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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
31/212

【源頼光】捜索

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

2025/2/21 修正

 ・一部加筆・修正

 ・段落の設定


「うーん……あんなに目立つ格好してたのに誰も見てないなんて」


「あははー、貞光的なあれじゃないよねー? だとしたらお手上げなんだけどー?」


「茨木ちゃんみたいなことを言う……」


 貞光とか道満さまみたいな霊的な何かじゃなかったと思うんだけど、ここまで目撃情報がないと自信がなくなるわね。


 あの後、酒呑と茨木ちゃんは道満さまと一緒に摂津へ。私と綱は猫耳外套の女性を探すことになった。人の多いとこに行くことを酒呑は嫌がってたけど、安倍晴明と並ぶ陰陽師として知られる道満さまの式鬼と言えば問題ないとのこと。陰陽師の修行もしたことないし呪符も書けないのにーと言ったらお尻を蹴られたけど、やっぱり肩書というものは凄い。


 市での聞き込みも空振りに終わり、いよいよ足で探し回るしかないということで朱雀大路に出ると、離れたところで検非違使けびいしが数人集まって何かを話してるのが見えた。


「あれって弟くんじゃない? なんか仕事中みたいだけどダメ元で聞いてみよっか」


「あー……出来れば関わりたくないんだけどなー」


 この前の覇成死合はなしあいでいいように使ったから気まずいのか、それとも弟くんが右大臣に仕えてるからなのか。とはいってもそこは姉弟だし? こういう時は持ちつ持たれつってことで。あてもなく1人の人間を探すのも無理があるし、向こうも何か困ってるならそれを手伝ってあげればいいんじゃないかな。


 近づいていくとそれに気づいた1人の検非違使が仕事の邪魔だと言わんばかりに顔をしかめるも、それがみるみるうちに青ざめ、持っていた棒をこっちに突き出してきた。あからさまに震えてるのはなんなんだろ?


「あれ? もしかして私、弟くんに嫌われてる?」


 心当たりは……あるような無いような? あの時もドン引きしてたけど、私に対してだけじゃなくて親父まんじゅうも込での話だと思ったんだけど。


 そんな風に考えてると棒を持って震えてる男たちを押しのけて、他の検非違使よりも頭ひとつ飛び出た長身の男が前に出てくる。


 昔、富ちゃんが被ってた代わった形の頭巾――帽子ハットというらしい――を被り、服装は氷沙瑪ひさめと同じシャツとパンツというもの。帽子から癖のある髪の毛が肩まで伸びてるのを見ると髷を結ってないのも珍しい。昼前にあった猫耳外套の子と違い、明らかに日ノ本生まれの顔だけど異国の人なのかな?


「ボンジュール、ムッシュ綱。キミが近づいて来ると周りが怖がってしまって、困ったものだ」


「あははー! こっちも近づきたくなかったんだけど、うちの姫様がどうしてもってことでねー」


「知り合いなの? てっきり検非違使に尋問されてる不審者かと」


「姉上……その言い分はあまりにも」


「HAHAHAHAHA! いやいや、ムッシュ綱と親しく出来る人間は相当な変人ですからな! 間違いではありませんよマドモアゼル」


 私をたしなめる弟くんをよそに長身の男は声を上げて笑うと私の前に片膝をつき、私の左手を取りその甲に口づけをする。


「お会いできて光栄です、マドモアゼル。私は藤原保昌。長らく九州に赴任していた折、異国に傾倒したことで皆からは『異国かぶれの保昌』などと呼ばれております。お噂はかねがね綱や頼信から伺っておりました」


「ご丁寧な挨拶ありがとうございます。私は源頼光。先程は無礼なことを口走ってしまい申し訳ございませんでした。異国はいいですよね、その格好も無駄にヒラヒラしてない分動きやすいですし、私も欲しいなと――」


「分かりますかこの良さが!」


 興奮した保昌は私の両肩を掴むと、ぶつかるんじゃないかというとこまで顔を近づけものすごい熱のこもった瞳で見つめてくる。さっきの手への口づけといい距離がやたら近いのも異国かぶれのせいなのかな?


