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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
1章 摂津源氏結成
28/211

幕間 道満先生の術式講義

この物語における術(魔法)についての説明回になります


*人物紹介、用語説明は後書きを参照


2025/1/05 修正

 ・一部加筆・修正

 ・段落の設定

 摂津源氏を結成してから半月ほど、道満さまから術についでの講義があるということで私たちは拠点へと集められた。綱と酒呑はかったるそうにしてるけど、茨木ちゃんはふんすふんすとやる気に満ちてる。


 約束の時間を少し過ぎたかなって頃合いにスパーンと襖が盛大に開かれる。


「道術の講義の時間だオラァッ!!」


「やかましい。静かに入れんのか貴様は」


 いきなり広間に入って来た氷沙瑪ひさめが、続いて入ってきた見知らぬ男にお尻を蹴られて畳の上に転がりうんうん唸ってる。


「あ、すまん。つい癖で」


「すまんじゃないっすよ!? その体の時は蹴るなと何度お願いしてきたことか!」


 あーなるほど! これが話すことが出来るっていう道満さまのみやこ用の肉体ね。見た目だけじゃなく声まで男だから気づかなかった。鬼じゃなくてこっちでも一切表情が変わらないのは分かりやすいわ。


「ん? 鬼の体の時なら良いの? どういうこと?」


「今後仲間としてやってくんで教えとくけど、あたいと主様は魂で繋がってるっていうか、主様の使ってる肉体の力があたいに反映されるんだ。鬼の体の時は蹴りの力より体の頑丈が勝るから痛くないんだよ」


「あー」


 湿田に上半身が埋まって道満さまの霊魂が肉体から離れた時、酒呑に簡単に抑えられてた姿を思い出す。酒呑の力が強いのもあるだろうけど、あの時はそもそも怪力が封じられてたのか。それを聞いた酒呑が後ろから耳打ちしてくる。


「半分本当で半分嘘ってとこだな。この前謀反をそそのかしたことといい、こいつのことは―――」


「うっせえ! 人間なんだから嘘が混ざるのも仕方ないだろ。そんなんをいちいち指摘したりするから他人ひとにハブられて来たんだろボッチ野郎!!」


「センセー、氷沙瑪サンガ酒呑クン泣カセマシター」


「精神力を鍛えろ。さて、私も忙しい身の上。さっさと始めるぞ」


「はい、道満さま! 講義の内容を聞けばうちでも術を使つこうたり、呪符を書いたりできるんやろか!?」


「不可能ではないが……貴様の場合難しいだろうな。しかし随分とやる気だな」


「そらあんな呪道具ちゅうもん見たらやる気になるわ! 金の匂いしかせえへんやん! 難しい言うても不可能やないんなら、うちはやるで!」


 茨木ちゃんはこっちにきてから毎日市に足を運んでる中で例の職人さんに出会ったらしく、私以上に呪道具にハマった。呪符の問題さえ解決できればあんなに便利なものないし当然よね。


 ……ちなみに今日の講義も私が道満さまに呪符を作ってほしいとお願いして尻を蹴られたことで開催が決まったものだったりする。主君を主君と思ってないとまあ多方面から集中砲火でしたわ。


「呪符に限らずだが、これからも貴様たちはたくさんの術者と戦うことになるかもしれん。知っておけば立ち回りもうまくなるだろうから、脳筋どももしっかり聞いておけ」


 実際痛い目に合わされたわけで、綱たちも少しは真面目に聞くようになったらしく道満さまに視線が集まった。


「まず術者には2つの種類がいる。すなわち術を用いるのに詠唱を必要とするものと、必要としないものだ。説明が簡単なのは私を含む後者だが……そうだな、貴様たちの言葉で言うなら芯が通った奴だ。頼光が『とにかく速く行動したい』と思い、綱が『自分の有利な超接近に持ち込みたい』と思うことでそれに沿った効果を生み出すように、私の場合『水を氷にする』ことに特化してるおかげで見たり触れたりだけで超常の事象を引き起こせるというわけだ」


「うーん……これはうちには無理やな。やるとしたら詠唱が必要なほうっちゅうわけか」


「貴様は商売に意識が向いているのならその道を進んだほうが良いと思うがな。そして詠唱をするやつについてだが、正直無詠唱のやつより注意が必要だ」


「あははー、そっちのほうが対処楽じゃない?」


 術を使うのに時間がかかるなら発動前に潰せるわけだしそれはそう。


「9割方はそうだ。だが、詠唱するにも複数の理由がある。1番多いのは『正確な詠唱をしないと術を発動できない』というもの。宗教にまつわる者がほとんどだな」


「それはうちもどこかしかに入信すれば使える言う事です?」


「ああ、『1片の疑いも持たずに信じきれる』くらい盲信できればな。1言1句間違えずに唱えれば、神が、仏が、精霊が奇跡を起こしてくださると『心の底から思い込む』ことで超常を起こしているというわけだ。その分起こる事象も融通が効かないがな。呪符についても『正しく書けば神仏の力を得られる』と信じているからこそ紙に力を宿せる。坊主が呪符を独占してるのもそういう理由だ」


