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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
32/210

【源頼光】蓮台野

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

2025/2/21 修正

 ・一部加筆・修正

 ・段落の設定


「ヂュウウウウウウウウッ!!」


 飛び出してきたネズミの姿をした穢物けがれものを斬り伏せる。蓮台野にやって来た私たちは―――


「ギシャアアアアアアアッ!!」


 飛び出してきた蛇の姿をした―――


「ゴゲエエエエエエエエッ!!」


 飛び出して―――


「ブウウウウウウウウンッ!!」


 飛び―――


「いや、多すぎるわ!! ネズミ! 蛇! 鶏! 蜂! 穢物の宝庫か! 蓮台に乗って極楽に行くための場所ってもっとこう……人生最期の穏やかな場所とかそういう感じじゃないの!? そもそもご遺体ってお墓の下に埋められた上で供養されると思ってたのに、そこらにゴロゴロしてるし!!」


「あははー、それは仕方ないでしょー。もともと穴掘って埋めるだけでもお金かかるのに、見ての通り護衛付けないと近づけないからどんどん値上がったっていうね。そんなわけで金のある庶民でもせいぜい自由武士を雇ってここに死体を投げ込ませて風葬、金のないのはみやこの道に転がしてるんだよー」


「そんな雑なことしてたらそりゃ穢も溜まるわよって感じね……。城壁作って穢物に備えるより、朝廷がお金出してきちんと弔ってあげたほうが穢物の対策としていいんじゃないの?」


「んー、死体なんて穢の最たるものだし、身分が高い人間ほど関わりたくないはずだからねー。妖怪だと思ってたからこそ検非違使けびいしが動いてたわけだろうし、人の仕業なら話し合いの結果放置! ってなっても驚かないよー」


「なんか死体を処理してくれるのって、すごくありがたいことに思えてくるわね。あ、それで道満さまが倉庫さえ燃やさなければ見逃してたみたいのことを言ってたわけか」


「あははー、とはいえせっかくここまで来たけど、この様子じゃ燃屍教徒ってのも手が出せないね。戻って猫耳外套の女とやらを探さない?」


「そうね、弟くんの仕事の手伝いのつもりで来たけど、私たちだから歩けるってだけかも」


 無駄足になったとはいえ、人の最期がこんな感じになってることには色々考えさせられる。一生懸命生きた結果がこんなんじゃ末法思想とやらが広がってるってのも分かるわ。


 京に戻ろうと踵を返したとき、遠くから風に乗って猫さんの声が聞こえてきた。


「猫さん? 他にも色んな鳴き声が聞こえるけど、これって同士討ちかな?」


「いや、穢物は負の感情に体を支配された生物で、見た目が違う者同士でも互いに争ったりはしないよー」


「ってことは猫さんが襲われてる可能性があるってことね! 行くわよ綱ッ!」


「いやいや、猫の穢物だったらどうすんのよ……」


 綱のぼやきを聞き流し声の方に向かうと、はたして猫さんと狼が戦ってた。意外なことに辺りには穢物の死体が転がり、争ってるのは普通の動物どうし。


 だけど20匹はいる狼に対し、猫さんはわずかに3匹。それぞれが前足に得物を構えて立ち上がり、中心の人物――私たちが探してた猫耳外套の女性を守るように陣形を組んでる。


 それを忌々しそうに見つめるのは、灰色の癖っ毛がお尻まで伸びた少年。その癖っ毛の中から尻尾が飛び出し、頭の上には犬のような耳が生えてるのが分かる。


「やれやれ往生際のわりい奴らだぜ。手下ども絶対に逃がすなよ! 京の治安を脅かすふてえ奴らはこの大裳たいもが許さねえ!」


 大裳と名乗った狼少年? が号令を上げると、狼たちはワンワンと吠え立てながら猫さんたちの周りを高速で回り始める。


 絶体絶命の危機を救うため、私はその中へと飛び込んだ。

【人物紹介】

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【火車】――ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【猫精霊】――キャスに従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。

【大裳】――安倍晴明に仕える12天将の1柱。陰ながら京の治安維持を務める。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【蓮台野】――墓地のこと。

*【穢物】――穢を浴びて変質した生物。俗に言うところのモンスター。

*【燃屍教】――破闇是無鏖留と唱えながら屍体を燃やすことを正義として信仰を集める新興宗教。

*【自由武士】――主を持たない武士。穢物退治や物資輸送の護衛などで生計を立てる。俗に言う冒険者てきな方々

*【末法思想】――仏の教えが行き届かなくなったクソみたいな現実より、来世にワンチャン期待する思想。

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