表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
1章 摂津源氏結成
21/210

【源頼光】雨中の戦い その2

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

2025/1/04 修正

 ・一部加筆・修正

 ・段落の設定


「は?」


 氷漬けにしたはずの相手から反撃され、驚きの声を上げる氷沙瑪ひさめ。左の腹から右肩に向けて斬り上げられた体は、街道沿いの畔を転がり落ち、雨で湿った泥に沈む。


「頼光、大丈夫!?」


「……ええ、心配いらないって言ったでしょ?」


 よっぽど慌ててるのか私が茨木童子と名乗ってたのを忘れて呼びかけてくるつな。そんな綱を安心させるため、脇腹から流れる血を抑えつつ体を覆う氷を割って立ち上がる。


「こんな状態だったのにさすがね。満頼みつよりがいつも恨み言を言ってるわよ」


「あははー、我ながらびっくりびっくり」


 もともと嵯峨源氏にあって、清和の神童と呼ばれた満頼を倒すためだけに『生み出された』と言っていい過去を持つ綱。刀を扱うには近すぎる超近距離を主戦場にする戦い方はあまりにも特殊と言っていい。そして自分の得意距離の戦いに持ち込むという1点に、綱の芯が通ってる。


 綱が持つ能力は大きく分けて2つ。


 1つは低姿勢からの突進による接近。何も対処しない相手は左手の親指・人差し指・中指で着物の襟を掴み、そのまま襟を滑らせるように逆手に持った髭切ひげきりで喉を掻っ切り。膝を合わせて迎撃しようとした相手は右手の膝丸ひざまるで斬りつけて押し倒し、そのまま馬乗りになるのが綱の基本戦術。


 そしてもう1つが、今回の氷沙瑪の攻撃を防いだからくり、正面の膝にしか警戒してない突進のせいで1番隙だらけになってるはずの背中への攻撃に対する『即応反撃』。体を回転させて片手の刀で相手の攻撃を弾きつつ、回転の勢いそのままにもう1方の手で相手を地面に組み伏せるものなんだけど、さすがに動きを制限された状態からじゃそこまでは出来なかったみたい。


 そもそも反撃そのものが不発に終わりかねない状態だったし、結果は上々ってとこね。密着状態からだったから私も巻き込まれてお腹割かれたけど、氷沙瑪に殴りつけられたほうがひどいことになってたと思うし文句なし!


「……凍ってた分、傷も浅く済んでるわ。この状況も悪いことばっかじゃないわね」


「それは何より。でも、無理な体勢からだったから氷沙瑪ってやつもだいぶ手応え浅いよ」


「そう、手強い相手だし倒せるうちに―――――って痛だだだだだだだだだッ!!?」


 周りに降る雨が雹に代わり私たちを打ち据える。これじゃ追撃する余裕なんてまったくない!


「頼光! とりあえずあいつの攻撃を引き受けとくから、1度仕切り直しな」


 目立つように双刀を振り回して雹を弾く綱。雹を防ぐ1番簡単な方法は屋根があるとこまで移動することだけど、すぐに足が凍るもんだから走ることすら難しいし、思い切り跳ぶしかないか。


 ……とはいえ家の中は茨木ちゃんや酒呑を巻き込みかねないから――!


 地面を大きく蹴って横に飛び着地! ――したところを凍らされ盛大に足を滑らせた結果、車輪に顔から突っ込みつつもなんとか牛車の下に入り込めた。


「んもー……こうもツルツル滑ったら近づくことだけでも難題ね。さっきの酒呑みたいに武器を投擲なげるしかないかしら」


 流れる鼻血を抑えつつ前板から下がる装飾の間から様子を見ると、綱も私と同じことを考えたのか刀を投げるも、現れた氷の壁に弾かれ虚しく地面に転がった。うーん、ああなるのか……。


 近づくのも難しいし、物を投げるのもダメ。手詰まりな状況だけど、幸いなのは向こうも氷沙瑪という攻撃手がいなければ決定打に欠けるところ。足元や着物を凍らせて動きを封じたり、雨を雹に変えるくらいじゃせいぜい嫌がらせ程度のものだもん。


――――そんな風に都合の良くいってくれればいいのにねぇ……。


「綱! ヤバそうなの来るから気をつけて!!」


 豪雨にかすれた人影が空に向かって両手を伸ばすと、それぞれの手に降り注ぐ雨が巨大な氷柱を作り上げていく。それこそ転がってる錨に負けず劣らずってくらいのもの、あんなのが当たったらただじゃ済まないわね……。雹にさらされて悪戦苦闘する綱からは「簡単に言うな!!」と普段とは比べ物にならないくらい元気な声が帰ってきたから一安心とはいえ、牛車の下も安全じゃない。


 ん? ちょっと待った。今牛車()の中って茨木ちゃんの親父さんとか詰め込んでるんじゃなかったっけ!?


 私たちは親父まんじゅうの攻撃防いだりと重い攻撃に対して、いくらか慣れてるけど、中の人達があれをくらえばそれこそ命に関わる。それは流石に見過ごすわけには行かない! 今すぐ相手から見えるようにここから離れるか、投げられた後どうにかするかの2つに1つ!


 いつでも抜けるように血吸ちすいの氷を払ったところで感じる違和感。直接雨にさらされてないとはいえ牛車の下には水たまりができてる。それなのに辺り一帯氷の世界となりつつある中で、ここは凍ってない。着物も……うん、正対してた部分は氷が残ってるけど、背中やお尻はびしょ濡れだけど凍ってはない。


「凍らせることができるのは、あくまでも目で見える範囲にある水だけってこと? あとは今作ってる氷柱みたいに直接手で触れた水……」


 正体が見えてきた相手の能力に突破口を探ってたところ、左手が振り下ろされ氷柱が豪雨を引き裂くように牛車に迫る―――大丈夫、ギリギリまで引き寄せて――!


 血吸を抜いて氷柱を切断すると下半分は地面に落ちて上半分は牛車の屋根をかすめ、上に乗せてあった牛の頭をふっ飛ばして彼方に跳んでいく。……牛の頭!? なんであんなとこ置いてあるのよ!?


 牛車の無事を確認したところで思わず脱力、そんな束の間の油断をした後ろからものすごく嫌な予感を感じて振り向くと、右手で作っていたもう1本の氷柱が迫ってる。


 やば、勝手に私と綱に1本ずつと思いこんでた。回避しようにも着物も履物も凍りついてすぐには動けそうにない……! 反射的に目を瞑り衝撃に備える。


「ウオラアァァァァァァーーーーーーーッ!!」


 大声とともに訪れた浮遊感に恐る恐る目を開けると、人の腕で私を抱え鬼の腕で氷柱を砕く酒呑の姿。そのまま開かれた戸口に放り込まれ、受け止めようと両手を広げた茨木ちゃんを押しつぶす形になる。


「酒呑――――――――!!」


 私の声を聞いて軽く頷くと、酒呑は雨の中飛び出していった。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――源満仲の長女。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――源頼光の配下。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。

【酒呑童子】――人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。酒が好き。

【芦屋道満】――摂津の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。

*【雄谷氷沙瑪】――芦屋道満の腹心。

【源満頼】――源満仲の弟・満季みつすえの長男で祖父・経基つねもとの養子。平安4強の1人。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【髭切・膝丸】――渡辺綱の愛刀。

【血吸】――頼光の愛刀。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