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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
1章 摂津源氏結成
25/210

【源頼光】仕官

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

2025/1/05 修正

 ・一部加筆・修正

 ・段落の設定

「確認してきたっす。茨木童子の親父も混ざってるそうっすけど、茨木の町に護送次第、律に則って処罰ってことで進めるっす」


「あんなんでも親なんで、命だけは助けてくれまへん?」


「死罪になることじゃないんで、そこは安心してくれていいっすよ」


 お互いの傷の手当が終わり、簡単な自己紹介と今日あったことの説明を済ませると氷沙瑪ひさめは外に出て牛車を確認してきた。


「あははー、そうは言うけど養老律令に女児に顔を舐めさせてはいけないみたいな条文あったっけー?」


「あんな形骸化した律令どうでもいっす。摂津では主様が律であり令なんで」


 逆らったら好き放題罰せられるとか権力怖ッ……。こんなの摂津守に逆らえる人いないじゃん。


「頼光……自分なに思いっきり摂津守さまに喧嘩売っとんねん。しかも芦屋道満て、付こう思とった左大臣さまの側近やんけ」


 土間に正座する私の後ろ、同じように茨木ちゃんが、背中をつついて小声で話しかけてくる。いやー、あの状況じゃ仕方無いでしょ? あー冷や汗と右手の痛みでの脂汗とが合わさって体がひどいことに。


 芦屋道満――――昔、命を落としながら霊魂として留まり屍体に取り憑いてる女性。今は泥に突き刺さってた体に戻ってるけど、その体はやはり筋骨隆々で、本人の生前の姿をしてるであろう半透明の姿とは似ても似つかなかった。それ以前になんか額の左側から角生えてるし。


 酒呑と同じ理由で布被ってるんだろうけど、なんで立場のある人がわざわざそんな屍体を選んでるのやら……強力な肉体が欲しいってのはわかるけど、いろいろ手間じゃないの?


『この体は力仕事用で、京で使っている体は別にある。全身を布で覆うのは複数の体を使い分けてるのを隠すためだ』


 疑問が顔に出ちゃってたか、私の疑問に答えてくれる道満さん。別の体では普通に声出せるって……ほんとだ、頭と体が無理やりかすがいで留められてる。喉の真ん中にも何かを刺したような穴が空いてることから察するに、わざわざ槍かなんかで突き殺した後、打首って流れの屍体なのかな。喉が潰れてるから声が出せないわけか。


『津軽にある恐山という霊山で修行を積んだらしい氷沙瑪はともかく、何故貴様に私の声が聞こえているのかさっぱり分からんよ田舎者』


「いやー、私としてもさっぱりですし……」


 田舎者とかバカにしてるけど、何ていうか言葉が柔らかい? 親愛の情を感じるのは気のせいじゃないはず……。仕方ないんだろうけど表情がピクリとも動かないから、言葉の響きしか判断材料がないんだけど……雨降って地固まる、そんな印象を受ける。


 都合よく会話も途切れたし、お願いしてみようかな。


「あのー道満さん。出来ればでいいんですけど、左大臣さまに仕官の口利きをお願いしたいんですけどー……?」


 真後ろの茨木ちゃん。その右と左、綱と酒呑という3方向からの視線が背中に突き刺さる。茨木ちゃんが「もうちょっと段取りいうもんあるやろ……」と小声で話しかけてくるけど、なぜか私と氷沙瑪にしか聞こえてないらしい道満さまとのやりとり聞こえてたら同じこと言ってたって!


「何であんなやつの下につきたいんだよ。言っちゃ何だが、かなりの無能だぞ? まともだったら主様みたいな怪しい奴側近にしないって―――――ッ!」


 再び繰り出された喧嘩蹴りを受ける氷沙瑪が戸をぶち抜いて道に転がる。危な……うっかり同調するとこだったわ。鬼の体に入ってるときだとあんな風になるのねー……。


 ――――それはともかく理由を説明しないとね。富ちゃんとの約束のことも、さっきの皆で話し合って出した結論も包み隠さず熱を込めて語る。


 道満さんはあいかわらず何考えてるか分からないけど、戻ってきた氷沙瑪は1度驚いた顔してからは神妙そうに聞いてくれてるし手応えあり!


「あたい的には同じ陣営ってのは大歓迎なんだけど、その腕で半年以内に武功あげるとか無理じゃねってのと……そもそも陸奥守って、あたいが日高見ひたかみに乗って貿易に出る直前くらいに代わったんじゃないっすか?」


『ああ、1年も経ってないはずだな』


「え、ちょ、ちょっと待って……? 身内に最近河内守に内定っていうのがいるんですけど、任期って一律4年間じゃないんです?」


「別に全員が全員満了できるわけじゃねえだろ?」


 後ろからの視線がなんかすごく冷たく感じる。てか、綱の方からも感じるのおかしくない? あんたもそろそろだとか言ってたじゃん。


『落ち着け田舎者。逆に言えばいつでも成り代わることができるという意味でもある』


 茨木ちゃん発案の源頼光を半年で陸奥守計画が根幹から崩れそうになったのを、繋ぎ止めてくれた道満さんが続ける。


『だが田舎者、貴様を左大臣に仕えさせるつもりはない。貴様は氷沙瑪同様私の直属に入れ。そのうえで陸奥守の器にふさわしいと認めさせることが出来れば私が押し上げてやる』


「頼もしいこと言うてはりますけど、そない権限が摂津守さまにあるんです?」


「くそ胡散臭い姿の陰陽師を国司にするより、ちゃんとしたお貴族様国司にするほうが楽だから余裕余ゆ――――」


 道満さんの提案を皆に伝えて出た疑問は外に蹴り飛ばされてった氷沙瑪により解消される。少しの話合いの末、道満さんの下に付くのでも問題ないという結論に至った。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――源満仲の長女。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――源頼光の配下。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。

【酒呑童子】――人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

【芦屋道満】――摂津の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。

*【雄谷氷沙瑪】――芦屋道満の腹心。

【藤原顕光】――左大臣。無能。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【養老律令】――基本法令。制定されてから200年以上経っているので時代の流れに法整備が間に合わず形骸化している。

【律】――刑法。

【令】――刑法以外の法律。

*【日高見】――ガレオン船に近い形状の呪動船。大量の積荷を積めるのに加え、8門の呪砲を搭載する。

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