「はいはい離れた離れた。保昌ーこんなとこ嫁さんに見られたら嫌われるよー?」


「おっとそれは困る! 私の妻は京で1番美しく料理上手でもありましてな! その妻に愛想を尽かされては生きる気力が無くなってしまいますよ。HAHAHAHAHA!」


 肩を掴んだ両手を上げやましさなんてないと主張する保昌殿。別に妻を何人も持つのなんて当たり前なのに、1人の妻だけを愛してる感じなのは貴族にしては珍しいわね。


「んで? 検非違使が雁首がんくび揃えて何やってんの?」


「ああ、近頃『火車』なる妖怪が死体を燃え盛る荷車に乗せて回ってるということだからね。その調査を行っているところだよ」


「妖怪?」


 道満さまによると宗教団体の仕業って話らしいけど、こっちでは妖怪の仕業になってるのね。でもそれって複数の下手人がいるのに、1人だけ捕まえて、はい終わりってなるんじゃない?


 この前は弟くんには迷惑もかけたし、その埋め合わせも兼ねて私たちの持ってる情報を検非違使に共有しとこ。



「――なるほど、燃屍教ですか。そのようなものが蔓延はびこっているとは世も末ですな」


「ええ。でも摂津じゃ異国との貿易品を集めてた倉庫を燃やされたりと大変だったみたいですし、死体だけで建物に被害が出てないなら――」


「なんとッ!! 水夫たちが命がけの航海の末、運んできた物を燃やすなどまさしく邪教ですな! なるほど、それでマドモアゼルたちもその邪教徒どもを根絶やしにせんと京を警邏けいらしていると?」


 民家が燃やされたりしたら大変だよねって話をしたかったのに、異国の品物が燃やされたことに怒ってるのはまさに異国かぶれって感じ。話が逸れるのもアレだし、ここはしっかり私達の目的を伝えないとかないと。


「いや、私たちは私の右腕を――――もがッ!?」


「いやー、昼前に東市で猫耳の付いた外套を羽織った女性とすれ違ってさー。頼光が猫好きなもんだからどこで手に入るのか聞きたくて探してるんだよねー」


「とても平和で羨ましい限りですよ姉上……」


「HAHAHAHAHA! 私も異国の服飾を収集するのが趣味なのでお気持はよくわかりますよ! こちらで見かけたらお知らせいたしましょう。源満仲殿のお屋敷でよろしいですかな?」


「ありがとうございます。そんなわけで燃屍教がらみとは違うからお手伝いはできませんけど……あ、逆にこっちが先に死体を集めてひと纏めにしておくとかどうでしょう? それなら別々にやって来ても一網打尽にできるかも?」


「なるほど……下手人が1人じゃないとするなら、罠を張るほうが得策かもしれませんな。では我々は1度役所に戻り下手人が複数いるという前提で検討させていただきます。オ ルヴォワール!」


 角を曲がるまで手を振り続ける保昌殿を見送ると、綱が窘めるように肘で小突いてきた。


「頼光さー、怪我を瞬時に治せる人物なんてどこでも欲しがるんだから迂闊に口に出さないようにしてよねー? 探すだけ探してもらって、口説き落とすのはこっちがやらないと。保昌個人とは敵対する必要はないけど、道満とは敵対する派閥の人間だしさ」


「それは確かに。―――それはそうとあの人相当強いよね?」


 さっき私の両肩を掴んだ手の感触を思い出す。


「お、さすが頭源氏だねー。能力を全部見せたら仕事仕事で面倒くさそうってことで隠してるけど、右大臣の配下じゃ間違いなく最強だと思うよー。なんか重用されてるっぽい頼親なんて目じゃないし、頼信もせっかく近くで働いてるなら色々感じ取れって話だよねー」


「それじゃ私たちも人探ししつつ死体集めてみる? 恩を売るっていうかさ」


「うーん、その辺に転がってんのは検非違使がやるだろうし別に……って待てよ? 平安京の中ばかり考えてたけど、死体って言えばあっちの方が……」


「ん? どこのこと?」


「あははー、そら蓮台野でしょーよ」

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

【芦屋道満】――摂津の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。

*【雄谷氷沙瑪】――芦屋道満の腹心。

【火車】――ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【源頼信】――藤原道長配下。頼光の異母弟。河内守内定。赴任までは検非違使を続けている。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源頼親】――藤原道長配下。大和守。道長からは人斬り上手と重宝されている。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【検非違使】――平安京の治安維持に従事する役人。当時の警察みたいなもの。

*【覇成死合】――源氏間で行われる最も神聖な格闘イベント。

*【燃屍教】――破闇是無鏖留ばーあんぜーむーおーるーと唱えながら屍体を燃やすことを正義として信仰を集める新興宗教。

【蓮台野】――墓地のこと。

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