【源頼光】合流
*人物紹介、用語説明は後書きを参照
*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています
2025/2/21 修正
・一部加筆・修正
・段落の設定
京から街道を突っ走り、茨木を越えて茅渟の海を臨む場所に出る。陸奥に住んでた時もほとんど山の中だったし津軽の港以来の海。
「んー、潮風が気持ちいいわねー。汗かいちゃったし少し海に入ってく?」
「頼光ー、いくら時間稼いでも道満のこと殺しかけたのは事実なんだしさー、覚悟決めたらー?」
「それに従姉上! 潮騒と風の匂いで海であることは分かりますが、それがしには暗すぎて何も見えないであります」
「いやまあ、そうなんだけどさー……」
致公くんの言葉に荷車の上に乗る火車と保昌殿もうんうんと頷いて同意する。すでに丑三つ刻を過ぎた闇の中、なんか普通の人は夜目が効かないというのを今更知った。
いやね? 緋緋色金や青生生魂で出来た壁や天井はうっすら光ってたとはいえ、私はずっと地下暮らしだったわけで暗いところでも目が見えるって当たり前だと思うじゃん?
綱だって普通に見えてるみたいだし、なおさらじゃん? なんか嵯峨源氏で特殊な訓練受けた結果とか知らんじゃん?
摂津の件でしばらく家を離れることを伝えると、意外なくらいあっさりと受け入れられたのには驚いたけど、そこからが長かった。
綱の危惧した通り醍醐源氏が政治の舞台に復帰してたことにブチギレた親父の怒号に、屋敷が抱える武士たちが集まってきたかと思ったら、全員が全員「醍醐討つべし!」の大合唱になるのは流石にビビるって。
しかも普段は基本私の意向に沿って行動する綱と、吃りを気にして声を上げたがらない満頼でさえ合戦やむなしの雰囲気を出してたのよね。覇成試合の結果が重いのは知ってたけど、ここまでとは思わなかったから、今回の醍醐源氏とのいざこざは私たち摂津源氏の問題故手出し無用と納得してもらったときには日もとっぷり暮れてた。
ちなみに私たちがなんとか出来なかった時は合戦になる模様。それもその時は他の源氏にもこの件は伝わってるだろうから、清和のみならずその他も含めた源氏総出でやりますねってことになるらしいのがまた……。播磨が日ノ本の地図から消える可能性あるとか国司失格にも程があるわ。
まあそんなこんなで矢も盾もたまらず、皆が出発は明日にしようって言ってたのを押し切って進んできたわけだけど……。海を挟んだ向こう側、こんな時間にも関わらず篝火が煌々と焚かれてる街が遠目に見えた途端、道満さまへのやらかしを思い出して足が重くなった。
「あーもう! 行けばいいんでしょ行けば! あんたたち振り落とされないでよね!」
「No problem。私の、trolley、乗り心地はFirst classです」
猫精霊さんたちにも軽く引ける、京で目撃されてるのに轍も残さなかった車輪が数cm浮かぶ台車を引き、私は摂津の国府芦屋へと全力で駆け出した。
*
芦屋の門をくぐると篝火の中数10人の人たちが離れてこっちの様子を窺ってた。それぞれが手に鍬や鋤を持ってるけど、この街の人間はこんな時間まで働くのが普通なのかしら? いや、この有り様を見る限り緊急で集められた感じかな。
そんな中、見知った小さな影がこっちに向かって歩いてくる。
「……なんや頼光やん。けったいな荷車引いての登場とか笑えんから」
「別に笑わせようとは思ってないから……それより何この状況。これも燃屍教を名乗る奴らの仕業なの?」
「Impossible、私の同志、これは無理、デス」
港を取り囲むように建てられた外壁に唯一つけられた門は、外側からとんでもない力が加えられたように吹き飛ばされ、地面はわけがわからないくらいボッコボコ。火車に聞く限り燃屍教徒はほぼ全員庶民で成り立ってて、特別な力はなんにも持たない。播磨守は摂津を叩けりゃなんでもいいって感じで、燃屍教についての知識は相当浅そうね。
「わっけ分かんねえ燃える台車引いての登場は十分ふざけてんだろ。それ以上にふざけてるのは主様を燃やして殺そうとしたんだって? 返答次第じゃあたいにぶっ殺されても文句言わせねーよ?」
「いやちゃうねん」
2本の短槍を杖代わりに現れた氷沙瑪にどう説明したらいいものか……。怒られるのは分かりきってたからこそ、何も考えずに突っ走ってきちゃった結果、出てきた言葉は久しぶりに会った茨木ちゃんが言いそうな言葉。しどろもどろで言葉に詰まってると、荷台から降りてきた火車が氷沙瑪の両足に触れた。
「なんすかあんたは。今は頼光と真面目な話を――――!!? これ……もしかしてあんたが主様の言ってた頼光の腕を治療したっていう!?」
「Yes、あなたの足、もう治した、デス」
サムズアップとかいう親指を上げる仕草を見せる火車を見て、氷沙瑪はとんと地面に降りるとその場で走るかのように両足を素早く動かす。
「へーやるじゃん頼光。こんな能力を持った奴を仲間にしたとあれば主様も功罪相半ばってことで怒りも多少は収まるかもな」
「あー、それは良かったわ。……この娘――火車の能力はもう1つあるんだけど……知りたい?」
「なんやえらいもったいぶるやん。これだけでも十分すごいのにまだあるんかい」
