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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
35/210

【酒呑童子】摂津国に現れた小鬼

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

2025/2/21 修正

 ・一部加筆・修正

 ・段落の設定

 ・氷沙瑪→酒呑の言葉遣いを敬語に変更

 道満に従い摂津に来て数日、消失を免れた物品を他の蔵へと移す作業も一段落を迎えた。


 道満自身、例の鬼の体を使っていたし、その式神扱いということでこんな姿のオレでも堂々と町中を歩けるもんだから、正直ここの方がみやこよりも居心地がいいんだよな。


「お疲れっす、酒呑。主様からもう休んでいいってことっすよ」


 2本の短槍の石突を脇下に差し込み、折れた両足を浮かせながら器用に槍を使い近づいてくる氷沙瑪ひさめ。こいつが馬鹿なことをしなければ、この落ち着ける場所に来ることはなかったわけだが、いかんせん怪我の理由が理由なだけに感謝する気もおきやしねえ。


「何すか、その目は。なんか文句あんすか? ああん?」


「別になんでもねえよ。それよりとりあえずやることをやったわけだが、今後のことを道満は何て言ってた? ここに残ればいいのか、京に戻るのかどっちだ」


「通訳必要ナノ不便過ギルンダヨナア?」


 頼光がいねえとなると声の出せない状態の道満の意向は氷沙瑪こいつからしか伝わらねえのに、いかんせんこいつは綱並に嘘を混ぜてくるからタチがわりい。


「それに関しちゃ【嘘偽り無しに】またいつ燃屍教に襲われるかわかんねえっすから、少なくともあたいの足が治るまではこっちにいて欲しいってことっす。なんか頼光が一瞬で怪我治せるヤバいヤツ探してるって話っすよね? それが見つかりゃすぐっす」


「見つかんなかったら?」


「2~3ヶ月? ま、酒呑はともかく茨木にはずっといて欲しいっすけどね。計算力もなんすけど、あの目分量を絶対間違えないって能力マジ使えるっす。商売を活性化させたい摂津うちとしちゃ、すーぐ分量ごまかそうとする悪徳商人どもを締め出すのに便利っすわ」


 わざわざ強調してきた通り今回ばかりは嘘はついてない。頼光次第ではあるがしばらく用心棒の真似事をすることになりそうだと考え始めた時、街の北側の城門の方から轟音と悲鳴が響く。


「コリャ何カアッタゼ相棒」


「やれやれ、休んでいいんじゃなかったのかよ」


 混乱をきたす人の流れをかいくぐり城門までくると、城門は外側からとんでもない力を加えられたのか町中に門の残骸が散らばり、門があったであろう場所に小さな影が立っていた。


 その影が身長と変わらないくらいの大斧を振り回すと、町全体に届かんばかりの声を上げた。


「わっはははははー!! 売られた喧嘩買いに来てやったぞ、責任者びびってないで出てきやがれー! 大江山に火を付けて、ただで済むとかそんな甘っちょろいこと考えてないよなーもー!」


「早速、用心棒ノ出番ミタイダゼー相棒」


「額に生えた2本の角。大江山って単語も出たしそこに住む鬼なんだろうな。たった1人で乗り込んでくる辺り相当腕に自信有りってところだろうけど」


 オレは頼光と違って戦闘狂というわけでもなし。必要のない戦いは避けてえんだが、相手は喧嘩する気満々のご様子。どうあがいても戦闘を回避することなんざ出来ねえんだろうな……。


