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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
1章 摂津源氏結成
27/211

幕間 それぞれの夜

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


ようやく1日目終了


2025/1/05 修正

 ・一部加筆・修正

 ・段落の設定

*源満仲邸 源頼光・満仲・満頼


「認めぬうううううううううぅぅぅッッッッ!!!」


 既に日も落ちて暗くなったみやこにはた迷惑な親父まんじゅうの怒声が響く。とっさに耳をふさごうにも右腕がこんなんじゃどうしようもない。


 芦屋道満さまにお仕えすることになり、摂津源氏という自分の源氏を組織することになったと伝えたら案の定ごねられる。


「いや、ならぬとか言われても、もう決まったことだし」


「やはりぃぃぃ頼光の外出などぉぉぉ認めるべきではぁぁぁなかったのだぁぁぁ! 綱はともかくぅぅぅ頼光が清和を抜けるのはぁぁぁ断じて認めぬぅぅぅ!」


「はあ!? 別に私が誰に仕えようと勝手じゃない!? 私の弟くんも主君を持って出世して国司なんでしょ!」


 もはや近所に迷惑だとか関係なく、襟を掴んでの怒鳴り合いになったところ満頼が間に入って私と親父を引き剥がした。


 ほんとムカつくわね。大体何で私が親父の言う事を聞き続けなければならないのか。頭を冷やそうと縁側に出ると塀の上から視線を感じた。流石に騒ぎすぎたし周りの人が様子を見に来たのかな?


 そう思って目を凝らすと黒い毛の猫さんが1匹。


「にゃ~~~~~~~~ん」


 全力の鳴き真似からちちちと舌を鳴らすも、悲しいかな猫さんは塀の裏へ。うん、これも皆親父のせいよ。あー……なんかまた腹たってきた。このまま戻ってもう一度舌戦を……。


「ら、ら、頼光、ちょ、ちょちょ、ちょっと、いい?」


「何よ。悪いけど私は折れる気なんてないわよ」


「だ、だ、大丈夫。た、立ち、立ち会った、み、み、身としては、け、けけけ、結果を、ほ、反故には、さ、させ、させないから」


 あら意外。てっきり親父の味方かと思ってたのに。というより外出を許された覇成死合はなしあいの結果を源氏として重んじてる感じか。


「そ、そ、そも、そもそも、ら、頼光は、せ、清和の、ぶ、武士じゃな、な、ないから、ぬ、抜けるもなにも、な、な、ないし」


「…………………」


 言われてみればそうじゃん! 清和の家に生まれたってだけで別に雇われてるってわけじゃないじゃん!


 満頼は明日以降親父が私の外出を邪魔しようとしたら、その身で止めてくれることを約束してくれた。道満さまから嵯峨野の南にある大枝山おおえやまにある左大臣さまの別荘を拠点として使わせてもらえるように手配してもらったし、どうせなら家を出てそっちに住めるよう協力してほしかったけど、「屋敷に住み続け、外出時は護衛付き」というのが今回の覇成死合で決まったことということで断られた。


 その護衛付きってのがなー……。さっき門の前まで送り届けた綱は「あははー。今の頼光の姿見たらおっさんに殺されるからー」と清和に対する辞職届を渡して逃げるように去ってったし。明日からちゃんと来るのかしら?


 まあいいか。今日は色々ありすぎて疲れたしもう寝よ……。




大枝山おおえやま摂津源氏拠点 綱・茨木童子・酒呑童子


「あー腹一杯や。いやー広いし、置いてあるもん使ってええ言われとるし、ほんま太っ腹やで」


 芦屋道満に案内された屋敷を一通り見て回り、置いてあった食材で作った料理を食べ終わると、茨木童子が努めて明るい声を出す。食事の間綱と酒呑が一言も発さず気まずい空気が流れていたのを、茨木童子と鬼が必死に盛り上げようと頑張ったのだが……頼光がいないと一切の表情がなくなる綱にどう接すればいいのか距離を測りかねた。


「じゃ、蔵で寝るから。畳は好きに使いな」


「あ、ちょい待ち!」


 初めのうちに積極的に話しかけないと、今後話をしないのが当たり前になりそうと考えた茨木童子が呼びかけると、昼間の作り笑いなど微塵も作ろうとしない冷たい視線で綱が振り返る。中身のない話題で雰囲気良く、なんてことは無意味と考え気になってたことを直球で聞くことにした。


「綱は頼光の味方でええんよな? なんか出会いは綱が頼光暗殺しに来たことや言うてたんやけど」


「は!? マジかよ!?」


 綱は少し考える素振りをすると、頷いて語り始める。


「頼光から聞いたか。出会いはそれで合ってるし、味方であることも間違いないよ」


 結論を先に言った綱は畳の上に腰を掛け続ける。


「もともとボクは嵯峨源氏に所属していてね、清和の源満頼って奴を倒すためだけに訓練を重ねてきた。だけどある日清和の最強が満頼から頼光の親父に代わり、それと戦い敗れたボクは嵯峨源氏を追い出された」


