【源頼光】葛城山の戦い その9
*人物紹介、用語説明は後書きを参照
*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています
「本当にごめんなさい。……大丈夫そう?」
「………………ん、何とか」
それは良かった……思いっきり蹴り飛ばした絡繰りの様子を確認しながら答えた土蜘蛛の言葉にホッと胸を撫で下ろす。
しかし見た目は木で出来てるように見えるのに、意外に丈夫ね。板をはがして中を確認する様子を見てると、中には光り輝く糸が張り巡らされてる。これが繋がってる状態なら、仕組みは分からないけど、なんか色々連動して無事に動くとかなんとか。
てか、この輝き……緋緋色金ね。加工が難しいとか言ってた気がするのにどんな技術――ん? 持ってる金槌も緋緋色金? なるほど、まずは工具を緋緋色金にすることで出来ることを増やしてるのかな。
「それでー……見た感じ、すでに終わったのかしら?」
怪我人の確認は取れてないけど、大和兵たちは皆戦意を失くして地面に膝をついてる。
「幸いなことにワシらの間じゃ死人は出とらん。病がどうのと聞いたが、そっちはどうじゃ?」
「ええ。おかげさまで季武から聞いて、甘美娘先生に薬を作ってもらえたから大丈夫」
「それは良かった。ついて来ていたのは分かっていたからね」
「本当に助かったわ。最悪全滅の恐れもあったし」
菡芝仙に感謝を伝えてると、私が屋敷を飛び出した後を追って走り出した綱が木の上から飛び降りてきた。
「あははー、何か終わってる雰囲気出てるけど、こいつら大丈夫なのー? 例の青いのに体乗っ取られてない?」
「………………青いの?」
「んー……説明が難しいから実物を見せたいんだけどー」
口元を抑えながら頭が無くなってる武士の死体に近づくと、突然バタバタと痙攣したと思えば首のとこから化けウナギが大口を開けて飛び出して来た。それを血吸で叩き斬る。
「これ」
「………………赤くない?」
「あれ、血がこびりついてるのかな?」
斬りおとした頭に血吸を突き刺して持ち上げて木の皮に擦り付けても、そこに血がへばりつくのに青い身体が出てこない。
「ふうむ。もともと赤いみたいね。いつものと別の種類かな?」
しげしげと観察してると、周りの大和兵たちから「何だアレは!?」とか「物頭の体の中におったんか!?」との声が上がる。この様子だと化けウナギに関して、何も知らないみたいね。
「あははー、キミたちは良かったねー人でいられてー」
そんな大和兵たちは綱の軽口を聞くと、何を言ってるのか分からないといった顔をしてたけど、綱がコレがどういう存在か説明すると途端にガチガチと歯を鳴らして震えだした。
……まあ、目に見えないくらい小さくて知らないうちに体の中にいる可能性はあるから、まだ無事とは言い切れないんだけどね。
「こいつは何なんじゃ? 下に追って来たヤツらにもついておったようじゃが」
「それは――なんて言えばいいのやら――」
「女媧の生み出した4柱の神のうち全知の饕餮の眷属だね。人の頭の中を食い尽くし、自分の思い通りに動かすことが出来る悪い蟲、と聞仲が言っていたよ」
「そうそれ。とにかくそうなると、百人力を得られるんだけどその代わりに頭がまともに回らなくなる感じ。ついでに言えば死体に憑りついて動かすこともできるの」
「………………頭が回らなくなる?」
「あははー、簡単な行動しかとれなくなるんだよねー。おかげで火を点けて回れって言われてたのか、砦に攻め上ってきた奴らは、建物を燃やそうとするばかりで邪魔する奴を排除しようとかなかったよねー」
「……? 何か気になることでも?」
すると土蜘蛛は作業を止めて、今しがた赤い化けウナギが飛び出して来た死体に近づいた。
「………………コレ、兵士たちに指示出してた」
「ふむ? それはおかしいねー、ぎゃーとか不快な声だったり、ぐぺぺぺぺとか言語にならなくなるはずなんだけど」
「色が違うとそういう違いも出て来るのかしら。とにかく頼親に問い質せば――……あれ、アイツがいないわね。真っ先に逃げ出した?」
「あははー、クズだけどそれはないねー。ばりばりに戦闘を好むやつだよー。……ね?」
「は、はい、そうですだ。御大将なら、先ほど皆様が斜面を走り出した時に、追いかけて行かれましただ」
綱が笑顔を向けると、地べたに座り込む大和兵のひとりが慌てて答えた。
斜面の下……さっきから煙がくすぶってるあっちね。
「さっきまで向こうにいたんだけどね。今は氷沙瑪と火乃兎が残って戦っているよ」
「火乃兎……っていうのは茨木ちゃんが言ってた土蜘蛛の護衛の鬼かしら? てか氷沙瑪が残ったのってよわよわ状態だから逃げ遅れただけじゃ……」
「力が戻った、って言ってたね。ボクの見立てでも火乃兎というのが相当強いからね。残る必要はなかったんじゃないかな」
