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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
33/210

【源頼光】猫助け

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

2025/2/21 修正

 ・一部加筆・修正

 ・段落の設定

 屋敷の床下に掘られた穴、そこに伸びる階段を下りた先に広がる秘匿された地下空間の1部屋が私の部屋。床も壁も青生生魂アポイタカラという性質的には覇成死合はなしあいの会場を覆う緋緋色金ヒヒイロカネと同じだけど、目に優しい青く淡い光を放つ金属でできてる。


 脱走を防ぐ目的でやたら硬く、唯一の出入り口には満頼が張り付いてるという徹底された部屋。その部屋での暮らしが今なお続く屋敷の中での私の生活だ。


 そんなふざけた部屋の中でのたった1つの癒やしが、床から5mほどのところにある青生生魂の格子のついた窓を覗く猫さんとのやりとり――――。



「――てなわけだから私が猫さんの味方をするのは必然なのよ!」


「あははー、何の前振りもなく、てなわけだからとか言われても、わけ分かんないんだよなー」


 突然の乱入に驚いた狼たちは私たちを囲むように円状に広がり、動きを止める。


「アナタは……」


「市場でのお礼も兼ねて探してたところだけど、なんか大変そうだし勝手に加勢させてもらうわ。なによりわんころ風情が猫さんを虐めてるのも許せないしね」


 猫耳外套の女性に軽く手を振り味方だと分かってもらい、正面の狼少年――大裳たいも? とか名乗ってたに向き直る。


「どこのどいつかぁ知らねえが、そいつが何者なにもんか分かってるんだろうな? ここ最近(みやこ)を騒がす妖怪、火車だぜ? それに加担するってこたあ、それは京の治安を脅かすってことだぜ?」


「カシャ? 分からないデスね。私の名前キャス・パリューグ。それにこっち猫精霊ケットシー。アナタ勘違いしてマス」


「そうやって本人の知らないとこで勝手に妖怪とかいうの良くないと思うわよ? 私的には変わってるなくらいにしか思わないけど、人によっちゃ犬の耳と尻尾が生えたあなたのことを、妖怪だって騒いだりするんじゃない?」


「いやいや……、この場で1番妖怪じみてるのは前足で得物持って2足歩行してる猫――」


「なんにせよ私にはこの人たちを助ける理由がある。それでも戦おうというなら少し痛い目みるわよ」


 綱が猫さんのことを不当に貶めてるのを無視し、大裳に向けてしっしっと追い払うように手を振る。

すると大裳はこめかみに青筋を立て、怒りに震える声を上げた。


「おうおうおう、弱え人間のくせに随分とでかい態度とってくれるじゃぁねえかい。妖怪から、4凶から、影であっしらがどんだけ領民を守ってんのか知りもしねえで、のほほんと暮らしてるってのにいい身分だな」


 大裳がすっと右手を上げると20匹の狼が重心を落としいつでも動ける体制を取る。


「武士の格好をしてるけどよ、京に住んで10数年、この京に強え女武士がいるなんてついぞ聞いたこたねえ。ごっこ遊びも調子に乗るとひでえ目に遭うってことを、よーく覚えておきな」


 上げた右手を振り下ろすと同時に再びぐるぐる回り始める狼たち。


 ……うん、遠目に見た時も思ったけど何か意味あるのかなこれ? 絶対に逃さないという意思表示? 威圧的な意味を持った行動? 別に私と綱だけなら、何か仕掛けるのを待ってあげてもいいんだけど、猫さんが巻き込まれてるってのがなー。


 穢物じゃない普通の狼だし、殺しちゃダメだと綱に視線を飛ばし確認し合うと、輪を作る1匹を蹴り飛ばし輪の中に飛び込んだ。


「わん?」


 素っ頓狂な声を上げる大裳をよそに回転の軌道に割り込み、眼前に迫った狼を左の裏拳を払い除けると返す刀で続く狼の鼻っ柱に右の正拳を叩き込む。さらに大口を開けて飛びかかってきた1匹の喉を左手を下から差し込む形で掴み、そのまま体を1回転させその後ろの狼に投げつける。


