【源頼光】葛城山の戦い その11
*人物紹介、用語説明は後書きを参照
*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています
「あははー、そんなに急いでどこ行くのー、やっぱり頼親のとこー? なら一緒に行くよー」
砦が襲撃されてることに不安がる甘美娘先生を宥めつつ、屋敷の外に飛び出すとすぐに綱に話しかけられる。
「なんなら俺様もついてくか? こいつらどんな妨害を受けようと火を点けようとしかしねえから、なんの歯ごたえもねえわ」
「あははー、播磨のアイツも頭の中食べられておかしくなってたしねー。言われたことしかできないんでしょー」
「余裕ねー。甘美娘先生のこと安心させてあげて欲しいわ」
治療を終えた酒呑や貞光たちも加わったおかげで手持無沙汰なのか、すっかり余裕かましてる。
どこで火を調達してるのか疑問だったけど、どうやら彼らはそこらに焚いてある篝火から薪を取り出して使ってたみたいで、それに気づいた季武がすべてを射抜いたらしい。
すると他に燃えてる家屋もあるのに、その火を使うことすらできずに、ただ転がった薪を拾おうとしてるところを無防備に狩られてる。
こんなんなら最初から皆殺しにしてこいとでも命令すりゃいいのに、慎重なのか何なのか……。
「そうは言ってもここを放置できないし、燃えてる建物の消火もしなきゃだし。とりあえず綱、あんただけついて来て。土蜘蛛の皆さんが連行されてるなら、あんまり派手に動くとどう動くか分からないし」
「あははー、了解ー」
「まあテメエがそう言うなら任せるが、ちゃんと殺せるんだろうな?」
「大丈夫大丈夫。そのためにボクが行くわけだしー」
……ん? 突然物騒な話をしだしてるわね? どういうこと?
「いやいや、殺すって……頼親を? ふん縛って朝廷の沙汰にお任せするんじゃなくて?」
「「はあ~~~~……」」
混乱する私の前で、同時に大げさなため息を吐く綱と虎熊。真面目な顔に戻ったかと思うと虎熊が私の肩に手を伸ばした。そのこめかみには青く太い筋が膨れ上がってる。
「いいか頼光よ。テメエだけが殺されかけたならテメエの好きにしろ。だけど今回は周りのヤツらにも危険が及んでんだ。明確な組織対組織の戦争だ。どっちかの大将首取るまでは終わらねえよ」
「そだねー。頼親を生かしたところで、絶対またやるしねー。頼光に恨みを持ってる奴を生かすと、周りの人間が死ぬことになる。そうさせないようにするのは長の責任だよー」
「えー……でも頼親って右大臣様のお気に入りなんでしょ? 敵対することにならない……?」
「あははー、何を今さら。もともと京への襲撃の黒幕を探すって話だったじゃない。こいつらを使ってる時点で少なくても頼親は黒確定なわけで。仮に右大臣まで関わってなら、晴明も見限るでしょ。今は誰よりも高いところを飛んでると言っても、両翼をもがれたら鳥は飛べないんだよ」
たしかに晴明さんは京を守ることを第一に考えてるだけで、右大臣様の命令ならなんでも従うってわけじゃない。ここであったことを説明すれば、少なくとも初めから嘘だと否定されないくらいには信頼関係は築けてる。そもそも、右大臣様に対して疑心暗鬼になってたし。
「それに変に生かされるより、殺しあげた方が喜ぶと思うよー。そこまでいったら全部の罪おっかぶせて切り捨てられるしー。頼光や酒呑、虎熊みたいに仲間は大切って言ってる方が珍しいもの」
「色々面倒くせえなあ。ただまあ、テメエも摂津源氏の長なら、綱が言ってたように責任は果たせ。命と生活さえ保障されりゃ、下のもんは上が誰だろうとどうでもいいもんだ。陸奥で国を持ちたいって言うなら、いい機会だから上のもんの責任ってヤツを考えろ。俺様もずっと背負って来たもんだ」
「んー、全く持ってその通りなんだけど、強者の理屈よね。茨木ちゃんや火車みたいに戦は嫌だって子たちの理屈も大事にしてあげたいんだけど」
「あははー、茨木は別方面で役立つから戦いは任せるわってだけでしょ。戦う力があったら普通に戦う子だよ」
「火車だってしょっちゅう首領に殺意向けてるじゃねえか。アイツの信じる神を馬鹿にするヤツは死ねってヤツだぞ? 生きてるヤツを全力で生かすと言いながら、きっちり生かすべきヤツと殺すべきヤツは区別してる」
「あははー、そうそう。殺すの絶対ダメって奴なら、外に飛び出してきてるっての。死体の匂い嗅ぎつけたら気が付いたら燃やしてる行動力の化身じゃん。現在進行形で死体が増えてるのに飛び出してこないだけ、今は大人しいくらいだしー」
「やだ……摂津源氏のみんな過激すぎ……」
いや……まあ、うん。私だって母上のことがなければ、殺しに躊躇なんてしなかった……と思う。
ただ毎度吐き気を催すうちに、殺しなんて嫌って気持ちが強くなって……。
今までは殺さずとも戦いに勝てばその後は手を取り合ってとか、そもそも死人や蚯蚓が相手とかだったけど、今回は自分が嫌だからと終わらせることができない……のかも。
胸の奥が苦しくて手を添えると、綱が努めて明るい口調で話しかけて来る。
「あははー、まあ直接手を下せってわけじゃないから。それでもはっきり命令は欲しいかな。こっちは非戦闘員込みで命狙われた以上、命を持って償ってもらわないと他にも同じようなことする奴が出て来る。そうなったら結果的に死人は増えることになるよ」
そこまで言われたら反論する言葉が、今はないわ……。私は曖昧に頷くしかできなかった。
そして今、その通りに綱が動いた。
低い姿勢で接近する綱に気が付いた頼親が刀を振り下ろす。
攻撃を背中に誘導しつつ、それを弾いて相手の懐に入って着物を掴んでの接近戦――完全に綱の必勝の形を持ち込んで――――……。
「受けるな!! 死ぬ気で躱せッッッッ!!」
目の前で弟が死ぬことを覚悟しつつ、その最期を見届けるくらいの責任を果たそうとした私の後ろから飛んだのは、余りにも鬼気迫った氷沙瑪の叫び声だった。
【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)
【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。
【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。
【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。
【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。
【碓井貞光】――摂津源氏。源頼光の配下。平安4強の1人。
【卜部季武】――摂津源氏。夜行性の弓使い。
【酒呑童子】――大江山首領。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。
【虎熊童子】――虎柄のコートを羽織った槍使い。
*【雄谷(吉弥侯部)氷沙瑪】――前世は羅刹の転生者。生前も死後も母禮に仕える忠義者。道満の播磨守就任を機に京に移った。
【甘美娘】――土蜘蛛のひとり。甘美絵の作者。その似顔絵を持ってるだけで病気にかからないと言われるほどの名医でもある。
【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)