「あれ? ということは道満さまは呪符は作れないということですか? 大きな呪動船ていうの持ってるって聞きましたけど」


「日高見ならあたいが直接力注ぎ込んでるぜ。波風が穏やかな時は自然に任せるし、嵐のときくらいだけどな」 


「そないひたむきに神様信じることもできんし、確かにうちには無理そうやな……」


 しゅんとしちゃう茨木ちゃんだけど、こればっかりは仕方ない。商売の神様を祀るくらいならともかく、商人になることを全部神様任せの茨木ちゃんなんて見たくないし、今後呪符が作れる仲間が増えるまでは呪動具はお預けね。


「それで残りの1割だが、こちらが厄介だ。基本的に芯が通ってる奴らが、無詠唱で使えるのをわざわざ詠唱するわけだからな。1つ目は単純に間違えないように声を出して確認という場合だが、これは私が『頼光、服』と何を対象とするか声に出すようなものだ」


「何でわざわざそんなことを? 無駄な気がするんだが」


「頭が混乱してる時は声に出した方が間違いを防止しやすいし、そもそも詠唱自体短いから気軽に使える。それに以前術比べをしたことがある安倍晴明のように『手札が多すぎる』から間違えないようにする場合もある。奴は火・風・水・土・雷に加え式鬼の召喚を『属性、形状、範囲』と指定するだけで撃ってくるからな」


「なにそれ怖い」


「次に『自分の気分を高めるためなんか格好いいこと言う』奴だ。発動には何の意味もないが、気分が高揚することで無言で撃つより威力が上がる。さっさと撃てと言いたくなるが桁違いの威力になるから文句も言えない」


 あーーーーー……季武すえたけかー。あいつの場合は術じゃなくて弓だけど多分そんな感じ。綱も同じ人間の顔が浮かんでるのか納得の表情。


「最後に1番厄介なのが『相手を騙すため詠唱する』輩だ。1つ目に言った間違い防止のため声に出すように、普通声に出すことと思考を固めることは連動するものだが、言葉の意味とは全く違う術が飛んでくる」


「いたっすねえ……アレは無理っすわ。さんざん火の術を使っといて、同じ詠唱始めた対策として水に陣取ったら、渦潮起こして一纏めにしてからの闇の槍で串刺しとか」


「それは厄介だと思いますけど詠唱してる以上潰して……あ、そもそも必要としないから詠唱中でも……?」


「賢いな、その通りだ。詠唱を完成させる必要もなく、わざと隙を晒して突っ込んで来させるなど動きをある程度制御する事も出来るし、警戒させて動きを止めて2つ目の事例のように威力を増す術を行使したりとやりたい放題だ」


「おう……」 


 すべての講義を終え私たち脳筋組が考え込むのを見て、最後に道満様はパンと手をたたき締めに入る。


「さんざん脅したが基本的に術を使うやつは宗教がらみの決められた詠唱を必要とする奴らだから、そこまで警戒するものでもないがな。頼光の腕がそんな状態ではろくに動けんだろうし、今は術に限らずいろいろ学んでおくと良い」


「宗教かー。そう言えば最近京から屍体が運ばれて燃やされてるって話聞くけどそれも宗教なんですかね?」


「あー確か燃屍教ねんしきょう? だったすか。播磨でうんたらって話聞いたっすね」


「あははー、屍を燃やすって道満燃やされたりー?」


「物騒なことを言うな」


 呆れたような道満さまのツッコミが入り場が和むと、この日の講義はお開きとなった。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

【芦屋道満】――摂津の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。

*【雄谷氷沙瑪】――芦屋道満の腹心。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【摂津源氏】――源氏の系統の1つ。現在所属6名(2人は同意なし)。

*【呪道具】――一品物である宝貝を再現しようとして作られた歴史を持つ。宝貝は仙人や道士といった修行を積んだ人にしか扱えないが、一般人でも扱えるように魔力を込めた呪符を差し込み動かすことを想定している。のろいの道具ではなく、まじない=魔法の道具。

*【呪動船】――呪符を動力に動く船。呪道具の1種。

*【日高見】――ガレオン船に近い形状の呪動船。大量の積荷を積めるのに加え、8門の呪砲を搭載する。規模が大きいため呪符ではなく、術師が直接道力を流し込んで動く。

*【芯が通る】――気力や魔力といったものを通すため人体に張り巡らされた通力芯パスが通ること。通ってる人間は超人的な力が使える。

*【燃屍教】――破闇是無鏖留ばーあんぜーむーおーるーと唱えながら屍体を燃やすことを正義として信仰を集める新興宗教。

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