【キャス】神託
*人物紹介、用語説明は後書きを参照
*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています
2025/1/13 修正
・一部加筆・修正
・段落の設定
風が死を運んできた。
まず1人の村人の体の1部が黒く変色し、痛みを訴えながら嘔吐を繰り返し死亡した。
死は看病にあたっていたドルイドである父さんにもその手を伸ばし命を奪い去ると村はパニックとなり、収まったときには村で生きている人間は私だけとなっていた。
楢の森の中、ヤドリギの付いた聖樹の下に掘った大穴にすべての村人たちの死体を放り込み終えると、疲れから私は地面に座り込む。
「……キャス、気をしっかり持つニャ。ニャーたちがついてるニャ」
1匹が元気づけようと声をかけてくれると、他の猫精霊たちも、そうニャそうニャと声を上げる。
とはいえ、私はもう疲れてしまった。父さんだけじゃない母さんも妹も、良くしてくれた村の皆も誰1人残っていないのだから。
立ち上がり穴の縁に立つと、エプロンのポケットに仕舞っていたナイフを取り出し喉に当てる。
「止めるニャ―――!!」
猫精霊の声が聞こえるも、手に力を込めようとしたその時、木漏れ日の差す雲ひとつない空から雷鳴が轟いた。
「ああ………………!」
辺りを背の高い木が囲んでいるにも関わらず、雷は大穴を直撃し中の村人たちが炎上する。
あまりの光景に呆然と立ち尽くす私からナイフを奪い取り寄り添う猫精霊。そんな私達の前にその女性は立って……いや、浮かんでいた。
「全く、こんな病原菌まみれの死体を放置なんてありえないわ! さっさと燃やさないとか本当に人間って愚かね!」
金色に輝く鎧の背中から生えた鳥のような純白の羽を羽ばたかせ、ツインテールにまとめたブロンドの髪を風になびかせる女性はさも正しいことをしたと言わんばかりの態度をとる。
「天使……? ――ッ! それよりも早く火を消さないと! 村人が燃えちゃう!」
「はあ!? あんた馬鹿じゃないの! 危険な病原体を世界から消し去ってあげた私の慈悲に感謝して咽び泣くところじゃない! それを無に帰そうとか無知ってのは本当に罪ね!」
持っていた槍の石突で私を突き、尻餅をついた私を蔑むような目つきで見て天使は続ける。
「私は女神スクルド。天使ごときと一緒にされるのは不愉快だわ!」
「でも、女神様。自分の肉体が残ってないと救世主様が再臨される審判の日に復活が―――」
はぁ~~~~~……っと大きな溜息を吐いた女神は槍を回して私に切っ先を向ける。それに対して私に寄り添ってくれてる3柱の猫精霊が私を守るように動き、女神に向かって牙を向いた。
「あら、精霊使いなのね。このブリターニャに住む精霊信仰者にまで救世主信仰が広まってるとか、全く笑えないわね」
こめかみに手を当て、ふるふると首を振った女神は憐れむような目を向けた後、子供に諭すように言葉を続ける。
「いいかしら? この世の絶対神とは我が主神オーディン様ただ1柱。そのオーディン様があんたたち人間に望むのは、来る最終戦争に於いて神の軍勢の1人となって戦うため、生きている間に少しでも肉体を鍛え、技を磨き、知恵を蓄えることよ! そして死んだ者はヴァルハラに導かれるからこの世に再生することなんてないわ! 死体なんてものは病のもとにもなるしさっさと燃やしてしまいなさい!」
勢いに気圧された私の前に降り立つと私の頬に細く長い指を当て顔を近づけてくる。
「本来不死への期待を説くべき精霊信仰者が、くっだらない新興宗教に耳を貸すなんて愚かしいにもほどがあるけど……私があんたに神託を下してあげる。あんたは命あるものが永くこの世界で研鑽を積めるよう環境を整えなさい。命ある者を健康に保ち、死体を燃やして回るの。『Burn them all』道に迷った時はこの言葉を唱えるといいわ。主神様の望みを正しく理解し、実行すればすでにヴァルハラに旅立ったあんたの大切な人たちは必ず報われるはずよ」
いつの間にか目から涙がこぼれ落ちていた。悲しみに飲み込まれ既に枯れ果てたと思ったそれは、与えられた希望により再び湧き出てきたのだった。
*
――それから15年。ブリターニャの死体を燃やして回った彼女は魔女と呼ばれ手配されるも、西の大海を渡りマヤー文化国で医術を修めつつ、さらに西の大海を渡り日ノ本へとやって来ていた。当時7歳だった少女もすっかり大人となり、羅城門の上から平安京を見下ろす。
「What the hell。嫌な匂いの街デス。死と悪意の匂いデス」
「全くニャ! こーんな大きな街なのにそこら中に死体が転がってるニャ!」
「行きまショウ。この街、正しい生者の街へ変える。Burn them all!!」
「「「Burn them all! Burn them all! Burn them all!」」」
夜の羅城門に号令が響くと、3柱の猫精霊が引く青白い炎に包まれた手押し車が音もなく動き始めた。
【人物紹介】
【キャス=パリューグ】――ブリターニャ出身の精霊術師。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。
【猫精霊】――キャスに従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。
【スクルド】――4凶の1柱。北欧神話に出てくる3姉妹神の末っ子。未来を司る。
【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)
【ドルイド】――女性形はドルイダス。ケルトの司祭。精霊や自然を信仰する。
*【ブリターニャ】――イギリス。
【ヴァルハラ】――死者の魂が集まるオーディンの宮殿。
*【マヤー文化国】――メキシコ周辺に栄える国。火と文化を伝えた神を信仰し、世界最高峰の医療技術を誇る。なぜか公用語はスペイン語。
*【羅城門】――平安京の南門。実際はフランスの凱旋門みたいに門だけが置かれてる感じだったが、この世界では穢物対策で城壁で囲まれているため、ちゃんと門としての機能がある。




