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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
38/210

【源頼光】黒幕

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

2025/2/21 修正

 ・一部加筆・修正

 ・段落の設定

 保昌殿が連れてきてた子だから検非違使けびいしと思いきや、まげを結ってないしまだ元服を迎えてない少年。何気ない所作から武の素養を感じるあたり、保昌殿の期待をよせる若手か、はたまた親戚か……あ、息子の可能性もあるかな。いや、息子なら異国の装いをさせてそうだし、やはり本命は親戚の線――


「初めましてであります、従姉上あねうえ! それがしは源満季(みつすえ)の子で源致公(むねきみ)であります!」


 って私の親戚かい! それより源満季……いや親父まんじゅうの兄弟なのは分かるけど記憶の片隅に残ってる人ね……喉元までは出てきてるんだけど……。


「へー! それじゃ血筋的には満頼みつよりの弟ってこと?」


「はい! いいえ綱殿、それがしは養子でありまして、父は源忠賢(ただかた)であります! それでその……今従姉上に迷惑をかけております播磨の国司というのが……それがしの実叔父たちなのであります」


 うん、複雑すぎでしょ源氏。満頼は叔父なのにタメ口聞いてたのも、付き合い長いし年下だしってことよりも、もともと従兄弟だって聞かされたからか。爺様に養子に行く前の親が満季ってことね。


 1人でスッキリしてると火車以外の3人がじっと私の顔を見てる。え、何この状況。特に綱なんか眉をしかめて明らかに怒りを堪えてる感じに見せてる。


「従姉上、こんな逆恨みもいいところな状況でありますが、お怒りにはならないのでありますか?」


「え、なんで? 致公くんの叔父さんたちが何か嫌がらせしてきてるってだけでしょ? そりゃ道満さまに悪いなって思うけど、正直火車と死体を集めて回った時もときどき貴族から罵声浴びせられたし、それくらいじゃ今更驚かないって」


「主に課せられた使命、蔑む愚物、デス。気にするだけ、無駄、デス」


 申し訳無さそうな致公くんを元気づけるため何も気にしてないことを伝えると、少しホッとしたように安堵のため息を吐く。実際そんなことにいちいち腹立ててる暇があったら、さっさと手柄の1つや2つ立てたいし、その嫌がらせを処理して評価が上がるならむしろありがたいまである。


「へー? それは、逆恨みの原因が満仲おっさんにあるとしても~~?」


「はあ!? マジでふざけんじゃないわよクソ親父まんじゅう!!!」


「……えーと従姉上は急にどうしたでありますか綱殿」


「いやー、満仲おっさんに対してだけ頼光の沸点が異常に低いんだよねー。ま、生い立ち考えれば無理もないけどさー。逆に満仲おっさんが頼光の怒りを全部受け止めてくれてるから、いろんなことに寛容なんだけど……。あ、茨木での様子を見ると娘を雑に扱う父親には相当ムカつくみたいだから、致公も娘が出来たら気をつけてねー」


「りょ、了解であります!」


「さて、冗談はともかく。これ、わりとマジで洒落にならないことだよ」


「そうよ! 他の源氏に手を出して私に矛先向けさせてるってことよね!? このまま屋敷に戻って親父をぶん殴らないと気が済ま―――」


 そう意気込みいざ走り出さんと足に力を込めると、綱は「ちがうちがう」と私の方を掴んで否定する。


「従姉上は『安和あんなの変』、源氏内での『安和の覇成試合はなしあい』というものをご存知ではありませんか!?」


 ごめん、ご存知ではありませんです。肩をすくめて首を傾げると、綱にしては珍しく心の底から呆れ果てたと言わんばかりの大きなため息を吐いた。


「『安和の変』、当時政治を牛耳ってた醍醐源氏だいごげんじの源高明(たかあきら)に謀反の疑いありってことで満仲おっさんが密告したことで失脚した―――……ってのが世間の認識だけど、実際は理由は分からないけど清和と醍醐が負けた方は政界から去るという約束で覇成試合をしたらしいんだよねー。結果は清和が勝って今があるって感じだねー」


