葛城山の戦い その8
*人物紹介、用語説明は後書きを参照
*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています
砦に向かった300人と斜面を下りて走り出した土蜘蛛を追った200人。残りの大和兵500人は偶然にも、蜘蛛の絡繰りに乗って離脱してきた土蜘蛛たちと対峙していた。
人ふたりがやっとすれ違えるほどの狭い山道、そこで大和兵と土蜘蛛がにらみ合う。
「ええい、何をしておる! さっさと捕らえんか!」
狭い道を無理やり押し通り、前線までやって来た指揮官らしき武士が馬上から騒ぐが、ここに残っているのは正真正銘各地の村から徴兵された人間たち。
士気も高くないのに加え、相手の先頭に立つのは体のどこかしらに欠損はあれど、自分たちよりもはるかに屈強な羅刹たち。槍を突き出して威嚇することがせいぜいだった。
土蜘蛛たちにしても老若男女が入り混じり、戦えないものも多い状況。幸い山頂に近い側にいるため、後ろから順番に山を上れば砦に帰れる位置にいる。
それでも砦が襲撃されているという情報はすでに受けているため、帰ったところで戦闘になる可能性が高い。それに加え、もし砦に向かった兵たちが戻ってきたら挟み撃ちを受ける状況に、どのように動けばいいか難しい判断を迫られている。
互いに動くに動けぬ状況の中、斜面の上の方からバキバキと枝が折れる音が近づいて来た。
すでに日が昇り始め、白く薄い朝靄に包まれながらも暗さはない。それにも関わらず、やがて音が近くまで来たかと思うと、とてつもなく大きな黒い影が頭上を覆った。
「な、なんだこいつは!?」
「あ……あ、ば、化け物だ……」
光を遮った巨大な影に頭上に視線を移すと、そこには大きな化け物の姿。幅が20mはあろう体からは8本の足が伸び、それがしっかりと別々の木を掴んでいる。
蜘蛛を連想させる形をしているものの、頭は虎の形をしており、黄色い身体にも黒い縞が入っている。まさに虎と蜘蛛のハイブリットという巨大な異形の登場に、大和兵たちはパニックを起こした。
だが、その中でも幸運だったのは武士でない兵たちは皆、恐怖から腰を抜かしてその場に崩れ落ちてしまったことだった。そのおかげでこの密集状態で逃げ出す者が無かったことが、死人を出さずに済んだのだから。
「ええい、何を慄いている! 立て! そして槍を持って――――」
檄を飛ばす指揮官だったが、そこまで言葉を発したところで頭が消し飛び、首の根元から間欠泉のように血が噴き出した。
目の前の化け物が、その図体に似合わぬ速さで右前脚を振りぬいたことによると理解した時、ただでさえ恐慌状態にあった兵たちから、ごくごくわずかに残っていた戦意すら打ち砕き、この場での戦いは終わった。
大和兵たちがへたり込んだのを見て、最前列にいた隻腕の羅刹が化け物に向かって手を振った。
「助かったぞ頭領ー。いや……うん……助かった、うん」
「………………ん」
虎の口が開き、そこから姿を見せた土蜘蛛の頭領めがけて人間たちから歓声が起こる。羅刹はというと九一七式改以上に先の大戦を意識させる新兵器――九一七式改二を前に、腹の中からこみ上げる酸っぱいものを必死に我慢していた。
頭領は巻き起こる歓声にキャスケットのつばを下にずらし、恥ずかしそうに顔を隠しながら応えていたが、そんな彼のもとに空気を読まない仙人が舞い降りた。
「へえ、中に入って扱う宝貝か。この発想はなかったね。これなら生身で戦う必要ないし、扱いやすさ次第ではボクみたいな戦闘力のない者でも――――」
口の中に頭を突っ込んで中を確認する菡芝仙。遠目では化け物に頭から丸かじりにされているようにも見える状況の中、遠くから叫び声が近づいて来た。
「ライコォォォォォォ! キィーーーーーーーーーック!!」
「………………えぇ」
横っ面に叩き込まれた超高速の蹴りの衝撃で、巨大な絡繰りは立ち並ぶ木々をなぎ倒しながら、20mほど先に転がる。
その光景に制作者であり搭乗者がドン引きとやるせなさの入り混じった声を漏らす中、菡芝仙を抱きかかえた頼光が渾身のドヤ顔をかましていた。
【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)
【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。
【菡芝仙】――截教究道派の仙人。朱雀の盟友。
【土蜘蛛】――とんでもない技術力を持つ職人。キャスケット+オーバーオールという服装。
【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)
*【羅刹】――鬼と同義。陸奥に住む鬼をそう呼んでいるだけ。
*【九一七式改】――蜘蛛の形をした自動で動く絡繰り。腹に火産や火弘槌と言った爆弾を付けられる上、自分で換装も出来る。
*【九一七式改二】――パイロット搭乗し動かす巨大な絡繰り。見た目は土蜘蛛草子のまま。




