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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
30/211

【源頼光】治療

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

2025/1/13 修正

 ・一部加筆・修正

 ・段落の設定

「おう嬢ちゃん。良い品入ってるよ、寄っていきな!」


「あら月子ちゃん、こっちも見ていって頂戴な。」


「おっちゃんもおばちゃんもありがとな! 後でゆっくり寄らせてもらうわ!」


 私が大怪我したことで親父まんじゅうに殺されかねない綱の代わりに迎えに来てくれる茨木ちゃんの後ろを歩いてると、こっちに来てからまだ1ヶ月も経ってないのに、市を歩いてると右から左から声をかけられる。商売の勉強ということで市に入り浸り、あれこれ質問して回ってるうちにすっかり顔なじみが増えたみたい。


 もちろん拠点のある大枝山からみやこまでの道のりは、茨木ちゃん1人じゃ危険なので綱が大内裏おおだいりの上東門まで送ってるらしいけど、私と合流してからは市を通るので綱はそのまま先に拠点に戻ってる。


 ……ちなみに茨木童子と名乗らず『月子』という偽名を使った慎重さを褒めたら「いや、こっちが本名やし」と呆れられたけど、今更やし茨木ちゃんでええよとのこと。いや、ほんとごめんて。



「痛ッ!!?」


 団子屋に呼び止められた茨木ちゃんを待っていると、いきなり後ろから怪我してる右腕を誰かに引かれた。


「アナタ、猫精霊ケットシーが見かけタ、北東の屋敷の人デス?」


「え? なに?」


 振り向くとやや視線の下。猫さんの耳がついた外套の中から覗く、赤い髪が特徴の女性が、翡翠のような緑の瞳で私を見上げてた。


 鬼の体を使ってる時の道満さまよろしく体全体を覆うような服装だけど、袖がある道満さまの服装と違い首元を紐で結んだ中央開きのもので、そこから伸びた腕が私の砕けた右腕を掴んでた。


「Too terrible。酷い怪我、死の匂いしマス。死体、触れたデス?」


「死の匂い……ええと穢物けがれもののことかな? それなら何体か倒したけど……」


「ケガレモノ……Monsterデスね。ソンビや食屍鬼グールデス? 」


 ……やばいところどころ何言ってるかわからない。瞳や髪の色からたぶん異国の人なんだろうけど、茨木ちゃんを呼ぼうにも、団子屋のおばちゃんとなんか楽しそうに話してるし!


「Be careful。死者、生者を羨むデス。ソンビや食屍鬼の傷、病のもとデス。Fortunately、怪我だけで済んでるデスが」


 何かぶつぶつと呟きながら掴んだ手で支えつつ、もう片方の手で私の右腕をさする。


 どうしよ……悪化するかもしれないし止めさせるべきなんだろうけど、なんか高潔な雰囲気がするのが止めるのを躊躇わせるっていうか……。


「待たせてごめんな。おばちゃんがなかなか離してくれへんかったから……でも、仰山おまけしてもろうたから拠点戻ったら皆で食べよ」


「あ、ちょうど良かった。茨木ちゃん異国の言葉分かるって言ってたよね? この人の言ってることも分かる?」


「この人って誰や? ……まーた頼光にしか見えへん相手やないやろな?」


 あれ……? あんなに目立つ格好だったのに見渡す範囲からもう消えてる。確かに普通? の人間だったはずだけどこの神出鬼没な感じは猫さんみたいね。


 首を傾げながらも市の喧騒を抜け、朱雀大路で綱と合流した私達は拠点へと向かった。



氷沙瑪ひさめが重傷!?」


 拠点でまったりとお茶をしてると、そこにやってきた道満さまの言葉に思わず団子が喉に詰まりそうになった。道満さまとしても信頼してる腹心に起きた一大事に気落ちしたのか、声が震え頭を抱えてる。


「芦屋の港にある倉庫に火を点けられた。その下手人を追う中での負傷だと聞いている」


「道満と力の共有をしていない時に無理した感じか? 綱みてえに腹の中じゃ何考えてるか分からねえ奴だし、勝ち目のねえ喧嘩をするほどバカじゃねえと思うんだが」


「あははー、同感だけどなんでボクを引き合いに出したかなー? ん?」


 余計な1言で綱に絡まれてる酒呑を見ながら、3本目の団子に右手を伸ばす。少しの静寂の後、道満さまが言葉を絞り出す。


「…………いや、いつもの習慣で6mほどの段差から飛び降りて両足を折ったらしい」


「クソバカジャネエカ」


 どえらい勢いで柱を殴りつける道満さま。これはあれね、完全にブチギレ。沈痛な思いで声が震えてると思ったら怒りを抑えてたわけかー。


 怒りの矛先がこっちに向きませんように、くわばらくわばら。


「それでだ。その火を点けて回っていた奴らだが、どうにも例の燃屍教と呼ばれる宗教が唱える念仏を口ずさんでいたという。死体を燃やして回るだけならば静観するつもりだったが、倉庫を燃やすとなれば看過できん」


「市でもなんか夜に青白い鬼火が立つって噂になっとるな。そこらに放置されとった死体がなくなっとる言う話やしそれも燃屍教ちゅう奴らなんやろか?」


「もぐもぐ、なんか『火車』って妖怪のせいって噂になってるねー」


「おそらく妖怪ではなく燃屍教徒の仕業なんだろうが、氷沙瑪が動けん以上摂津に人手が欲しい。力仕事のできる酒呑と事務処理能力のある茨木には――――おい、そこの腹ペコ」


 んぐッ!? 団子を食べてる時に声をかけられて喉に詰まった! 湯呑み湯呑み―――。


 畳の上を擦るように動かす右腕を掴んだ道満さま。表情こそ変わらないけど私に対してブチギレてるのはよく分かる。


「田舎者……貴様初めて出会った時は早く手柄たてたいとかぬかしていたのに舐めてるのか? 治るまではおとなしくしてろとは言ったが、砕けた右手を使って団子食ってたり湯呑み探したりと本気で治す気があるのか? あ?」


「あははー! ほんとだ。あまりにも自然に右手使ってるから気づかなかったよ!」


 ……………………あれ?


「おい! だから怪我をしているのに無理に動かすなと―――!!」


 急に目の前で右手を振り回す私に非難の声を上げる道満さまだけど、正直今は相手してる場合じゃない。昨日、というか今朝までは確かに痛くて拳を握ることすら出来なかったのに!


 固定するために太い木の棒と一緒に巻いてた布を剥ぎ取ると、どす黒く変色して倍近く腫れ上がってた右腕は、すっかりきれいな腕に戻ってた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

【芦屋道満】――摂津の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。

*【雄谷氷沙瑪】――芦屋道満の腹心。

【火車】――ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【大内裏】――平安京にて天皇陛下のおわします場所。行政施設や祭事を行う殿舎がある。

【上東門】――大内裏の北東にある門。土御門大路と大宮大路の交わる場所にある。

*【穢物】――穢を浴びて変質した生物。俗に言うところのモンスター。

*【芦屋】――摂津国府。異国との貿易拠点となる港湾都市。

*【燃屍教】――破闇是無鏖留ばーあんぜーむーおーるーと唱えながら屍体を燃やすことを正義として信仰を集める新興宗教。

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