【酒呑童子】小鬼との闘い
*人物紹介、用語説明は後書きを参照
*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています
2025/2/21 修正
・一部加筆・修正
・段落の設定
「あああああッ! うあああああああッ!」
「ヒャハハハハハ!! 馬鹿ナガキダ。封印サレテイタオレヲ、ワザワザソノ体デ復活サセヨウッテンダカラナ!!」
神社に封じられて数100年、ずっと機会を伺っていた鬼は歓喜と嘲笑を交えた声で己を解き放った愚か者をののしる。
鬼に取り憑かれた少年は重さの均衡が崩れた体によろめきながらお堂の扉を開け、外へと転げ落ちた。
「あーーーー……ううう、うああああああ……」
「ギャハハハ! ドウシタ、動揺ノ余リ言葉モ出ナイカ?」
始めは馬鹿にしていた鬼も一向に言葉を発しない少年を訝しみ、取り付いた体を観察すると襤褸と言うにも余りにもな布切れを身に着け、肌は無数の傷と汚れで見るに耐えないさまに気づいた。
選べる立場になかったとはいえ、貧窮した家庭の子供に取り憑いてしまったことへの苛立ちから1つ舌打ちをすると遠くから祭囃子が聞こえてくる。
普段は着ることもないだろうきれいな服と、鬼の仮面を付けて踊る陽気な人間たち。鬼はそれが己を鎮めるための祭りであることを理解した。そしてこの子供が自分も祭りに参加したいがために、仮面と間違えて己の生皮を被ったことも。
「小僧、テメエノ父チャン母チャンハ祭リニ参加サセテクレナカッタノカ?」
問いかけても返事はあーとかうーと唸るのみで、必死に己を引き剥がそうと体に触れてくる子供に苛立ち怒鳴りつける。
「オイクソガキ!! オレノ言ッテルコトガ分カラネエノ――――イヤ、マジデ言葉ガ分カラネエノカ。クソ知恵遅レカヨ」
鬼はバリバリと頭を掻きむしると、そのまま拳を握り少年の頭を小突いた。
「……マァイイ。コレカラオレタチハ一心同体ダ。テメエガドンダケ馬鹿デモ色々覚エテモラウカラナ。オレノ旅路ヲ退屈サセネエヨウニ必死ニ学習シロヨ」
1つの頭に2つの顔。決して顔を合わせることのない2人の旅はこうして始まった。
*
「んもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
踏み込んだ地面を大きく抉るとそのまま空中で1回転した勢いで大斧を振り下ろすちび鬼。横に跳んで避けるとさっきまで立っていた場所に大穴が開く。
「んだよ、さっきから! もーいい加減に当たれよおおおおお!!」
「冗談言うな。死んじまうだろう――がッ!」
着地したと思った次の瞬間にはすでに追撃のため、避けた方向に踏み切ってくる。まるで飛蝗のようにぴょんぴょん……いや、飛び跳ねるたびに大穴を開けやがる様はそんな可愛らしい表現は似合わねえな。体こそ小せえが旅の途中の海で見たクジラが海面を跳ねる姿を彷彿とさせる迫力がこいつにはある。
ギリギリまで粘りつつ避けるついでに何発か顔面に錫杖を叩きつけてるが、全部が犬歯なのかってくらい尖った歯をぐっと噛み締めたその顔からは全く痛手を与えた手応えがない。避けるのに意識を向けてるせいで腰が入ってないのもあるが、純粋にこのちびが硬え!
それ以上に厄介なのがこいつの考えを完全に把握できるくらいには表情を読めるようになったが――――
「もおおおおおおおおおおおお!!」
(まっすぐ突っ込んでー、ドーーーーーーーーン!!!)
ずっとこれだから駆け引きもクソもねえ! 身体能力に物を言わせた何も考えねえやつがこれほどやりづれえとは思わなかったぜ!!
「ちょ、ちょっとこれまずいんちゃう? さっきから酒呑圧されっぱなしやで」
「いや~~……軽い気持ちで闘いを煽ったっすけど、相手がマジで強えっすねー。基本鬼ってやつぁ肉体のスペックでゴリ押しっすし、あんな小鬼なら楽勝と思ったんすけど……体が出来てねえのにこれは鬼の身体能力軽く超えてるっすよ」
さっきまで賭けだ何だと盛り上がってた奴らはちび鬼の迫力にびびって散っていき、残ってるのは氷沙瑪とそれに隠れるように見守る茨木だけ。
戸締まりをした家の中に引っ込んだ奴らを巻き込まないようにしていたわけだが、ボコボコになった地面に足を取られ―――
「やべッ!」
錫杖を地面につきたて転倒を防ぎつつ踏ん張った右足に力を込め、振り下ろされた大斧に向かって錫杖を打ち付ける!
ギリギリで軌道をそらしたものの、直ぐ様地面から大斧を引き上げ斧頭で顔面を狙ってきやがった! これは避けられねえ―――なら!
ゴオォォォォォォンッ!