「戦闘民族かよ……。言ってることは分かるのに状況が全くわからねえ」


「戦闘民族か、いい言葉だね。源氏をよく表してる。それで何もかもを失ったボクは満仲への恨みだけを募らせていったんだけど、そんな時に娘の結婚話を聞いてね。蝶よ花よと屋敷から出さずに大事にしてる娘を殺すことを考えたのさ」


「陰湿! コイツ陰湿ダゼ!」


「そんなわけで屋敷に通う途中の源敦を殺して成り代わり、頼光の寝室に入り込んだボクは、そのまま短刀で襲いかかり――――えぐいくらいにボコボコにされた」


 うわぁ……と今日頼光の強さを目の当たりにした仲間たちから同情の声が上がる。


「その時なー……指一本動かすことができなくなったところを頼光から『めっ!』って拳骨されてさー。この時だな頼光に絶対の忠誠を誓おうと思ったのは。初めて人間扱いされたからなー」


「いやいやいやいや! 全く分からんて! 嵯峨おったときどんな生活送ってきとんねん!?」


「子供の時さらわれて、時を同じくしてどこぞからさらわれてきた何十人かと殺し合いさせられたよ。蠱毒って知ってるかな? あれの人版。その後はさっき言った通り訓練の毎日。叱られる時は血反吐を吐くくらいぶん殴られた」


 周囲がドン引きし空気が冷え切ってるのも構わず綱は続ける。


「まあ、そんな感じで頼光に忠誠を誓ったボクは騒ぎを聞きつけてやって来た満仲に仕官した。幸い結婚相手を殺した()()を認められ、頼光に手を出さないようにと頼光と養子縁組させられて今に至るってわけ」


「お、おう、なんか源氏ってえらい貴族さまやと思うとったんやけど……なんちゅうか別の意味で凄いな……養子縁組……」


「あははー! 驚いてるとこ悪いけどキミたちも今日から源氏なわけだからねー。源氏の慣習ってのにも慣れていってもらわないとねー」


 どえらい組織に入ってしまった。今更ながら茨木童子と酒呑童子はそう思ったのだった。




*摂津国府芦屋、雄谷氷沙瑪おおやのひさめ私室 芦屋道満・雄谷氷沙瑪


「いやー、まさかまさかっすねー。亀姫様に誰か送っていただこうかと相談してた矢先に信頼できそうな味方が出来て良かったじゃないっすかー」


 上機嫌な氷沙瑪に、京に体を置き霊魂だけ戻ってきた道満が手を振って否定する。まだ人となりが分からないというのに余りにも早計というものだ。


 しかしそんな道満の態度に氷沙瑪は頬を膨らませ抗議の意思を示す。 


「でも、頼光の言ってた常春の屋敷って『マヨヒガ』っすよね? 遠野って場所もあってるし、幾重にも結界の張られたあそこに何度も出入りできるとか()()()がご友人としてご招待なされてるってことじゃねっすか。それを信用しないとかマジありえないんすけど? むしろタメ口で行くって言った後に富姫様のご友人と聞いて腹切らなきゃいけないかと思ったくらいなんすけど?」


 氷沙瑪にとっては真の主君の、道満にとっては妹と戦友の間の忘れ形見。そうであるがゆえ慎重に見定めたいそう告げる。


「やれやれ、マヨヒガの中にいるものが友人として招かないと偶然以外では通ること叶わずという結界を張った張本人がこれじゃ困ったもんす。でも姪っ子可愛さに手を血で汚すなと言ったのはナイスっす」


 実際頼光が陸奥守になったらどうなるか夢想しながら、道満はすっかり晴れた空に輝く満月を見上げた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【源満仲】――清和源氏。源頼光、頼信の父。平安4強の1人にして最強。

【源満頼】――清和源氏。平安4強の1人。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

【芦屋道満】――摂津の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。

*【雄谷氷沙瑪】――芦屋道満の腹心。

【富姫】――陸奥の山奥にある屋敷に1人で暮らす頼光の友人。芦屋道満の姪。

【亀姫】――富姫の妹。芦屋道満の姪。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【摂津源氏】――源氏の系統の1つ。現在所属6名(2人は同意なし)。

*【清和源氏】――源氏の系統の1つ。『鉄壁の清和』と呼ばれる。

*【覇成死合】――源氏間で行われる最も神聖な格闘イベント。

*【大枝山】――京の城壁を西に出た先にある標高480mの山。中腹に摂津源氏の京に置ける拠点がある。

【蠱毒】――壺の中にいろいろな種類の毒を持った虫を放り込んで共食いさせて、最強の毒を持った虫を作り出し、その虫を使い行う呪術。

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