「ふむ……確か大和兵は1000人動員で……ここにいるのと砦に攻め上がったのを考えると……200人くらい下に降りてった感じかな? 頼親も向こうにいるってんなら、様子を見て来るわ。皆は砦に戻って火を点けられた建物の消火をお願いするわ」
「あははー、中央の屋敷以外は派手に燃やされたからねー」
周りから落胆の声が上がるけど、そこはまあ、全部を守り切るのはムリって話で……。一応防衛拠点で生活してる場所は別らしいから、納得して欲しい……。いや、うん……攻めてきた側がこう言うのもなんだけどさ……。
「あのう……オラたちはどうしたら……?」
「ん? そうね……戦う意思がないなら故郷に帰っちゃっていいんじゃない? 頼親には私から伝えておくわ」
「あははー、言って聞くような奴じゃないって言ったよねー? 国に帰ったらあの化け物が入った水飲まされて、ちゃんとした兵士にされるんじゃない?」
「となると、1度保昌殿か弟くんに保護してもらって、考えるしかないか。土蜘蛛、砦に連れて行ってもらっていい?」
「危険はあるけどね。赤い眷属を宿した場合ものを考えられるなら、平気な様子のこの人たちに憑りついてないとも言えないよ」
なるほど……菡芝仙の言うのももっともね。無理強いはできないしどうしたものかと考えてると、片腕のおっちゃんが土蜘蛛に近づいた。
「まあ危険はあるかもしれねえが、こやつらに貸しを作っておくのは悪かねえ。体の中に虫がいるかも知れねえってんなら、アマビコのヤツに虫下しさこさえさせりゃええじゃろうて」
「………………ん。ついて来たい奴だけ。帰るのも止めない」
そう土蜘蛛が言うとへたり込んでた人たちがのそのそと立ち上がった。
様子を見てると土蜘蛛たちが山を登るのを待ってるみたいで、山を下りようとする人は誰ひとりいない。
「……頼親の人望の無さが哀れに思えて来るわね」
「御大将が怖えのもありますだが、何より罠だらけのこの山を下りれる気がしねえんで……」
ああ、言われてみれば。良かった領民全員から嫌われてる国司はいなかったのね。
「それじゃ、氷沙瑪たちの様子を見て来るから私はここで。そっちも気をつけてね」
「待って頼光。これを」
そう言うと菡芝仙は腰に巻いてた帯ごと衣嚢を投げ渡して来た。
「キミに何かあったら金霊に怒られるからね。使えそうなものは使っていい」
「ありがとう。中見るとこうなってるのね、茨木ちゃんが欲しがるわけだわ」
中を開くと私の身長より長いはずの万里起雲煙も小さく収まってるのが見えるし、他にも色々と小さくなってる道具が整頓されてしきつめられてる。
試しに万里起雲煙を取り出すと、衣嚢から全部出した途端に通常の大きさになり、先を衣嚢にいれると小さくなっていく。取り出した瞬間に重さを感じるけど、小さい状態だと重さを感じないのね。
「それじゃ、行くわよ綱」
皆に別れを告げると、綱を引き連れて白い煙が上がる斜面の下を目掛けて走り出した。
【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)
【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。
【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。
【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。
【卜部季武】――摂津源氏。夜行性の弓使い。
*【雄谷(吉弥侯部)氷沙瑪】――前世は羅刹の転生者。生前も死後も母禮に仕える忠義者。道満の播磨守就任を機に京に移った。
*【油澄ま師】――羅刹の女。本名・火乃兎。氷沙瑪と仲が良かったが、陸軍にも水軍にも居場所が作れず土蜘蛛に弟子入りした。
【菡芝仙】――截教究道派の仙人。朱雀の盟友。
【土蜘蛛】――とんでもない技術力を持つ職人。キャスケット+オーバーオールという服装。
【源頼親】――藤原道長配下。大和守。道長からは殺人上手と重宝されている。
【源頼信】――源満仲の次男。頼光とは異母姉弟。河内守。
【朱雀】――12天将の1柱。前2位。金霊聖母。余元・聞仲の師匠。截教のNo.2にしての求道派と呼ばれる派閥の長。
【玄武】――12天将の1柱。後3位。聞仲。金霊聖母の2番弟子で元・殷軍最高司令官。
【女媧】――中国のおいて人間を生み出した最高神。
【饕餮】――女媧に生み出された神の1柱。女媧と同等の知識があり『全知』の異名を持つ。
【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)
*【緋緋色金】――西洋のオリハルコンと似た性質を持つ緋色の希少金属。硬い・軽い・熱に強いと武器や防具に最高の素材だが、それ故に加工が難しい。
*【血吸】――頼光の愛刀。3明の剣の1振り顕明連。
【衣嚢】――ポケット。
【物頭】――足軽隊などを率いる部隊長。
【万里起雲煙】――杖の形をした宝貝。杖先から高熱を発する。




