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【源頼光】葛城山の戦い その12

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

「綱ッ!!」


「ッ!」


 氷沙瑪ひさめの必死な叫びをガン無視してなお突っ込もうとしてた綱も、私の声には従って弾かれるように横に跳んだ。


 するとそれを見た頼親が刀を握る力を弱めるや、握り返して横薙ぎで綱を追う。一見無茶な剣筋にも関わらず、一切の無駄のない流れるような軌道に、私は思わず「ほぅ」と感心のため息を吐いてた。


「喰らうかよって!」


 とっさに空中で体を回転させた綱が、その刀の下から髭切を打ち上げる。いつもの綱の回避術、甲高い金属音をあげて頼親の刀が弾かれる――はずだった。


「――んなッ!?」


 驚きの声をあげた綱が必死に頭を地面に向けて逸らせると、そのギリギリを頼親の刀が唸りをあげて通過した。


「何!? 刀がすり抜けた!?」


「ああ! あの野郎の刀は人の体だけを斬る!! 火乃兎コイツもそれでやられた!!」


 体勢を立て直して、近くに来た綱の右前髪がバッサリとやられ、さっきまで綱がいた辺りではハラハラと毛が散ってる最中。弾こうとした髭切は確かに頼親の刀に当たったはずなのにすり抜け、綱の体の一部である髪の毛は斬られたってわけ……?


 背中の鬼を見ると、確かに着物から血がにじんできてるのに、よろいにも着物にも傷1つついてない。


「あっは! 千歩譲って刃先で捉えたものをする抜けるならともかく、横からも弾けないとは予想外。あのまま突っ込んでたら、バッサリいかれてたねー!」


「感謝して欲しいっスわ。命の恩人っスよ」


「確かに1人で闘ってたら履物の底で受け止めようとして、やられてたわね。ありがとう氷沙瑪、何に気をつければいいかも分かったし、今度こそ大丈夫よ。土蜘蛛に犠牲を出すわけにもいかないし行って」


「……ああ、マジで死ぬなよ」


 ようやく怪我人を連れて離脱した氷沙瑪の背中を見送ると、頼親もその部下も追いかける様子もなく私たちに目を向けてる。


蜈蜂袋ごほうたいってのも使ってたけど、あれも宝貝ぱおぺえなのかしら」


「あははー、違うな。純粋なアイツの能力、人を殺すことだけを突き詰めた結果だろうね。そうだろ頼親?」


「さすがよく分かってるな綱……が、正解なのは半分。オレのこの力は人を殺すためにあらず、ただひとり頼光を殺すための力」


「……えぇ」


 何で? こっちの弟くんの方は昨日が初対面のはずだけど、何でこんなに恨まれてるの? アレか? 播磨の2人みたいに親父まんじゅう絡みか? 親父はあんなだから色んなとこで恨み買ってるとは思うけど、それを私に向けられても困るんだけど?


 そんなことを考えてると横の綱が、珍しく愉快そうに笑った。


「あはははは! まーだ、あの時の事根に持ってるんだ? 相変わらず陰険だねー!」


「ああ、あの日あの時、オレは命を得たと言っていい。それは感謝しよう。だが、この禍根は今この場で絶つ!!」


「――!」


 私が知らないところで因縁があるみたいで気になるけど、突進してきた頼親に会話は完全に遮られた。


「オレとコイツの一騎打ちだ。お前らは綱を抑えておけ」


 部下に向かってそう叫び刀を振るう頼親。余裕を持って躱したつもりの刀だったけど、さっき綱に向けてやったように一瞬で軌道を変えて襲ってくるのがたちが悪い。


 突進を見る限り足の速さなら私が上だけど、手の振りは頼親の方が速いか。普段なら1度足裏で受けたりするところを、回避のみとなると一気に面倒になるわね。


「なら距離を取るか、もしくは――――!」


 ギリギリまで引き付けた横薙ぎを跳んで躱し、体をひねって右足裏で頼親の側頭部を蹴り飛ばす!


 ガン! と大きな音が響いて一瞬よろめいた頼親だったけど、ぎろりと睨むやすぐに私との距離を詰めて来る。


「硬った!? 親父か!!」


「その通り、オレこそ京最強の武士・源満仲の長男にして、清和源氏の正統後継者、源頼親だ!! 父上のお気に入りだか知らんが、女はすっこんでろ! 清和源氏を継ぐのはお前じゃねえ!!」


「はぁ!? 清和源氏そんなものなんぞいくらでもくれてやるわ! 私は摂津源氏よ!!」


 いや、待って? 綱が笑ったのってそういうこと? いつの間にか、親父の後継者争いに巻き込まれてるとか冗談にしても笑えな過ぎるんですけど!?


 でもあの時とかなんとか言ってるし、別の理由があるかも……? とにかく余りにも下らない理由で恨まれてる気がして来てる!!


 大体、私の事が気にくわないとか、親父の跡を継ぎたいとかなら、何でここまで他人を巻き込む必要があるのよ。


「頼親! 私を殺したいって理由で強くなったのは分かったけど、あんた今まで何人の人を殺して来たの!」


「さて? 殿上人以外を人と数えておりませぬ故。いちいち虫や獣、穢物の数を数えるような無駄な真似は致しかねますよ」


「この……!」


 討つ討たないはともかく、確かにコイツと私の進む道が交わることがないってことだけは理解できた。


「摂津源氏の長としての責任以前に、ひとりの身内として、あんたは私が止める!!」


「甘いことをおっしゃいますなあ! オレはあなたを殺しますよ!!」


 お互いが足に力を込めると、その距離が大きく開いた。


 肩透かしを食らったかのような顔をしてるけど、別にふざけてるわけじゃないわよ?


 下手に密着して闘うのは私にとって不利だということは十分わかった。だから私は全身全霊であんたを叩き潰すために、楽しむことよりも徹底的に勝ちにつながる闘いをするつもり。


 それが十分伝わったのか、頼親が刀を構える。


 なるほど、言葉通り清和にこだわってるのね。親父や満頼その他の屋敷の武士にも通じる、寄らば斬るという後の先は渡さないという空気がその構えからあふれ出していた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【髭切・膝丸】――渡辺綱の愛刀。

【蜈蜂袋】――その中に生物が棲むのに最高の環境を作る宝貝。封神演義では殷の武将・孔宣配下の高継能が使用した。

宝貝ぱおぺえ】――仙道が扱う不思議アイテム。

【殿上人】――天皇の日常生活の場である清涼殿の「殿上の間」への昇殿を許された四位・五位の貴族の呼称。

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