 身長は茨木とほぼ変わらんくらいに小さいが油断はならねえ。景気づけに錫杖にくくりつけた酒瓶を開け、一口あおる。


「ん? ん~~~?」


「よう、こんにちは。オレの顔になんか付いてるかいお嬢ちゃん?」


 食い入るように見つめてくる小鬼に軽く挨拶すると、ぱああっと満面の笑みを浮かべ歓喜の声を上げやがる。


「おおおおおお! なんだその体、どうなってんだ!? お前めちゃくちゃかっけええなも―!」


「ヒュー! 見ル目アルガキハ嫌イジャネエゼ?」


 鼻息荒くかっけえかっけえ騒ぐ小鬼に半身は機嫌よくしてるようだが、オレは正直いたたまれねえ。普通に過ごせるのは歓迎だが、目立つのはちげえんだよな……。


「ところでお嬢ちゃん。大江山に火を付けたってやつら、破闇是無鏖留ばーあんぜーむーおーるーとか言ってなかったか? もしそうならこことは無関係だぜ?」


「わっはははははー!! 知らねー!! 麓になんか集まってると思ったら火を付けて逃げたのが山の上から見えただけだし! でもこっちに逃げたし、きっとお前たちだな!!」


 馬鹿なのか素直なのか、清々しいほどの決めつけに思わずため息も出るが、小鬼は持っていた大斧をこっちに向けるとキラキラした目で見つめてくる。


「それにそんなこともーどうでもいいさ! オレ、お前ぶっ潰す! お前かっけえ、それをブチのめすオレはもっとかっけえ! 完璧な理論! もー闘うっきゃないだろ!」


「マジかコイツ。頭源氏かよ」


 やはりというかなんというか、コイツ見てると頼光の戦闘に対する姿勢って鬼に近いっつーか人間離れしてるよな。正直めんどくせえと思ってるところに後ろから陽気な声が響いてくる。


「さー張った張った! 道満さまが式神・酒呑童子対大江山からやって来た小さな豪傑! 世紀の1戦賭けなきゃ損っすよー!」


「いやいや、何を呑気に博打してんねん! 氷沙瑪さんの足がそんなんで、酒呑しかまともに戦えるんおらへんのに危険やろ。さっさと皆を避難させんと!」


 いつの間にか氷沙瑪と茨木も近くに来て様子を伺ってたようだが、何をとち狂ったのか氷沙瑪はオレと小鬼の対戦を賭け事にしようとしてやがる。


「茨木は硬いっすねー。こういう娯楽くらいねえと、末法いまの世の中やっていけねっすよー? 主様も来てるし酒呑が負けても大丈夫っすって」


「……あん時と違ってお天道様が燦々と輝いてるってのに余裕だなあ、おい?」


「そりゃ200mも下がりゃ港――海があるんすよ? あん時は天の時、今回は地の利があるんすよ」


「なら海に放り込むから、道満呼んできて凍らせてくれね?」


 すっかり賭け事気分になった周りの観客共から一斉にぶーぶー文句が飛んでくる。……おいおいオレの本拠地のはずなのになんで敵地みてえになってやがんだよ。


「はあ……仕方ねえな。もうやるしかねえ空気になってるから相手してやるよ。オレは酒呑童子だ。お前も名乗りな」


 錫杖を構えて相手の名乗りを促すと、何やら怪訝な表情で返される。


「いや、名前なんてないぞ? そもそも鬼は人に恐れられて初めて名付けをされるもんだ。もー、そんなん常識じゃんかよ」


「常識ダヨナー。恥ズカシナガラ相棒ノ酒呑童子トイウ名ハ自分デ付ケタモンダケド」


 半身の言葉を聞いた小鬼はハッと鼻で笑い、明らかな侮蔑の目を向けてきやがる。どうやら鬼の世界での常識じゃ笑い事みたいだが知ったこっちゃねえよなあ?


 小声で「うっわなんだよもー、コイツ見かけだけじゃんカッコ悪りー」とか聞こえてきたことで、一気にやる気が漲ってきた。流石にこれはムカつくよなあ?


「よっしゃあ! そんじゃ、いざ尋常に、勝負っす!!」


 氷沙瑪の号令が響きオレと小鬼の戦いの火蓋が切って落とされた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。

【芦屋道満】――摂津の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。

*【雄谷氷沙瑪】――芦屋道満の腹心。

【名もなき小鬼】――大江山に住む鬼。名前はまだない。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【燃屍教】――破闇是無鏖留ばーあんぜーむーおーるーと唱えながら屍体を燃やすことを正義として信仰を集める新興宗教。

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