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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
1章 摂津源氏結成
24/210

【源頼光】亡霊女と俘囚の娘

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

2025/1/05 修正

 ・一部加筆・修正

 ・段落の設定

『呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う』


 今まで自分と同じくらいの相手と鍛錬して来て、実戦といえばどんなに斬っても振るう刀がどんどん刃こぼれしていく親父まんじゅうだけ。散々死ねとか言ってきたけど、周り含めて誰もが絶対殺せない相手との覇成試合、相手を殺してしまうということの意味を本当の意味で理解できてなかったのかもしれない。


 初めて人を殺してしまったことに対しての居た堪れない罪悪感と嫌悪感、それが今、涙と嘔吐になって体の外へと撒き散らされてる。


『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』


「大丈夫? 腕やら何やら何もかもが笑えない状況なんだけど……?」


「綱……どうしよう。殺しちゃった……、私、人を殺しちゃった……」


「えぇ……今更そんなことで悩むの? 満仲おっさん相手にさんざん死ねとか殺すとか言ってたじゃん」


 武士として生きると決めたその瞬間ときから、本来持ってないといけなかった覚悟。それが全く出来てなかったことに綱が呆れてる。


「殺すつもりはなかったの……。私はただ無力化するつもりで……」


「いや、お前……。この状況で殺すつもりはなかったは通用しねえ――――ああ、マジなのか……いや、泥の中に頭突っ込んだらそりゃ窒息して死ぬだろ」


 綱に続き氷沙瑪ひさめを捕えた酒呑も近寄ってくる。氷沙瑪も必死に暴れてる様子だけど、相方の死が原因かさっきまでの力強さを感じない。


「目か、せいぜい鼻まで埋めるだけのつもりだったのに……」


 ぶっつけ本番とは言え感触でどこで止めればいいか分かると思った。自信もあった。だけどたった1つの誤算、知識だけじゃ掴めてなかったことがあった。


 そう――――田んぼって想像以上に深い。


 ずっぽりと泥に埋めた手応えを覚えたときには、水から出てるのは腹から下。私自身顎まで水に突っ込んだ。


倭人やまとびとが! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!』


「マダ死ンデルカハッキリシテナクネ? 引ッコ抜イタラ意外ニピンピンシテルカモシレネエゾ?」


「でもざっきからずっと耳元で、『死ね』とか『殺す』とか『呪う』とか『倭人が』とか言われてるし……」


 その言葉に首を傾げる綱と酒呑。対照的に氷沙瑪は目を見開き暴れるのを止める。


「おいおいしっかりしてくれよ。罪の意識で幻聴聞こえだしてんじゃねえか」


「幻聴とは何よ! さっきから人の頭の上に大きな乳乗せて、半透明の女性がぶつぶつぶつぶつ言ってるじゃない! どうせこの女性がそこに突き刺さってる人の霊とかなんでしょ!」


 顔を上げるとその女性の霊とバッチリ目が合う。うん、幻覚なんかじゃなくて確実にそこにいる。


 青味がかった短髪で生地が黒で襟が紫の着物を着た、世界の全てを憎むかのような、どこまでも深い闇を宿した瞳の女性。肩まではだけた着物からは、雪のように白い肌をした大きな乳と柔らかそうな腹肉が覗きとても扇情的……で……?


「誰よあんた!?」


 慌てて立ち上がろうと右手に力を入れてしまい、悶絶するような痛みに襲われるけど今はそれどころじゃない。


 さっき触ったお腹は着物の上からでも分かるくらいバッキバキに割れてたし、手も白魚のように細くて禄にまめも出来てなくて、ついさっき私の腕を握りつぶしたものとごっつい腕とは別物じゃん!


「いやー驚いたっす。本当に見えてるし聞こえてるんすね。どっか霊験あらたかな場所で修行でもしたんすか?」


 いきなり氷沙瑪に声をかけられてびっくりしたけど、特に思い当たる節もないし正直に答えよう。


みやこに移ってからはほとんど部屋に閉じ込められてたし、陸奥で暮らしてた時も特には……」


 陸奥という言葉が出たことで空気感がガラッと変わる。ああ、そりゃそうか。


「私は多賀城の生まれ。6歳のときから母上に連れられて色んなとこ回って最終的には遠野に落ち着いた感じ。あんたは津軽でしょ? 『もーれーやっさ』って掛け声ですぐに分かったわ」


 途端に氷沙瑪の目が輝き、酒呑を振りほどくと私の肩に腕を回してくる。


「マジっすか――――じゃなくてマジで!? んだよお前も俘囚ふしゅうかよー! 同じ陸奥者どうし上も下もなし。敬語もいらねーよなー!」


 すかって言うのが敬語なのかはともかく、言ってることは全面的に同意。


「国司の娘で、任期満了で戻ってきたわけだから俘囚とは違うかな。でも気持ち的には蝦夷えみしだし、倭人って呼ばれると心がぞわぞわするっていうか……」


『陸奥の生まれ……つまりは田舎者か』


 まとってたどす黒い空気が霧散したかと思った途端、人を見下すような態度を取り始める半透明女。いやいや、そりゃ大半は京と比べるのも烏滸おこがましいくらいの田舎ではあるけど、異国と頻繁に貿易を繰り返す津軽は少なくとも今日行った東市の3倍は発展してるんですけど?


 これには津軽者の氷沙瑪も面白くないのか、透明女と数秒見つめ合ったあと大きなため息を吐いた。


「あー気にすんなよ。この人芦屋っていう割と摂津の中でも京から離れた場所の出身でさ、エグいくらい出身地コンプ拗らせてんだよ。そんなんだから京に住んでそうな相手には敵愾心むき出しで噛みつくし、辺境出身者にはすーぐマウント取りにいく可哀想な人なんだ」


 『こんぷ』とか『まうんと』ってのはよく分からないけど、言い方が気に入らなかったのか氷沙瑪に喧嘩蹴りを入れる半透明女。当たってはいるものの衝撃は伝わらないみたいで、氷沙瑪の方は鼻歌交じりにケロッとしてる。そういえば頭の上に胸を乗せられてた時も触れてる感じはあっても、重さは感じなかったわね。


「それはさておき、お前が国司の娘ってのが本当ならそれなりの身分なんだよな? なんで茨木童子なんて名乗ってこんなとこ住んでんだ? 藤原道長の部下って考えるには人殺し程度で吐いたりしてるしなんかちぐはぐなんだよな」


『そちらが茨木童子ではないのか?』


 酒呑を指差す半透明女だけど、見た目的に妖怪と呼ぶには1番それっぽいのかもしれない。さっき私がそう名乗ったことでなんか面倒くさいことになってる気がするわね。


「もう捕縛だーとかならないなら、改めて事情を説明したいし1度家に入らない?」


 転がった各自の武器を回収し、遠くに繋がれてたやたら大きな馬を小屋の脇に移して、私たちは茨木ちゃんのいる家に戻った。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――源満仲の長女。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――源頼光の配下。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。

【酒呑童子】――人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えてることを読める。

【芦屋道満】――摂津の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。

*【雄谷氷沙瑪】――芦屋道満の腹心。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【覇成死合】――源氏間で行われる最も神聖な格闘イベント。

*【倭人】――大和朝廷から続く、大体畿内に住む日ノ本の支配者層。蝦夷など各地域に土着してた人々から侵略者に近い意味合いで使われる。

【蝦夷】――陸奥や出羽にあたる地域に土着してた先住民。

【俘囚】――朝廷に降った蝦夷のこと。

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