「うん、死体を燃やして灰にする能力! あ、でもあくまで死体だけだから! 霊体は燃やすこと出来ないらしいから! あの鬼の体に入ってなきゃ道満さまにとって無害だから!」
ままよ! 怒られそうなことを勢いでぶちまけると、あんなにはしゃいでた氷沙瑪が「えぇ……」と困惑の声を上げ、辺りはなんとも微妙な空気に包まれた。いや、分かるよ。そりゃこうなるよね。
そんな地獄のような空気の中、ぱーんと大きく手を叩き静寂を破ったのは綱だった。
「あははー、とりあえず今日は遅いしさ、もう休まない? 紹介しなきゃいけないやつもいるし、共有したい情報もあるけど、1度ここは気持ちを整理する時間を作ったほうがいいでしょー」
綱の言葉に氷沙瑪はぬうと唸り声を上げると、ガシガシと頭をかく。
「そう……すね。それじゃ茨木は頼光たちを客間に案内してそのまま休んでくれっす。おーい! 足させ治っちまえば、1晩ありゃあたい1人で直せるからさ、あんたらもゆっくり休みな! 賃金は明日国衙にて渡すから各自受け取りに来るように!」
氷沙瑪の声がけで作業をしてた人たちがバラバラと解散する。
「そんじゃウチらも行こか。あ、寝る前に1つ酒呑が大怪我しとるんで治したってや」
「そういえば道満さまがそんなこと言ってたわね。火車、お願いできる?」
「…………もう1人くらいなら、大丈夫、……デス」
予想外の辛そうな声に火車を見ると、土のような顔色の上に脂汗が浮かんでる。手を伸ばして体を支えようとすると、現れた猫精霊さんたちの肉球で手をそっと払われた。
「キャスの能力は万物をあるべき姿に返すものニャ。死体を灰にするのは対したことニャいけど、生者を万全な状態にするにはそれはもう大変な集中力が必要ニャ。キャスのこと仲間だと思うならそこは考えてあげて欲しいニャ」
「え、ごめんなさい。それは知らなかったわ。茨木ちゃん、酒呑の怪我の具合ってどんな感じなの?」
「命に別状はないな。しんどいなら体調が戻ってからでも問題ない思うで」
よし、そういうことなら酒呑には少し我慢してもらお。……でもこれで前から思ってた疑問が1つ晴れた。
一緒に行動することになって分かったけど、火車って意外と動けるっていうか、猫さんばりの俊敏さと気配を消す技術を併せ持ってるから逃げることに関しては相当なもの。台車も重さを感じないし、大裳とかいう狼使いが追い詰めることが出来る相手じゃないのよね。あの時も午前中に私の大怪我を治療したから体調が悪かったってことね……。
「ありがとうね火車。今日のところはもう寝ましょ」
猫耳外套の上から頭を撫でると、疲れからからか私の体により掛かるように眠る火車。案内された部屋の寝床に寝かせると、私たちもそれぞれ床に就いた。
【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)
【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。
【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。
【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。
【猫精霊】――火車に従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。
【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。
【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。
【源満頼】――源満仲の弟・満季の長男。先天的に芯が通っていたため当主である祖父の経基の養子となり武芸を仕込まれる。平安4強の1人。
【源満仲】――源頼光、頼信、頼親の父。平安4強の1人にして最強。
【芦屋道満】――摂津の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。
*【雄谷氷沙瑪】――芦屋道満の腹心。
【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。
【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。
【大裳】――安倍晴明に仕える12天将の1柱。陰ながら京の治安維持を務める。
【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)
【茅渟の海】――大阪湾。
*【緋緋色金】――西洋のオリハルコンと似た性質を持つ緋色の希少金属。硬い・軽い・熱に強いと武器や防具に最高の素材だが、それ故に加工が難しい。
*【青生生魂】――緋緋色金と同質の金属。内容物が違うため青い光を放つ。
*【覇成死合】――源氏間で行われる最も神聖な格闘イベント。以下公式ルール。
*【燃屍教】――破闇是無鏖留と唱えながら屍体を燃やすことを正義として信仰を集める新興宗教。
【国衙】――国府にある役所。