 輪の反対側に目をやると綱もだいたい同じくらいの狼を地面に転がしてる。視線で意図を汲み反対方向に突っ込んだあたりはさすがね。


 物の数10秒の間に半数がやられてすっかり怖気づいた残りの狼たちは、大裳の後ろにまわり縮み上がった。


「な、なな、な、なかなかやるじゃぁねえか! けどなあ! あっしは安倍晴明様が式神、12天将が1柱の大裳!! 手下どもと一緒だと思ったら怪我する――――」


「いや、名乗りは始まる前にしよ?」


「わん?」


 後ろから襟を掴み上げると、何が起こったかわからないといった風にくりっとした目玉で小首をかしげる大裳。む……わんころも悪くないわね……っていけないいけない。私は猫さん派だ。


「あー……さっきも言ったけど私にはあの人たちを助ける理由、恩があるのね? 正直言って私とあなたじゃ実力が違いすぎるしここは退いて欲しいんだけど。もしあなたのご主人に叱られるっていうなら私からも説明してあげるからさ」


「てやんでえ! そんな事ができるかってんだ―――――痛ててててててて!?」


 宙ぶらりんの状態から繰り出された蹴りを受け止めて、首に巻くかのように背骨を私の後頭部に当てる。そのまま襟を掴んでた右手を大裳の顎へとずらし、少しずつ背骨を曲げるように力を込めていく。


「私としても同じくらいの力を持ってる相手だと最後まで戦いたいなって思うんだけど、弱いもの虐めは気が引けるのよ。だからお互いのためにお願い」


「これのどこがお願いだ―――――うぎぎぎぎぎぎぃ!?」


「あ~……源氏式のお願いしか知らない娘だからさっさと諦めたほうがいいよー? あっちの連中しょっ引きたいにしても、日を改めて態勢を立て直しなって。意地張ると……折られるよ?」


 綱の言葉で心が折れたのか大裳は1声遠吠えを上げると、起き上がった狼たちを連れ東の船岡山の方へと去っていった。


「ふう。とりあえず一件落着かな? キャスさんだっけ? 怪我とかは……って普通に治せるから大丈夫か」


 腕の治療をしてくれた恩人の方に振り返ると、猫さんたちがキャスさんの後ろにさっと隠れてしまった。え、なんで? 狼に囲まれてた時でさえも気丈に立ち向かってたのになんで私にはそんな態度……?


「いやー、そりゃ源氏式の脅迫おねがいなんて周りから見たらドン引きだし? これからは少しずつ周りに合わせていこ?」


「いやいや! あれは敵対者に対してだけだし、それにこれ以上痛めつけたくないっていう優しさからの行動だし……!」


 そんな言葉も虚しく猫さんが寄ってきてくれることもなく、怪我1つしなかったのに胸の痛みで思わずへたり込んでしまった……。

【人物紹介】

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【火車】――ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【猫精霊】――キャスに従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。

【大裳】――安倍晴明に仕える12天将の1柱。陰ながら京の治安維持を務める。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【青生生魂】――緋緋色金と同質だが、不純物の割合が違うため青色をしている。

*【覇成死合】――源氏間で行われる最も神聖な格闘イベント。

【緋緋色金】――西洋のオリハルコンと似た性質を持つ緋色の希少金属。硬い・軽い・熱に強いと武器や防具に最高の素材だが、それ故に加工が難しい。

*【穢物】――穢を浴びて変質した生物。俗に言うところのモンスター。

*【4凶】――世界をめちゃくちゃにしたとして、指名手配中の大戦犯。鴻鈞道人(混沌)・陸圧道人(アラクシュミ)・スクルド・檮杌の4柱を指す。

*【源氏式お願い】――明らかに力の劣った相手に対する関節技などを決めながらの降伏勧告。今回の技はアルゼンチンバックブリーカー。

*【船岡山】――平安京の北に位置する標高112mほどの低山。地下に大空洞があり12天将と呼ばれる式神たちが拠点としている。安倍晴明の屋敷にほど近い一条戻橋と地下通路でつながっている。

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