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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
34/210

【源頼光】浄化の炎

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

2025/2/21 修正

 ・一部加筆・修正

 ・段落の設定


 荷車に乗せた死体、人骨から青空に向かって煙が昇る。こういうものを燃やす時はなんとなくひどい匂いがするものだと思ってたのにとんでもない。それどころかけがれが溜まり重苦しい空気に包まれた場所が清浄なものへと変わってく過程が肌で感じる。


 それもこれもこの青白い炎のおかげなのかな? ここのとこ雨が多かったとはいえ、燃え盛る車輪が草の上に乗ってるのに、草が焼ける気配すらないのはただの炎じゃないわね。


 やることがあると言うから見守ってた儀式に厳かな気持ちになりながら、私はここに転がされてた哀れなご遺体と、それに縛られてたであろう魂が煙とともに極楽浄土へと導かれることを祈り、そっと手を合わせ――……。


「いや、火車じゃん!? 検非違使けびいしが言ってたやつじゃん! 大裳たいもとかいうやつ当たってたじゃん!」


「あははー、ツッコミ遅くない?」


「???」


 私が急に大声を出したもんだから、さっきまで「ばーぜもー(?)、ばーぜもー」言ってたキャスさんがこっちを振り返る。猫さんたちはと言うとさっと姿を消してしまった。精霊という存在のためキャスさんの意思で出したり引っ込めたりできるとはさっき聞いたけど、仲良くしたい私としてはものすごく傷ついてる。


 茨木ちゃんのときもそうだったけど、知らないところで勝手に妖怪にされることついてキャスさんに説明してる後ろから、ガチャガチャと金属の擦れる音が近づいてくるのに気づき目を向けると全身を鉄で覆われた人型の何かが立ってた。


 大裳とは違う明らかな強者の雰囲気に血吸ちすいに手をかける。だけどその緊張は綱の全く緊張感のない呼びかけにより霧散させられた。


「やあ保昌、さっきぶり。こんな場所にわけわからん異国の甲冑とか着てこられると、うちの姫様がびっくりしちゃうから止めて欲しいんだけどー?」


「HAHAHAHAHA! それは済まないことをしたムッシュ綱! 穢物の溢れるこの地に足を踏み入れるとなると生半可な部下も連れてこれず私1人になるものでね! フル装備というやつだ!」


 あー、さっきの右大臣さま配下の最強って人か。異国の服装に興味があるって言ってたしその1つね。しっかし動きやすそうな普段着と打って変わって、なんとも動きづらそうな形をしてる。


「城壁の警備兵より蓮台野から煙が上がっていると報告がありましてね! すわ火車が蓮台野の死体を狙ったかと翔んで参った次第だよムッシュ綱! それよりもその荷車と、猫の外套。どうやら我々が追っていたのは同じ相手だったということですかな?」


 む、確かにそうなんだけどキャスさんにはぜひ仲間になってもらいたい。検非違使に身柄を渡してしまったらそれは難しくなるわよね。


「そうですね、偶然ですがそうだったみたいです。でもこの通り、ここの空気を感じてもらえば彼女が悪いことしてるわけじゃないということ、分かってもらえないでしょうか?」


 まるで鎮守の森にでもいるかのような静謐せいひつな空気を感じ取り、保昌殿もそこは同意とばかりに深く頷く。


「彼女の行いに理解が浅かったからこその誤解で、みやこを騒がせてしまったわけですけど、そこは言い聞かせておきますので、ここはお目溢めこぼしと言うわけにはいきませんか?」


「しかしながらこのような荷車を引いて京を練り歩いていたのは事実で、それは京そのものを焼く大火災に繋がっていたかもしれませんからな。検非違使の長としてそれに対して目を瞑るというのは流石にできないのですよマドモアゼル」


「むぐ……」


 いや、それはほんとにそう。言葉に詰まってるとさっきまで横にいたはずの綱が音も立てずに保昌殿の背後に回ってる。めっちゃやる気なとこ悪いけど、あんたさっき保昌殿個人と敵対する必要はないとか言ってなかったっけ?


「火事デス? ありえない、デス」


 綱と挟み撃ちの態勢を取り、力付くでのキャスさん奪取の流れになりかけたけど、それをぶち壊したのはキャスさん本人だった。


 止める間もなく燃え上がる荷車に飛び乗ると、今なお死体が焼ける中を涼しい顔で立ち、それどころか私の方を向き乗ってこいと手招きをする始末。いやいや、かなり怖いんだけど。


 ……ちょっと待って? さっきから薄っすらと感じてた違和感はこれか。草が焼けないのは雨が多かったせいだと思ってたけど、こんなに近くにいるのにこの炎、熱さを感じないんだ。荷車の縁に手をかけても見た目は手が燃えてる衝撃的なものだけど、実際は荷車の感触があるだけ。


「不思議。これって燃えるのは死体だけってこと?」


「Yes。私たちが生み出した浄化の炎、デス。空につづく煙、主神の元への道標、デス。魂は空、肉体は灰となり大地。あるべき場所、返す、デス」


 綱も保昌殿も炎に手を突っ込み不思議がったけど、そこは歴戦の猛者。そういう術式なのだろうと理解したみたい。


「これなら特に検非違使が追う必要もなくなるのでは?」


「そう、ですな。とはいえ京の民たちが不安がりますので、できれば人目のつかぬようやっていただけると助かりますな」


「良かった良かった、これで一件落着ね。キャスさん、お礼もしたいしこの後一緒に……って、ちょっと待って? 他の燃屍教の信者ひとはどうなの? この炎を使えるのってキャスさんだけ?」


「No。主神の教え信じる人、皆これ持ってる、デス。Magic Item、この国で言う呪道具。全員この炎で死体燃やす、デス」


「おやおやー? なーんか、きな臭くなって来た感じかなー?」


 そう、それは絶対におかしい。


 摂津では道満さまの持つ倉庫が燃屍教によって燃やされたことになってるんだから。

【人物紹介】

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【火車】――ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【猫精霊】――キャスに従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。

【大裳】――安倍晴明に仕える12天将の1柱。陰ながら京の治安維持を務める。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【検非違使】――平安京の治安維持に従事する役人。当時の警察みたいなもの。

*【血吸】――頼光の愛刀。血を吸うことで自己修復する機能付き。

*【穢物】――穢を浴びて変質した生物。俗に言うところのモンスター。

【蓮台野】――墓地のこと。

*【燃屍教】――破闇是無鏖留ばーあんぜーむーおーるーと唱えながら屍体を燃やすことを正義として信仰を集める新興宗教。

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