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【源頼光】葛城山の戦い その10

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

「しっかりしろ火乃兎ひのと! くそが、こんなとこでくたばるとかふざけんなよ!」


 火勢が次第に収まっていく中、気温が下がる以上の速さで背中から伝わる友の体温が下がっていくのを感じた氷沙瑪ひさめが必死に叫ぶ。


 自身も深手を負いながら、迫る大和兵目掛けて流星鎚を振るうものの、いかんせんいつも扱っている怒りと違って大分軽い。加えて背中の友を固定するために流星鎚で縛っているためリーチも短くなっている。


 それでも本来ならば直撃すれば骨折のひとつもする威力の一撃を受けても倒れない大和兵に、氷沙瑪の焦りは最高潮に達していた。


「やれやれ、見苦しいな。頼光に味方する鬼がどれほどのものか、前座として丁度いいと思ったものだがとんだ期待外れだ。せめてオレにこれ以上不興を与えないよう、さっさと死んでくれ」


「うるせえ、お前が死ねッ!!」


 そうは言うものの、この武器では頼親は倒せない……いや、相性はいいと自分でも思っている武器だが、地の利がない。林の中だと木が邪魔で真っすぐ飛ばすか上から叩きつけるかの2択。遠心力を頼って横から降るとどうしても木に絡まってしまう。


 それを理解しているからこそ逃げに徹するのを選んだ氷沙瑪の姿に、心の底からどうでもよくなった頼親が指を鳴らすと、これまで主人の獲物を逃がさないよう遠巻きに囲んでいただけだった部下たちが一斉に動き出した。


「くそッ!」


 自分ひとりならどうとでもなるだろうし、共倒れとなるくらいならひとりでも生き延びることを主である母禮もれは望むだろう。しかしそれでもなお、久しぶりに出会えた友を見捨てられず、氷沙瑪は歯ぎしりをした。


 あまりにも強く噛み過ぎたせいで歯が欠ける。死を覚悟する中、木々の間から聞き覚えのある声が近づいて来た。



「ライコォォォォォォキーーーーーーック!!」


 氷沙瑪を囲む形で襲い掛かろうとしてた一角を崩す様に、戦闘の渦中へと突入する!


 蹴り飛ばした大和兵は、勢いよく遠くにあった気に叩きつけられ、その木をへし折ってさらに遠くに転がってく。


 根元から折れたはずの木が、なぜかそのまま倒れずに勢い良く戻って来たかと思ったらぶらんぶらん揺れてるのが気になるけど、今はそれどころじゃないわね。


「ごめん、色々あって遅くなった! 後ろの人は大丈夫!?」


「遅いって! 火車は!? アイツは来てるっスか!?」


「砦! でもそういうことなら生きてはいるのね。ここは引き受けるから行って!!」


「ひとりじゃ無理だ! 一緒に退くっスよ!!」


 確かにさっき会った時の印象だと、綱が言うほど弱くないって思ったけど、氷沙瑪がここまで言うほど? 実際戦った者の意見は大事だけど、私が先着しただけですぐに綱も来る。


「来たか頼光。で、何人死にました~?」


「ッ! おあいにく様。ひとりも死んじゃいないわよ」


 一応さっきは姉上と呼んでたのに随分な変わりようね。今も敬語だけど籠ってるのは敬意じゃなくて悪意。そしてこの物言い、病気をばらまいたのはコイツの指示で確定かしら。


 私の返事を聞いた頼親は一瞬目を見開いたものの、すぐに落ち着きを取り戻す。


「それはそれは。せっかく右大臣様より殺人上手との二つ名を頂いたというのに、これでは形無しですな。もっとも、それでこそ頼光だと褒めるべきですかね」


 私が時間を稼ごうとしてるのに、自分でも言った通りひとりじゃ無理と判断してるせいかこの場にとどまってる氷沙瑪に目を向けた後、頼親は続ける。


「人をイラつかせるのがあんたの特技ですものね。それに仕える連中もさもありなん。しかし授かった宝貝ぱおぺえとやらを試してみたわけだが存外使えませんな、やはり横着せずオレがひとりひとり殺さねばならんようで」


 不愉快そうにため息を吐いた頼親の後ろで、さっき全力で蹴り飛ばした側近が何事もなかったように立ち上がる。砦に攻めてきた奴らなら戦闘不能になったのに、ここにいるのはさっき見た赤い化けウナギを入れてるから? 確かにこれは骨が折れそうね。


 ひとりじゃ無理って言うのもここから来てるのか……とにかくひとりひとり確実に止めを刺していかないことには、動きが止められないのなら、私が人を殺せないのを知ってる氷沙瑪ならそう言うだろう。


 それならそれで船岡山での経験を生かして膝を破壊していけば……。


「ああ、後ろの鬼や周りの部下どもが気になります? 雑魚がオレらの闘いに介入されるのは気に入りませんし、手出しもさせなければ追わせもしませんよ?」


「へえ、ずいぶんな自信ね。それでこそ源氏だわ」


「ち……止まらねえか。なら頭に入れとけ、そいつの能力は――――!」


 氷沙瑪が後ろから叫ぶのと同時に、煙の中からひとつの影が飛び出し頼親を目掛けて勢いよく突っ込んでいった。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

*【雄谷(吉弥侯部)氷沙瑪】――前世は羅刹の転生者。生前も死後も母禮に仕える忠義者。道満の播磨守就任を機に京に移った。

*【火乃兎】――羅刹の女。油澄ま師という原油を精製する職人。氷沙瑪と仲が良かったが、陸軍にも水軍にも居場所が作れず土蜘蛛に弟子入りした。

【源頼親】――藤原道長配下。大和守。道長からは殺人上手と重宝されている。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【流星鎚】――縄の両端に重りを付けた武器。

宝貝ぱおぺえ】――仙道が扱う不思議アイテム。

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