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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
1章 摂津源氏結成
22/211

【源頼光】雨中の戦い その3

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

2025/1/04 修正

 ・一部加筆・修正

 ・段落の設定


「――――なるほどね、目で見える範囲だけ凍らせることができる、か。それじゃ影に隠れて指をほぐさせてもらうかなー。……他には何か言ってた?」


「痛テテテテテテテテッ!!」


「倒せるようなら倒しちまっていいとよ。ま、すぐ戻るから無理はするなってのが優先事項だそうだけどな。あと氷沙瑪ひさめ……っていうのか? もう1人が復帰してきたらお前が『殴り合え』だとよ」


「痛テテテテテテテテッ!! オイ相棒、オレノ体ヲ上ニムケルナ!」


「あははー、了解了解。それにしてもいい盾だねー。痛くないなら欲しいくらいだよー」


「やれるもんなら、今すぐにでもくれてやるぞ?」


「鬼カ! 鬼ナノカオ前ラハ!?」


「あはははは! それじゃもうひと踏ん張りしますかー」



「そらこっち来て着物脱いで! お湯沸かしといたから手足あっためや」


 茨木ちゃんに言われるままたらいに手足を突っ込むと、徐々に感覚が戻ってくる。しばらくあったかさを感じなかったことに思ってたより感覚が鈍ってたのを実感。


「ごめん茨木ちゃん。酒呑みたいに髪の毛ばっさり切っちゃってくれる? あとさっきの針と糸貸してくれたら嬉しいんだけど」


「何言うとん、せっかく綺麗な髪してるのにもったいないやん。着物もうちが直すし今はゆっくり休んどき」


 ところどころが凍りつき、泥まみれになった私の体を清めながら言う茨木ちゃん。色々気遣ってくれるのは嬉しいけどのんびりしてる暇はない。


「長いままだと凍らされたら面倒だし、お腹の傷をこのままにしておけないでしょ」


「腹縫うつもりやったんかい! まさか思うけどこの後また戦いに出る気か!?」


 私が頷くのを見た茨木ちゃんは、私の脇腹を清潔な布巾で拭いて確認した後、パタパタと板間に上がり戸棚からなにか小さな容器を持ってくる。


「その程度ならこれ塗っとけばええ。マヤー文化国言うはるか東方の国から持ってきた言う軟膏や。髭当てん時、怪我したお客さんに塗っとったものの残りやな」


「ありがとう。でもいいの? すごく貴重なものに聞こえるけど」


「ああ、親父は『そんなん唾つけとけば治る』言うて使わんくなったから大丈夫や。……そのせいでうちが傷口舐めるいう商売思いついた忌々しいもんでもあるけどな」


 感情を失ったような声で私が髪を纏めるのに使ってる布を外すと、切らずに引っ張ったり捻ったりなんかいろいろいじってる。髪のことは茨木ちゃんに任せて受け取った軟膏を傷口に塗ると、たちまち血が止まった。へー、便利なものがあるのねー。


 傷口をちょんちょん触っていると、指から滴った水滴が軟膏を塗ったところをツルンと滑っていった。


「水を……弾いた……?」


「そら油でできとるからな。ほれ、これなら邪魔にならんやろ。ええ筋肉しとるけど、間違いなく女なんやから髪は大事にせえ」


 言われて頭を触ってみると後頭部に三つ編みにされた髪の毛がぐるぐると巻きつけられ、こんもりと小さな丘を作ってる。確かにこれなら凍らされたとしても大丈夫だと思う。そんなことよりも……!


「茨木ちゃん! これ全身に塗っていい!? あとで新しいの買って贈呈するから! これなら雨を弾けるんじゃないかと思うの!」


「は!? いやいや、着物凍らされたら同じやん」


「あの相手と戦うのには着物は邪魔よ! もともとこのまま出ていく気だったし!」


「待て待て待て待て待て!!!」


 気合十分にぐっと拳を握る私を、「それは女として終わっとる」と必死に止める茨木ちゃん。いや下手したら命が終わる現状で、恥ずかしがってるほうがおかしくない?


「~~~~~~~~ッ! わかった! うちのやから大きさ合わんかもしれんけど、ちょっと待っとき!」


 そういって茨木ちゃんは戸棚からいくつかの布を取ってくると私の前に広げた。


「変態貴族に着物めくられたりするから、その対策に買うたショーツいう異国では着物の下につけるもんや。せめてこれくらいは穿いとき! 胸はさらし巻いたるから両手上げ!」


 色んな形がある中から、黒くて膝丈くらいあるものを穿いてみる。なるほど。これくらいピッチリしてれば凍らされても冷たいだけで動き自体には影響はなさそう。でもショーツ……なんかどこかで聞いたことあるのよね。異国のものということは津軽に行った時? いや、もっとずっと最近に――――。


『どうにも見苦しいものをお見せしてしまってるようだ。すまないがショーツの1枚でも買ってきていただけないだろうか?』


 ああそうだ、たしか占い師さんがそんなこと言ってたんだっけ。確かにあんなふうに着物がはだけてもこれ穿いてれば恥ずかしがることもないってことか。


 今思い出すとあのときの占い師さんもなかなか滑稽な姿だったわねー………………。


「あ」


 一応相手が捕らえろと言ってたから、こちらも殺さずに捕らえることで決着って形に持っていきたい。そう思いつつ、なかなかいい方法が浮かばなかったけど……これならいけるかも?


「茨木ちゃん、道の向こう側なんだけど全部泥になってるってことでいい?」


「ああ、あっち側は全部湿田やで。もともと自由武士の兄ちゃんらに護衛頼んで米づくりしとったんや。ここ数年で貿易が盛んなって異国から輸入すりゃええってたなったんやけど、そのまま放置しとる感じやな。もともとぐちゃぐちゃやけど、今日みたいに大雨ん時は泥沼なるで」


 頭から足の爪先までいたるとこまで軟膏を塗り終えて、窓から外の様子を窺うと、綱と酒呑がわーきゃー叫んでるものの氷沙瑪が復帰してる様子はない。やはり泥沼から這い上がるのは相当難しいらしいわね……よし!


「それじゃ茨木ちゃん! 行ってくるわね!」


「いやいや! 頼光になんかいいこと思いつきましたーみたいな顔されると不安になるんやけど!」


「あはは! 安心して。普段の思いつきはろくでもないけど、戦闘に関する思いつきは頼りになるって綱のお墨付きだから!」


 茨木ちゃんの「安心できる要素どこやねん!」という声に背中を押され、私は小屋の外に出た。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――源満仲の長女。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――源頼光の配下。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。

【酒呑童子】――人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えてることを読める。

【芦屋道満】――摂津の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。

*【雄谷氷沙瑪】――芦屋道満の腹心。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【マヤー文化国】――メキシコ周辺に栄える国。火と文化ルチャリブレを伝えた神を信仰し、世界最高峰の医療技術を誇る。なぜか公用語はスペイン語。

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