せめて硬い部分で受けなけりゃと額で受けたものの、その膂力に勢いよく弾き飛ばされた。
*
全く同仕様もない馬鹿だ。そう鬼は考える。
体勢を崩した時、このちびの正面を向いていたのは自分だった。それなのに無理やり体を反転させ、馬鹿力を自分で受け止めたのだ。
雨や雹のような大したことのない物を避けるためには迷わず傘代わりにしたりするくせに、頼光との闘いの時もそうだが命に危険が及びそうな時は自らが盾になる。
それが言葉や文字をはじめ、生きるうえで必要なことを教わった恩義から来るものか、はたまた持って生まれた優しさなのかはっきりしたことは分からない。
ただ鬼は自身が取り憑いた人間を、いつしか息子――そう呼ぶのは気恥ずかしいから相棒と思うようになっていた。
*
「オイコラ相棒! 気ヲ確カニモテ!」
「……やべ。少し飛んでた」
未だぐわんぐわんする頭を抱えながら、震える膝でゆっくりと立ち上がる。
「何だ……あのちびはどうした? もう勝負は決まったのか?」
「イヤ? オレノ目ノ前デコレ以上無イ位ノドヤ顔シテヤガルゼ」
「……マジかよ、余裕ぶっこいてやがんな」
くそ、振り向こうにも膝の震えが止まらねえ。
「ッタク、コレダカラ人ノ顔色窺ウシカ能ノネエヤツハヨー。チッタァ己ッテモノヲ知リヤガレッテンダ。余裕デ勝テル相手ニ苦戦シテンジャネエヨ」
「……ああ? そうは言うが体力ゴリ押し型はマジで相性ってもんが―――」
何にも分かってねえやつに言い訳をしようとするとドンと腹を殴られる。何だってんだよこいつ!
「要ハ力比ベダロウ? 顔色ヲ見レネエ鬼ノコトハ10年以上ノ付キ合イデモ何モ分カラネエッテカ?」
……自分なら勝てる、そう言ってるわけか? 確かにこいつとは肉体を共有してるが、正直感覚を共有してるわけじゃねえからどれくらいの力を持ってるのか把握してねえ。
記憶を辿っても色々馬鹿にされたことは思い出しても全力がどれほどのものかは全く分からん。何100kgもありそうな錨をぶん投げたからには互角以上なのか……? そうは言ってもこの性格の悪い半身に任せるのは―――
「クダラネエ事ヲ考エル暇ガアルナラ下半身ノ震エヲ止メルノニ集中シナ。足ハ相棒ガ操ラナキャイケネエンダカラヨ」
こいつの顔は俺の側面に付いてるから顔色は分からねえ。だけどその言葉の節々からは絶対の自信とオレに任せろって言う意志が伝わってきやがる。
ったく、オレの人生の難易度を跳ね上げてくれた鬼畜生に命運を託すってのも焼きが回った感じがするが、ここはもう信じるしかねえや。
「分かった。あんまり情けねえ真似したら、回復次第すぐ変わるからな。頼んだぞ……あー……」
さっきのちび鬼との会話を思い出す。鬼は人から付けられて初めて名前を持つだったか?
今までこいつの名前を知らなかったけど、教えなかったとかじゃなくて、もともと持ってなかったのか?
名前も知らねえやつに命を預けるってのもなんだかな……でも普段は散々からかってくるこの外道を名前で呼ぶってのも……ここは本人に聞くか。
「おい、半身。お前名前あるんだっけ? ねえなら……外道丸とか適当に呼んでいいか?」
左耳のすぐ脇、半身の顔がある辺りからはっと息を呑む声が聞こえたかと思うと、たちまち馬鹿みたいな笑い声を上げ始める。
「ハハッ! ヒャハハハハハ!! オラ名前モ持タネエ、チビジャリガヨー! ココカラ先ハ、コノ外道丸様ガ相手ニナッテヤルゼー!!」
「な――、そんなんほとんど自分で付けたようなものだぞ! そんなん自慢にならねえから!!」
「アー、名前ノ無エ半端者ニハ、分ッカンネエヨナー。マ、ソノ身デ味ワッテミルカ? 名持チトノ格ノ違イッテヤツヲ」
「むぐぐぐぐ……んもおおおおおお怒った!! これで勘弁してやろうかと思ってたけどぶっ潰す!!」
やべえな人の文化ってものは半身――外道丸から教えてもらってきたけど鬼の文化は何も知らなかった。厄介事に足を突っ込んじまった気をするが、今はもう外道丸が戦いやすいように動き回ることだけを考えるか……。
遠くからちび鬼が足を踏み切った爆発音を聞き、こっちもようやく震えが止まった足で地面を踏み切った。
【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)
【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。
【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。
*【雄谷氷沙瑪】――芦屋道満の腹心。
【名もなき小鬼】――大江山に住む鬼。名前はまだない。
*【外道丸】――酒呑童子と体を共有する鬼。
【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)