「え……普通に相手を殺した方が勝ちって決まりでやったのよね……? よくそんな馬鹿な勝負受けたわね」


 正直、京の……いや、日ノ本の武士総掛かりで斬りつけたところで傷1つ付けられるかすら怪しいのに、どういう思考でそんな家の存亡をかけるような勝負に出たのか全くわからない。呆れが表情にでてたのか、綱は真面目な顔で私の顔をまっすぐに見つめ、重い口を開く。


「醍醐の代表だった致公の父・忠賢殿は当時の源氏最強の武士だよ。逆に満仲おっさんは戦いの場から外され、政治でも不要とされて遙任ようにんじゃなく陸奥を始め諸国に赴任して回った30過ぎの1文官。当時の源氏の評価じゃそれこそ『清和はとち狂ったのか?』だったよ。覇成試合に参加できるような武士がいなかったからこそ、満頼っていう天才が生まれて浮かれてたわけだし」


「……そう言われれば陸奥にいたときは親父ひょろがりだった気がするわね。むしろ母上の方が武芸を嗜んでおられて尻に敷かれてたような。いつからあんなに分けのわからな――――痛ッ~~~~~~~!!!」


「What's happend、大丈夫、デス?」


「……うん、ちょっと頭が痛かっただけ」


 よろめく体を火車に支えられる。いや正直ちょっとどころじゃない痛みだったけどさ……。やっぱり親父のことなんて考えようとするもんじゃないわね。


「それで、その政界から去ったはずの醍醐源氏がしれっと復権してて、恨みを私にぶつけてきてる。そういうことね?」


 心配する皆に大丈夫だと主張しながら話の続きを促すと、致公くんがそれに応える。


「はい! 覇成試合の結果、祖父の高明とまだ幼かった三男の俊賢としかた五男経房つねふさは大宰府に流され、覇成試合の立会いを勤めた次男の惟賢これかたは父忠賢の遺言に従い、それがしを清和の立会人であった満季の養子として預けたのち仏門に入ったのであります! そして今、播磨守俊賢と権守ごんのかみ経房の両名が従姉上に対して行動を移してるのであります!」


「HAHAHAHA。ちなみに先程法要を行っていただいた御坊が安和の変で出家した惟賢殿ですな。すでに俗世を離れたとは言え、源氏のはなしあいで決められたことを破り政界への欲を隠そうとしない弟たちへの憤りとマドモアゼルへの謝罪、ムッシュ致公のことを頼みたいという心に従いマドモアゼルの要請に応えていただきました」


 部屋に閉じ込められてた間も源氏の中じゃ色々あって、その繋がりが良くも悪くも現状に繋がってるのね。


「とにかく、今摂津で起きてることは私に起因してると分かった以上、直接現地に行くしか無いわね。今日中に解決できるとは思えないし、面倒くさいけど親父に1言かけてそれなりの時間家を開けることの許可を取らなきゃいけないわね」


 本ッッッッ当に面倒くさいけど、そういう約束ごとだから仕方ない。許可よこさないとかなったらまた揉めるだろうけど。


「正直許可は簡単に出るというか、下手したら満仲おっさんに満頼もついてくるというか、清和総出で出陣ってのが1番可能性高いくらいだよ」


「え、普通に嫌なんだけど。すでに私たち摂津源氏の問題になってるわけだし、清和は関係ないから黙ってて欲しいわ」


「あははー、それだけ覇成試合で決まったことを破るってのは重いってことだよー。所詮は表舞台を歩く政治屋、武人である源氏の心得というものを何も理解してないらしいねー」


