位の式神相手で余裕がなかったならともかく、もっとうまいことやれたんじゃねえの?」


「でも少しお願いしただけだし、敵に回したと確定したわけじゃ」


「あははー! お願いじゃなくて脅迫なんだよな~」


 確かに敵を増やすのは良くないとは思うけど、派閥間での争いって意味ならこうして保昌殿とは良好な関係を築けてるわけだし、功罪相半ばってとこだし、褒めるとこは褒めてくれればいいのになー。なんか周りからの扱いが雑になってることに危機感が……。


「そういう意味じゃその播磨守だけど、よく源氏全体を敵に回すような行動取れたよね。右大臣さまにしても左大臣さまと違って有能だって言うなら、馬鹿な真似はやめろーっとはならなかったのかしら」


「あー、それは本当にそう。忠賢ただかた殿がご存命ならともかく、満仲おっさんどころか最悪ボクと頼光だけで余裕で戦えるんじゃないのーってくらい、醍醐は衰えてると思ってたし」


「摂津源氏に対して嫌がらせしても、源氏全体が動くとは思ってなかったのかしらね。そういえば右大臣さまには弟くんたちも仕えてるわけで、河内源氏と……大和源氏だっけ? そっちを抑えてるから源氏も手を出さないと思ってたとか?」


 私の言葉に綱と致公くんが目を見開くと、致公くんが「綱殿――」と綱に問いかける。え、何? マジでそんな単純なことなの?


「あーーーー……確かに名前だけみたら『摂津』源氏だもんねー。ボクも結成の過程を知らなきゃそうなるか……醍醐として源氏のこと良く知ってるからこその致命的失態ってことか」


「傍流と受け取られた可能性は十分あるでありますな!」


 まーた源氏の謎伝統でもあるのか2人だけで納得してるのを端から眺める。これだから源氏ってやつは……いや私も源氏なんだけど。


「ムッシュ綱。私たちにも分かるように説明をお願いしたいのだが?」


「んー……どうせなら本人に直接聞いてきたら? 仮に勘違いでのやらかしだとしても、源氏は激おこだから醍醐を潰すのは決定事項だし、摂津くにとしてもこのままで終わらすわけないんだろ?」


「全く無い。播磨を叩き潰しても構わないと周辺国が納得する形を作ってから、後悔してもしきれんくらいに完膚なきまで潰す――と、主様もおっしゃってるっす。てなわけでまずは使者を送ることからっすね」


「いきなり宣戦布告でもするんか!? 戦争なんて絶対あかんて!」


 必死に止める茨木ちゃんの肩を叩くと氷沙瑪はにっこり笑って宥めるように言う。


「戦争なんて物騒なこと口にするもんじゃねっすよ。これからやるのは外交っす。周辺国と有効的な関係を踏まえたうえで播磨に使者を送るっす。始めは難色を示すと思うっすけど、そこから諦めず脅迫がいこう戦争がいこう降伏勧告がいこうと粘り強く重ねていく必要があるっすからね。いやーこれから大変っすよ」


「がいこうとしか言ってないはずなのに、なんやこの不安……」


『私は友軍の手配をする。氷沙瑪、私の名代として播磨に向かえ』


「ははッ! んじゃ頼光は私の護衛よろしくー。陸奥守目指すってんなら外交の勉強もしといた方が良いだろ」


「それは構わないけど、私に対して怨みもってるっていうし大丈夫かな」


「あははー、それは大丈夫じゃない? 清和以外の源氏からしたら、満仲おっさんが大事にしてるお姫様として名前は知ってるけどって感じだろうし。ボクの顔は知られてる可能性高いからついて行かないけど」


「綱殿がいたら叔父上たちが日和って詫びを入れてくる可能性があるであります!」


「ムッシュ致公は叔父と戦うことになっても構わないのかい?」


「? 覇成試合での決定を反故にした愚か者共を処罰するのに情が必要があるでありますか!? 従姉上あねうえが優しさで許しはしないかだけが心配であります!」


「怖……こない小さな子でも頭源氏やん」



「頼光、来たで。起きてや」


「――んあ?」


 やば、すっかり寝てた。氷沙瑪たちが頭を下げてるし私も真似すればいいのかな?


「お待たせして申し訳ない、使者殿。どうぞ面を上げていただきたい」


 その物腰の柔らかい声に促され顔を上げると、対面には痩せぎすでニコニコした男と、がっしりとした体つきの大柄な男が座ってた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【源満仲】――源頼光、頼信、頼親の父。平安4強の1人にして最強。

【源忠賢】――源高明の長男。源氏最強の武士と呼ばれたが、満仲に敗れ戦死。

【源俊賢】――源高明の三男。播磨守。

【芦屋道満】――摂津の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。

*【雄谷氷沙瑪】――芦屋道満の腹心。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。

【大裳】――安倍晴明に仕える12天将の1柱。陰ながら京の治安維持を務める。

【安倍晴明】――藤原道長配下の陰陽師。



【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【燃屍教】――破闇是無鏖留と唱えながら屍体を燃やすことを正義として信仰を集める新興宗教。

*【安和の変】――源満仲の密告により、源高明が謀反の疑いで失脚した。ということになっている政変。

*【覇成死合】――源氏間で行われる最も神聖な格闘イベント。以下公式ルール。

         ・試合形式は1VS1

         ・武器の使用制限なし

         ・それぞれが立会人をたて不正がないよう務める

         ・死ぬか負けを認めるかで決着

         ・敗者は勝者の要求を1つ飲まなければならない

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