 綱も覇成試合のための戦士として育てられて来たせいか、それをひっくり返すことには納得いかない感じね……。有無を言わさず叩き斬らないか不安になるわ。


「私もご一緒させていただきますよマドモアゼル。満仲殿には私からも口添えをさせていただきましょう」


「はい従姉上! それがしもこの度の件、同行させてほしいであります! 清和に見届人が必要とあらばその大役はそれがしが仰せ仕るであります!」


「家の事情、良く分からない、デス、が、同志たちの疑い晴らす手伝い、する、デス」


「―――うん! ありがとう皆。それじゃ早速準備して播磨守の暴挙を止めるため摂津に向かうわよ!」


 えい、えい、おーと皆で空に向かって拳を突き上げる。こんな日の高いうちから親父の顔見るのは嫌だけど、これはこれでいい機会。原因が私というか親父にあるわけだから微妙に自作自演に見えなくもないけど、色々冷たい目で見られることの多い道満様に摂津の揉め事を解決してドヤれる好機でもある。


 そんな事を考えてると微妙に懐かしい、今まさに考えてた人物に声をかけられた。


「ここにいたのか田舎者。急な話だが氷沙瑪ひさめに続いて酒呑も負傷した。こちらでの人探しの進捗にかかわらず、すぐに摂津に――――」


Burrrrrrnもぉぉぉ!! themえろ!! aaaaaaaaallこらぁああ!!」


「ぬわーーーーーーッ!!!」


 ……………………そっか、そうだよね~、道満さまって死体に取り憑いてるわけだから火車と出会ったらこうなるよね~。呆気に取られてる保昌殿に気になったことを質問する。


「保昌殿、もしご存知でしたら教えていただきたいんですけど、異国の文化にこう――中指を他人に突き立てるというものはありますか?」


「おー……マドモアゼル、淑女たるものやってはいけないことだよ。とても悪いものだ」


「そうですかー」


 燃える肉体から飛び出した道満さまの霊体ほんたいが物凄い形相で中指を突き立てながら摂津の方に飛んでいくのが見えた。これ絶対後で怒られるやつだよねー。


「はあぁぁぁぁぁ……行きたくないなぁぁぁ……」


 さっきまでのやる気はどこへ行ったのかな……。陰鬱な気持ちで道満さまが飛んでいった西の空をじっと眺めた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【源満季】――源満仲の弟。安和の覇成試合では清和側の立会人を務めた。

【源満頼】――源満仲の弟・満季みつすえの長男。先天的に芯が通っていたため当主である祖父の経基つねもとの養子となり武芸を仕込まれる。平安4強の1人。

【源満仲】――源頼光、頼信、頼親の父。平安4強の1人にして最強。

【源高明】――源満仲の元政敵。安和の変で失脚して大宰府に流された。

【源忠賢】――源高明の長男。源氏最強の武士と呼ばれたが、満仲に敗れ戦死。

【源惟賢】――源高明の次男。安和の覇成試合では醍醐側の立会人を務めた。失脚後は出家し仏門に入り、この度の大法要を執り行った。

【源俊賢】――源高明の三男。播磨守。

【源経房】――源高明の五男。播磨権守。

【芦屋道満】――摂津の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。

*【雄谷氷沙瑪】――芦屋道満の腹心。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【検非違使】――平安京の治安維持に従事する役人。当時の警察みたいなもの。

*【安和の変】――源満仲の密告により、源高明が謀反の疑いで失脚した。ということになっている政変。

*【覇成死合】――源氏間で行われる最も神聖な格闘イベント。以下公式ルール。

         ・試合形式は1VS1

         ・武器の使用制限なし

         ・それぞれが立会人をたて不正がないよう務める

         ・死ぬか負けを認めるかで決着

         ・敗者は勝者の要求を1つ飲まなければならない

【権守・権官】――定員に達してる職に定員を超えて任官するもの。今回の場合播磨守がすでに任命されているところに、同じ報酬でもう1人任官されている状態。


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